あたしたちの今までと、そしてこれからと   作:東頭鎖国

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時系列で言うと本編4話あたりです


3話

それから、しばらく経った頃。

最後に上条を見舞いに行った日以来、美樹との口論はまだ一度もない。

まあ、平和で結構な話だ。

中沢からも「最近お前ら、ケンカしないな」と言われたので、

「理由がなきゃケンカなんかしねえよ」

と返しておいた。そういえば今日は予定もないし、上条の見舞いにでも行くか……。

 

・・・・・・

 

「ちょっと遅くなっちまったか……」

 

今日が日直なのを忘れてた。本来の予定よりちょっと遅れてしまったが、これなら逆に美樹と蜂合わせる可能性も低いかもしれない。

いや、きっと鉢合わせない。最近平和続きだし、その流れで今日もきっと平和に終わる。そうに違いない。

そう思って上条の病院に向かうと――

 

「あ……!」

 

美樹が、ちょうど病室から出てくるところだった。

やばっ……と一瞬身構えるが、何か様子がおかしい。目が、赤い?

 

「お前、泣いて……」

 

「ッ!うるさい!」

 

震える声でそう叫び、美樹が走り去る。

……何か、あったのか?恐る恐る、病室の扉を開ける。

 

「よう上条……上条!?」

 

ドアを開けると、手から血を流す上条の姿があった。

 

「ど、どうしたんだ!?傷が開いたのか!?」

 

慌てて駆け寄ると、手の下には割れたCDがある。

 

「お前、これ……自分で割ったのか?」

 

「……ちひろ。僕、さやかとケンカしちゃった」

 

「一体何があったんだよ……」

 

「僕の手……先生に、もう二度と元通りに治らないって言われたんだ。」

 

「なっ……!?」

 

「それなのにさやかが音楽を聴かせてくるから、カッとなっちゃって……さやかに、当たっちゃって。CDだって折角持ってきてくれたのに、叩き割っちゃって」

 

「そんなことが……」

 

美樹に悪意はないのだろう。ただ……あまりにもタイミングが悪かったとしか言い様がない。

上条にとって、手は命だったろうに。それがもう動かないと聞かされた時、ショックだっただろうに。

だが美樹がその事実を知ったのは、おそらく本人に聞いたその瞬間だろう。気を遣えというほうが無理な話だ。

非常に複雑な気持ちだ。いくら嫌いなやつだとはいえ、人が不幸な目に遭って喜ぶ趣味はない。

言葉が見つからない……。

 

「ちひろ……僕、どうしたらいいのかな」

 

「それは、手が動かないって言われたことに対してか?それとも美樹とケンカしたことに対してか?」

 

「……どっちも、かな。僕も頭の中が整理できてなくて、めちゃくちゃで……!」

 

上条が絞り出すような声でそう答える。

俺には腕を治す事もできなければ、美樹との仲を取り持つこともできない。

こうやって相談に乗ることくらいしかしてやれない。

 

「まあ、美樹はちょっとケンカしたくらいでお前のこと嫌いになったりしないから大丈夫だよ。今度見舞いに来た時にでも、謝って仲直りしとけ」

 

「……でも、また来てくれるかな。僕、ひどいことしたのに」

 

「あー、まあしばらくは顔合わせづらくて来ないかもしれんけど……来るだろ、多分」

 

「それなら、いいんだけど……僕、これからどうやって生きていけばいいんだろ。僕からバイオリン取ったら何も残らないよ……他にやりたいことだって見つからない。これから先の人生に、希望なんて……」

 

「バッカお前、何も残らないってことはないだろ。お前は頭だっていいだろ?そのうち他にやりたい事とか、得意なことも見つかるだろ。もし出来ることがあったら、何でも協力するからよ!」

 

「……ありがとう、気持ちは嬉しいよ。」

 

上条は疲れたような笑みを見せる。

あ、芳しくないリアクションだこれ。本当に気持ちしか嬉しくないやつだ!

これじゃ何の励ましにもなってない!

 

「あ、あとさ!お前モテるじゃん!彼女の一人でもできたら生き甲斐になるかもしれないぜ!?」

 

「モテるって、僕が?そんな事ないだろ、今まで女の子と付き合った事だって一度もないんだよ?」

 

あ、こいつ自覚ないのか。美樹だけじゃなくて、他の女子にも結構人気あるんだけどな。

まあ上条らしいっちゃらしいか……。

 

「えーと、あとは聞き上手だから話してて面白いだろ?音楽にも詳しくて、たまに火がつくとこっちが全然わかんないのに音楽の話ばっか早口でしはじめて……間違ったこれは欠点だ!あとはあとは……」

 

俺がうんうんと頭を悩ませながら思いついたことを片っ端から言っていると、突然上条がくすくすと笑い始めた。

 

「な、なんだよ?」

 

「いや……僕より僕のこと真剣に考えてておかしいなって。ふふっ」

 

「そりゃ当たり前だろ、友達なんだから」

 

「少なくとも僕に同じことは出来ないよ?ちひろ。キミはいつもそうだね。人が困ってるのを見ると自分のことみたいに悩むの。君も大概、良い奴だよね。」

 

「お、おう……」

 

まったく意図してないところで褒められて、なんだかむず痒い気分になる。

 

「まあ病室に来て突然エッチな本押し付けたり、無神経なところもいっぱいあるけど。他にも、お見舞いのフルーツ勝手に食べたりしてたよね。あれ楽しみにしてたのに……他には僕のバイオリン勝手に弾こうとしたときもあったね。あの時は本気で怒ったなあ。他にも……」

 

「わー、もういいだろ!褒めてんのか根に持ってるのかどっちなんだよ!!」

 

「ふふ、どっちも」

 

「こんにゃろ〜、でも、ちょっとは元気出たみたいだな。やっと笑ったしよ」

 

「おかげ様でね。ありがとう、ちひろ」

 

「おう。なんかあったらいつでも相談してくれよ?話聞くくらいしかしてやれないけどさ」

 

「はは、その時は頼りにさせて貰うよ」

 

・・・・・・

 

見舞いを終えて、帰路につく。

上条のやつ、元気が出たみたいでよかった。でもまだ不安定な状態だから、気にかけてやらないと。

まだ美樹のやつと仲直りもしてないしな。

……美樹、か。あいつ泣いてたけど、本当に大丈夫なのか……?

 

「……やめたやめた、アホらし。なんで俺があいつの心配しなきゃいけないんだよ」

 

 

 

――上条恭介

 

さやかとはケンカしちゃったけど、ちひろのおかげでだいぶ気が楽になった。次に会った時、ちゃんと仲直りしようと前向きに考えられるようになった。

ちひろはいつもそうだ。人が悩んでると、まるで自分が悩んでるみたいに真剣に考えてくれる。仮に具体的な解決案が出なかったとしても、心が温かくなる。

それをちひろは、誰にでもする。僕以外の友達が困ってたってするし、顔見知り程度の人でもする。初対面のおばあちゃん相手にしていたのも見たことがある。

早い話がお人好しなのだ、彼は。

 

「それなのに、なんでさやかとは仲良く出来ないんだろう……」

 

誰に言ったわけでもないその呟きは、病室の中で消えていった。

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