FGOの世界に転生して、Aチームに所属したら異星の神に選ばれてしまった件について   作:ハセカズ

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続きです。

誤字報告をしてくれた方々、
本当にありがとうございました。









前回までのあらすじ

カルデア一同「もうだめだぁ、お終いだぁ‥‥‥」


第32話 全界統合星域 パンゲア3

 

 

 

「うん、これがストームボーダーの中か。大気に漂うあれだけの魔力を遮断できるとは大したものだ」

 

ストームボーダーの中をぐるっと見ながら言うマーリン。

マーリンというまさかの人物との邂逅に驚いた面々であるが外での活動時間もそろそろ限界だったので、マーリンと一緒に藤丸達は一旦ストームボーダーの中に戻っていた。本来であれば何にも関われない存在として塔の中で1人、惑星の終わるその日まで、今も生きて世界を眺めている存在。サーヴァントとしての召喚は不可能なはずだが、この異聞帯は汎人類史とはだいぶ勝手が違うため何とかカウンターによる汎人類史側のサーヴァントとして召喚されることが出来たとのこと。

 

「フォウ、フォウフォーウ!!!」

 

「ぶふぅ!なんてことをするんだ、この凶獣!せっかくカルデアに吉報を持ってきてあげたというのに、この、この!」

 

フォウがマーリン相手に暴れだすバビロニアでもお馴染みの光景だったが聞き逃せないワードが出てきたので荒ぶるフォウをひとまず抑えて話を聞くことにした。

 

「マーリンさん、吉報と言うのは何なのでしょうか?」

 

「それは勿論この異聞帯に関することさ、マシュ。千里眼で今まで君達がこの異聞帯でどんな世界を回って、どんな情報を得てきたかは知っている。まあ、中には千里眼でも見れない世界があったから全てではないけどね。さて、まずは君達の今居る異聞帯‥‥‥パンゲア異聞帯がどんな世界なのかを話そうか」

 

この異聞帯についての情報。それはカルデアがずっと求めていたものだ。

とはいえ、ストームボーダーが半壊した今となっては、いまさら情報を得ても手遅れかもしれないが。

 

「まず前提として‥‥‥この異聞帯は()()()()()()()()()()としていた世界なんだ」

 

「それってどういう‥‥‥」

 

マーリンの言葉の意味が分からず、首を傾げる藤丸。

だがホームズはその言葉の意味が理解できていた。

 

「‥‥‥日本異聞帯か」

 

「流石名探偵。ホームズ君は君達が攻略した日本異聞帯はフェイクだと疑っていたわけだけど、それは大当たりさ。この世界こそが君達の目標であった本来の日本異聞帯なんだ。正式名称はパンゲア異聞帯だけどね」

 

その言葉に驚きを見せる面々。

消滅したと思われていた世界が実は生きていたという事実を知ったのだから当然と言えば、当然の事だろう。

 

「ここが、本当の日本異聞帯‥‥‥!?では、我々がやっとの思いで攻略したアレは偽物だったということかね!?」

 

「ああ、その通りさ。まあ、あの世界も()()()()()()()()()()だろうから偽物と言うのは言い過ぎなんだろうけど」

 

「いや、しかし‥‥‥どう考えてもここが日本とは考えられないのだが‥‥‥!?」

 

ゴルドルフなどは空いた口が塞がらないと言ったような表情をしているが、ダ・ヴィンチはなるほどと言った表情を見せていた。ダ・ヴィンチもホームズと同様にその可能性があるかもしれないと考えていた一人だったから。

 

「ホームズの予想は当たっていたというわけだ。例の少女や行方不明なクリプタ―達のことを考えたら、そっちの方がしっくりくるけどさ。まあ、それは置いておくとして‥‥‥重要なのはここがどういう世界だということだ。マーリン、君は何か情報を掴んでいるのかな?」

 

ダ・ヴィンチの言葉に頷くマーリン。

 

「この世界を話すなら、パンゲアについて話すのが一番早い」

 

「パンゲア‥‥‥私たちも名前だけは知っています。恐らく、この異聞帯の王であると予測していますが‥‥‥」

 

「パンゲアがこの異聞帯の王であるというのは正解だよ、マシュ。でも重要なのは、パンゲアが()()()()()の域に到達しているということなのさ」

 

「対根源宝具と言うのは確か‥‥‥」

 

カルデア側にとっても対根源宝具という言葉は日本異聞帯にて伊邪那美(イザナミ)からも聞いたことがある言葉だ。だが、それ故にダ・ヴィンチも険しい顔をしていた。

 

「存在規模そのものが根源クラスであるが故に根源に属する全てに対しての優位性、完全上位性を表すもの。文字通りの全知全能の力。私たちは日本異聞帯で伊邪那美(イザナミ)神からそう聞いたけど」

 

「その認識で間違いないよ。日本異聞帯で君達が経験した天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)の原初は第二の根源と呼べるようなとてつもない情報量を内包した対根源だったけど、この異聞帯の王であるパンゲアは()()()()()()()()()()()()()を内包してる対根源なんだ」

 

「一部の例外を除く全ての世界を内包してる、か。どうりで‥‥‥」

 

カルデアがこれまで経験してきた世界の中には、どう考えても地球では無い環境下のものもあったし、有り得ないと言わざるを得ないような世界もあった。そもそも範囲も異聞帯にしては広すぎるし、複数の世界が同時に存在するという矛盾はどう考えてもあり得ないのだ。だからこそ、一部の例外を除く全ての世界を内包しているというのはどこか納得が出来る話だった。根源に存在する世界を殆ど所有しているなら宇宙どころか宇宙外の世界も含んでいるだろうし、そもそも宇宙も、宇宙外も、根源も定義的には一つの世界と分類できる。ソレを殆ど所有しているというのだから存在規模の大きさが伺える。カルデアが経験した数多の世界もパンゲアからすれば、ほんの氷山の一角、いや氷山の一角ですらないのだろう。

 

「殆どの世界を内包しているって‥‥‥具体的にどれだけの世界がこの異聞帯には存在しているの?」

 

「数えることは出来ないと思うよ。根源には全てが存在する。当然、矛盾や無限という概念もね。根源も一つの世界である以上、世界の数も限りが無いと思った方が良い。まあ、少なくとも人が想像できる程度の世界なら汎人類史を除いて例外なく全ての世界(パンゲア)は再現できると思うよ」

 

「それって‥‥‥」

 

一体どれだけの規模になるのか質問をした藤丸も検討が付かない。

マーリンは人が想像できる程度と言っているが、人の想像力はある意味では無限大だ。

コミック、ゲーム、アニメ、ドラマ、小説と言ったあらゆる方面で無数の世界が生み出されているのが良い証拠。その全てを再現できるのであれば、無敵と言っても過言ではない。おまけにここが本当の日本異聞帯ということは、この世界が強大であるという事とは別な問題がある。

かつてインド異聞帯にてクリプタ―が仕掛けてきた、「民を皆殺しにしなければ、異聞帯を消せない」という策。日本異聞帯攻略時には異聞帯が消滅したことからあの策は、例の少女が死んだかことで無力化したかそもそもその策自体がハッタリだという結論に落ち着いたが、ここが本当の日本異聞帯であるなら当然、その策も適応済みだろう。

 

流石にこれだけの世界に住まう全ての住民に空想樹の効果を再現しているとは思いたくないが、

それでも、異聞帯内の民の数が恐らく人類が表せる数字の桁数を優に超えているであろうことからも頭が痛くなる話だった。

 

「ここが日本異聞帯という事は、先輩も‥‥‥」

 

マシュがそう呟くが、攻略した日本異聞帯が偽物なら当然、あのクリプタ―も生きているという事になる。

一度は自分が殺傷してもう会えないと思っていた人物にまた会えるかもしれないことを喜ぶべきなのか、再び敵対しなければならないことを悲しむべきなのかマシュには分からなかった。その事を考えつつも、マシュがあることを思い出す。最初にマーリンが吉報を持って来たということについてだ。この世界の王が対根源でそれだけの世界を内包しているのであればどうやっても勝ち目が無いように思えるが、マーリンには何か秘策があるのかもしれないと考えて聞くことにした。

 

「マーリンさんはこの世界を攻略する何かを知っているのでしょうか?」

 

先ほどまでは完全に諦めムードだったこともあってか期待の眼を向けながらマーリンに向かって問うマシュだが、その問いに対してマーリンは首を横に振った。

 

「いや、この異聞帯を攻略するのは不可能だ。パンゲアと同じ対根源でない限りそれは絶対と言っても良いだろうね。でも‥‥‥この世界に勝つ必要はないんだ」

 

「え‥‥‥?」

 

マーリンに勝つ必要が無いと言われ困惑する一同。

 

「思い出してごらん。カルデアの目的はこの世界を攻略することだったかな。違うだろう?君たちの目的はあくまでも汎人類史を取り戻すことであって、この異聞帯を攻略することではない筈だ」

 

「何を言っているのだ。最終的に生き残れる世界は一つだけ。異聞帯が存在する限り、汎人類史は戻ってこない。異聞帯を攻略することは、汎人類史を取り戻すことと同義ではないか」

 

そうマーリンの言葉を否定するゴルドルフ。ゴルドルフの言う通り、最終的に生き残れる世界は一つだけ。だからこそ、カルデアは他の異聞帯を相手にこれまで戦ってきたのだ。異聞帯と汎人類史の両立など不可能であるからこそ、最後にはある意味巨大な敵と戦う事よりも辛い決断を、異聞帯を消すという行為をしなければならなかったのだから。

 

だが、ホームズはなるほどという顔をしていた。

 

「世界の殆ど全てを内包した対根源宝具。その全ての世界(パンゲア)であれば、汎人類史との両立も可能であると考えているのかな?」

 

「流石は名探偵。あながち間違ってはいないさ」

 

その言葉に驚くカルデアの面々。

ソレはこれまでの戦いの前提条件を全てひっくり返すような話だった。

そんなこと有り得ないとすぐさま否定しようとする考えが頭をよぎるが‥‥‥同時にこれだけ出鱈目な異聞帯故にもしかしたらという期待が一同に募っていた。

 

「まてまてまて!そんなことがあり得るのかね!?異聞帯と汎人類史を両立するなど‥‥‥」

 

「で、ですが、確かにこの異聞帯では多数の世界が同時に存在しながらも両立できているという矛盾が成立しております!これまでの私たちが見てきた世界の中には、汎人類史に近いものもありました。それなら‥‥‥この異聞帯の王であれば、異聞帯と汎人類史の両立も可能なのでは‥‥‥」

 

「確かに、この世界の出鱈目ぶりは嫌と言うほど経験したが‥‥‥しかし‥‥‥」

 

マシュとゴルドルフも疑問を持ちつつも無数の世界を同時成立させているという矛盾を犯せてる、この世界ならもしかしたらという考えがあった。その他のメンバーもこの異聞帯の異常性を経験した後という事もあってか疑問視するものはいても真っ向から否定できるものはいなかった。先ほどまでの諦めたかのような暗い空気から一転して、希望が射したかのように周囲の空気が明るくなっていく。

 

「もし、もしそうなら汎人類史を‥‥‥」

 

そう呟いたのは藤丸だ。マーリンいう通り本当にこの異聞帯の王が無数の世界を内包した対根源なら汎人類史との両立が可能かもしれない。そうなれば、この異聞帯を消すことなく汎人類史を取り戻すことが出来る。

 

それだけでなく、ある可能性に気が付いた藤丸。

 

「もし、もしも‥‥‥多数の世界を両立できるなら今まで消えた異聞帯も‥‥‥取り戻せる」

 

「確かに‥‥‥。もし汎人類史との両立が可能であれば、今まで消えてしまった異聞帯との両立も可能なはずです‥‥‥!」

 

唖然としながらもこれまでの旅では決してあり得なかった、その可能性を考える藤丸とマシュ。

もしこれまで消えた異聞帯との両立も可能であるのであれば、当然今まで自分達が犠牲にしてしまった住民達ともまた会えるし、彼らとの共存も可能だ。パツシィやアーシャに、もう二度と取り返せないと思ってた者達とまた会える。

 

────それが、それが出来ればどんなに‥‥‥

 

その荒唐無稽な夢が、実現可能かもしれないという事実に思わず震えてしまう藤丸。職員の者たちも似たような状態だ。だが、ホームズやダ・ヴィンチなど一部の者達は、まだ何かを考えている様だった。

それが出来れば非常に喜ばしいことだと考えつつ、彼らとしても確認しておかなければならない事がある。まずはホームズがマーリンに尋ねた。

 

「君は先ほど私の考えに()()()()()()()()()()()()といった。つまり、この異聞帯と汎人類史との両立には何かしらの障害があると見ても良いのかな?」

 

「ああ、その通りだとも。確かにパンゲアは根源に存在する世界の殆どを再現できる対根源だ。だが、同時に()()()でもある。故にこのままでは汎人類史という文言以外は全て同じ世界は再現出来ても、君たちが本当の意味で取り戻したがっている世界は戻すことが出来ない。異聞帯という枠から抜けだせないが為に、汎人類史との両立だけは出来ないんだ」

 

「異聞帯の枠を超えられていない‥‥‥?」

 

マーリンの言葉に疑問を覚えるホームズ。

ホームズ以外のメンバーも同じだった。それもその筈で明らかにこの世界は異聞帯という枠には収まっていない。これまでカルデアが経験してきた世界の中には汎人類史以上に将来の発展の可能性を秘めている世界もあった。ブリテン異聞帯では人理に相当する世界の強度が汎人類史に匹敵する規模であったが、ここは明らかに汎人類史を超えている。それが、異聞帯を超えられていないのはどういうことかと疑問視するのも当然の事だった。

 

「君達の疑問も当然だけどね。順を追って話すとしよう。まず初めに‥‥‥これは、私の想像でしかないけど本来のパンゲア異聞帯は、いや日本異聞帯は恐らく他の異聞帯と同じくこれ以上変化することが出来ないという理由で本来剪定される世界だった筈なんだ。それが、日本異聞帯からパンゲア異聞帯へと後付けで変化した」

 

「確かに。いくら空想樹でも、ここまでの世界を実現できるとは思えない。外部からの干渉があったと考えるのが自然かな。となると一番怪しいのは、この異聞帯の王にして対根源でもあるパンゲア」

 

「ああ、その通りだ。流石は幼女化しててもレオナルド・ダヴィンチ。本来空想樹内で生きていた剪定世界。そこにパンゲアという異物が外部から干渉したことで日本異聞帯がパンゲア異聞帯に変化したと私は見ている」

 

「でも、仮にそうだったとしてもこの世界が異聞帯の枠を抜けられていない理由にはなっていないんじゃないかな」

 

「いや、君達は重要なことを1つ忘れている。思い出してごらん。オリュンポスであれだけ強力な力を持っていた日本の神達が、異星の神相手に手も足も出ていなかったことを」

 

マーリンの言葉で藤丸達は、異星の神が日本の神たち相手に一方的な蹂躙劇を繰り広げていたあの光景を思い出す。日本の神の攻撃は悉く異星の神には通じていなかったが、逆に異星の神からの攻撃は全て日本の神を貫いていた。あの時の日本神には明らかに異星の神より出力値が高い者が居たにもかかわらずだ。

 

「異星の神は空想樹を作る際に異聞帯に対して優位に立てるように、空想樹に何らかの細工をしている。見た感じ異聞帯における全ての事象に対して、自分が起こす事象が優先されるという類のものだ。彼が治める予定だった日本異聞帯がどんな世界になろうが対応できるようにしたんだろうね」

 

「ですが、何故先輩の異聞帯をそこまで警戒するのでしょうか?この世界を見た後であれば警戒も当然だと思いますが、空想樹に細工をしたのは日本異聞帯がパンゲア異聞帯に変化する前の筈です。それにマーリンさんの口ぶりからすると異星の神は先輩自身も警戒しているようにも聞こえるのですが‥‥‥」

 

「その理由は私も定かではないさ。だが、君達が経験した日本異聞帯でも蘆屋道満が言っていただろう?自分のマスターは()()()()の住人だと。あれは偽物の異聞帯だけど‥‥‥彼の魂を見るに、根源に属するものとは魂の種類が違うと見て間違いないと思う」

 

それを聞いてマシュと藤丸もリンボの言葉を思い出す。確かに、リンボは自身のマスターのことを根源界外の存在だと発言していた。それに高皇産霊神(タカミムスビノカミ)高皇産霊神(タカミムスビノカミ)もそれを肯定するかのようなことを言っていた。

これが言葉通り根源の外から来た者を指すのか別の意味を指すのかは分からないけど、確かにそうであるならば、異星の神が注目するだけの何かがあるのかもしれない。

それに根源界外と言うワードを抜きにしても日本異聞帯で天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)の身体を乗っ取ったことから、何らかの秘密があることは明らかだ。

 

「異星の神本人はどうやろうとしているのかは分からないけど、彼を、もっと言えばその魂を乗っ取るつもりでいる。その一環として異星の神は彼の治める異聞帯相手に優位に立てるようにしたのさ。彼が異聞帯にどんな変化を起こそうと問題が無いようにと。根源外の魂の入った人間が空想樹内部の世界に触れることで、どんな変化が起こるのか予測できなかったが故の警戒だと思うけど」

 

マーリンの言葉通りなら異星の神はそれだけ日本のクリプタ―を警戒していたという事になる。

実際にこの世界の出鱈目ぶりを見るにその警戒は大正解だったわけだが。

 

「その根源界外というワードは気になるけど、一先ず置いとくとして‥‥‥この世界が異聞帯の枠を抜け出せないのは、その細工が理由なのかな?」

 

「ああ、異星の神が空想樹に施したそれは、この世界を異聞帯という枠で縛る働きもある。それに、これも予測でしかないけど、パンゲアはこの世界に干渉する際にその設定を受け入れている。だからこの世界だけはどれだけ異質化しようとも異聞帯の枠を抜けることは出来ないんだ」

 

「では結局、この世界を攻略しなければダメということではないのかね!?」

 

マーリンの言葉通りなら、この世界と汎人類史の共存は不可能。

結局戦う以外の道はないのではないかと青ざめるゴルドルフ。だが、マーリンはそうではないと首を横に振った。

 

「パンゲア本人にはこの細工をどうこうすることは出来ていない。本人が受け入れてしまっているから、異星の神の許可抜きにはこれは変えられない。だけど、この仕掛けは空想樹に細工をした本人が居なくなれば無力化すると私は見ている」

 

「それは、本当なのかね?」

 

「ああ、他の異聞帯の空想樹を千里眼で見て分かったことさ。この異聞帯の空想樹は確認できていないけど、他の異聞帯の空想樹にさっき言った仕掛けの痕跡を僅かであるが確認できたからね。まあ、異星の神的にはこの異聞帯以外は警戒していないだろうから、間違いなくここの空想樹よりは細工の規模が小さいだろうけど」

 

なるほどと頷くゴルドルフ。

この話が本当なら異星の神をどうにかして、この世界を異聞帯の枠から解放すれば異聞帯との共存の道も見えて来る。

あと、問題なのはこの異聞帯の王であるパンゲアがこの話を飲んでくれるかだ。異聞帯との共存はパンゲアの力を前提としている以上、協力は必要不可欠となる。

 

だが、それもマーリンには考えがあるようだった。

 

「さて、今までの話はパンゲアからの協力を受けられることが前提。ではカルデアの望みを叶えてもらう見返りに我々は何をすればいいのか?簡単な話だ。異星の神をカルデアが倒せばいい。そしてパンゲアもそれを望んでいる筈なんだ」

 

「確かにその可能性はあるね。マーリンの言う通りなら異星の神は異聞帯外の存在にやらせた方が簡単だろうからね」

 

「ああ、それに君達がこの異聞帯で生きている。これはパンゲアが君達に何かをさせようとしてる、何よりの証明になると思うよ。パンゲアが君達をやる気なら、この異聞帯に足を踏み入れた時点で‥‥‥いや、その気になった時点で全員、存在ごと消されている筈だからね」

 

パンゲアがその気ならもう死んでるというマーリンからの言葉に、若干青ざめるゴルドルフ。とはいえ、パンゲアが自分達に何かをさせようとしてるという話にはカルデア側も覚えがある。

カルデアの面々は今居る世界の一つ前の世界で、天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)以上の魔力値が流れている世界を体験した。あの世界は例え最高主神だろうと存在を失う程の力が流れていた筈なのだ。それにも拘らず、藤丸達は死なずに済んでいることからもパンゲアかどうかは分からないが、誰かがカルデアを生かそうとしてるという事は間違いないだろう。

 

だが、そうだとしたら一つ疑問がある。

 

「我々に異星の神を倒させるつもりなら何故、我々が異聞帯に入った時点で接触してこなかったのだ‥‥‥?いや、それ以前に最初からカルデアにこの話を持ち掛けてくれれば‥‥‥」

 

ゴルドルフがポツリと呟くのも当然だろう。

異聞帯との共存が可能だという事を知っていれば、カルデアは今まで他の異聞帯やクリプタ―達と戦う必要などなかっただろうし、このパンゲア異聞帯でもいくつもの世界を彷徨う事も無かったはずなのだ。そもそも、日本異聞帯などというフェイク世界をカルデアに相手させたのも謎だ。

 

「それに関してだけど、まずこの異聞帯は異星の神が降臨するまでは敵対する意思が無かったと私は見ている」

 

「敵対する意思がない‥‥‥?」

 

「ああ、異星の神を敵に回すつもりが無かった。敵対するまで異星の神に対する調査もかなり慎重にしていた筈なんだ。だから、この世界が異聞帯の枠を超えられない理由を知ったのもパンゲア異聞帯と汎人類史の両立が可能だと知ったのも、人理漂白から結構な時間が経過してからだと思う。だから、少なくともそれまでは君達と敵対する気満々だったんじゃないかな」

 

マーリンの言葉で、藤丸はこの世界のクリプタ―の言葉を思い出していた。

彼は降臨したばかりの異星の神に対して何て言っただろうか。

自分達は異星の神に逆らうつもりがないというような趣旨の発言をこぼしてはいなかっただろうか?

それにインドで民を皆殺しにしないと異聞帯が消えないという策を仕掛けてきた事からも、少なくともカルデアがインド異聞帯を攻略するまではカルデア側と敵対する気だったのだろう。

 

「だけども、オリュンポスで異星の神はこの異聞帯ごと彼を取り込むという意思を見せたからね。だから、この異聞帯が異星の神と敵対することを決めたのはそれからだと思う」

 

「では、仮に異星の神に奴らを殺す意思が無ければ異星の神にそのまま従っていたという事か‥‥‥?何というか今までの異聞帯の王に比べてプライドが低いというか王らしくないというか‥‥‥案外、小心者なのか?」

 

「ははは、まあこれはパンゲアではなくその主の考えなんだけどね」

 

「主‥‥‥?」

 

対根源である筈のパンゲアの主と言うワードが気になっているゴルドルフの様子を見ながら、

マーリンは話を続けた。

 

「そして君達がパンゲア異聞帯内の数多の世界を経験することになった理由としては、この世界を実際に体験してもらうためなんじゃないかな。ほら、そっちの方が異聞帯と汎人類史の両立も実感がわきやすいし、これだけ強力な世界を敵に回さずに済むというカルデアが受けるメリットへのアピールにもなるからね」

 

「では、我々が経験した日本異聞帯もその一環だったと‥‥‥?」

 

「ああ、それは別の理由があるんだろうけど話がややこしくなるから一旦置いておいて‥‥‥」

 

そう一呼吸置いたマーリン。

話を戻すとという前置きと共に改めてカルデアがやるべきことを話し始めた。

 

「カルデアがするべきことは1つ。異星の神を倒すこと。それもこの異聞帯の助力を一切借りずにだ」

 

「それは、この異聞帯が異星の神相手だと無力だから?」

 

「いいや、それは違うよ立香君。空想樹に仕掛けられた細工ありでもパンゲアは一人で異星の神相手に勝つ事ができると思う。彼女は対根源だからね。でも、それよりもまずはカルデアにやらせてからの方が確実だからそうしているのさ」

 

「でも、それなら共闘した方がいいんじゃ‥‥‥?」

 

「可能性は限りなく低いだろうけど、一緒に戦った結果、異星の神相手から致命的なダメージを貰うかもしれないだろう?出来れば、ノーリスク戦法を取りたい。だから、仮にパンゲアが戦うとしても異星の神がカルデアと戦って消耗しきった後を狙うんじゃないかな。まあ、とにかく最初から一緒に戦ってもらうのは無理だと思うよ」

 

「えぇ‥‥‥」

 

何かを言いたそうに口ごもる藤丸。

対根源と言うとんでもない実力者にも関わらずカルデアにやらせようとする。恐らくはカルデアが勝てばそれで良し、負けてもそれなりに消耗させてくれれば儲けものとでも考えているのだろうか。異星の神が敵対しなければ従っていたことといい、カルデアに異星の神のことを押し付けようとしていることといい、パンゲアは対根源というとんでも無い力を持っているにもかかわらず結構な臆病者‥‥‥これまで見てきた威厳ある異聞帯の王達と比べてかなりの小物なのではないかとカルデアの職員達が考え始めていた。

 

その様子を見ていたマーリン。まあ、実際はパンゲアではなく彼女の主の意向であることは間違いないであろうことからも、パンゲアが少しかわいそうだなぁと考えていた。

 

とはいえ、有効性という点に限れば、あながち間違った策とは言えない。

 

「まあ、異聞帯側にとっては完全にノーリスクではある。仮に我々が異星の神に破れたとしてもこの異聞帯が被る被害はゼロ‥‥‥その後でパンゲアが異星の神を相手すればいいだけの話だしね」

 

「ああ、この世界が負うリスクをとにかく可能な限り回避したいというの考えなんだろうね。異聞帯と汎人類史との両立も異星の神がいなくなった後であれば、対根源のパンゲアにとってはノーリスク。だからこそ、異星の神を倒す代わりに汎人類史を戻して欲しいという要求は成り立つ話なんだ」

 

「確かに。これまでの話を聞いた限りだと我々はともかく相手側には一切デメリットがない。これなら‥‥‥」

 

これならパンゲアとの交渉もいけるかもしれない。

ダ・ヴィンチやホームズと言ったカルデアの頭脳担当者もそう考え始めている。

勿論、マーリンもそうだ。彼もこの異聞帯相手に生き永らえているカルデアを見て、自分の考えが間違えていなかったということを確信しているのだから。

 

「相手側もそのつもりでツングースカに突入する筈の君達をこの世界に引っ張り出したんだろうし、上手くいくと思うよ。それに交渉次第ではカルデア側の死者も取り戻せるかもしれない」

 

「それって‥‥‥」

 

カルデア側の死者も取り戻せるというマーリンの言葉に、息を飲む一同。

死人の蘇生には魔法に匹敵するだけの奇跡が必要になる。だが、最高主神クラスの神がゴロゴロいるこの世界を治める王なら‥‥‥対根源という別次元の力を持つ存在ならその程度の奇跡、難なく成し遂げてもおかしくないと思えた。いや、今までの話を聞くに成し遂げられない方がおかしいだろう。

死人の蘇生程度、この世界にとっては何のリスクもない筈なのだ。

 

それならアナスタシアとオプリチニキの襲来で死んだ職員も生き返る。

それに、もしかしたらロマニやオルガマリーと言った人物も取り戻せるかもしれない。

 

「また、また皆に‥‥‥!」

 

もはや藤丸もその他のメンバーも先ほどまでの暗い表情は完全に拭い去られ、禁断の箱から希望を見つけたかのように輝いていた。ホームズも同じ気持ちなのだが、まだ問題があるため込み上げて来る感情を抑えながらマーリンに質問を投げた。

 

「交渉の為に我々は異聞帯の王であるパンゲアと接触する必要がある。だが我々はパンゲアに関する情報を一切つかめなかった。勿論、その所在地を含めてね。君には何か当てがあるのかね、Mr.マーリン」

 

「彼女の居所を知る必要はないさ。何せ彼女はこの異聞帯で起こる全てを把握しているからね。当然、私たちの会話も筒抜けだ。というか私がこの異聞帯で生きていられたことからも彼女は我々のことを予知していたと思うよ」

 

「では‥‥‥」

 

「ああ、我々の意思は既に彼女に伝わっているとも。というワケで‥‥‥今もみているんだろう?そろそろ出てきてくれないかな?この異聞帯の王にして世界の大多数を含めた対根源────パンゲアよ」

 

そうドヤ顔しながら、ストームボーダーの天上を見上げながら誰もいない場所に向かって語り掛けるマーリン。

そして何もない筈の空間に突如として彼女は現れた。

 

その少女からは魔力も神気も力らしい力を何一つとして感じることが出来ない。先ほどの久久能智神(ククノチ)と違い圧力でさえ感じることも出来ず、か弱い少女にしか見えない。

空色の髪と赤い瞳。一度見たら絶対に忘れられないであろうその容姿にはカルデア側も見覚えがあった。

 

「君は‥‥‥」

 

北欧異聞帯ではスルトを圧倒し、インド異聞帯ではアルジュナを追い詰めたその少女は、カルデアの面々を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




恐らく次回が最終回。

和解エンドで終わりそうな予感。
なんか展開に納得いかないという方はごめんなさい。
後数話で終わらせると決めた時点でこの方向に進むつもりでした。

なお、当初の予定だと何か色々あって日本異聞帯の対根源モード天之御中主神がカルデアの味方に付き、更に異星の神もこのパンゲア異聞帯に攻撃。エフィアスが両方に勝つけど結構ボロボロになった所をカルデアと戦う事になって、どっちかが勝つみたいな感じにするつもりでした。長くなってしまった日本異聞帯やったのも天之御中主神と対根源という概念を出すためだったりする。
ただ、この展開にする場合、話数が多くなる上に日本異聞帯でも同じような展開書いたので無しにしました。

因みに上記と今話以外の展開だとカルデア瞬殺エンド(1話で終わり)になります。




おまけ

パンゲア異聞帯についての解説


一部の例外を除いて殆どの世界をエフィアスは全て同時に再現できる。
マーリンの言うように人が想像できる程度なら大体再現可能。
ただ、再現可能な世界のうち、どれを存在させるかはエフィアスの意思による。
カルデアが大西洋異聞帯攻める辺りまでは、サーヴァントが破裂するレベルの魔力濃度を保有している世界が大多数を占めていたが、今は再現可能な世界は大体存在している。なので、魔力濃度が普通な世界もあれば、神がいない世界もある。
ただ、救いようのない世界とかは再現していない(主人公ではなくエフィアスの意思)。あと、主人公が嫌がりそうな世界も再現可能だが存在していない。

なお、世界に応じて他世界の住民が渡れる渡れないというのが存在してており、渡航難度も世界によって変わる。

例えば、カルデアが経験した「極楽浄土の世界」は渡航難度が神でも難しいレベルでめちゃ高いが、「念じるだけであらゆる願いが叶う世界」は念じるだけでどこからでもその世界に行けるというめちゃ簡単な渡航難度な上、広さも無限という世界かつ大体の欲望を満たせちゃう世界なので、ニート気質なダメ住民からは人気な世界の一つで駄目人間だけでなく多数の生き物がここに集まっている。なお、この世界では矛盾も内包しているので他人の不幸を願った場合は、願った人間の望みは叶うが不幸を願われた人間も不幸にならないという意味不明な矛盾が成立する。

皆ハッピーの理想郷だが、不思議なことに1万年もそこで過ごせば、不便な暮らしが欲しいと普通な世界にわたる者が多く、ニートも駄目生物から立派になる傾向が強い。あといるだけで物凄く幸福になれる世界とかも駄目人間に人気。
ただ世界によっては、他世界があるというのを知らないという世界も普通に多数あるので(汎人類史に似た世界とか)、誰もがこういった世界に足を運ぶというワケではない。

なお、他世界への渡航方法も世界によって変わる。
世界の果てまでいけば勝手に別世界に出られることもあれば、世界をつないでいる扉を渡ることで別世界に渡れるケースもある。念じるだけで渡れるケースもある。あと死んだ後どうなるかも世界によって変わる。

エフィアスの協力があれば当然どの世界にでも行ける。

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