冒険者は動かなくなった自分の右腕を見て魔法使い、治療師達に説明を求めた。
原因は分かっている、あの化け物だ、最初はグリフォンかと思ったが、尾が蛇という、そんな形態の生き物など聞いた事がないと周りにいた人間達は口を揃えて言う。
たとえ、高位の魔獣にしても呪文も唱えず、ただ、腕を動かなくする、体の機能を損なわせる等、聞いた事がないというのた。
「その生き物は怒ったようですね、あなた方の行為に」
「たかり、でしょう、それも街中の往来で堂々と」
魔法使い、治癒師達の言葉には冒険者達を気の毒に思うというよりは呆れたといわんばかりの空気が漂っていた。
三人の冒険者達は互いに顔を見合わせた、リーターであるジョアンに対する二人の仲間の視線は微妙名者になっていく。
三人とも冒険者だが、若く体格も立派で、女性達の人気も高い、中でもリーダーの ジョアンは仕事のない時は女の部屋に入り浸っているときが多いくらいだ、だが。
「これは魔法ではない、ましてや、病気でもない、だとしたら治療は不可能でしょう、 そしてただ右腕だけなのか、もしかして、これだけにとどまらないのか、定かではありません、もしかしたら左腕、足がだんだんと動かなくなる可能性だってあります」
その言葉にジョアンは顔色を変えた。
何とかならないのかと皆を責める中、一人の魔術師が口を開いた。
「性病ということは考えられませんか、今、ある地域ではシュンバイという病気が一部の地域で蔓延しているらしいです」
聞いた事のないというジョアンに体が徐々に動かなくなり、挙げ句は腐敗していく病気ですと治癒師は説明した。
「そういえば。おまえ、少し前から腕が動かないとか言ってなかったか」
冒険者の仲間の言葉に周りの視線が集まった、皆の脳裏から、本の一瞬だが、街中に現れた不思議な生き物の存在が消えていたのは無理もない。
ところが。
「グリフォンだと、街中に現れたというのか、信じられん」
「いえ、正確にいうと違うかもしれません、その生き物は人の言葉を話したのです」
「周りで見ていた者達の証言もあります」
「それで今、どこに」
姿を消したそうですと言われた瞬間、王は落胆した。
だが、その様な生き物が街中をうろついていては危険だと周りの貴族達が言い出した、捕獲し捉えなければと、ところが、王の側近の一人が難色の顔で発言をした。
「人の言葉を理解しているのです、それにこの時、遭遇した冒険者の一人が報告をしているのですが、何らかの力を持っている、術を使った可能性があるのです、魔獣と言った者がいるそうですが、魔獣、ですか」
その言葉に周りはしんとなった、含みのある言い方に気づいた者もいるが、殆どの者が不満顔なのは、男の言葉を理解していないせいだろう。
「捕獲、捉えるのは勝手ですが、何かあっても責任はとれません、そうでしょう、王よ」
「城の騎士、魔法使いでもか」
「相手の正体が分からずに立ち向かうなど、そんな愚行、私はしませんね」
「ですが、もし、その生き物が危険なら放って置くのは得策とはいえません、従属の魔法や鎖をつけるなりして」
一人の貴族が激高する様に発言した言葉に、そうだなと次々に賛同する声が上がる、その様子を窓の外から見ている者がいるなど、誰も気づいてはいなかった。
あれは何だったんだろう、少年と男は初めて見る生き物に驚いて、言葉も出なかった。
「冒険者も落ちぶれたものだ」
その言葉は自分たちに声を欠けてきた相手に向けられたもので、男達はただ驚き、言葉を失っていた、翌日、その冒険者の右腕が動かなくなったという噂を聞いて驚いたが、その直後だ。
ギルドの人間が会いに来たのだ。
「ジェイコブ、おまえ、あの生き物を知っているのか、使い魔、従魔なのか」
「まさか」
何度、否定しても信じようとはしない相手に、ジェイコブは、うんざりとしてきた。
畑仕事の最中にいきなり押しかけて来た相手は真剣な顔つきだ。
使い魔ならギルドの規定に習って登録しなければと言い出すが、あの時の事は正直、あっという間で、あの生き物は冒険者達に言葉をかけただけで姿を消したのだ。
「あの冒険者だが、右腕が動かないそうだ、しかも、魔法や医術師、呪術師に見せても原因が分からないそうだ」
「そうか」
気の毒にと思うが、自分にはどうすることもできない、日々、農作業にいそしんでいるだけの自分には魔法や医術などとは無縁だからだ。
「俺に聞いたところで何の解決にもならないぞ」
「確かに、そうかもしれん」
「子供にも話を聞いたそうだが」
「ああ、笑われた、いい気味だってな、あの冒険者達は一部では嫌われていたからな」
「性病なんでしょう」
その声に二人の男は慌てて周りを、開いた窓から顔を覗かせている相手を見て驚いた。
「入ってもいいかしら、まだ続きそう」
「いや、もう終わるよ」
「スープを作ったのよ。多すぎて持って来たんだけど、ところで、そちらの人はもしかしてギルドの人」
ギルドマスターは驚いた、肩口まで伸びた髪は黒、日に透けているせいか明るい茶色に見える肌の色は白く、いや、唇は、自分が相手をぶしつけなまでに凝視している事に気づいたのは相手がどうしたのと聞いたからだ。
「以前ギルドに薬草を売りに行ったとき、壁に役員の似顔絵が貼ってあったから」
「ああ、そうですか」
直接、会ったわけではないのだと知り、内心、落胆する自分がいた。
「と、ところで」
性病なんでしょうという台詞を思い出し、ギルドマスターは尋ねた。
「聞いたのよ」
クスクスと女は笑いながら、モテルんでしょうと言いながら、ドアを開けて中に入ってきた。
「ここに置いておくわね」
鍋をテーブルに置いて、出て行こうとする女に声をかけようと、ギルドマスターは外に出た。
だが、声が出なかった、そこには見た事のない、黒い艶やかな毛並みの生き物がいた、犬、いや、大きすぎる、狼かと思った瞬間。
「あの男は自業自得だぞ」
男の笑う声がした、その生き物が喋ったのだと気づいたとき、女は背に跨がった。
「それじゃあ、ジェイコブさん」
女と、その生き物の姿は、あっという間に小さくなっていく、ジェイコブは家の中に入ると女の持ってきたスープを覗きこみ、旨そうだと食べ始めた。
「なんなんだ、あれは」
訳が分からずギルドマスターは呆然と立ち尽くしていた。
何かが起こる前触れなのかもしれないと思いつつ、だが、それが何なのか答えの出せない自分にもどかしさを感じていた。