裏でさやかちゃんがソウルジェムの真実知っちゃったり仁美に明日告白しますの宣言されたり痛みなんて消せるんだって言いながらやけくそ気味に魔女倒したりしてる時期です
今日はめでたい日だ。
なんと回復の目がないと言われていた上条の腕が奇跡の超回復。
ついに退院して登校してきたのだ!
松葉杖をついて教室に入ってきた上条に、中沢と二人で駆け寄る。
「久しぶり、上条!」
「ああ、久しぶり中沢。ちひろは……あんまり久しぶりじゃないね」
「ちょくちょく見舞い行ってたもんな。中沢はあんま見舞い行ってなかったけど」
「え!?お前今それ言うの〜!?」
「あはは、大丈夫だよ気にしてないから」
「それならいいんだけど……それより上条、怪我はもういいのかよ?」
「ああ。まだ足はちょっときついけど、家にこもってたんじゃリハビリにならないからね。来週までに松葉杖なしで歩けるようになるのが目標なんだ」
そうやって会話に興じていると、後ろから小さく聞こえる声が気になった。
鹿目さんと、美樹の声だ。どうせ俺達が来たってんで声かけるタイミング失ったとか、そういうこと話してるんだろう、多分。
しかし、今日の俺は気分がいい。折角だしここはひとつ、気を利かせてやろうじゃないか。
他にもいくらか人が集まって来たため、俺はタイミングを見計らってこっそりと美樹のところに向かう。
「おい美樹、なんで喋んないんだよ。お前いつも見舞い行ってアイツのこと気にかけてたろ。とっとと行ってきたらどうなんだよ」
「……るさい」
「え?」
「……うるさい、って、言ってんのよ。なんでアンタにそんな事言われなきゃいけないわけ?あたしがいつ恭介と喋ろうが、あたしの勝手でしょ」
低く、ドスの効いた声。普段とは明らかに違う。こいつは普段、こんな怒り方をする女ではない。
普段のこいつは感情がすぐ表に出るギャーギャーとよく騒ぐ女だ。でも、今は違う。
無表情なのだ、こいつは。今ほど感情の乗らないこいつの表情なんて、一度も見たことがない。
「お前……なんか、あったのか?」
「……だから、アンタには関係ないっつってんでしょ……!とっとと、どっか行きなさいよ」
「てめっ、せっかく人が珍しく気遣ってやってるってのに……!」
食って掛かろうとした時に、朝のチャイムが鳴る。仕方なく席に戻るしかなかった。
……やっぱりあいつ、普通の様子じゃなかった。美樹をああさせる何かがあった?それも、上条の退院を喜ぶことすら出来ないレベルの、何かが?
機を見てなんとか聞けないかと思ったが……結局美樹はあの後、休み時間になる度に教室から姿を消してしまって会話すらできなかった。それは俺だけでなく、上条と話すことも避けようとしている行為に思えた。放課後に、それとなく上条に聞いてみる。
「なあ、お前もしかして美樹のやつとまだケンカとかってしてんの……?」
「え?この間のことならもう仲直りしたよ。どうして?」
「あー、っと……お前と美樹、今日喋ってなかったろ?なんかあったのかと思ってさ」
「そういえばそうだ、今日さやかと喋ってないや……でも、そういうこともあるんじゃないかな?ほら、さやかは僕の腕が治ったこと知ってるし、お見舞いにも来てくれてたから久しぶりってわけでもないしさ。久々に登校したからってわざわざ話しかけるほどでもなかったのかも」
「そういうもんなのか……?」
やっぱり、どこか引っかかる。実際、同じだけ見舞いに行ってた俺は上条が久しぶりに学校来ることは嬉しかったし。俺よりも上条に気をやってる美樹のやつがそれに関して何にも言わないどころか、上条に話しかけようとさえしないのはおかしい。絶対に、何かある。でも、いったい何が……?
……分からん。あ〜もう、モヤモヤする!!全部なんも言わない美樹が悪いんだ!ちくしょう!
・・・・・・
結局、帰宅してもモヤモヤが晴れることはなかった。
どうしても晴れない疑問があるというのは精神衛生上非常によろしくないことだ。
「……こうなったら、久々に走るかあ」
既に日は落ち、外は暗くなっていたが、気を紛らわせるためにランニングに出かけることにした。
ケガで陸上部を辞めるまでは毎日のように行っていた習慣。今ではケガは治ったものの、全力で走ることはもう出来ない、と言われた。当時は頭が真っ白になって何も考えることが出来なかった。でも、今はそれなりに折り合いが付いている。陸上以外にも楽しみにしているものは色々あるし、友達にも恵まれている。
……ただ、ほんのちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、自分と同じような境遇から快癒した上条に嫉妬したりもしてしまう。
「ま、治ってくれた喜びのほうが大きいけどさ」
誰に言うでもなく、自分に言い聞かせるように独りごちる。
いけない、アイツの様子がおかしいのに気づいてから今日はやたら考えが暗い方向に行きがちになっている。
とっととランニングに行こう。身体を動かしている間は余計なことを考えずに済む。
それでもって身体が疲労すれば、スムーズに眠ることもできる。モヤモヤした気分を解決するためには、一石二鳥の手段だ。
早速ジャージに着替え、外に繰り出す。ランニングコースは決めていない。気の向くまま、ジョギングで軽く流すつもりだ。
夜風を受けながら走るのは心地が良い。そういえば、こんな夜に外出するのも久しぶりだ。用事がないし、部活が長引いて帰りが夜になることもないから。
そんな感傷に浸りながら走る。30分くらい走った頃に、ぽつり、と水滴が頭に当たる感触。
ぽつ、ぽつ、ぽつ。
それはどんどん激しくなっていき、ざあざあと本降りになっていった。
突然降って来た割には勢いが激しい。
「げ、通り雨かぁ……」
ジョギングに出た日に限ってこれは運が悪い。こりゃ帰る頃にはずぶ濡れだな……。
少しだけペースを上げながら帰路に向かう。その途中、歩道の端でうずくまっている人を見つけた。
うちの学校の制服だ。こんな雨の中……まさか、病人!?
「おいしっかりしろ、大丈夫か!?」
肩を揺すって声をかけると、ゆっくりと顔を上げる。
その顔は、よく見知った顔。でも今みたいに憔悴しきった顔は見たことがない。
なんでこんな時間に、こんなところに。今朝から心の中にほんのりと生まれていた疑惑は確信に変わる。
「……美樹!?」
こいつの心身には、確実に異変が起きている。
それも、どうやら只事ではないようだった。
今までさやかちゃんとあんま話してこなかったけど次話から本格的に絡み始めます
前振り長くてごめんね