あたしたちの今までと、そしてこれからと   作:東頭鎖国

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さやか視点です


4話

「さやかには、ひどいこと言っちゃったよね。いくら気が滅入ってたとはいえ……ごめん!」

 

「変なこと思い出さなくていいんだよ、今の恭介は大喜びして当然なんだから。」

 

恭介の腕を治すために、あたしは魔法少女になった。

契約の通り恭介の腕は完治。それでも足のリハビリがまだ済んでいないからしばらくは入院生活が続くらしい。

 

「さやか……僕と仲直り、してくれるかい?」

 

「な、仲直りもなにも最初から怒ってないよ!ほら、せっかく腕も治ったんだし、そんな悲しそうな顔しちゃダメだよ!」

 

「さやか……よかった、ちひろの言ったとおりになってくれて」

 

「ちひろ、って……伊吹のこと?」

 

「うん、彼もずっとお見舞いに来てくれていて……色々励ましてもらってたんだ。この間だってちひろがいなかったら心が折れちゃってたかもしれない」

 

「ふぅん……」

 

伊吹ちひろ。ことごとく気の合わない、とにかく気に食わないヤツ。

アイツとは顔を合わせるたびケンカになる。でも何故か、恭介と仲がいい。

恭介は「ちひろは優しくて良い奴だよ」と言うが、そんなことあるもんか!

いくら恭介でも、あたしをあんなおバカで無神経で能天気なスケベ野郎と一緒にしないで欲しい!

いや、今はあんな男のことはどうでもいい。それよりも大事なことがあるんだから。

 

「恭介、ちょっと外の空気吸いに行こ?」

 

・・・・・・

 

「これは……」

 

恭介を車椅子に乗せ、屋上まで連れて行く。

そこに待っていたのは、病院のスタッフさんと恭介のご両親。

あたしたちが用意した、ちょっとしたサプライズだ。

恭介のお父さんが歩み寄り、あるものを恭介に手渡す。

 

「恭介、これを……」

 

「父さん、これ……!」

 

「お前のバイオリンだ。お前には処分してくれと頼まれたが、どうしても捨てることは出来なかった」

 

恭介は恐る恐る、ゆっくりとバイオリンを手に取る。

手に取った後もしばらく動かずにじっとバイオリンを見つめ、それからお父さんに視線を向ける。

 

「さあ、試してごらん。怖がらなくていい」

 

その言葉を受けて、恭介がバイオリンを奏で始める。

怪我のブランクなんて全く感じさせないくらい綺麗な旋律。あたしがずっと聞きたかった音色。

魔法少女にならなければ、もう二度と聞くことはなかった。バイオリンを携えて活き活きとした恭介の顔を見ることは二度となかった。

感傷に浸りながら、あたしたちのために戦って亡くなってしまった先輩に思いを馳せる。

マミさん、アタシの願い、叶ったよ。

後悔なんて、あるわけない。あたし、今最高に幸せだよ。

 

・・・・・・

 

小さな演奏会も終わり、みんなは先に病院の中に戻っていった。

恭介と、二人きり。な、何を話そう……!

ヘンに意識しちゃって一人でドギマギしていると、恭介の方から口を開いた。

 

「さやか、今日はありがとう。もう一度バイオリンを引くことが出来て……久しぶりに生き返ったような、そんな気分だったよ」

 

「え!?あ、うん……サプライズのことだよね、どういたしまして」

 

恭介はあたしが腕を治したことは知らない。

だからそのことに関してお礼を言って貰うことがあるはずないんだけど、ちょっとだけドキッとしてしまう。

 

「それにしても……ちひろにも聴いてもらいたかったな」

 

「え?」

 

またアイツの名前?なんで?恭介、どんだけアイツのこと気に入ってるの!?

 

「でもちひろ、さやかと鉢合わせしたら嫌だからって断っちゃってさ。前から思ってたけどさやかとちひろって、なんでそんなに仲悪いの?」

 

「なんでって……アイツとは絶望的に相性悪いんだって。何喋っててもケンカになるんだよ?普通有り得ないでしょそんなの。だからアイツと仲良くするなんて、ぜーったい無理!」

 

「……やっぱり似たもの同士だと思うんだよなあ……」

 

「え?今なんて?」

 

「いや、何でも!それより、中に連れてって貰ってもいいかな?そろそろ肌寒くなってきたし」

 

「ん、それもそうだね……」

 

 

『彼もずっとお見舞いに来てくれていて……色々励ましてもらってたんだ。この間だってちひろがいなかったら心が折れちゃってたかもしれない』

恭介の言葉が頭の中でリフレインする。あたしよりアイツのほうが恭介の心の支えになっていた気がして無性にモヤモヤする。

そんなの、わかんないのに。もしかして男相手に嫉妬してる?

それもあんな奴に?バッカみたい、違うに決まってんじゃん……。

心の中に生まれた小さな黒いシミのような感情を振り払うように、さっきまでの演奏会を頭の中で反芻する。

あたしはあの光景に立ち会うために魔法少女になったんだ。

本当に幸せだったんだ。

後悔なんて。あるわけない。

あるわけないんだ。

――絶対に。

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