あたしたちの今までと、そしてこれからと   作:東頭鎖国

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6話

「一体なんでこんなとこに……いや、それより大丈夫かお前!?どこか痛むのか?立てないのか?」

 

「……どこも、痛く、ないよ。痛みなんて感じない。平気なのよ。平気になっちゃったの、あたしは」

 

「こんな雨の中で座ってる奴が平気なわけあるか!」

 

「……いいから、構わ、ないで。放っといてよぉ……!」

 

雨音に消し去られてしまいそうなか細い声。

こいつの言うとおりに放っておいてしまったら、二度と会うことは出来ない。そんな予感がした。

いやこいつと何度も会いたいかと言われたらそんなことはないんだが、でも、寝覚めが悪い。今放っておくことは出来ない。

俺にとってそれだけだ。そうに違いない。コイツに気を遣っているとかではない。だから俺はあくまでも自分勝手に叫ぶ。

 

「ふ、ふん!なんで俺がお前の思うとおりにならなきゃいけないんだ!今日は俺は俺の気が済むまでお前に構うからな!それがイヤならさっさとうちに帰って休め!何があったかは知らねえけど、そんなところにいたってちっとも良いことなんて……!」

 

「……め」

 

小さく、美樹が何かをつぶやく。上手く聞き取れなかったため、顔を近づけて耳を傾ける。

 

「……駄目、なの。あたし、もう、駄目なんだよぉ……!」

 

「ダメって、何が……?」

 

「うるさいっ!アンタに何が分かるのよ!」

 

「うわっ、耳元でいきなり叫ぶな!そりゃ分かるわけないだろ、何も聞いてねえんだから!キレるならせめて何があったか教えろよ!」

 

キーンとなった耳を押さえる。美樹は再び蹲り、消え入りそうな声で呟く。普段ウザいくらいの元気が見る影もない。

怒ったり静かになったり、とにかく情緒不安定だ。

 

「……アンタには言いたくない……」

 

「俺には言いたくないか……それじゃ、上条には?お前が普段仲良くしてる鹿目さんとか志筑さんとかに相談はしたのか?」

 

「……恭介と仁美には、絶対に、言えないよ……まどかは聞いてくれたけど、あたしが勝手に八つ当りして、ひどいこと言っちゃって……!」

 

これには驚いた。こいつが鹿目さんと仲違いするイメージなんて全くなかったからだ。普段いっつも仲良くしてるし、ケンカはおろか険悪なムードになった瞬間すら一度も見たことがない。どうやら、相当重症のようだ。

 

「それじゃあ親御さんとかは……出来るならとっくにしてるか。なあ、美樹。試しによ、俺に話してみないか?」

 

「……やだ」

 

「そりゃ、俺が嫌いだからか?信用出来ないからか?それなら……!」

 

身を切るしかない。そう判断した俺はおもむろに立ち上がり、下のTシャツごとジャージを脱ぎ捨てる。

ズボンもだ。雨が激しく降る夜の外で、俺はパンツ一丁になった。

 

「え?えっ、えっ、えっ!?」

 

俺は混乱している美樹にスマホを渡す。

 

「さあ、俺を撮れ!こんな所を知り合いの誰かに見られたら俺は破滅する。これをお前に握られたら、俺はお前にケンカでものすごく不利になる。だからだ!」

 

「な、何メチャクチャ言ってるのさ!」

 

「俺がお前に信用してもらうにはこれしかないと思ったんだよ!頼む、聞かせてくれ!」

 

「わかった、わかったから服着なさいよ!パンツ一丁で詰め寄るなあっ!!ちゃんと話すから!」

 

「よし、言質取ったからな!」

 

脱ぎ捨てた服を拾い、いそいそと着直す。

そして改めて美樹に向き直り、視線を合わせるようにしてしゃがむ。

 

「はーっ……アンタのそういうデリカシーないところ、大ッ嫌い」

 

「奇遇だな、俺もお前のこと嫌いだよ」

 

「……ずっと、気になってたんだけどさ。なんでアンタ、あたしのこと嫌いなのに……そんなに構おうとするの?」

 

「逆だ逆、お前のことが大っ嫌いなこの俺ですらほっとけないくらいお前がおかしかったってだけだよ」

 

そうに決まってる。そうでないと、俺が気にかける理由がない。

おかしいのはこいつだ。俺は普段と変わらないんだ。

 

「何それ、変なの……でも、ありがと」

 

珍しく礼を言うと、美樹は静かに語り出した。

 

「あたし、ね……仁美に言われたの。明日、恭介に告白するって」

 

「志筑さんが……アイツ、やっぱモテるんだな。それで、お前はどうしたんだよ。ただフラれた……ってだけじゃなさそうだよな、その沈み方」

 

「……言えなかった。何も、言えなかったの。仁美にも、恭介にも」

 

「言えなかったって、何で……」

 

「だってあたし、もう人間じゃないんだもん……ゾンビに、なっちゃったんだもん!」

 

美樹は何かがフラッシュバックしたかのように叫び出し、頭を抱える。

 

「お、おい!なんだよゾンビって、意味分かんないから順を追って話してくれ!」

 

「うぅ、うぅぅぅ……!」

 

美樹は地面に手をつき、ぽろぽろと涙を流し始める。

ほんとに、一体何があったんだ。俺の想像の及ばない何かがおこっていたのか?

美樹の背中をさすりながら、再び話すことができる状態になるのを待つ。

 

「大丈夫、大丈夫だ……ゾンビがなんだか知らんが、お前はお前だ……」

 

合ってるのかどうかわからない慰めの言葉をかけながら、一心に落ち着かせようとする。

雨に打たれ続けたせいで、俺もちょっとおかしくなってしまったのかもしれない。そうでなきゃ、美樹の世話を焼いている理由がわからない。

でも、頭で考えるよりも先に行動していた。そうするべきだと思ったから。

 

「……ごめん……少しだけ、落ち着いた」

 

「そう簡単に謝んなよ、調子狂う」

 

「……うん。少し長い話になるけど、いい?」

 

少し落ち着いた様子の美樹に対して、首を縦に振ろうとして……へくしっ、とクシャミが出てしまう。

こっちも少し気が抜けてしまったらしい。

 

「あー……せっかく話してくれそうになってたとこ、悪いんだけどさ……場所、変えていいか?」

 

「そう、ね。ずっと雨ざらしだったし」

 

「俺ずっと寒かったんだけど、お前よく平気だったな」

 

「それは……うん。それも言おうとしてた話に関係あるんだよ」

 

「ゾンビがどうとか、ってやつか?」

 

「うん……」

 

とりあえず立ち上がり、歩きながら話を始める。行き先は決まっていないが、少なくとも動かないよりはいい。

しかし、どうしよう。せめて雨風しのげる屋内がいい。

でも、この時間帯じゃどこの店に行っても補導確定だし……。

 

「そういや、場所だけど……お前の家とかってダメなの?」

 

「いいワケないでしょ、夜中にアンタみたいなの連れてきたら何言われるか分かんないじゃない。それに、今は……帰りたく、ない」

 

「……そっか」

 

数秒間の沈黙。こいつの心中も、いろいろと複雑そうだ。

……場所、どうしよう。あんまり言いたくなかったけど、他にいい案が思いつかない……。

俺はひとつの案を美樹に告げる。

 

「……俺の家、来るか?今誰もいないし」

 

「へ?あんたの、家?」

 

怪訝そうな顔を向ける美樹に対して、慌てて俺は補足する。

やっぱり言いたくなかった!絶対変な目で見られると思ったから!

 

「あ……別に他意はないぞ!ただうちなら何も言われないし、それしか腰を落ち着けて話せる場所が思いつかなかっただけで……」

 

「……いいよ」

 

「え」

 

「あんたの家……連れてって」

 

服の裾をぎゅ、とつままれる。すごく、すごく不本意ながら。

その仕草にほんの少しだけドキッとしてしまう自分がいた。

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