仮面ライダーAGITΩ-ライダーズスピリット- 作:ナハトムジーク
「ふしゅるるる」
「…………」
にらみ合う二人のアギト。だが両者の様子はまるで正反対。方や獣のようにうなり声をあげ、片や静かに立っている。共通点はどちらも相手を害そうという意志だけだった。
「ぐるあああ!」
先に動いたのはやはり赤いアギトだった。先ほどと同様の速度で青のアギトに迫る。持ち前の鋭い爪で青のアギトに切りかかる。
「ふん!」
だが長い槍を持ち冷静に相手を見ていた青のアギトには通じず。叩き落されてしまう。そして青のアギトは体勢を崩した赤いアギトを槍で切り裂く。
「ぎ!?」
赤いアギトも避けようと飛び退いたが長いリーチのせいで完全によけるには間に合わず、足にダメージを負ってしまう。
「ふーっ!」
赤いアギトは青のアギトを威嚇するように声をあげ、まるで獣のように手を地面につく。
ミチミチと赤いアギトがさらに変化し今度は体型が変わった。今度は下半身だけでなく上半身も強化され、爪が長くなる。そして足が短くなりまるで大型の肉食動物を連想させる体型に変化した。
「ふー! ふー!」
しかし、体に負荷がかかるのか先ほどよりも明らかに息が荒くなっている。
「ふしゃあああ!」
赤いアギトが先ほどよりもさらに速く青のアギトに迫る。
「くぅ!」
青のアギトも先ほどよりも速い赤のアギトの速度に対応できないのか爪で切り裂かれ体当たりで吹き飛ばされる。
「ふん!」
「ぐあ!?」
しかし、青のアギトも負けじと蹴りを放ち、赤いアギトと距離をとることに成功する。そして青のアギトが槍を回す。すると風が巻き起こる。
「ぎゃん!?」
青のアギトが起こした風で砂煙が巻き起こり赤のアギトの視界を塞いだのだろう。しきりに赤のアギトは目をこする。だがその風が渦を巻き赤のアギトにまたも吸収される。
さらにエネルギーを吸収した赤のアギトがミチミチと音を立てさらに変化する。尾てい骨があるだろう部分からしっぽが生えさらに体が大きくなっていく。
なんて奴だ。無限に成長するとでもいうのか!?
「ぐっ! ぐぎゃああああああああ!」
赤のアギトに変化が起こった次の瞬間。赤のアギトが発火しだした。まるで吸収したエネルギーを制御しきれないかのように全身から炎が噴き出ている。
「はぁ!」
「ぎゃあああああ!」
その隙を逃さず青のアギトが赤のアギトを切り裂きさらにダメージを負わせる。そして赤のアギトがダメージと自身の炎によって転げまわっているところに今度は青のアギトが変化した。
最初の金色の形態に変化し、その金色の角が展開し、赤のアギトと同様6本角に変化する。構えをとると金のアギトの足元が輝き、紋章のようなものが展開され、
金のアギトに吸収されていく。
「あ……」
その時、金のアギトの様子がおかしくなった。まるで自身が何をしていたのかわからないとでもいうように構えを解き、自身の両手を見る。角が元通りにしまわれ金のアギトは立ち去って行った。
「ふーーー!」
赤のアギトの炎も収まり、金のアギトを威嚇していたが、金のアギトが立ち去っていくのを見て、反対方向に逃げるように走り去っていった。
「何だったんだ……いったい」
一人残された僕は新たな疑問を考えつつも報告のためGトレーラーに帰還したのだった。
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「いたたた」
俺、火原一輝は朝起きたら全身筋肉痛に苛まれていた。昨日は筋トレとかした覚えはないんだけど、なぜか体中が焼けるように痛くて起き上がることも難しいほどだった。しかも、熱も出てる。
普通の筋肉痛ならご飯食べたり、日を浴びれば少しは良くなるのに今日はむしろ悪化していた。
「大丈夫? なんだったら病院行く? 車出すよ?」
母さんが俺を心配してそう言ってくれた。確かに変だよな昨日はご飯食べた後普段通りに過ごして寝たし、筋トレもしてないし、明らかに普通じゃないよな。
「うん。お願い」
もしかしたらやばい病気の兆候かもしれないし、一応病院に行くことにした。
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「詳しくは検査の結果が出ないとわかりませんが、全身の筋肉の発熱とかすかにけいれんを起こしています。……何か激しいトレーニングでもしましたか?」
「いえ、昨日は普通に寝たはずです」
「そうですか。実は先日同じような症状の患者が運び込まれましてね。君よりさらにひどい熱を起こしていました。検査の結果、全身の筋肉が膨張を続けていたようなのですが、原因はわかっていません」
「その患者さんは?」
「わかりません。実は昨夜、急に病院から姿を消してしまって、大学の先生が心配していらっしゃったのですが」
「そうですか」
「その患者さんとも違って君の症状は軽いみたいですし、入院は必要ではないでしょう。もし症状が悪化したらすぐに病院に来てください」
そう言われて診察は終わった。
「ねえ母さん」
「なに?」
帰りの車の中、俺は母さんに話しかける。
「俺がさ、怪人になっちゃったらどうする? それで人を襲ったりして悪いことしてたらどうする?」
たぶん俺はアギトになって戦っているんだと思う。でもいつの間にか時間が飛んだり、記憶が無い時があったりするのは怖い。もし人を襲っていたら、なんてことも想像してしまう。
「なにそれ? あんたがそんなことするわけないでしょ」
「いや、もしもだよ。最近記憶が無いことがあるし、どこかに行ってる。もしかしたらそれで人を傷つけてるかも」
母さんは笑い飛ばしているが俺にとっては少し悩みの種だった。
「そんなことになったら、あんたを警察に届け出なきゃいけないわね」
母さんは少し真剣な声色でそう言った。
「そう、だよね」
「嘘よ。もしそんなことになってもあんたを守って見せる。たとえ私が傷つけられてもね。それが家族ってもんよ」
母さんの言葉で俺は少し肩の荷が下りた気分だった。
「ありがとう」
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「おはよー」
「うーっす。大丈夫だったか」
「いや、なんかさ全身筋肉痛みたいになってて熱が出ててチョーつらかったわ」
数日後、俺は筋肉痛のようなものが回復して学校に登校していた。
「お、風谷だ。今日もかわいいよな」
友達がクラスメイトの風谷真魚のことを見て言った。確かにかわいいし、異世界の記憶を受信するまではちょっとした好意を抱いていたんだけど、今はクラスメイトではなくアギトのヒロインとしてしか見れなくなってしまっていた。
「でもなんか機嫌悪そうだな。俺話しかけてみようかな!」
「あ、おい!」
友達が止める間もなく行ってしまった。
「おーい風谷。どうしたん? 悩みがあったら聞くよ?」
「なんでもない」
友達が話しかけるが素気無くふられてしまった。
「いや、だって風谷機嫌悪そうじゃん? なんかあっただろ? 相談に乗るからさ」
「何でもないって言ってるでしょ!」
風谷が声を荒げる。その瞬間、教室がシンと静まり返った。
「ご、ごめんね! こいつも悪気があったわけじゃないんだ! ほら、お前も謝って!」
「ご、ごめん」
「もういい!」
そう言うと風谷は教室から出て行ってしまった。
「や、やっちまったあああ!」
友達がそう言って大げさに頭を抱える。友達が騒ぎこいつが原因という雰囲気を作ることによって冷め切っていた教室の雰囲気がいつも通りになった。
「まったく、何やってるんだお前は」
「わるいわるい」
悪びれることなくそう言った友達だがこいつなりに風谷を心配し、自分が悪いという雰囲気を作り出し、風谷の立場を守った。悪い奴じゃないんだけどね。調子が良すぎることが玉に瑕だ。いい友達を持ったと自分でも思う。面倒な奴ではあるけどな。
その時、俺はデジャブのようなものを感じる。カラスのようなアンノウンに人が襲われている。アンノウン出現の感覚だ。
「あ、おい」
初めての感覚に戸惑いつつも友達の制止も聞かずに俺は走り出した。
駐輪所についてすぐに自分のバイクガスガス パンペーラに乗り込む。エンジンをかけすぐに走り出す。俺はどっちかっているとフルカウルが好きだったんだけど、なんでオフロードのバイクに乗ろうとしたのかは別世界の記憶を受信したときにわかった。クウガと同じバイクに乗りたかったんだ。
腹の周りにベルトが巻かれる。アギトのベルト、オルタリングだ。
「変身!」
掛け声とともに俺と、バイクに変化が起こる。
「ぐるるる」
アギトに変身し、肌に装甲が浮き出る。初めて見るけど赤い。フレイムフォームみたいな感じだろうか。爪があって、どこか獣のような感じだ。バイクもカウルが浮き出る。かっこいい!
俺はもっと自分をよく見ようとミラーを見ようとする。ん? 頭が動かない。体が勝手にスロットルを回す。待て待て! スピード違反になるだろ! 俺の意思に反し、体が勝手にバイクのスピードを上げる。メーターがレッドゾーンを記録する。
ビル街についた俺はバイクを停め、あたりを見渡す。アンノウンの被害者らしき人物が倒れているが体が勝手に動いている俺はその人に目もくれない。
「ぐあ!?」
不意に背後から何者かに襲われた。受け身をとり、襲撃者を見るとさっきのイメージ通りのカラスのようなアンノウンだった。ここは様子を見るべきだ。
「がああああ!」
俺の体が勝手にアンノウンに襲い掛かる。
アンノウンはそれを見てすぐに宙を飛んだ。速い。カラスとはいえ鳥類は移動速度ではかなりの速さを持っていてそれがアンノウンにも適応されているみたいだ。
ここはいったん待って追撃したしてきたところを迎撃するのがいい作戦だと思う。
「ぐるああああ!」
だけど俺の意思に反して体は勝手にアンノウンを追いかけてしまった。待て待て! ダメだって!
「ふー! ふーっ!」
だから言ったろ! 追いかけて疲れたら相手の思うつぼだろうが!
疲れたところをアンノウンが追撃してきた。
痛い! 逃げろ! 体勢を立て直すんだ。この相手は勝てない!
俺はそう思ったけど体はやっぱりアンノウンに向かっていった。アンノウンもこちらに向かい攻撃を仕掛けてくる。
「がああああ!」
俺の手が燃え上がり、爪が赤く染まる。熱いとは感じない。まるで体の一部のように炎を感じ取ることができた。
「ぐあ!?」
そのまま爪で攻撃するがアンノウンが途中で軌道を変え、肩を踏みつけられ迎撃されてしまった。
体がコンクリートに叩きつけられ、すさまじい衝撃を受けた。全身痛いし頭がくらくらする。……やろう。ぶっ殺してやる。
「うおおおおお!」
俺は吠え、自分の能力を全開にする。太陽のエネルギーが吸収され、体に力が満ちる。そのエネルギーを足に溜める。
アンノウンがスピードを上げ、襲い掛かってきた。俺も全速力で走り、アンノウンに飛び掛かる。アンノウンが先ほどと同じように軌道を変えようとする。だが遅い。俺は足に集中させたエネルギーを爆発させる。
「だああああ!」
速度が上がり、一瞬で迫ってきた俺の爪を避けられるはずもなく、アンノウンは爪で切り裂かれ光輪が発生し爆発した。
「はぁっ! はあっ!」
アンノウンが死んだのを確認すると俺の変身が解かれた。冷や汗と、寒気がする。なのに呼吸は荒い。大きい生き物を殺したのは初めてだった。それに相手を殺そうなんて考えも子供の頃にけんかで相手を殴ってやろうそんな考えとは比べ物にならない衝動だった。
いまだに手に肉を切り裂いた感触が残っている。殺した。俺が!
その瞬間俺は意識を失った。