FGOの世界に転生して、Aチームに所属したら異星の神に選ばれてしまった件について   作:ハセカズ

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はい、続きになります。
ちょっと投稿速度が落ちてきましたね‥‥

次回投稿いつになるんだろ。







前回までのあらすじ

藤丸「天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)すげぇ‥‥」




第21話 始源神界領域 高天原(タカマガハラ)3

始まりはいつだったのだろうか。

今から約14000年前の「白き滅び」との戦いだろうか?

当時、災害としてその力を振るったソレに多くの神が立ち向かった。だが、いずれもその存在には届かず‥‥‥‥当時、自身の存在規模を日本の最高神にまで()()していた天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)では白き滅びを抑えることが出来ずに多くの神が死に絶えた。あの戦いは間違いなく日本における大きな歴史の一つだった。

 

それとも汎人類史と違い自分が今もなお()()()()()()()()ことが分岐点だろうか?

‥‥‥恐らくはどちらも違う。

 

この異聞帯の始まりは今から約2660年前。

その時代には、後の民に「天の戦い」と呼ばれる、あの争いが起きた。

もともと、幾度となく話し合われていた事ではあった。つまり、これからの世に神は不要であり後の人々に全てを任せるか。それとも今まで通り神が人を支配し続けるか。両者の意見は食い違い、和解することもなく‥‥遂に神同士の争いが起きる。勝者の考えを後の世に繋げると。

 

その戦いで多くの神々が消滅した。当時「白き滅び」により殆どの神が神霊となっていたが、

戦いに敗れた神はこの世界から姿を完全に消すことになった。

つまり、勝利を収めたのは我々、「支配派」。その戦いの後、神霊となっていた神も天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)の力により蘇生を果たした。だから神々が今日も人を支配し続ける。

 

‥‥‥‥この世界が汎人類史と分岐した理由は、汎人類史と違い人の未来を、その可能性を信じることが出来なかった。この一点に尽きる。我が子が親を離れるように、自分たちという拠り所から人が脱却することを認められなかった。

だから、これからも自分たちが支えるべきだと手を伸ばした。‥‥‥伸ばしてしまった。

 

今日まで、神に支配された人は不変の幸福をその身に受けている。老いもない。飢えもない。苦痛もない。だが、その代わり成長もしない。変化も無い。ただただ、変わらない幸福を甘受するだけの毎日。変わらない明日。永遠に続く今日。しかし、それでも我々は‥‥‥私は間違えていないと考えていた。

 

‥‥‥汎人類史という可能性を、カルデアという組織を知らされるまでは。その世界では人は神から独立し、自分たちの力で未来を進んでいるという。もはや悪い冗談としか思えない。

‥‥‥‥元々、神が人から独立したIFの可能性を我々は知っていた。しかし、その世界にある人の未来は地獄だ。争いは絶えず、常に苦しみを抱えている。

 

だからこそ、人は神々から独立するべきではないとそう考えていた。

だが、あのカルデアという組織が見せる神々でさえ容易くは起こせぬ奇跡ともいえる偉業。時には神さえも超える彼ら。人という存在の可能性。人の未来。それを知り‥‥この目で見て、ふと思った。

 

──────私のやったことは一体何だったかと

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

はるか上空にて。

その都市は今も空想樹を守るかのように空に存在する。

 

高天原(タカマガハラ)と呼ばれるその都市は、神が作り上げたとしか言えない様な、装飾を誇り、見る者の心を奪うだけの美しさと魔力を兼ね備えていた。

そこは始源神を含めた神々が住まう居住区であり、同時に地上に居る人間の様子を見るための役割を果たしている。

 

神々はこの高天原(タカマガハラ)から、地上の人間たちに神気による恩赦を今もなお与え続けているのだ。そんな高天原(タカマガハラ)のある建物にて何柱かの神々が集っていた。

 

「外界からの侵入者を確認した。間違いなく例のカルデアという組織の者たちだろう」

 

そう第一声を上げたのは、白色を基調とした神御衣を羽織った、神───月読命(ツクヨミ)だった。ロングの紫髪を後ろで纏めており、腰には神剣を携えている。その堂々とした立ち振る舞いと神気は、三貴神の一柱であることを感じざるをえないものだった。

 

「カルデア。既にいくつかの異聞を滅ぼし、不遜にもこの世界をも滅ぼそうという者達。しかし、所詮は劣等種たち。我らに勝てる道理などなし。身の程知らずにも高天原(タカマガハラ)にまで来ようとするのであれば────諸共焼却してやればよいだけの話なり」

 

カルデアを大した脅威でないと言う神───火之迦具土神(ヒノカグツチ)はどのような炎よりも美しく神々しい炎を纏っていた。

 

「これ、迦具土神(カグツチ)。そのような言葉を使うものではありませんよ。他者を軽んじる行為は己の品格を下げます。それは、人でも神でも同じことです」

 

そう火之迦具土神(ヒノカグツチ)を窘めたは、この世の者とは思えない程の美しい美貌を持つ黒髪の女性───伊邪那美(イザナミ)だった。

 

「‥‥‥‥は」

 

火之迦具土神(ヒノカグツチ)も自身より上位の神であり、また母でもある伊邪那美(イザナミ)に逆らうつもりは無いらしく、素直に叱責を受け入れた。

 

「うむ、伊邪那美(イザナミ)の言葉にも一理ある。あの者達が滅ぼした世界の中には神が治める異聞もあった。数多の偉業を成し遂げ、時には神ですら超えるのが、あのカルデアという者たち。真に信じがたいことではあるがな。我が神眼をもって見る限りでは、奴らにかつての白き滅び───()()()()()の様な力は感じ取れぬ。」

 

次に言葉を発したのは、この中で最も強大な神気を纏う存在。

この世界を治める王でもあり、第二の根源、根源に最も近しい者とも呼ばる、全知全能神。

 

──────天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)だった

 

まるで宇宙を思わせるような色彩の服装に、煌びやかな様々な装飾品、美しい半透明な羽衣を纏う、黒髪のその神は同じ地平に存在するというだけで、人は硬直し、或いは平伏してしまう。ただの言葉ですら凄まじい重みとなり攻撃手段となり得てしまう、神の中の神。それが、天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)だった。

だが、その神の中の神である天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)だからこそ、カルデアという人間の組織を評価するような言葉に火之迦具土神(ヒノカグツチ)は驚きを隠せなかった。

 

天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)よ。我らが頂点の全能神よ。貴方は彼奴らが我らの脅威になるとお考えか?しかし、奴らが他の異聞にて神をも下せたのは単なる偶然。貴方が申した通り、奴らの力では我らには到底及びはしますまい。」

 

火之迦具土神(ヒノカグツチ)からのそんな言葉に天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)は答えた。

 

「そうとも限らん。現に─────地上に降りたヒダルの奴めは、そのカルデアの者達に敗れたようだ」

 

「─────────ッ!!」

 

神が人間に敗れた。その神をして厄介である権能という名の食欲から、神々の中でも問題児とされていたが、ヒダル神は紛れも無い神の1柱、それも小神というわけでもない。

その言葉には、月読命(ツクヨミ)火之迦具土神(ヒノカグツチ)も驚きを隠せていない様子だった。

 

「‥‥‥‥‥‥」

 

ヒダル神が破れたという話を聞き、伊邪那美(イザナミ)は悲しげな‥‥あるいは何か決意を決めたかのような表情をしていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

地上のとある場所にて。そこでは一つの戦いが決着を迎えていた。

それはカルデアとヒダル神の戦い。カルデア側が切った切り札により、勝負がついたのだ。

 

「ブラックバレル、ヒダル神に命中!今のは、致命傷です‥‥!!」

 

マシュの言葉通りブラックバレルは、ヒダル神の権能による食事を間に合わせることもなく、あの神の胴体を貫いた。いや、貫いたという表現は生ぬるいかもしれない。何せ、貫くばかりか神の胴体を引き千切り、下半身と上半身を泣き別れにさせたのだから。

 

だが、重要なのはそこではない。迦具土神(カグツチ)が頭を吹き飛ばされても死ななかったように、ヒダル神が不死身の存在であれば、あの程度の傷でやられる筈がない。直ぐに受けた傷を完治してカルデアに牙を剥くだろう。しかし、対日本神用に調整されたブラックバレルは確かに神が持つ不死性を、その読み取った「寿命」という概念にて上書きし無力化するまで至っていたのだ。

 

「グェッ、ゲホッ!!あれ‥‥?ちょ、ちょっと待っ‥‥再生できな───グブッ、ゲエェェェェ!!?」

 

血反吐を吐き散らすヒダル神。ブラックバレルに貫かれ、もはや死を待つだけの存在になっていた。傷の修復も叶わず上半身だけになり、ヒダル神はそんな現状が信じられないかのように肩を震わせている。

 

「‥‥え?うそ?ボク、本当に死んじゃうの?あんな雑魚どもに負けて‥‥?」

 

先ほどまでの威勢は何処にもなく、どこから見てもただの弱弱しい子供にしか見えない。

そんな状態で、ヒダル神はブツブツ呟いている。だが、それも長くは続かなかった。

下半身の消失に伴い、血も臓物も外に流れ出たヒダル神の眼から段々と光が失われていく。

 

「‥‥‥‥死んじゃうんだ。でも、そっか‥‥‥‥。仕方ない‥‥や‥‥」

 

その言葉を最後にピクリとも動かなくなったヒダル神。カルデアの機器も神の生体反応が完全に消失したことを表している。

 

「ヒダル神の沈黙を確認‥‥やりました‥‥!」

 

「‥‥‥‥ッ」

 

『ほ、本当に倒したのか‥‥?遂に日本の神を‥‥』

 

マシュの言葉で改めて自分たちが勝利したことを認識した藤丸達。カルデアが日本の神と戦うのはこれで5度目となる。初めて日本の神と邂逅したのは、ロシア異聞帯を攻略しカドック・ゼムルプスを護送中に。2度目は芥ヒナコの担当する中国異聞帯にて、項羽に勝利した直後に。3度目はアトランティスを攻略中に。そして4度目はオリュンポス突入時に。そして、今回のヒダル神との戦いが5度目となる。

 

いずれもカルデア側の惨敗で終わっている。3度目の戦いでは神の頭を吹き飛ばすところまではいったが、その不死性により結局は勝利を収めることは出来なかった。しかし、今回は違う。5度目にて、とうとうカルデアは日本の神に対して勝利を掴むことが出来たのだ。

 

──────この異聞帯に存在する神には勝てないのではないか?

 

元々、勝ち目など殆ど無いと分かっていたカルデア側ではそんな考えが頭をよぎる者も少なくはない。藤丸もその一人だった。日本の神の強大さに対する印象はそれだけ大きかったのだ。

 

だからこそこの勝利は、自分達にもまだ勝ち目があるかもしれない。戦えると。そんな希望をカルデア側にもたらしていたのだった。しかし‥‥‥その高揚も長くは続かなかった。

 

「──────マスター!!」

 

突如として、魔力弾が飛来して来たからだ。

藤丸目掛けて放たれてその一撃は、幸いにも攻撃が放たれる寸前にサーヴァントの存在をそのスキルにより感じ取った、エルキドゥにより防がれた。だが、藤丸達が本当に驚くことになったのは、飛来して来た魔力弾ではなく、現れた2人の人物に対してだった。

 

「先輩‥‥‥!」

 

マシュが複雑そうな表情で呟いた。

 

「おやおや。攻撃の直前まで拙僧の術にて確かに気配を消していた筈ですが‥‥。いやはやいやはや‥‥‥‥ヒダル神との戦いにて消耗していると思いきや、思ったよりも元気な様子。ゴキブリの生き汚さを少々侮っておりました。ンンンン!これは痛ぶりがいがありそうですねぇ‥‥‥‥そうは思いませぬか、我が主よ?」

 

「痛ぶるとかいいから‥‥作戦通り勝つことを優先しろよ?いや、ほんと頼むから」

 

両者ともにカルデア側に因縁のある人物。アルターエゴ、リンボ。

そしてもう一人いる人物を見た、モードレッドが藤丸に声を掛けた。

 

「‥‥‥‥おい、マスター。あいつが例のクリプタ―か?」

 

モードレッドの問いに藤丸がコクリと首を振り肯定する。

インドのこともありカルデア側にとって現状、最も因縁の在るクリプタ―と言っても過言ではない。それに、リンボとクリプタ―の後ろには付き添うかのように、体長3mはあり足が3本の黒いカラスのような生き物が5羽ほどいた。だが、神代の獣にしても異常とまで言える様な魔力を纏っているその生物は間違いなく神獣の類だろう。

 

「3本足に、カラスを思わせる形容。あれは八咫烏(ヤタガラス)か‥‥‥?いや、それよりも何故、リンボが‥‥?」

 

そのホームズの疑問に答えたのはリンボだった。

 

「これはこれは、カルデアの皆様方。この度は我らが異聞帯へようこそ参られた。その節は、異星の神に召喚されし別なる拙僧の遊戯の悉くにお付き合い頂き、存分に楽しまれたようで。ですが、ここいる拙僧はマスターに召喚されし、忠実な下僕にございますが故、別腹として存分にお楽しみくださいますよう」

 

「リンボが先輩のサーヴァント‥‥!?」

 

マシュが驚いてはいるが、一応現時点で日本のクリプタ―の契約サーヴァントはスルトやアルジュナを圧倒した少女と日本に召喚されたサーヴァントを殲滅したというセイバーの2騎が確認されている。更に別のサーヴァントが居ても不思議というわけではない。それよりもおかしいのは、例の少女もセイバーも引き連れずにカルデアの前に姿を現していることだ。

 

だが、何にせよこれはチャンスだった。

 

『‥‥‥色々と気になる点はあるけど、我々の最優先目標人物がわざわざ現れてくれたのはありがたいね』

 

『う、うむ。最悪、空想樹完成まで逃げ回られることを覚悟していたからな。しかも、どういうわけか連れているのは、アルターエゴ、リンボと神獣だけ。これなら我々でも勝ちの目は十分にある。分かっておるな、立香、マシュ!これはまたとない好機だ!何としてでもここで拘束するぞ!』

 

「‥‥‥‥うん」

 

藤丸が頷く。あのクリプタ―が仕掛けてきた『異聞帯の民を皆殺しにしなければ世界を消せない』という策。ソレを仕掛けてきた張本人が立香達の前に現れてくれたのだ。この機を逃す手はない。

 

ヒダル神との戦いで、消耗はある。令呪の1画も消費した。だが、現状、藤丸達のサーヴァントは静謐以外は脱落していない。カルデア側の魔力の貯蔵も十分であり、切り札であるブラックバレルも令呪の残り分、まだ2回は使用できる。

万全に近い状態で、いま戦えるのは願ってもない話だ。

 

むろん不可解な点は多い。

セイバーも例の少女も連れてきていないし、そもそもクリプタ―本人が藤丸達の前にわざわざ姿を現したというのもおかしい。これが、自分の力に自信を持ち、力を見せつけることに優越感を持つような典型的な魔術師であれば話は別だが目の前の男はそのような性格ではない。

 

だが、それらの不安要素を踏まえても、撤退するわけにもいかない。『異聞帯の民を皆殺しにしなければ世界を消せない』というのが解除できなかった場合は、藤丸達の負けはほぼ確実だ。故に何としてでもあのクリプタ―から、ソレを解除するための方法を聞き出す必要がある。仮にソレを実行したであろう例の少女にしか解けなかったとしても、マスター本人を拘束すれば、交渉の余地が生まれるかもしれない。敵の強大さよりも遥かに厄介な、カルデア側にとっての最大の問題を解決できるかもしれない。

 

先ほどは、ヒダル神に勝利を治めこの世界の神に勝てるかもしれないと高揚したが、神に勝ててもあのクリプタ―の策がどうにもならなかった時点でゲームオーバーなのだ。

 

しかも、あのクリプタ―の性格を考えれば、カルデアの前に姿を現さず、空想樹が完成するまでずっと隠れている可能性が高かった。だからこそ‥‥向こうが何を企んでいるのかが分からずとも、この機を逃すわけには行かなかった。

 

一触即発。両陣営が戦闘に入ろうとして

 

「────待ってください!」

 

マシュが待ったをかけた。その言葉を受けて藤丸達だけでなく、相手側も一旦、動きを止めている。

 

「‥‥‥‥どうして、何故なのですか」

 

「え‥‥」

 

「Aチームの皆さんはカルデアのスタッフであり、人理保証を担うマスターでした!先輩だって本来であれば‥‥」

 

やりきれないようなマシュを見て、相手側‥‥もっと言えば、クリプタ―も困惑している様子だった。

 

「どうして、皆さんが、先輩が人類の敵になったのか‥‥どうしてこんなことになってしまったのか‥‥その理由を教えてください!」

 

「マシュ‥‥‥」

 

マシュはアトランティスでキリシュタリアにも同じ問いをした。言われるまでもなく既に答えは分かり切っている。しかし、それでも言ったマシュの心情を考えると藤丸は何とも言えない気持ちになる。

 

本人にどんな打算があったにしろ、曲がりなりにも人理修復前のカルデアにてマシュに一番良くしてくれたのは間違いなく日本のクリプタ―だ。

 

藤丸自身もマシュから良く話を聞かされた。マシュ自身、勝ち目がほぼ0な戦いに赴くことは既に覚悟が出来ている。日本に行く以上、カルデアが勝つ為にその世界を担当するクリプタ―と戦うことになることも。

 

だが、その覚悟が出来ていても、理由も分かっていても、泣きそうな顔をしながらもマシュは問わずにいられなかった。

 

「えーと‥‥‥」

 

なお、マシュから問いを投げられた本人は「え、何このシリアスな空気…?」とでも言いたそうな顔をしているが、それでも困惑しながらもマシュからの問いに答えようとして

 

「────ッ!?」

 

空中から、突然現れた魔術による炎が藤丸とマシュに向けられたことで、意識を遮られた。マシュと藤丸に着弾する直前で、地面から生えた無数の鎖が炎を防ぐ。エルキドゥが攻撃を仕掛けていきた下手人に顔を向ける。

 

「‥‥ボクは兵器だけど。それでも今、無粋な真似は、やめて欲しいと思うかな。

─────リンボ」

 

「おやおやおやぁ?土くれの人形がまるで人の心を理解したかのように喋る。ンンンンンン、これはこれは‥‥‥何と愉快なことでしょうや。それにしても心外な‥‥拙僧は主に仇なす害虫を駆除しようとしただけでしたが。ええ、はい。それ以外には特にやましい理由はありませぬとも。ただ、まあ‥‥」

 

「‥‥‥‥‥」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()に心が全く揺れ動かなかったといえば、嘘にはなりますが。あぁ、どのように心が動いたかは想像に任せますとも。ンフフフ、フフフフ」

 

「───────リンボッ!!」

 

あまりにも辛辣なエルキドゥとマシュへの侮辱の言葉に堪えきれなかった藤丸が叫びだす。言葉にはしていないが、カルデアのメンバーの皆が同じ気持ちだった。目の前に居るリンボは、藤丸達の知るリンボとは別の存在だ。だが、本質的な部分は何一つとして変わらないということが今のやり取りだけでも分かった。

そして、そのリンボのマスターでさえもリンボの行動に困惑しているようだった。

 

「いや、何やってんだよお前‥‥」

 

「おや。いかがなされた、我が主よ?拙僧は、主の下僕として忠実にその職務を全うしようとしただけだったのですが‥‥マスターも仰っていたではありませぬか。如何なる手を使ってでも()()()()()に勝利すると。拙僧は、そのお手伝いをしたいだけにございます」

 

「‥‥‥‥はぁ、たく。とりあえず、この件は一旦置いておくから。作戦通りにいくぞ」

 

「ええ、御意に我が主よ」

 

リンボが周囲に五芒星を展開する。

ソレと同時に背後に控えていた5体の神獣─────八咫烏(ヤタガラス)が前に出る。

 

『‥‥‥‥マシュ、あやつに言いたいことがあるのなら、それは拘束してからにしろ。なに、心配することはない。こんなこともあろうかと、我がムジーク家秘伝のフワッフワのクロワッサンを用意しておいた。そのうまさの前には如何な頑固者であろうと、無力であろうからな!』

 

「‥‥‥‥はい。分かっています、ゴルドルフ所長」

 

向うが臨戦態勢に入ると同時に藤丸達も構える。

 

「─────カァアアアアア!!」

 

八咫烏(ヤタガラス)が獣の雄たけびにも似た鳴き声を上げると同時に戦いが始まる。八咫烏(ヤタガラス)が高速で突っ込んできて、それをマシュが盾で防ぐ。強力な一撃ではあるが、それでも先ほどのヒダル神の猛攻に比べれば、まだ十分対応なレベルではある。

 

『全員分かっていると思うけど‥‥‥目の前の人物だけに警戒しないように。例の少女もセイバーのこともあるからね』

 

しかし、ダ・ヴィンチからの警告の様に、リンボと八咫烏(ヤタガラス)だけに警戒心を割くわけにも行かない。そもそも本来であればそれ以上の脅威をあのクリプタ―は従えている筈なのだから。

 

「‥‥‥‥少女?」

 

ダ・ヴィンチの音声を聞いたクリプタ―は何やら怪訝そうな顔をしているが、本人が目の前に居る以上は、どこかに隠れ潜んでいるかもしれないと考えるのが自然だ。

目の前に居る以上は、どこかに隠れ潜んでいるかもしれないと考えるのが自然だ。

 

確かに八咫烏(ヤタガラス)は強力な神獣ではある。八咫烏(ヤタガラス)は神話において、神武東征の際、高皇産霊尊(タカミムスビ)によって神武天皇のもとに遣わされ、熊野国から大和国への道案内をしたとされる導きの神とされる。その戦闘能力は、かのオジマンディアス王が従えたスフィンクスにも引けを取らない。

 

だが、それでも‥‥‥‥‥現在、藤丸が従えているサーヴァントを相手取るには些か分が悪いと言わざるを得ない。

 

「カァアアァアア!!」

 

八咫烏(ヤタガラス)がサーヴァントでも即死しかねない程の魔力を纏い、エルキドゥ目掛けて突進する。だが、エルキドゥはそれを難なく躱し、射出した鎖で逆に八咫烏(ヤタガラス)を縛り付ける。

 

「─────ハァッ!!」

 

「ガァアアアアッ!!」

 

そして、動けなくなったところをシュヴァリエ・デオンとラーマが切り裂く。

続けて、来た別の八咫烏(ヤタガラス)に対してエルキドゥは自身の身体から、無数の鎖を弾幕の様に射出する。

 

高い知能に身体能力を持つ八咫烏(ヤタガラス)ではあるが、その全てを躱し切ることが出来ずに、いくつかを被弾してしまう。

 

「──────無明三段突き(むみょうさんだんづき)!」

 

そして、怯んだ隙に沖田が八咫烏(ヤタガラス)を貫いた。

八咫烏(ヤタガラス)は確かに強力な神獣である。だが、ソレと同格の強さを持つスフィンクスはオジマンディアスにとっては、替えの効く雑兵程度の駒でしかない。

 

無論、それでも一級サーヴァントと渡り合えるだけの強大さはある。藤丸の連れているメンバー次第ではカルデア側が成すすべなくやられていたかもしれない。

しかし、現在カルデアには、八咫烏(ヤタガラス)と同格のスフィンクスを雑兵程度に扱えるオジマンディアスに匹敵するエルキドゥがいるのだ。先ほどから、リンボが自身の陰陽術により援護しているが、それでも届かない。何せエルキドゥだけでなく、モードレッド、ラーマ、シュヴァリエ・デオン、ホームズ、マシュ、沖田の合計7騎のサーヴァントがこの場にはいる。

 

カルデアとクリプタ―の戦闘が始まってから数分が経つころには、既に5体中4体もの八咫烏(ヤタガラス)がやられていた。

 

「‥‥‥は?もう残り一体‥‥?いくら何でもやられるの早すぎないか‥‥?」

 

「ええ、どうやらそのようで。何と。あれだけいた神獣が3分足らずで残り1体だけになってしまいましたとも。ンンンン。少しは善戦できると思っておりましたが‥‥まさかまさかまさかの予想を上回る役立たずッ!これなら拙僧の術の贄にした方がマシでしたかねぇ」

 

リンボが神獣達に悪態を吐いているが、その表情には焦りが無い。

クリプタ―も、八咫烏がやられたことに驚きはしているが、まだ、追い詰められたというようには見えない。

 

「‥‥‥‥チッ。余裕そうにしやがって」

 

リンボとクリプタ―のその様子を見たモードレッドが、舌を打った。

残りはリンボと八咫烏が一体のみ。それに比べてカルデア側が被った被害はほぼゼロだ。一見するとカルデア側が優勢ではあるが、どう考えても相手側は追い詰められたというような態度ではない。それに撤退する様子も見せていない事から、まだ何か仕掛けてくる気なのは間違いないだろう。

 

そして、クリプタ―側がその仕掛けをするつもりなのか、リンボに指示をだしていた。

 

「‥‥‥‥やっぱりこうなるか。リンボ、宝具を発動しろ」

 

「ンフフフ、フフフフッ。ええ、分かりましたとも。主の御命令とあらば。拙僧のとっておきをご披露いたしましょうぞッ!」

 

「───────ッ。アルターエゴ、リンボの魔力値上昇!!」

 

マシュの言葉通りに、リンボから発せられる魔力がこれまでとは比較にならない勢いで上昇する。それは並みの人間であれば、見ただけで正気を失ってしまう程の禍々しい薄黒い魔力の渦だった。ソレを見て、本能的に危険を感じ取ったのか、前衛に出ていた沖田が、藤丸のすぐ傍にまで下がる。

 

「気を付けて下さい、立香さん!恐らく、宝具を開放するつもりです!」

 

「うん、分かっている‥‥!」

 

リンボとはこれまで何度か戦闘を交えているカルデアだが、その宝具の詳細については未だ謎のまま。純粋な破壊力を持つだけの宝具であれば、こちらにエルキドゥが居る以上は火力負けすることはないかもしれない。だが仮に搦手から来るようなタイプだった場合、油断していればそのままやられる可能性がある。

 

エルキドゥ、モードレッド、ラーマ、シュヴァリエ・デオン、ホームズはリンボの宝具に即対応できるように一歩引いた。そして、マシュは皆を守れるように宝具の発動準備に入っている。一応、エルキドゥ達であれば、宝具の真名解放前にリンボに素早く攻撃することは可能だ。

 

だが、飛んでくるのはリンボの宝具だけとも限らないのだ。

 

『皆、分かっていると思うけどリンボだけでなく、周囲を警戒して。多分、あの少女か例のセイバーが隠れ潜んでいる可能性があるから』

 

藤丸が念話で自身のサーヴァントにその可能性を伝える。当然、カルデア側は日本クリプタ―の奥の手がリンボの宝具でない可能性を視野に入れていた。そもそも、眼前の男の性格から考えて、リンボと神獣5体だけでエルキドゥ、モードレッドなどが揃ったこの面々に正面から戦いを仕掛けてくること自体が不自然だ。それに、あのスルトやアルジュナ神を圧倒した少女もこの異聞帯に召喚された汎人類史のサーヴァントを葬ったというセイバーのサーヴァントを連れていないというのも不可解である。

 

故に、例の少女やセイバーはどこかに隠れ潜んでいて、不意を突いてこちらを攻撃するつもりなのかも知れないと思い至るのは至極当然のことであった。もしかしたら、リンボの宝具は囮で、宝具発動と同時に隠れ潜んだ敵がカルデア側に牙を剥く可能性もある。そのことは言われずとも、皆が分かっていた。故にどんな手でこようともソレを防いで見せると誰もが警戒心を最大限にして、今まさに宝具を発動しようとしている目の前のリンボだけでなく、周囲にも意識を向ける。

 

藤丸達はこの戦いに負けるわけには行かない。クリプタ―が仕掛けてきた「異聞帯の民を皆殺しにしなければ異聞帯が消滅しない」という策。それを無力化する方法をあのクリプタ―から何としてでも聞き出す必要があるのだ。あのクリプタ―の性格からして、カルデア側と戦わず世界を巡る戦いが終わるまで逃げ回られる可能性も十分にあった。そしてソレをされた場合、例の少女の力を考えるにカルデア側がクリプタ―を捕らえるのは、ほぼ不可能となるだろう。負ける勝てる以前にまず戦いという土俵にすら上がれないまま終わるかもしれないのだ。

 

だからこそ、どんな策を練ってきたかは分からないが藤丸達の前に現れてくれたのは、不幸中の幸いだった。この機会を逃がせばもう、あのクリプタ―が自分達の前に姿を現すことは無くなってしまうかもしれない。故に今ここで何としてでも拘束する必要がある。

例えどんな手段を使われようと、戦力差がどれだけあろうとやらなければならない。

 

今ここでけりをつける。

そんな思考の最中‥‥それは唐突に起きた。

 

「‥‥‥‥‥‥え?」

 

不意に、藤丸の視界が暗転した。

天地が真逆になる。それに身体の感覚が消失した。

まさか、リンボの宝具か?そう考えた藤丸だが様子がおかしい。何故自分は皆に見下ろされているのだろうか?何故、自分の視点が()()()()()()()()()()()()()()()()()

まるで頭が地面についてしまったかのような。それに、皆の様子もおかしかった。

 

「‥‥‥‥‥‥マス‥‥ター?」

 

マシュだけでなく、ホームズやダ・ヴィンチも全員が唖然としていた。

‥‥‥‥()()()()()()()()()()、藤丸はようやく気が付くことが出来た。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことに。

 

『なっ‥‥‥あ‥‥!!?』

 

その異常事態に場の空気が固まる。その様子をリンボだけは楽しそうに眺めていた。

‥‥‥‥藤丸達の考察はある意味では正しかった。確かに眼前の男の性格を考えれば、エルキドゥやラーマなど超一級のサーヴァントが揃ったこの場所に、リンボと神獣5体だけで立ち向かおうとする筈がない。故に何か奥の手がある筈だと。その考え自体は正しい。眼前の男が戦うのは勝てると確信を持ったときだけなのだから。

 

藤丸達の過ちは、その奥の手を見誤ったこと。

もしかしたらリンボの宝具を囮に潜ませていた伏兵が不意を突いて攻撃してくるかもしれないという考えはある意味では正しかった。だが、その潜ませていた伏兵が既に身内にいるという可能性に気が付かなかった。日本のクリプタ―が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をカルデアに紛れ込ませるという策に。

 

今まで自身の霊基の規模、パターンを()()()()()()()()()()()()()()異聞帯の沖田総司が自身の霊基を本来の状態に戻す。

 

それと同時に頭部を失った藤丸の胴体が倒れこんだ。

 




次回投稿いつになるかも分かんないし、今藤丸達がいるこの世界って何なの?という方の為に下の方にヒントを載せておきました。
ネタバレ嫌という方は見ない方がいいです。
























ヒント

・第16話 降臨
・IF1 Aチームの皆分の代償を支払ったのが主人公だったら

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