あたしたちの今までと、そしてこれからと   作:東頭鎖国

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9話

「へくしっ」

 

朝。昨日は結局びしょ濡れのまま寝落ちしてしまったので、身体が冷えきっていた。

早い所風呂浴びて着替えないとな……。

 

「おはよう伊吹、大丈夫?毛布かなんかかけてあげればよかったかも知れないけど、濡れてたからそのままにしちゃってた」

 

「おはよう美樹。大丈夫だ、悪いな気遣わせちゃって。ところで……今日、どうするんだ?」

 

「どうするって……あ」

 

そう、美樹の制服は乾いていない。俺が寝たあとに一応ハンガーにかけて干しておいたみたいだが、雨の中の部屋干しではそう乾くもんじゃない。

そして、今美樹が着てるのは俺のジャージ。同じ学校のためぱっと見は同じだが、俺の名前が刺繍されているため知り合いに見られたら大変めんどくさいことになる。

 

「これじゃ、学校行けないね……」

 

「そうだな……とりあえず俺はお風呂入る。その後朝飯食べて、今日のことはそれから考えよう」

 

「ご馳走になっちゃってもいいの?」

 

「一泊しといて今更気にすんなよ、どうせ大したもんじゃないし。ま、適当にくつろいでてくれ」

 

・・・・・・

 

風呂から上がると、美樹が自分の服の匂いをすんすんと嗅いでいるのが見えた。

 

「……美樹?」

 

「んうぇっ!?」

 

後ろから声をかけると、えらく驚いた様子で跳ね上がった。

そこまで驚くことか……?

 

「人の服だから匂い気になるのはわかるけど……すまん、我慢してくれ。消臭剤の類も今は切らしてるんだ」

 

「あー、うん、大丈夫、ちょっと気になっただけだから、ほんと大丈夫、うん」

 

「それならいいんだけど……」

 

・・・・・・

 

――美樹さやか

 

ほんっと、ビックリしたっ!

伊吹のやつ、お風呂上がったなら出てくる前にひと声かけてくれればいいのに……。

ちなみに、服の匂いを嗅いでいたことに特に理由はない。ないったらない!

 

「とりあえず、朝飯にするか」

 

「ん、いただきます」

 

朝ごはんはトーストと、インスタントのコーンスープという簡単なものだった。

でも、トーストはさくさくのもちもちで、コーンスープは甘くて暖かくて。

からっぽのお腹に栄養が染み渡っていくのを感じる。

 

「とりあえず、一回家帰っておかなきゃなあ。いちおう今朝連絡はしといたけど、だいぶ心配かけちゃったっぽいし……」

 

「ん、それがいいだろ。その後はどうすんだ?」

 

「まずは、まどかに謝んないと。それから……決着、つけてくる。時間帯的には、どっちも放課後かな」

 

「やっと決心ついたんだな」

 

「おかげさまでね。それに、あたしも……あとで後悔したくないから」

 

「ん、その意気だ。直前でビビって引っ込んじまったりするなよ?」

 

「うっさい、わかってるわよ!」

 

もう二度と迷わない。二度と逃げない。これは、あたしが絶対に乗り越えなきゃいけない試練なんだ。あたしが前に進むために。そして……少しでも、後悔しない生き方に近づくために。

 

・・・・・・

 

朝食を食べ終え、伊吹と一緒に玄関を出る。

あいつは今日も普通に学校に行くらしい。

 

「……あたし、行ってくるね」

 

決意を込めてそう言うと、伊吹はちょっと前に走って行って、こちらに振り返る。

そして、右手を上げてこう叫んだ。

 

「美樹……がんばれ!」

 

「おう!」

 

すれ違いざまにハイタッチで返す。

がんばってくるよ、全力で。

 

・・・・・・

 

――伊吹ちひろ

 

「は〜……」

 

「今日はずいぶん元気ないな、伊吹」

 

昼休み、中沢が俺の席までやってくる。

今日一日、結局美樹がどうなるか気になって何も手につきやしなかった。

 

「今日は美樹さん休みだし、案外寂しくて気が抜けてたりして」

 

「は〜〜?違うんだが!?な〜んであいつがいないくらいで寂しがらなきゃいけないんだよ!」

 

「わ、わかったから大声出すなよ!はぁ、それにしても今日は暁美さんも休みかぁ……残念」

 

「ん?お前暁美さんと仲良かったっけ?」

 

「いやロクに喋ったことないけどさ、めっちゃ美人じゃん暁美さん。やっぱいるといないとじゃ一日の心のハリが違うっていうかさぁ!」

 

「お前も声でけえよ!確かに美人なのは認めるけど交流ないからさして関心もないわ!」

 

中沢ってああいうのがタイプなのか……?

それにしても、暁美さんが欠席か。まあ病弱だったって言ってたし体調崩しちまったんだろうか。

 

「えー、あんなに美人なのに。しかし暁美さんもこっち転校してから初めての欠席だけど、美樹さんが休むのも珍しいよな」

 

「まあ、元気だけがとりえみたいに見えるやつだったからな……」

 

そういえば、みんなは美樹が今なんで欠席してて、今何やってるかとか知らないんだよな……。

そう考えるとなんだかくすぐったいような、妙な気分になってくる。

 

「なんか含みのある言い方だな……やっぱお前、なんか様子変だぞ?」

 

「うっさい、気のせいだよ!ほら、昼休み終わるからさっさと自分の席に戻れっての!」

 

チャイムが鳴ったのを口実にしっしっと中沢を遠ざける。

……やっぱ変なのかな、俺。

 

・・・・・・

 

――美樹さやか

 

「まどか、あの時は本当にごめん……!」

 

「さやかちゃん!ううん、わたしもあの時、何も出来なくて……さやかちゃん、無事でよかったよぉ……!」

 

「まどか……ありがとぉ、ごめん、ね……あたし、もう、大丈夫、だからっ……!」

 

放課後。まどかをメールで呼び出して、謝った。

やっぱり、まどかはどこまでも優しくて。あんなにひどい事を言ったあたしを責めるどころか、あたしの身を案じて泣き崩れてしまった。それを見て、あたしもなんだか涙がぽろぽろこぼれてきちゃって。そのまま二人でわんわん泣いた。

しばらくして落ち着くと、あたしは一つの決意をまどかに告げる。

 

「……まどか。あたしこれから、恭介への想いに決着をつけようと思ってる」

 

「さやかちゃん……大丈夫、なの?」

 

「大丈夫、今のあたしはあの時のあたしより強いから。それに……これからは後悔しないように生きたいって決めたから」

 

「さやかちゃん……なんだか、雰囲気変わったね。昨日のさやかちゃんとまるで別人みたい」

 

「んー、ちょっと心境の変化っていうか……ま、色々あったからね。それよりまどか。それが終わったらもうひとつ、あんたに相談したい事があるんだけど……いいかな?」

 

「もちろんいいよ、さやかちゃんのために何かできるんだったら喜んで!わたし、それくらいしかできないから……!」

 

「ありがと、まどか。それじゃ行ってくるね!」

 

・・・・・・

 

――鹿目まどか

 

そのまま、さやかちゃんは走って行ってしまった。

今までのさやかちゃんの沈んでたり自信なさげだったりした足取りとは違って、力強く迷いのない足取りだった。

まるで、魔法少女になる前のさやかちゃんみたいな。上条くんへの恋心を自覚する前みたいな、思い切りのいい感じ。

さやかちゃん、あんなにすごく落ち込んでたハズなのに……昨日の夜に、一体何があったんだろう?

一時間位あとにメールで呼び出されて再びさやかちゃんに会った時、その疑問は解決されたんだけど……聞かされたそれはひっくり返っちゃうくらい衝撃的なお話だった。

 

「おまたせ、まどか」

 

「ううん、全然待ってないよさやかちゃん」

 

ファストフード店に来たわたしたちは適当に注文を済ませ、席につく。

先に口を開いたのはさやかちゃんだった、

 

「ケリ、つけてきた」

 

「! そ、それで……どうだったの?」

 

「ちゃんと、吹っ切れたよ。それに……仁美になら、安心して恭介を任せられる」

 

「……それで、よかったの?」

 

「いいの。これは強がりとかじゃなくて、本当の話」

 

それは、いい結果とは言えないのかも知れないけれど。さやかちゃんの顔はすごく晴れやかで、本当に後悔はないんだなって思えた。

それと同時に……なんだかさやかちゃん、ちょっと大人になっちゃったなって思った。

でも、次の瞬間にはそんなイメージは消えてなくなってしまう。

 

「まどか、それでその……本題、なんだけど……その、だいぶ言いづらくってさ……でも話せそうなの、まどかしかいなくって……その、これからあたし、信じらんないこと言うかもしれないけど……軽蔑、しない?」

 

さやかちゃんはドリンクのストローを手でもじもじと弄んでいる。

視線も定まらず、声もなんだか歯切れが悪い。さっきまでの自信満々のさやかちゃんとは真逆の姿だった。

 

「うん、さやかちゃんが何言ったって絶対に軽蔑なんてしない」

 

でも、わたしはさやかちゃんはずっと頑張ってきたのを見てきてる。

だからこれからさやかちゃんが何を言っても、受け入れられると心から信じていた。

 

「それじゃ、言うんだけどね……あたし、その……伊吹のこと、好きになったかもしんない」

 

「え」

 

え。

 

「え?」

 

え?

 

「ええええええーーーーーーっっっっっっ!?!?!?!?!?」

 

わたしの今までの人生の出した声の中で一番大きいんじゃないかってくらいの声が、店中に響き渡った。

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