それから一週間後の話。台風における被害規模はそれなりに大きかったものの死傷者は奇跡的にゼロ。これまた奇跡的に無傷だった見滝原中学校は早くも休校が解け、俺達学生は以前と変わりなく登校。めでたいことにうちのクラスは欠席者もゼロだった。それもこれも、美樹たちが命を懸けて戦ってくれたお陰だ。
それでもって、その美樹と俺はというと……。
「えー、俺達……色々あって付き合うことになりました」
「ええーーーーーっっ!?!?!?!?」
もう隠してもしょうがないから朝のHR前に速攻でバラすことにした。中沢がどえらいオーバーリアクションで驚いてみせる。教室もなんとなくザワついている。
「確かに教室じゃケンカしてるとこしか見せてなかったけど……そこまで驚かれることかなぁ?」
美樹はバツが悪そうな表情をして頭を掻く。俺もまあある程度驚かれることは予想してたけど、そこまで驚く?って感じだ。「嘘でしょ……」「俺たち夢見てるのかな……?」とか教室中からコソコソ聞こえてくるし。普段どんな目で見られてたんだ俺らは……。
「そりゃ驚くよ!それに美樹さんは上条のこと好きなんじゃないかって皆思ってたし!」
「え、あたしみんなにそれバレてたの!?」
さやかは心底驚いたという表情をしている。いや、多分お前と上条以外は全員気づいてたと思うぞ……めっちゃ分かりやすいから……。
「知らぬは本人ばかりなりってか……その上条はそんなに驚いてないみたいだけど」
「僕もさやかから聞かされた時は驚いたよ、それまで全く気づかなかったからね。それに僕、さやかとちひろはお似合いなんじゃないかなって前から思ってたんだ」
「伊吹と美樹さん見てそんな事思ってたのお前だけだよ上条……っていうかお前、なんか志筑さんと距離近くね?」
リアクション芸で疲れ気味の中沢が指摘するように、上条の隣には志筑さんがぴったりくっついている。つまりそれって……そういうことか?
「ああ、実は……僕も志筑さんに告白されたんだ」
「その通りですの。でも上条くんはお互いのことをもっとよく知ってからのほうが良いということで……まずはお友達から始めることにしましたの」
そう言って志筑さんは頬をぽっと染める。中沢は驚きのあまり金魚のように口をぱくぱくさせている。ちなみに俺は既に聞いているので驚いていない。上条も俺と美樹の事情は承知済みだ。よってこの集まりで初見なのは中沢だけなのだ。まあ一人だけ蚊帳の外だったから当然といえば当然なのだが。
「うぅ、みんな揃ってこの短期間でなにがあったんだよ……俺だって彼女欲しいよー……」
「まあ元気出せって、お前だったらそう遠くないうちに彼女出来るよ多分」
落ち込む中沢の肩にポンと手を置くと、ぱしんと振り払われる。
「うるさーい!勝ち組に慰められるとみじめになるからやめろォ!」
ヤケクソ気味にわめく中沢の後ろからぱんぱんと手を叩く音がする。音のする方にいるのは、早乙女先生だった。
「はいはい、中沢くんもうるさいですよ!もうHRの時間ですから皆さんも席についてください!」
「は〜い……」
「それと、中沢くん!」
「えぇっ!?」
俺達が解散して席に着く中、中沢だけ先生に指示棒でビシィっと指される。
「だいたい『彼女がほしい』なんていうフワッとした理由では仮に出来ても長続きしませんよ!そこで中沢くん!婚活パーティであった男の人と合コンで出会った男の人、どっちがいいと思いますか!」
「ど、どっちでもいいんじゃないかと……だって先生どっちも長続きしなかったじゃないですか」
「そう、どっちでもよろしい!そういう場に来る人達は基本的にカッコつけてるんです!だから付き合い始めのうちはよくても、お互い日に日にボロが出てきて価値観のズレが発生、最終的に破局するのです!だから長続きしないのは出会いの場が問題なんです!」
「え、でもこないだ三ヶ月で別れた男の人は友達からの紹介だったって……」
「中沢くん!!それ以上話すと先生怒りますよ!!」
「先生が話振ったんじゃないですかー!!」
中沢と早乙女先生の漫才じみた会話で教室にどっと笑いが起きる。この二人、付き合ったら案外相性良かったり……なんつって。生徒と教師だしそれはないか。でも俺と美樹も周囲からしたら「それはない」組み合わせだったわけだし……ほんと、世の中何が起きるか分かんないよな。
・・・・・・
何が起きるか分かんない、といえばもう一つ驚いたことがある。それは暁美さんの変化だ。
「まどか、一緒にお弁当食べましょ」
「うん!」
一件なんてことのないやりとりだが、暁美さんの顔には笑顔が浮かんでいる。彼女はワルプルギスの日を境にそれまでの人を寄せ付けないクールさが薄れ、少しだけ表情豊かになった。特に鹿目さんが一緒にいる時はよく笑うようになったように感じる。
「あたしも仲間に入れてくれよ〜」
「あ、さやかちゃん!勿論いいよ!」
「えっ、私はまどかと二人がよかったのだけれど……」
「まあまあカタいこと言いなさんなって、あたしたち苦楽を共にした仲間なんだからさあ」
美樹が自分から暁美さんに近づいていき、気さくに肩を組んでみせる。これも今までは見ることのなかった光景だ。暁美さんは鬱陶しそうにしているけど、無理に振りほどかない辺り満更でもないのかもしれない。
魔法少女としての活動も佐倉含めた三人組でやってるみたいだし、実はけっこう仲がいい?
「あ、お二人共いつの間に暁美さんと仲良くなったんですの?わたくしも是非お近づきになりたいですわ〜!」
「おう仁美も来な来な!」
「ちょっと美樹さん、あなた勝手に……!」
「ねえほむらちゃん、みんなで食べたほうがきっと楽しいよ」
「まあ、まどかがそう言うなら……」
きゃいきゃいと楽しそうな女性陣とは対照的に、俺と上条と中沢の三人は静かなものだった。というのも、普段良く喋る中沢が今日はこの世の終わりのようなテンションになっているからなのだが。中沢は女性陣の方をぽけーっと見ている。
「いいよなあお前らは……俺も彼女欲しいなあ」
「そもそも僕は志筑さんと正式に付き合い始めたわけじゃないから彼女いるわけじゃないんだけど……」
「俺だったら迷いなく首を縦に振ってる状況だから実質彼女いるカウントだよ!」
「なにその理屈……」
まるで酔っぱらいのオヤジみたいにめんどくさい絡み方をする中沢。まあ、気持ちは分からんでもないが……。
「でも早乙女先生も言ってたろ、フワッとした理由で付き合い始めたって長続きしないって。先生が言うとこれ以上ないくらい説得力あるだろ」
「それはそうなんだけどさあ……っていうか伊吹!お前こそ何が何だか分からないんだけど!何がどうなって美樹さんと付き合う運びになったか聞かせろよ!」
「その話たぶん長くなるけど大丈夫か?」
「……ごめん、やっぱいいや。今惚気話聞かされたら俺死んじゃう」
というか、俺もできれば話したくない。ちょっと経緯が特殊だし、何よりも恥ずかしい。上条は何故か俺が詳しいことを話さなくても勝手に納得してくれたから話さなくても済んだのだが。
「元気だしなよ中沢、ミートボール一つあげるからさ」
中沢は上条が差し出したミートボールに目を輝かせると、ぱくっと喰いつく。
「うまい!サンキュー上条!」
「勝ち組の慰めはいらないんじゃなかったのか?」
「肉はうまいから別!」
「……それじゃ俺もからあげ一つやるよ。イイ人見つかるといいな」
「おおっ、サンキュー!いや〜、持つべきものは友達だな!」
「現金なヤツ……」
・・・・・・
時が経ち、放課後。
「いっしょに帰ろ、伊吹」
「おう」
今日は教室から二人一緒に帰る。いつもは校舎を出てから合流するので、なんだか少しだけ新鮮だ。
「みんな元気そうでよかったな」
「うん……みんな普通に、平和に暮らしてる。なんか余りにも何事もなかったみたいで、ちょっぴり拍子抜け」
「みんな美樹たちが街を守ったってこと知らないどころか、そもそも危機が迫っていたって意識すら薄いからなあ」
規模が大きいとはいえ、台風が起こってたのってほんの数時間の話だからな。事情を知っていなければ、俺も間違いなくみんなと同じように能天気に過ごしていたに違いない。まあ家とか会社とか吹き飛ばされている人もいるしシャレにならない話ではあるんだが、それでも自分への被害がないとどこか他人事に思えるもんだ。
「まあ、別に褒められるために戦ったわけじゃないから気にしてないけどね。それに一番知ってほしい人には知ってもらえてるし、ね?」
そう言って美樹は俺の額をトンと指でつつき、ニカッと俺に笑いかける。
「アンタと、まどか。恋人と親友の二人に知ってもらえてるなんて幸せもんだよ、あたしは」
「俺自身、こんなこと知るとは思わなかったけどな……偶然。そう、ホントに偶然だった。もし、俺があの日ランニングに出かけなかったら。もし美樹があそこにいなかったら……知る機会も、美樹と仲良くする機会もなかったと思う」
「あたしも、あのタイミング以外は無かったと思う。普段だったら部外者に絶対にあんな愚痴吐くことなかったもん。それも嫌いなヤツに……よっぽど参ってたんだなあ、当時のあたし……お」
「美樹、どした?」
一緒に歩いていた美樹が突然足を止め、一点を見つめる。視線の先は何もない歩道の端っこ。しかしそれを見て俺はああ、と得心する。
「ここから始まったんだよね、あたし達の今までが」
そう、あの夜に美樹が蹲っていた場所。他の人からすれば何もない場所だが、俺達にとっては重要な意味を持つ場所。
「こうして見ると、ムードも色気もない場所だな」
「おまけに二人揃って雨でビシャビシャだったしね」
美樹と俺は当時を思い出し、二人揃って苦笑する。
「……あれからまだ、ひと月も経ってないんだね。全然そんな気しないけど」
「俺もだ。多分ケンカしてた時期の方がまだ長いし……あれ、結局俺達がケンカし始めた発端はなんだったんだっけ」
「うーん……忘れっちゃった。なんならケンカしてたこと自体が遠い昔みたいでさ」
「俺もそれは思う、不思議なもんだよな……」
「ほんとね」
思い出話もほどほどに、手を繋いで再び歩き始める。いつまでも路上に立ち止まっているわけにもいかない。それに、過去を振り返って思い出を喋るよりも、今は――
「そうだ美樹、今度の日曜また二人で遊びに行かないか?」
「いいね、行こう!次はどこ行って何しよっか?」
「そうだなー……海とかどうよ?」
「海かぁ……別にいいけど、今行ってもシーズンじゃないからあたしの水着姿は見れないぞ〜?」
「……それはそれで見たいけど、今回の目当てはそれじゃねえよ!シーズンじゃないからこそ誰にも邪魔されないで海見れるんじゃないかって話だよ!」
「あっ、なるほど確かに……それなんか青春っぽくていいじゃん、決まりっ!」
「よっしゃ、時間はどうする?」
「やっぱ午前中から出かけたいよね、そんでちょうどお昼時に海着くようにして海見ながらおべんと食べるとかさ――」
――今はこうやって、未来のことを考えるのが楽しくてたまらない。
「あははっ、こりゃ日曜が楽しみだな〜……うん、楽しみだ」
「どうしたんだよ、そんなしみじみと」
「いやあ……そういえば魔法少女になってからいつの間にか『楽しみな日』って無くなっちゃってたなって思って。なんか毎日一杯一杯でさ、明日のこと考える余裕なんてなかったなあって……でも、さ。あの時だけは違った。伊吹がデートに誘ってくれたあの時だけは」
美樹はどこか遠くを見て、噛みしめるようにそう言った。とても清々しい表情をしたその横顔は、なぜか少しだけ大人びて見えた。
「あたしたちの今までと、そしてこれからと。きっとそんな感じで変わっていくんだろうね。もっと素敵で、もっと楽しい感じにさ……なーんて、ちょっとクサかったかな?」
そこまで言って美樹はこちらに向き直り、少し頬を赤くしながらえへへと笑う。それは大人びた様子など欠片もない、いつもの美樹の顔つきだった。こいつは俺が知らない魅力的な側面をまだまだ一杯持ってるんだろうなあ、となんとなく思った。
「いや、俺もそう思うよ。これからもっと美樹のことを知るだろうし、そうしたらもっと好きになる。一月足らずで今の状態なんだから、来年あたりにはきっと凄いぜ?十年後とかなんて大変なことになってる」
俺が少し冗談めかして言うと、美樹はちょっと照れくさそうにしながら笑う。
「あはは……そう言われたら長生きしたくなっちゃうなあ。魔法少女として戦って戦って、そんで生き抜いてやるんだ。だから……これからも側にいてよね、伊吹」
「勿論、当たり前だろ。地獄の果てまでついてってやるから覚悟しろよ?」
そう言って、互いの手を強く握り合う。俺達は一緒に生きていく。今までも……そして、これからも。色んな事をして、沢山の
「うん……今日もいい一日だ!」