異世界創世   作:木桜 春雨

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オッサンは金貨をもらい、厄介事が、やってくる

その日、ギルドの受付嬢は初めての客を目の前にして戸惑っていた。

 机の上に置かれた森で採取してきたというものを見て驚いたのだ。

 どれも採取するのが難しいと言われる薬草ばかりだ、キノコ類もあったが、ポーションの材料となる希少な種類もある、しかも、この時期は見つけるのが難しいと言われるものまでだ。

 早速、取引のためにギルドカードの提出を頼むと相手は持っていないという。

 自分は、この町に来てまだ一週間ばかり、しかも身分証明として出された一枚の証書を見て受付嬢は無言になった、外の人と書かれていた。

 つまりは、こことは異なる世界から来た人間だ、決して珍しくはないのだが数年前の大地震で殆どの人間がいなくなった、 理由はわからない、元の世界へ帰ったのだという噂もあったが、本当のところは謎だ。

 世界の常識や信仰心というものが自分たちとは異なっているので、異界人は自分たちとは違うのだと思われていた、だから、異世界人が多くいた頃には自分たちより格下なのだと侮蔑の目で見下し、従属の首輪をつけてペットにする者もいるという噂まであった。

 このギルドに異世界人、しかも女が来るのは初めてではないかと受付嬢は戸惑った。

 ギルドで取引をするには登録をしなければならない、その為には銀貨三枚が必要だと相手に告げると女は困った顔で、そうですかと呟いた。

女は若く見える、だが、そうでないのかもしれない。

この街は数年前に異世界人を区別する為に街の片隅に彼ら専用の小さな宿舎を作り、そこで暮らす様にと決めたからだ。

だが、その宿舎も半年前に取り壊されてしまった。

「お手数をかけました」

 そう言って、女は机の上に広げた薬草やキノコ類を鞄の中にしまいはじめた、その様子に受付嬢が慌てたのは無理もない。

 「ま、待って下さい」

 妥協案を出して、この取引を成立させれば自分の株は上がる、だが、女はいえいえとち低姿勢で謝りながらギルドを出て行く、その後ろ姿を受付嬢は呆然と見送っていたがはっと我に返るとギルドマスターのいる部屋へと慌てて駆け込んだ。

 

 子供の頃は冒険者になりたかった、でも、体格は貧弱で背は伸びたけど筋肉など殆どないといってもいいぐらい。

 牛乳を沢山、飲めば背も伸びるし、筋肉もつくなんて言われて実行したのはいいが、一週間も続く下痢で大変な目に遭った。

 自分は冒険者になんてなれない、だったら薬師になろうと思い弟子入りしようと思ったけど、必要なのは金、弟子入り住めるための寄付金ときいて諦めた。

 少しでも母親に楽をさせたくて金になる仕事に就こうと思ったが、結局のところ全てが中途半端で、自分にできる事といえば亡くなった父親の畑を耕し、罠にかかった兎や野鳥の肉を母親に食べさせること、それが玉の贅沢だった。

 十代の頃に借金までして取ったギルドカードを使う事など、これから先もないだろうと思っていたのに、それは偶然、訪れた。

 

「おっちゃん、いるかい」

 その日、近所の少年が慌てて駆け込んできた、部屋に入るなり、頼みがあるんだよといって持っていた薬草をテーブルの上にどんと置き、これをギルドで売ってきて欲しいんだと頼み込んできた。

 「薬草だよ、おっちゃんはギルドガード持ってるだろう、売ってきて欲しいんだ」

 見た事のない草、しかも茶色に乾いているのは枯れている、いや、乾燥させたのか。

「これをギルドで売るのか」

「金貨二枚だよ」

 思わず、ぽかんとした表情になったのも無理はない、だが、値切ろうとしたら売らなくていい、そのまま持って帰ればいいという。

少年とは子供の頃から仲良くしている、それに表情も真剣だ、男は分かったと頷いた。

「おまえが取って来たのか」

「まあね」

 曖昧な返事だ、少年の家は貧乏だし、薬草に対する知識があるとは思えない、深く尋ねる事はせず、その日の夕方、男はギルドへ向かった。

 

「金貨二枚ですって、何、ふざけたとを言ってるの」

 ギルド内にいた冒険者達が一斉に視線を向けたのは、普段は大人しい受付嬢の怒りの声があまりにも大きかったからだ。

「薬草って、こんなの見た事ないわよ」

 男は困惑した、というのも少年から詳しい話は聞かされていなかったからだ、見せれば分かるからと言われて素直に従う自分に呆れつつ、だったら仕方ないと帰ろうとした。

若い頃、冒険者を目指し手板頃とは違う、自分にはは不似合い名場所だ、そんな事を考えて出て行こうとしたのだが。

「すまないが、よろしいかな」

 声をかけられた。

「よろしければ、その草を見せてほしいのだが」

「ああ、構わないが

 男から受け取ったものを黒い手袋に包まれた手が受け取るとフードを頭からすっぽりとかぶっているので顔は見えない。

「十枚」

 男は意味が分からず、何がと聞き返した。

「金貨十枚で、これを売ってくれないか」

 はっきりと言われて男もだが、周りにいた冒険者達も唖然とした表情になった、だが、いち早く反応したのは受付嬢だ。

「ち、ちょっと待って下さい、その草、一本で金貨十枚って」

 だが、受付嬢の言葉など耳にも入らない様子で相手は男に話しかけた。

 「十枚では、いや、安いな」

 そう言って相手は片手を差し出し広げると、これなら正当な価格だろうと呟いた。

 

 

「どういうことだ、マリアナ」

 ギルド内での最高権力者の男は数時間前の出来事を職員から知らされて、怒りよりも呆れた顔で受付嬢を見た。

ある男が持ち込んだ草が高額で取引された、そりもギルド内でだ。

 用があり、出かけていた自分が戻るとギルド内はざわついていた、何かあったのかと問いつめて話を知った次第だ。

 

「勉強不足だな、それにしても金貨五十枚か」

「申し訳ありません、男はギルドカードは持っていましたが、冒険者でも薬師でもなかったんです」

「実力があっても格付けランクに登録しない人間はいるんだ、講習で習わなかったか、それとも見かけだけで判断したのか」

 受付嬢は反論しようとして言葉を飲み込んだ、あの男はボロボロの格好で、剣も持っていなければ、それらしい格好もしていなかった、自分が見誤ったのが悪いと言えばそれまでだが、納得いかないところもある。

「ギルド内での個人取引か、禁止されている訳ではない、だが、面倒な事になるかもしれんな、その男派の身元は分かるのか」

 ジェイコブ・カーター、スラム地区に近い場所に一人で住んでいる男です」

 

 二十枚の金貨を前にして、男は言葉をなくした、いや、受け取る訳にはいかないと少年に突き返した。

「おっちゃん、ギルドと取引するより、いい取引だったんだから、遠慮せずに受け取りなよ、俺は金貨五枚貰ったよ、へへっ」

「あの草、どうしたんだ、おまえ、誰かに頼まれたのか」

「うん、でも秘密なんだ」

 男は難しい顔で少年を見た、子供に頼むという事は相手は何か、表に出てこれないような事情があるのだろうか、だとしても。

「おっちゃん、食堂に行かないか、俺が奢るよ」

「何、言ってんだ、子供に奢って貰うわけにはいかない」

 男は少年と一緒に街中の賑やかな食堂へと向かった。

「せっかくだから、肉が食べたいな」

 自分もだが少年も決して裕福ではない、しかも一人暮らしだ。

「金の麦に行こうぜ、俺もエールだって飲めるんだ」

「そうだな」

 広い通りを話しながら歩いていると、突然、呼び止められた、振り返ると冒険者らしき三人の男達だ。

「随分と羽振りがいいみたいだな、金貨五十枚だろう、良かったら俺たちにも奢ってくれないか、いいだろ」

「バカ言うな、これは正当な報酬なんだ、あんたら冒険者だろう、自分で稼げよ」

 少年の言葉にうるせえ、ガキと叫ぶ様な大越で一人が怒鳴り返してきた。

 まずいなと男は思った、正直、相手の人数もだが、剣を持っている相手だ。

 そして、自分は日頃から畑で農作業をしている人間だ、勝てるかと言われたら。

 喧嘩は苦手なんでねといいながら男は腰の革袋に手をかけた、その時、風、空気が揺れた。

 

「な、なんだっ、こいつ

「ま、魔獣かっ、なんで」

 

 男と少年はは振り返り唖然とした、それはいきなりというか突然だったのだ。

 自分たちの背後に青い毛並みの大きな猛禽類、魔獣が姿を現したのだ。

 グリフォ、いや、なんだ、あれ。

 周りの通行人から驚きの声が上がるのも無理はない。

 こんな街中で、グリフォンがと叫ぶが、いいや違うと、否定する声が上がった。

一般的に、この幻獣は大鷲の頭部と獅子の下肢を持つ、性質も極めて獰猛な生き物だ、だ、そんな生き物が突然、街中に現れたのだ。

 

「冒険者も落ちぶれたものだな」

 

「なっ、喋った」

「へ、へ、蛇が」

 

その魔獣に尻尾はなかった、代わりに尻の付け根あたりから黒い蛇が生えていた、それが冒険者達に向かって話しかけたのだ。

 

 

 


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