人々は目の前で起こっていることが信じられなかった。
ゴブリンというのは厄介な生き物だ、個体としては強敵というわけではない、だが、数が多いと非常に厄介だ。
人間は必死に戦い、運が悪ければ殺されてしまうのが現実だ。
切りつけて腕や足を切り落としてもゴブリンは怯むことなく襲いかかってくる、まるで、死に対して恐怖心がないようだ、以前のゴブリンとは違うと村人は感じていた。
子供や年寄りを安全な場所に逃がす余裕はない、男たち、腕に覚えのある若者達ゴブリン相手に必死に戦うが、数が多すぎた。
ギルドに連絡して冒険者達に助けを求めるための使いを出したが、運が悪ければ間に合わないかもしれない。
城の人間は、この事態を知っているのだろうか、以前なら即座に駆けつけてくれたのに、もしかして、事態を知らせに行った者は途中で何かあったのではないだろうか。
「村長、た、大変です」
ゲオパルドは息を切らして、知らせにきた若者を見た。
「グ、グリフォン、いや、ブラックドラゴンが」
「何だと、何故、こんな時に、小鬼だけでも厄介だというのに」
「ちが、違うんです」
若者は説明するのももどかしいというように、自分の後方を指さした。
突然、大きな火柱が上がった、それだけではない、獣のような叫びが辺りに響き渡った。
その瞬間、ゴブリン達の動きが止まった、何が起こったのか、攻撃の動きが止まり、きょろきょろと周りを見渡すが、何もないと感じたのか再び、人間に襲いかかろうとした。
ヴァッシュッッ。
バアッッッ。
何かが割れるような、いや、破裂するような聞き慣れない音に人間は唖然とした。
ゴブリン達の体が破裂、いや、弾けるように膨らみ、破裂したのだ。
「な、なんだ、これ」
「爆発か、何で」
「助かった、のか」
自分たちの目の前でゴブリン達の体が、弾けるように爆発していく、訳がわからず立ち尽くしていた村長に若者が声をかけた。
「村長、あれを」
大きな灰色の狼がゴブリンの死体を踏みつけて向かってくる、自分たちも、あんな風に蹂躙されるのではないかと思ったとき。
「敵ではない」
狼の口から聞こえてきた声に村人たちは驚いた。
「異変を感じて来たのだ、主の命令でな」
村長のゲオパルドは顔を強ばらせた、大きな街や城には人間の言葉を話し、理解する獣がいると話には聞いたことがある。
だが、それらは人との関係を表す為に首輪や印などをつけているものだ
が、目の前の狼にはそれがない。
そのとき、風が吹いた、顔を上げると黒いドラゴンが空中で停止したまま、自分たちを見下ろしていた。
「ゴブリンは数匹を残しておく、巣に戻れば爆発だ」
ドラゴンの言葉にゲオパルドは驚いた。
灰色狼とドラゴンがゴブリンの群を一掃したという事実は数日のうちに、カダール王国に広まった。
城中は大騒ぎだった、灰色狼とブラックドラゴン、数年前なら、この二つの存在は人間を害をもたらす、いわば人類の敵という認識だった。
ところが、ゴブリンの群を退治し、襲われていた人間を助けたという事実に嘘ではないかと声が上がった。
真実を確かめるために使者が派遣されたが、彼らは数日で戻ってきた。
「私共はは直接、話をしました」
使者は緊張した顔で王と周りの補佐官、そして呼び出されたギルドマスターを前に詳細を語った。
「ゴブリンは全滅です、死体はありません、食べてしまったようです、何故、彼らがゴブリンを殺したかについてですが、王の命令だからだという言葉です」
「王、だと」
一体、どこの国だと王の言葉に使者は首を振った。
「聞き出す事はできませんでした、ただ、今回のゴブリンの行動に対して、ひどく怒っているようです」
「ゴブリンに対してか」
すると使者は首を振り、わずかに顔を伏せた、そして、視線をちらりと向けた、ギルドマスターに、だ。
「我々に対してです、対応が遅すぎると、もう少し遅ければ村は全滅していただろうと言われて」
「何だとっっ」
声をあげたのはギルドマスターだ、だが、それは王の側近たちもだ。
「ここ最近は何事もなかった、ゴブリンが村を襲うこともなくて、予想外の事だったんだ」
「確かに、私も、そう言いました」
「冒険者もギルドも役に立たないと言われました」
もう一人の使者が呟いた言葉にギルドマスターの顔が怒りの為、赤くなった。
「その二匹は今も村にいるのか」
「いいえ、王の側に、それと生き残った村人ですが、彼らも一緒です」
「なんだと」
「ゴブリンの異変によって森の獣達が何か異変を起こすことも考えられると、あの村は決して大きくはありません、男たちも半数近く減っています」
一つの村が彼らを救った人物の庇護の元に下ったという事実。
ギルドの冒険者と国の兵士たちは信用されていないということにならないか、問題ではないか、この話は近隣諸国が知るのに時間はかからなかった。
自分の作ったものを壊すというのは、どんな気分だろう。
最初は、嫌な気分になるんじゃないかと思ったが、皆で相談して決めていくうちにだんだんと楽しくなってきたから不思議だ。
カタール王国を作ったのはタケシだ、最初のうちは楽しかったらしい、だが、途中で時間が少なくなり、仕事の方が忙しくなったのだろう、オートプレイでゲームを続行したところ、ゲームのキャラクター達の行動は予想したものとは違ってきたらしい。
それでもせっかく始めた国づくりを途中で辞めてしまうのはもったいないと思ったのだろう。
そして今、プレイヤーの四人、ゲームの中だ。
「さて、この後はどうする」
「残った村人は新しく作り直して他の国に派遣すればいいよ」
「カーラン国は、多分、王が謁見を申し込んで来ると思うよ」
灰色狼とブラックドラゴンは笑いながらモニターを見ていた。
「国を新しく作り直す、なんだか、物書き、小説家にてもなった気分だな」
「読者はいないけどな」
「気にするな、それより、この後は王の謁見だな」
「そうなるのか、ところで、王は女のままで出すのか」
「その方が、向こうも驚く、できるだけ偉そうにして、そうだな、家臣や兵も揃えたほ・かいいだろう」
驚く顔が眼に浮かぶと灰色狼は笑った。
「しかし、農業でスローライフを目指していた国が、タケシも気の毒だな、オートで任せてプレイしたのが失敗か」
「このゲームは途開発途中でも色々とあったからな」
「二人して何楽しそうに話してるの」
「おおっ、王のお出ましだ」
「グリフォンはどうした」
「村人の再生、プログラムをいじってるわ、ここと繋がるようにしての、カーランの次の目標の為に」
「決まってるのか、もう」
「なんだか、楽しそうよ、いずれは」
「まさか世界征服とかじゃないだろうなあ」
「あら、おもしろそう」
突然、ドラゴンは吹き出し、灰色狼は笑い出した。
「世界征服か、ね」
ゲームをプレイしている時は日常が忙しくて時間がなかった。
だが、今はどうだろう、まるで迎えてくれるかのように世界が手を広げてくれた、そして有限、無限ともいえる時間が目の前にある。
世界を作ろう、プレイヤーたちは笑いあった。