FGOの世界に転生して、Aチームに所属したら異星の神に選ばれてしまった件について   作:ハセカズ

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前話に引き続いて?展開が続きます。

今回書かれる異聞帯の王の名前でもう、色々と察しがつく方がいるかもしれないですが。







前回までのあらすじ


ディルムッド「済まぬ」


第20話 始源神界領域 高天原(タカマガハラ)2

「──────無明三段突き(むみょうさんだんづき)!!」

 

「ギャウッ!!」

 

沖田の剣技が最後の一体となった魔獣を貫いた。

辺りにはいくつもの魔獣の死体が転がっており、戦闘の跡が伺える。

数時間ほど前に、この世界のカウンターとして召喚されたセイバーのサーヴァント沖田総司は、カルデアとの邂逅を果たしたが、現在は行動を共にしていた。

 

「ふぅ‥‥皆お疲れ様。やっぱり神代の魔獣ともなると結構強いね。見た事が無いのもいるし‥‥」

 

「確かに‥‥油断していればサーヴァントでもやられかねない程の手強さはありました。といっても、藤丸さんのサーヴァントの方々には歯が立っておりませんでしたが」

 

「立香でいいよ。それに沖田さんも十分頼りになる。人理修復時にカルデアで過ごした記憶は持っていないみたいだけど、また仲間になってくれて心強いよ」

 

「そ、そうですか。カルデアの皆さん方に召喚された時の記憶はありませんが‥‥ですが、ええ!頼られたからには、期待に応えて見せますよ」

 

沖田は生前、人斬りとして一般人には避けられがちであったため優しく接してくれる、藤丸からの言葉に照れながら言葉を返す。まだ出会ってからそんなに時間が経ったわけではないが、沖田自身、人懐っこい性格であったことと当時の記憶は持ち合わせていないようだが、以前カルデアに沖田が召喚されていたこともあってカルデアの面々と沖田は割と早期に打ち解けていた。

 

『さて‥‥襲い掛かってきた魔獣の迎撃も済んだわけだし。ストームボーダーに向かいながらで構わないから、君が得たこの世界の情報の続きを話してもらえるかな?先ほど聞いた話だとクリプタ―側のセイバーのサーヴァントに君と遠方にいる味方1人を除いて全滅させられたという話だったけど』

 

「ええ‥‥真名は分かりませんが、以前対峙した時はディルムッドさん、トリスタンさん、ヘクトールさん、宝蔵院さん、天草さん、私を含めての6人がかりでも全く歯が立ちませんでした。当時は何とか逃げおおせましたが‥‥恐らく正面からの打倒は難しいと思います。それに‥‥私が召喚される前にもギルガメッシュさんやクーフーリンさんといった強力なサーヴァントの方々がこの地には召喚されていたみたいですが、皆セイバーに‥‥」

 

「ギルガメッシュ王まで‥‥」

 

多数のサーヴァントがたった1騎のサーヴァントに殲滅され、しかもあのギルガメッシュまでやられているという事実に驚きを隠せない一同。

だが、クリプタ―と契約を結んでおり、かつそれだけの強さを持つサーヴァントとなるとカルデア側にも心当たりが一人いる。

 

「Ms.沖田。そのセイバーについてだが、こちら側にも心当たりがあるかもしれない。今から映像をこちら側に転送してもらうから同一人物であるか確認してほしい」

 

もしかしたら、スルトやアルジュナを圧倒したあの少女ではないではないかという考えから、確認の為にホームズが沖田に少女の映像を見せる。

しかし、沖田は首を横に振った。

 

「‥‥この娘はクリプタ―側のサーヴァントなのでしょうか?私は見たことがありません。少なくとも私の知るセイバーとは別人物ですね。」

 

「となると、別に召喚したサーヴァントか。まあ、あの規模の存在と契約を結んでいる以上、もう何が居ても驚きはしないが‥‥」

 

『敵の強大さを今更気にしだしても仕方がないし、まずはこの世界について知れるだけの情報を知るべきだね。話を戻すけど、沖田君はこの世界がどういった成り立ちで生まれたのか、この世界を治める王は誰なのか。そのあたりの情報についてはもう掴んでいるのかな?』

 

「分かりました。私の知っていることを順番に話したいと思います。まず、この世界の成り立ちですが汎人類史との分岐点は間違いなく、紀元前660年‥‥今から約2660年前になります。その時代に汎人類史では起きなかったことが起きたからです。それが、この世界の民から『天の戦い』と言われている()()()の争いになります」

 

「‥‥‥‥」

 

沖田の言う2660年前の時代は神代と人類史のちょうど境目であった時代であったため、

神々も存在していてもおかしくはない。それに世界の分岐点がそこであったというのはホームズも予想していたため、特に質問を挟むことなく沖田に続きを促した。

 

「皆さんもご存知方と思いますが、紀元前660年は神武天皇が即位した皇位元年に当たる年です。汎人類史では、神武天皇以降から人の世が始まったと言われていますが、この世界ではそうはなりませんでした。汎人類史では起きなかった、神同士の争いが起き‥‥そして神々が今もこの地の人間の上に立ち支配している状況です。皆さん方はもう、空に浮かぶあの建物を確認したと思いますが‥‥あれは高天原(タカマガハラ)と呼ばれる神の居住区になります。神々は今も高天原(タカマガハラ)から人々にその恩恵を与え続けているそうです」

 

「ふむ‥‥なるほど。汎人類史では、その時代以降に人の時代になったことを考えると、この世界では『これまで通り神が人を支配し続ける派』と『後の世を人に任せる派』で神々の意見が分かれて争い‥‥そして前者が勝利したため未だに神代が続いているといったところか?」

 

「つまり、大西洋異聞帯と似たような状況でしょうか?」

 

「その可能性は高いとは思うよ、Ms.マシュ」

 

神々が人を後の世でも支配するか任せるかどうかで争い、支配する派が勝利したという状況自体は、オリュンポスと同様だ。とはいえ、これはホームズの推測であるため、まだ確信は持てないわけだが。

 

「正確な神の数に関しては私もはまだ分かってはおりません。ただ、この異聞帯の王が誰なのかはハッキリしています。この世界の王の名は‥‥天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)です」

 

天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)‥‥」

 

沖田から天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)という、この異聞帯を治める神の名を聞いた一同。その反応は様々だった。硬直する物もいれば、なるほどと頷くものもいる。

 

天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)か。想定される神の中でも最大最悪のパターンだね。日本神話における原初の神‥‥造化三神の中でも始まりの一柱とされる神だ。まあ、あの出鱈目な日本神の頂点に立つ存在だと考えたら納得だけど‥‥』

 

『俺も日本神話は調べたから、名前は知っているけど‥‥‥確か一説によると最高神、始源神とも呼ばれている神だっけ?文献が少ない神様だけど、オリュンポスで言うところのゼウスみたいな神か?』

 

『全ての始まりの神だから、ゼウス神よりもカオス神に近いと思うよ、ムニエル。どちらにせよ強敵であることに変わりはないから、船の強度を今以上にする必要はありそうだね‥‥』

 

「俺もこの異聞帯に来る前に日本神話のことは調べたけど‥‥とにかくティアマト神みたいに凄い規模の神様だってことだよね。沖田さんはこの異聞帯で天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)を見た事はあるの?」

 

藤丸的には、凄いのは分かるが、書物から得た情報だけだと何となくでしかその強さが伝わってこない為、もしかするとその神と対峙したことがあるかもしれない沖田に、聞いてみた。とはいえ、天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)という神が、この異聞帯を治める王なのであれば、少なからずクリプタ―回収という雑務を神々に押し付けられたことも、更に日本のクリプタ―のサーヴァントであるあの少女よりも上かもしれないという話も納得は出来るが。

 

「いえ、私は実際に対峙したことはありません。しかし‥‥天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)はこの世界において()()()()()と呼ばれております。()()()()()()()()()()であると。」

 

「第二の根源‥‥?根源って確かこの世界の全ての始まりとされる場所で、魔術師達が目指す目標だよね?第二の根源ってことは、根源到達に最も近い存在ってこと?」

 

『ふ、ふん!根源に近いから何だというのだ。汎人類史にも根源に近しい者‥‥魔法使いだっておるし、今までも十分そのクラスの敵と戦ってきた。私はその時カルデアに在籍していなかったが、第7特異点のティアマト神など正しくそうだったはずだ!!』

 

ゴルドが鼻をならすが、それを沖田が首を横に振って否定する。

 

「いえ、そうではありません。魔法が使える、根源に接続している、身体が根源に通じている‥‥‥そういった者達とは完全に別です。()()()()()()()()()()()()()()()()()だと聞いています」

 

「む、むぅ‥‥?」

 

 

ゴルドルフやマシュは沖田の言葉の意味が良く分からず頭を捻る。

凄いのは分かるが、具体的な敵の強さが想像できていないようだった。

だがホームズやダ・ヴィンチはその意味‥‥ヤバさが理解できているみたいで、険しい顔をしている。

 

『‥‥‥なるほどね。天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)はこの宇宙における万物創生の神だともされている。あらゆる概念や世界、法則が天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)から生まれてきたものだと仮定すると‥‥確かにソレは存在規模自体が根源クラスだね。もしくは「根源に最も近しい」という概念を持った神なのか。どちらにせよ、これは‥‥想定を完全に超えた敵かな』

 

「ごめん、ダ・ヴィンチちゃん。ちょっと話のスケールが大きすぎてイマイチ分かっていないんだけど‥‥やっぱり今まで戦ってきたどんな敵よりも強かったりする?」

 

『うーん、そうだね。例えば魔術王は人類史の歴史、総魔力量を光帯として保持していたわけだけど‥‥仮に沖田君の言葉通りに捉えるなら、その()()()()の熱量があったとしても絶対に敵わないと言えば、そのヤバさが伝わるかな?』

 

「─────────ッ」

 

ゲーティアの光帯の数千億倍の熱量でも敵わない。

ダ・ヴィンチから語られた、そのあまりにも桁が違いすぎる相手にゴルドルフや藤丸、その他のメンバーも完全に絶句していた。

 

「す、数千億倍‥‥」

 

『ダ、ダヴィンチ君?流石にジョークだよね?

エイプリルフールはとっくに過ぎているよ‥‥?もしくは、桁を間違えているんじゃないのかね?魔神王の数千億倍の光帯でも無理だと!?何なのだそれは!!インフレにも程があるだろう!?』

 

「‥‥この世界おけるすべての現象、因果は根源の渦から始まったとされる。

物質、概念、法則、空間、時間、位相、並行世界、星、宇宙、宇宙の外の世界、無、生命、死などのあらゆるものがここより生まれ、存在しているとされている。過去現在未来、果ては並行世界にまでわたる情報と知識も‥‥無論、我々も含めて文字通り全てが存在する。存在そのものが根源に最も近いということは逆に言えば、()()()()()()()()()()()()()ということでもある。つまり文字通りの全知全能‥‥完璧な存在だということだ」

 

ホームズの言葉通り、根源とは文字通り全てを内包している。

宇宙も、法則も、何もかも。先ほどダ・ヴィンチはゲーティアの数千億倍の光帯でも無理だと言ったが、ソレは決して誇張表現ではない。ゲーティアの光帯は超新星爆発が如き破壊力を秘めてはいるが、宇宙全域から考えれば、超新星爆発などマメ粒のようなもの。

例え、その規模を何億倍にしようともソレは変わらない。そして、その宇宙でさえ根源からすれば小規模の存在でしかない。最も根源に近しいという事は、根源に属する全てを超えた規模の存在であるということ。故にダ・ヴィンチの言葉は正しい。

 

だが、仮にそうだとしたらもう勝ち目はないのではないだろうか?

そんな不安が一同にはあった。

 

『つ、つまり。我々では絶対に勝てない相手だということなのか‥‥!?』

 

『沖田君の言葉をそのまま受け取るなら‥‥ね。とはいえ、ホームズも私もここまで言ってはいるけど‥‥流石に無いと思うかな。』

 

「え‥‥?」

 

意外にもそのヤバさを語ったダ・ヴィンチからの否定の言葉に疑問視する面々だが、それを気にすることなくダ・ヴィンチが言葉を続ける。

 

『そこまで来ちゃったら、もう神という定義から完全に外れた別次元の怪物だ。この異聞帯の天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)が神として認識されている以上、ソレは無いと思いたいね。あくまでもこの世界の神や民達の価値観だと、そうであると思わざるを得ない様な力を持っているから、そう信仰されているだけだと思う』

 

「なるほど‥‥その可能性は確かにあると思います。だとするなら、まだ私達にも対抗する術があるかもしれません」

 

「う、うむ。この世界の神々がチートじみた力を持っているのはもう嫌というほど知らされてはいるが、いくら何でも人類史光帯の数千億倍でも無理などという理不尽なヤツがいるはずがない。‥‥‥‥ないよね?」

 

若干、フラグを立てているような気がするゴルドルフであるが、天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)について沖田が知る情報はこれで全ての為、次の話をしようとしていた。

 

「次に天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)以外の神について、私が知る情報ですが‥‥」

 

『─────ちょ、ちょっと待ってくれ!?』

 

しかし、それはムニエルからの言葉で一旦中断された。

何事かと気にする一同。

 

「何かあったんですか?」

 

『────静謐の反応が完全に消失した』

 

「え‥‥‥?」

 

静謐のハサンの消滅。

現在、静謐は藤丸達とは別行動で、情報を収集してもらっている。

とはいえ、この世界に何があるか分からないため戦闘はなるべく避け、基本的には気配遮断スキルを使って隠密行動をするように決めていた筈だ。

 

『も、もしや神々にやられたのかね?もしくは例の少女か?セイバーか?ええい!該当しそうな敵が多すぎて判断できん!』

 

『それは分からないよ。いきなり反応が消失したから‥‥って。敵正反応が真っ直ぐこちらに近づいて来ているぞ!?この魔力量‥‥完全に日本神の誰かだ!!』

 

「────ッ。皆、戦闘準備!!」

 

藤丸のその言葉で全員が戦闘態勢に入る。

‥‥‥‥やがて姿を現した神は、藤丸達にも見覚えのある神だった。

 

「おいしそうなのが沢山‥‥あぁ、早く食べたいなあ」

 

「───────ヒダル神!!」

 

一度見たら絶対に忘れることはないであろう、愛くるしい少年。

だが、見た目からは想像できない程の圧倒的な魔力量に神気。

間違いなく以前、オリュンポスで武蔵を殺したヒダル神だった。

しかし、ヒダル神は藤丸達の言葉に首を傾げている。

 

「あれ、何でボクの名前を知ってるの?」

 

「‥‥‥‥俺たちのことを覚えていないの?」

 

「何処かで会ったかな?うーん、覚えてなくてごめんね。ボク食べること以外は関心が無いから。それにどうでもいいよね。だってこんなに美味しそうなご馳走が目の前に並んでるんだもん。()()()()()()みたいにサーヴァントのお肉には期待しているから!」

 

「‥‥‥‥ッ!!」

 

もう、藤丸達のことも武蔵を殺したことも何も覚えていないという神の態度に怒りの感情が灯る。それに発言から静謐を殺したのも、間違いなくヒダル神だ。

 

「‥‥‥‥なるほどな。情報通り、イカれた餓鬼のようだな。良いぜ、こいよ。そんなに腹を空かしているなら特大のモノを食わせてやるぜッ!!」

 

「うんうん、活きがいいね。それじゃあ――――イタダキマスッ!!」

 

モードレッドの言葉を合図にヒダル神が飛び掛かる。

この世界における神との最初の戦いが始まった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ヒダル神とカルデアの戦いが始まったことを、遠方より、その男は感知していた。

 

「この気配‥‥日本の神とサーヴァントが戦いを始めたか‥‥」

 

まさに神の作り上げた如き彫像としか表現できないほどの筋骨隆々の男。

この地に召喚されしサーヴァントは日本のクリプタ―が召喚したセイバーのサーヴァントにより、ほぼ壊滅させられている。この男と同時期に召喚されていたサーヴァントも同様であったため、この近くで生き残っている汎人類史側のサーヴァントはその男だけだった。

 

その男はまだ、セイバーのサーヴァントと戦ったことは無い。

しかし、それでも‥‥彼なら敵のセイバーとも互角以上に戦えると、散っていった仲間たちは誰もがそう思う。従来の聖杯戦争で召喚された場合は例えバーサーカーのクラスで据えられ、その剣技が失われた状態でなお、6騎の英霊を相手にして問題なく勝利できるとされる程の規格外の大英雄。

 

男がただただその手に握られた剣を振り回すだけで大木が爪楊枝のようにへし折れ、大地が悲鳴を上げる。ただ武器を振り回すだけでも他のサーヴァントを圧倒し、小手先の技術など彼の嵐のような攻撃の前には無意味であると想像するのに難くない。血管に満ち溢れるその神気は近くにいるだけでも他者を圧倒してしまう。

 

その技術も凄まじく、間違いなく最高峰のサーヴァントであった。

そして、その最強の男が‥‥いま動き出そうとしていた。

 

「‥‥‥‥急ぐ必要があるか」

 

恐らくは自身の同胞である汎人類史側のサーヴァントが日本神との戦闘に入ったのだ。

故に急いで自身も、戦闘の手助けをする必要があると、その場に向かう。

 

非の打ちどころのない英雄。そんな評価が相応しいサーヴァント。

即ち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、その手に轟く巨雄の聖剣(マルミアドワーズ)を握りしめ、大地を駆け抜ける。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

藤丸達とヒダル神の戦いをストームボーダー越しに確認しているカルデアの職員達。

藤丸の礼装、魔力及び戦闘の補助、遠くからでもやることは山ほどある。

そんな中、突如としてあらわれた神にゴルドルフが悪態をついていた。

 

「ぐっ、こんなに早く神と戦うことになるとは‥‥!まだ日本についてから半日と立っていないというのに‥‥!」

 

「で、でもどうせいつかは戦うことになるんだしよ‥‥‥()()()もあるわけだし。1柱しかいない今戦えるのは逆に好都合な気もする‥‥」

 

「う、うむ。もう少し心の準備というものが欲しかった気もするが‥‥こちら側にも策はある。オリュンポスで異星の神もクリプタ―共もいなくなった後、アトランティスにて回収した迦具土神(カグツチ)の血痕からアレを対日本用に調整出来たわけだからな‥‥」

 

ゴルドルフとムニエルのいう新兵器には、使用前に対象かその類似存在の身体の一部等が必要であった。以前、アトランティスにて相対したオリオンに頭を吹き飛ばされた迦具土神(カグツチ)は死にはしなかったものの、それでも頭を吹き飛ばされたということから大量の血痕を残していた。ソレを異聞帯から脱出する際に回収することが出来たからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()を日本神用に調整出来たのだ。

 

故に以前までとは違い、今回はこちらにも勝ち目がある‥‥そう意気込んで、ストームボーダーから映像を確認しているゴルドルフやムニエルであったが、ダ・ヴィンチはヒダル神との戦いよりも、その神から観測できたとあるデータが気になっていたみたいだった。

 

「(これは‥‥‥。()()()()()()()()()()()()()。何が起きている?異星の神に一度は殺されたのが原因か?それとも他の要因が?‥‥‥‥駄目だ、現時点では原因が分からない。今はあの神との戦いに集中した方が良さそうかな)」

 

ダ・ヴィンチが気にしていたデータはヒダル神の魔力出力値のデータ。

そのデータでは以前オリュンポスで対峙した時のヒダル神よりも明らかに――――()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「ああ、もう!早く食べさせてよッ!」

 

ヒダル神の背中あたりから生えた無数の触手が藤丸達に振り回される。

まるで、生き物のように複雑な動きを見せる触手は回避が非常に難しく、藤丸達を追い詰めていた。そして、とうとう‥‥‥触手を躱し切れなかった、エルキドゥが攻撃を()()するという選択をとってしまった。

 

金属のように鋭利に硬質化されたエルキドゥの腕と、ヒダル神の触手が触れた瞬間に、

エルキドゥの腕が()()した。

 

「――――ッ‥‥!ハアッ!!」

 

自身の腕が消失したにも関わらず、殆ど怯まずに、攻撃を仕掛けるエルキドゥ。

民の叡智(エイジ・オブ・バビロン)と呼ばれる宝具により、大地から槍や剣、弓など千差万別の武具を成形しヒダル神に向けて発射する。ギルガメッシュの「王の財宝」にも真っ向から相殺できる力であるが‥‥それらすべての武具がヒダル神の身体を貫くことは無く、まるで身体に吸い込まれるようにして消滅していった。

 

「――――『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!!」

 

「ああ、いいね。美味しそうな光だ!――――イタダキマス」

 

「――――何ッ!?」

 

モードレッドが自身の宝具を開帳するが、結果は同じであった。

ヒダル神の身体に触れた途端に、剣から放たれた莫大な光のエネルギーが吸い込まれるようにして消えて行ったのだ。自身の宝具が通用しないという事実にモードレッドが驚愕する。だが、宝具が通用しないだけであれば、まだいい。問題なのは、以前にオリュンポスでも見せた、身体中どこからでも食べられるという能力にあった。

 

 

神と言っても人型の神は本来であれば、体内構造は人とそこまで変わりがあるというワケではない。しかし飢餓神であるヒダルは自身が持つ飢餓の権能により、身体の構造そのものが食べることに特化する作りに変異している。遠くのものでも食べられる口のついた触手器官、身体のどこからでも食事ができる‥‥これらは全てヒダル神の権能により生み出された力である。

触れただけで、食事ができる。ソレはつまり、攻撃を受けることは絶対に避けなければならないという事を意味している。

 

「あの触手に触れるな!触れれば武器ごと腕を持っていかれる!!」

 

「ちっ、言われなくても分かってるんだよ、ホームズ。クソッ、俺の宝具を‥‥!」

 

「話には聞いていたが本当に身体中どこからでも食せるとは、何と厄介な‥‥。あれでは余の宝具が使えぬ‥‥!」

 

身体のどこからでも食べられる。しかもその吸収速度を考えると、あの神に対し、剣や槍といった近接武器で攻撃を加えるのはリスクが高い。武器で触れた瞬間に、吸収される可能性があるからだ。

 

故に、現在攻撃を加えられるのは、モードレッドやエルキドゥのような遠距離攻撃持ちのサーヴァントのみである。一応、ラーマの持つ宝具、羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)はその剣に光を纏わせ投擲する為、危険を伴わず攻撃できるかもしれないが、直撃した瞬間に吸収されて宝具を失う可能性があるため、発動出来ない状態にあった。

 

「‥‥‥‥っ」

 

沖田が歯噛みする。あの神の特性上、攻撃が出来るのは遠距離攻撃手段を持つ者のみ。

故に‥‥近接攻撃しか出来ない沖田は攻撃をかわす以外は何もできない。

戦場において役に立てていないという事実が沖田を苦しませていた。

 

「ああ、凄く美味しいよ!!もっともっと頂戴ッ!!」

 

「クソ、舐めやがって!なら、これでどうだ!!」

 

「アハハハハハ!!」

 

だが、歯噛みしているのは沖田だけでない。

先ほどから攻撃を繰り返している、モードレッドも自身の攻撃が通用している様子が全くないのだから。

 

モードレッドの魔力放出スキルにより放たれた、赤雷もまるでスパゲッティでも啜るかのように体に吸い込まれていく。

 

だが、全ての攻撃が触れた瞬間に消失しているというワケではない。

先ほどのモードレッドの宝具は吸収しきるのに数秒かかっていた。

吸収速度や吸収できる量に限度があるのだとしたら、あの神が一度に食べられない程の火力を叩きこめば良い。そして、それが出来るかもしれないサーヴァントがカルデア側にはいる。

 

「より高品質な火力がお望みかい?それなら、とっておきのモノを味合わせてあげるよ―――――『人よ、神を繋ぎ止めよう(エヌマ・エリシュ)』!!」

 

「―――――ハハハハハ!こんな味やあんな味が楽しめる!久しぶりだよ、こんなの!それじゃあ遠慮なく、イタダキマス!!」

 

対界宝具の規模にも迫る、エルキドゥの宝具。地面から生み出された黄金の楔を自らに纏い巨大な槍となったエルキドゥがまるで流星のように神に突撃する。

直後、半径30mほどの爆発がおきた。

 

『や、やったのか‥‥?』

 

ゴルドルフがストームボーダー越しにポツリと呟く。

今まであの神に加えた攻撃は、全てあの神の体内に取り込まれるようにして消えて行った。

その為、モードレッドの宝具が直撃しても本来なら起こる筈の、衝撃波や爆発が起きなかった訳だが‥‥‥‥今回はそうでは無かった。

エルキドゥの宝具の規模を考えれば、もっと大規模な衝撃が発生してもよさそうだが、それでも爆発したということは‥‥あの神がエルキドゥの攻撃を食いきれなかったのではないのだろうか?

 

故にゴルドルフの言葉も仕方がないものではあるが、まだ戦いは終わっていなかった。

 

「―――――マスター、下がってください!!」

 

マシュのその言葉と同時に爆発により生じた煙から無数の触手が、藤丸に襲い掛かる。

マシュに抱えられ、何とか触手を躱した藤丸。目を向けると、そこには右腕が消失したヒダル神がいた。

 

「凄い‥‥僕の権能でも食べきれなかった。一度にあんな沢山の量が食べられるなんて久しぶりだよ!!ああ、やっぱり何かを食べるって幸せだなあ。満たされるって、良いことだなあ。でも――――――あ-お腹すいたなあ」

 

「――――――ッ。腕が‥‥!?」

 

ヒダル神の言葉に呼応するようにして、消失した筈の右手がトカゲのしっぽの様に再生し始めた。その様子を見たカルデア側が驚きつつも、自分たちの考えが間違っていなかったことを確信する。

 

――――――――やはり、日本の神は何らかの理由で不死身の存在になっている

 

元々、アトランティスにてオリオンに頭を吹き飛ばされた、迦具土神(カグツチ)が死ぬことなく直ぐに元通りになった時点で、ある程度の予測はしていた。

実は元々そうだったのか汎人類史とは歴史が異なる異聞帯だからそうなったのかは分からないが‥‥‥‥だからこそ、カルデア側の()()()が活きる。

 

『あの神が不死だと分かった以上は、今こそアレを使う時だ!分かっているな、マシュ、立香!!』

 

「分かっています、ゴルドルフ所長!マシュ、準備を‼!」

 

「はい!お任せください、マスター!」

 

カルデア側、アトラス院の技術を総動員して全霊にて汲み上げた、霊基外骨骼(オルテナウス)の追加機構。本来ならオリュンポスで使われるかもしれなかったソレは、今回の異聞帯攻略においては日本の神に対抗しうる、カルデア側の切り札の一つであった。

 

「‥‥‥‥ん?何あれ?」

 

ヒダル神がポツリと呟く。

霊基外骨骼(オルテナウス)の盾に接続する形で展開されたソレは、

何メートルもあるような黒い砲身を思わせるような形式をしていた。

 

これこそが、魔術の世界に知らぬ者のない、アトラス院の知恵の究極。かの7大兵器のひとつ。『天寿』の概念武装の模造品であるそれは、マスターからの令呪を弾丸として撃ち出す。

 

しかし、発射まで長いシークエンスが掛かるという弱点も抱えていた。

当然、その間にあの神が大人しくしているはずもない。

 

「良く分からないけど‥‥食べ応えがありそうな玩具だね。それじゃあ、ちょっと味見させてッ!!」

 

「―――――ヒダル神がこちらに接近してきます!!」

 

ヒダル神の触手が藤丸達に向かう。しかし藤丸達に届く前に直前に、モードレッドの赤雷とエルキドゥの鎖が神の身体に直撃した。

 

「何、よそ見してんだよ?お前の相手はこっちだろ?」

 

「ああ、お望み通りまだまだ君にはたくさんのごちそうをしてあげよう」

 

「‥‥‥‥ハハ。ハハハハハハ!!いいね、お姉さんたち!久しぶりだよ、こんなに僕の飢餓を満たしてくれる相手はさぁ!それじゃあ、遠慮なく齧って、啜って、咀嚼してあげるッ!!」

 

ヒダル神の触手がモードレッド達に再び向く。モードレッドの宝具もエルキドゥの宝具でもあの神を倒すことは出来ない。エルキドゥの宝具に令呪3画を上乗せすれば、何とかあの神を一度は殺すことも出来るかもしれないが、日本の神が不死である可能性がある以上は、そんな博打を打つことは出来ない。

 

故にこそ、確実な手段であの神は討伐する。これまでの戦闘データ、その神気の情報、死ななかったとはいえ頭を吹き飛ばされたことにより大量の血痕を残していった迦具土神(カグツチ)神の血。それらから対日本の神用に調整された、『天寿』の概念武装ブラックバレルにて。

 

 

刻寿測定針(アコンプリッシュ・メジャー)、測定開始!

逆説構造体(ブラックバレル)、形成します!生命距離弾(デッドカウンター)、砲身に焼き付け!――――接続完了(セット)生命距離弾(デッドカウンター)、逆説から真説へ」

 

「‥‥行くよマシュ!令呪装填!」

 

「はい、マスター!バレルレプリカ、フルトランス‥‥‥!」

 

それが今、放たれようとする寸前で、その存在を感じ取ったヒダルが再び、藤丸達の方へ向かう。より極上のエサを。より極上の量を。それしか頭にないヒダル神は触手と共に真っ直ぐ藤丸達の方へ駆け抜ける。だが、今は逆にそちらの方が都合が良い。

この攻撃を外すわけには行かないのだから。

 

「いって‥‥霊基外骨骼(オルテナウス)!」

 

「アハハハハハハ!――――イタダキマスッ!!」

 

終わりなきモノを砕くための概念の刃と全てを喰らう暴食の神の触手が、触れ合う。

対象の寿命を転写した弾丸である、それは終わらぬはずの命を終わらせるもの。

例え不死であったとしても、この宇宙が有限である限りはどんなものにも終わりはある。

それこそ、沖田の話に出てきて、否定された―――根源に最も近い存在のように宇宙を超えた何かでもない限りは。故に、ブラックバレルは確かにヒダル神の寿命を観測し、物質化していた。

 

「――――――――グブッ!!?」

 

そして対日本神用に調整され、その不死性を、読み取った「寿命」という概念にて上書きし無力化するまでに至ったその弾丸は―――――触手ごとヒダル神の胴体を引き千切っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回投稿は長くなるかも。

あと、パンゲアは暫く登場しなさそうなので、本当はパンゲアの絵でも書いて載せようかなと思ったんですが‥‥作者の力じゃ無理でした。絵ってどのツールでどうやって書くんだ‥‥?



 

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