ジョルジョの奇妙な冒険   作:ふじしお

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1日目② 苦難の始まり

 

 

 

 法廷内速度でぶっ飛ばし、さほど時間もかからずに空港へと到着した。目指すはエジプト。やはり、空から一直線に行くのが一番手っ取り早いのだ。

 

「ふわァ〜あ」

『うわー大あくびやなー……ふわァ』

「何をしているんだ?」

 横から花京院が呆れたような顔をして声をかけてきた。

「んー……なんでもないぜ?」

「随分眠そうだな」

「えーそう?」

 兄ちゃんに波紋を流されたのが二日前。もう眠気覚ましの効果は消えちまったらしい。

『眠いんならきつけ薬があるでー? タバスコ100%、今ならちょっとの精神力でお買い得!』

「却下」

 おれとキャラバンのやり取りに、花京院はさらに呆れたような、もしくは困惑したような表情を浮かべた。おれが訝しげに花京院を見ると、何でもないと言うように手を振る。

「……何だよ」

「本当に何でもないんだが……その、随分自分のスタンドと仲が良いんだね」

 花京院の言葉におれとキャラバンは首を傾げる。

「こんなモンじゃあねーのか?」

『まあまず、ふつーのスタンドはワシみたいに自分で喋らへんもんなァ』

「そーゆーモン?」

 そうなの? と花京院を見ると、「少なくとも、僕とジョースターさん達のスタンドは君のキャラバンと違うだろう?」と言って頷いていた。

「何となく、独立した意志を持っているように思える時もあるけれど、それも本体の無意識によるものが大きいだろうからね」

『ワシは100パー自分の意志やで! ノットジョルジョはんの無意識!』

「ふーん……」

 自販機で買ったコーラをぐびぐび飲む。機内に缶ジュースは持ち込めないのを完全に忘れていたおれは、搭乗時刻までにこれを飲みきらねばならなくなってしまったのだ。

 

「おい」

 

 後ろから、JOJOの声がかかる。

「時間だぜ」

 それだけ言って、JOJOはスタスタと搭乗ゲートの方へ向かってしまった。花京院もその後に続く。

「え、もう時間かよ! 待てよまだこれ飲みきってない──」

『あーあージョルジョはん! これ! これに入れて!』

 結局飲みきれなかった缶コーラを中の液体ごとキャラバンの袋に突っ込み(中身共々原子レベルで分解していると信じたい)、おれは二人の後を追い駆けた。

 

 

 ⿴⿻⿸

 

 

 飛行機が離陸して間もなく。

 承太郎はすぐ横のジョルジョの様子を伺う。飛行機に乗った直後は初めて飛行機に乗った幼い子供のように口を忙しなく動かしていたが、離陸するころには喋り疲れたのか脈絡もなく眠ってしまった。散々こちらに向かって喋りたおしていたと言うのに、急に大人しくなった彼に、「やれやれだぜ」とお決まりのセリフを口にして帽子のつばを下げる。

 

 その時だった。

 

 ゾワリと、背筋を冷たいものが逆撫でするような感覚。確かに“見られた”感触があった。前方の花京院やアヴドゥル、横のジョルジョの様子に変わりはない。左隣のジョセフのみが承太郎と似たような様子だ。そこから言えることは、ジョースターの血筋──DIOが関わっているということ。()()()()()()()()ということだ。

 承太郎はジョセフと視線を交わす。DIOは間違いなくこちらの様子を伺っている。把握している。すぐにでも新手の刺客が襲ってくるかもしれないと警戒を強めた。

 辺りを注視すれば、前方、コックピットの方から何かが羽音を立てて飛んでくる。その音に花京院達も目が覚めたようで、身体を強ばらせていた。ジョルジョは相変わらず眠ったままだ。

 〝何か〟はクンと進路を曲げて座席のかげに隠れた。よく見ようと承太郎が立ち上がった衝撃で、やっとジョルジョが目を覚ます。

「あれは……かぶと……いや、クワガタ虫だッ!」

 事態を把握しきれていないであろうジョルジョが周囲をキョロキョロと見まわそうとした。承太郎の方を向いた瞬間に、寝ぼけ眼を見開く。

「JOJO! 頭の横だ!」

 

 

 ⿴⿻⿸

 

 

 目が覚めたら、なんか皆が起立していて、JOJOの頭のすぐ近くにJOJOの頭と同じくらいの(20センチ近くの)クワガタ虫がブンブンしていました。まる。

(いやいやいや、何が起きてんだよビビるだろーがチクショォォオ!)

 JOJOにクワガタ虫の所在を伝えたものの、おれもキャラバンも咄嗟に動くことは出来なかった。(そもそもおれはまだ椅子に座ってたからね。猫足立ちとか(即時反応できる体勢)になってなかったから。)しかしそこは流石の『星の白金(スタープラチナ)』、瞬時にクワガタ虫を掴もうとするが、クワガタ虫はシュンとそれを難なく避けやがった。銃弾を掴める程のスピードと精密さを誇る『星の白金(スタープラチナ)』を躱したことにより、おれ達に驚愕が走る。

 すぐさま、クワガタ虫は角みてェな部位をスタープラチナの口元目がけて伸ばす。スタープラチナはそれを手で防ごうとするが、角は手のひらを貫通してJOJOの口内に到達した。血がッ、血がッ! ブシャッて!

 ギリギリで角を噛むことで文字通り食い止めたJOJOは、逆に固定されたクワガタ虫をラッシュで倒そうとする。しかしクワガタ虫はトカゲのしっぽ切りよろしく、角をカッターの刃のように一部折ってラッシュから逃れた。全く効いていない!

(こりゃあスタンドよりも本体を叩いた方が早ェってことか……しかし、どこにいるんだ!?)

 アヴドゥルさんがこのクワガタ虫がスタンド『灰の塔(タワーオブグレー)』だと解説したところで、クワガタ虫は他の乗客の方に移動する。皆スヤスヤお休みしているところ、クワガタ虫はホバリングしたかと思うと、角を伸ばし始めた。おれは奴が何をしようとしているのか勘づいてしまった。

 

「ビンゴォォォォオオ!!」

 

 クワガタ虫は突進と同時に複数人の乗客の舌を引きちぎりやがった。ビチビチと動く舌と、ボタボタ垂れる血液。当然、スプラッタな惨状が大の苦手なおれはすぐさまグロッキーに。……吐きそうになったらキャラバンの袋にぶちまけよう。

 クワガタ虫は新鮮な血液で壁に「massacre」と書く。スタンドパワーがこもっているのか、英語でではなく、感覚でその言葉の意味が認識できた──「皆殺し」!

「ウ〜ン、なんか騒々しいのォ……トイレにでも行くかね」

 騒ぎに目が覚めたのであろう、ジイさんはトイレのある前方へ、血文字の書かれた方へ向かう。壁に手をつき、その生温かさとぬめりけ、そして臭いからその正体を連想したのか、パニックを起こしそうになる寸前、花京院が首のつけ根を叩くことでジイさんを気絶させる。(本当はおれかジョースターさんが波紋を流した方がジイさんの安全的にもよかったんだろうけど、おれはグロッキーで動けず、ジョースターさんは座席の位置的に動けなかった。)同時に、クワガタ虫も消え去った。

「え、あれ?」花京院のカッコつけも形無しで、ポカンと間抜け面を晒している。

「……やれやれ、そのジジイが本体だったと言うことか」

 JOJOはふうと息をつき、帽子のつばを引いた。

「また目を覚ましたらかなわん。ジョルジョ、何かで縛ってくれ」

「アイアイサー! です!」

 下手に縛って動かれても困るので、網目の荒い網をグルグルに絡みつけ、更に紐を網目を通したり通さなかったりここは捻っておいたりと巻いていく。他にも両手親指を結束バンドでくっつけ、足首をびっちりギュウギュウに縛りつけた。そうして完成したジジイの芋虫……いや、スタンドがクワガタだからジジイの幼虫か。花京院のうわぁって目は絶対に忘れない。おれは善処を尽くしただけだ!

 

 

 スタンド使いも倒して、これで一安心……と言いたいところだった。

「あ、紐玉が……」

 コロコロと紐を巻いた玉が転がっていく。あれ、飛行機ってこんな傾くモンだったっけ。

「まさか……!」

 ジョースターさんがコックピットの方に向かう。JOJOもその後に続いた。花京院は何やらジジイに細工をしてからコックピットの方へと行った。JOJOに蔑ろにされたスチュワーデスさん達のケアも行って、だ。キザな奴め。

 おれも皆の後を追ってコックピットに向かったのだが、正直、見なきゃあよかったと思っている。後悔先に立たずってホントその通りなんだなァ。

 

「う、うえええぇぇえ」

 コックピットは文字通り血まみれ……という程でもないがそれでもおれには十分刺激が強すぎるものだった。両パイロットの舌は引きちぎられ、噴き出した血が床なり椅子なりを汚している。目眩を感じ、おれは壁によっかかりながら床に座り込んだ。

 客室の方からはジジイの断末魔がうっすら聞こえた。恐らく花京院がジジイが起きて何かしようとした時のために細工していたん、だろ……。

 ……あ、これやばい。何か目の前が暗くなってきた……。誰かおれの肩掴んでるっぽい……けど…………。………………。

 

 §

 

「ヘックシ! うぅ〜」

『うーん、ジョルジョはん、風邪ひいた? 薬飲んだ方がええんちゃう?』

『体調管理はしっかりした方がいい。いざという時にダウンしていましたなんて、洒落にならない』

 パイロットを失い、自動航空機能も破壊されていた飛行機は、ジョースターさんの操縦により何とか海に不時着した、そうだ。伝聞形なのはおれが気絶していたからである。

 おれの目が覚めたのはここ香港。それまで付き添ってくれたアヴドゥルさんは、目が覚めるなり中華料理屋が集合場所だと言ってどこかへ行ってしまった。

 微妙に悪寒のする身体を抱えるように腕を回し、二の腕を擦る。マフラーに顔をうずめ、ぶらぶら歩いていた先で見つけたホットコーラを購入した。炭酸感ゼロ、だがそれがイイ! 入っていたスライスレモンと生姜もいい味だしてる。身体もあったまったところで、コンビニにでも行くかとそちらに向かえば、誰かがもの凄い速度でぶつかってくる。避けようと思っていても避けられず、おれは誰かにぶつかり、その拍子に背後にあった露店に当たってしまった。

「あァ! おいテメェ、何しやがる!」

「へァ!? ご、ごめんなさい!」

 店主に謝り、ぶつかった誰かに顔を向ける。その視界の端で、母さんから貰ったマフラーに汚れがついていた。

「おいリーベンレン(日本人)、オメー何ぶつかってんだよ。ワビ入れろよ、100HK$出せ」

 そいつはフードを深く被っていて、顔は口元しか見えなかった。身長も、なんと言うか、そこまで大きくはない。少なくともおれより小さい。

 ぶつかってきたのはそっちだと言うのに、ただ金を毟られるだけなのは道理に合わない。何か言ってやろうと口を開いた瞬間、強烈な眠気に襲われておれの意識はブラックアウトした。

 

 

 ⿴⿻⿸

 

 

 目を開ける。

 目の前には見覚えがあると言えばある、フードを深く被った男がいた。

「何だ、フレウじゃあないか。まだカツアゲなんてチンケなことをしているのか? 私にボロ雑巾にされても懲りなかったのか?」

 視線を足元にやる。目に映ったのはブーツにストッキングではなく、ハイソックスでもなく、黒色のスラックス。それもスーツよりも丈夫に作られている制服仕様だ。

 辺りを見渡せば、どうやらここは香港のようだった。それも、自分が最後に見たよりもだいぶ昔の。

 だいぶ昔に自分で改造した脳を、USBの如く何もかもを記録したはずの脳から記憶を漁ろうとして顔に手を当てた時、その感触の違いに気がついた。覚えているものよりも硬い。そして、自分の趣味ではない学ランを着ていることにも気づく。そして、何より胸がない。

 柄にもなく困惑している私の前で、フレウは金を出せと喚いていた。うるさい。思考の邪魔だ。

「全くやかましいな」

 背後に感じる懐かしい気配。チェーンソーが駆動音を唸らせた。

「少しは静かにできないのか? それとも忘れたのか? 

 忘れたのなら……また教育してやろう」

 香港の青空の元、哀れな男の叫び声が響いた。

 

 

 ⿴⿻⿸

 

 

 パチリ、と目を開けた。

 さっきのぶつかってきた男は、何でかボロ雑巾のようで、大丈夫かと話しかけたところ、「もう勘弁してください〜!」と情けない声を上げて逃げていってしまった。マフラーの洗濯代ぐらいは取り立てておきたかったんだけどなァ。

 気を取り直して改めてコンビニに行くかと制服のホコリやら何やらを払うと、ポケットでジジとポケッタブルラジオが音を立てる。スティール氏は何やらおれに言いたいことがあるらしい。

『この近くにスタンド使いがいるな』

「ふーん? それってさっきのチンピラさんだったりする?」

 おれがそう訊くと、ラジオからは否定の声が。さらに『あっちの突き当たりだ』なんて付け加えられる。ラジオにカメラは内蔵されていないのに、どうして周囲の様子が見ているかのようにわかるのか。全く不思議である。

 

 

 スティールの道案内に従えば、その先にはバンダナを巻き、口元を隠した男が立っていた。

 男はおれに気がつくと、まじまじとおれを観察する。いつの間に現れたのか、キャラバンが居心地悪そうにおれのかげに隠れていた。

「……お前……」

「な、何でしょうか?」

 うわ、思わずビビった感じになっちまった。あまり相手に自分の怯えを見せるなとか散々言われてンのによー……。

「良い目をしているな。……どうだ? 俺と一戦交えないか?」

 ニヤリ、と笑った、と思う。布で口元が隠されているせいで男の表情は目元からしか伺えなかった。

 

 

 結論から言うと、おれは男との勝負に勝った。男のスタンド(天使みたいだった。男でも女の形したスタンド持てるんだな)は無視して──と言ってもひたすら攻撃を避けるだけだったが──、本体である男に波紋やら投げナイフやら波紋を込めた水鉄砲やらで戦う。その結果、運良くおれの波紋攻撃が男のみぞおちにクリティカルヒットし、男が膝をついた。

「……フッ。中々やるな。俺の負けだ」

 男は立ち上がるとおれに右手を差し出す。

「俺はユタ。世界中を旅している」

「おれはジョルジョ。訳あってエジプトまで行く途中だ」

 それに応え、男──ユタとおれは簡潔に自己紹介を交わす。ユタはおれがどうにもスタンドの扱いに慣れていないとわかったのか、おれにスタンドについて色々教えてくれた。スタンドは基本的にスタンドじゃあないと攻撃できないとか、だが例外的に物理攻撃が効くスタンドもいるとか、群体型とか言う〝スタンドは一人一体〟の原則をぶち破って来るやつもあるとか、とにかくおれが覚えきれないぐらいは聞いたんじゃあないだろうか。

 何やらキャラバンが袋から懐中時計を出してツンツン突っついているので、何かと思えばもうそろそろ集合の時間だ。キャラバンは『早くいくで』と言っているが、正直行きたくない。中華料理屋に行きたくないンじゃあないぞ。一人で行きたくないだけだ。何でかは知らないが、この街には誰のかわからない火の玉見てェなスタンドがうじゃうじゃいて、しかもそいつらには物理攻撃は通用しない。つまりおれの攻撃は効かない。キャラバンは自分で戦おうとはしないし。ユタに会うまで何度あの火の玉お化けに一方的にボコられたことか。どうして周りの人は助けてくれないンだろうな。

(いかにも怪しいからやろ?)

(それはわかるけどさすがに傷つくぜ……)

 一人おれが虚しく嘆いていると、ユタが「早く行かないのか」と訊いてくる。行くよ。行くけど行きたくないんだよ。

「……仕方ないな。俺も途中までついて行こう」

「マジですか!!」

 ユタの言葉を聞いた瞬間、ガッシと彼の両手を握りしめる。『尻尾ブンブンやで』とかキャラバンが言ってるがおれは気にしないぜ!

 

 

「いやーホント、ありがとな! ユタ」

「気にするな。今度借りを返してもらえば良いだけだ」

 あの後、結局ユタに付き添ってもらったおれは、無事に中華料理屋まで辿り着くことができた。途中やたらビビり倒しているカビ生えたピンク頭のおっさんとかいたが、見なかったフリをしたので特に問題はなかった。なかったんだ。うん。

『でもジョルジョはん途中で寝ちまったやんな』

「うるせェやい」

 キャラバンの言う通り、おれは途中で発作を起こして寝ちまったのだ。それも戦闘中に。まあすぐに目は覚めたのだが、めちゃくちゃユタに迷惑をかけてしまった。お礼にホットコーラ奢ったけど、それでも感謝しきれないだろう。

「いやいやホント、助かりましたわ。マジでありがとな!」

「だから気にするな」

『あーほら、ジョルジョはんもその辺にしときい! ユタはんもセインツはんも困ってんで!』

 おれはズルズルと引きずられて中華料理屋に入っていった。キャラバンそんな力があるンなら自分で戦ってくンねェかな。

 

 

 中華料理屋に着いたのはおれが一番最後。残りのみんなは既に集まっていて、テーブルを囲んでいた。

「げェー! おれだけ仲間外れかよ。ひでー奴らだ」

「いやいやジョルジョ。お前が遅かっただけじゃぞ」

「それはそうだとしても酷いモンは酷い! おれは一人寂しく謎のお化けスタンドに一方的にボコられていたんですよ!?」

『でも最後はユタはんに付き添ってもらったやんなァ』

「うぐッ」

 おれとジョースターさんが言い争っている中(おれが一方的にジョースターさんに愚痴っていたとも言う)、アヴドゥルさんがパンパンと手を叩く。

「まあまあ、その辺にしておいて。ジョースターさん、全員集まったことですし、今後について話し合うべきでは?」その言葉におれはようやく口を閉じた。

 

 その後、多分どうやってエジプトまで行くか決まったんだろうけどおれはよく知らない。寝てたからだ。空路で行くか陸路で行くか航路で行くかを話していたところまでは覚えているが、後はさっぱり。何か騒がしいと思ったらアヴドゥルさんと電柱みてェに銀髪を逆立てた男がスタンドを出して向かい合っていた。

「何!? 何が起こってンだよッ!? ッつーかこれ何かデジャヴ!」

「起きたかジョルジョ。外に行くぞ」

「えちょっと待てよJOJO!」

 

 

 所変わって……えーとなんちゃらうんちゃらガーデン。(タイガーバームガーデンやで)えっとタイガーバームガーデン。とても精神が不安になりそうな空間でございます。

 電柱野郎もとい、ポルナレフはおれ達の命を狙っている割には騎士道精神をお持ちであるらしく、一対一での殺し合いを御所望であった。

「さあ、誰からかかってくる? 何ならきさまら全員でも構わんぞ」

「じゃあお言葉に甘えて全員で!」

 おれがそう言った途端、JOJOとアヴドゥルさんからの批難の視線が突き刺さった。おれはすぐに前言を撤回した。

 花京院に詳しく話を訊けば、相手は中々に油断のならない奴らしい。何か策はないかと考えているうちにアヴドゥルさんがポルナレフと戦いを始めていた。手に汗握る戦いぶりにおれ達は知らず解説役にまわってしまう。

 その場はアヴドゥルさんが相手が『魔術師の赤(マジシャンズレッド)』の形に切りだした岩を利用して切り抜けたのだが、どうやら相手のスタンドの鎧は殆ど攻撃を通さないらしい。

「つーかなんでアイツはあんな体勢で浮けるんだ? 背骨痛くねーのかよ」

(やっぱ玄人は違うんちゃう?)

 ポルナレフのスタンドは非常に素早く、残像が何個もできるくらいだ。その速さにおれ達は思わず〝ゾッ〟とする。

(なーなーキャラバン)

(何やジョルジョはん)

(おまえが実体化をやめても生成したモンは消えねーよな?)

(ジョルジョはんが意識を失わない限りはなー)

(何ならおまえが実体化してなくても道具って出せるよな?)

(あの袋だけ実体化するんならなー)

(おっけ。なら──)

 

「ちょーっと待ったァ!!」

 

 おれが声を高らかにあげれば、その場の全員が一斉におれの方を向く。おれはアヴドゥルさんを押しのけ、ポルナレフの前に出た。

「騎士道精神にあついポルナレフさんよォ。今度はおれと勝負だぜ!」

「何を言っているんだジョルジョ! お前のスタンドは──」

「外野はシャラップ! ポルナレフ、あんたはスタンドの鎧のおかげでほぼ無傷! それにスタンドの扱いにも慣れてるようで精神的な疲れもない! そうだろ?」

 おれの問いにポルナレフは「ああ」と頷く。

「なら、あんたと戦っていなくて体力精神共に疲弊のないおれが戦っても構わないよな?」

「……そうだな。しかし──」

 ポルナレフが再び残像を生み出した。それらはそれぞれが全く違う動きをするように見える。しかしポルナレフの位置からは見えない位置をカバーしている所は動きが多少ブレていることをおれは見逃さなかった。

「この『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』の動きに君はついて来れるかなッ」

「舐めんなよ! これがおれのスタンドだ! 『キャラバン』!」

 そう叫びながら、おれはさっき作った鏡を掲げる。鏡で反射した光はちょうど相手の目にクリティカルヒットした。目くらましのつもりだけだったのだが、思った以上の大大大成功だ。ポルナレフ本体の視界がゼロになり、スタンドの動きが大きくブレた。思った通り、ポルナレフのスタンドはキャラバンと違って視覚野は備わっていないらしい。

 その隙に、ポルナレフの方へ跳ぶ。投げ縄の要領で投げた油たっぷりの縄はスタンドに切り刻まれてしまった。やっぱり音が出るからだろう。せめてこの特徴的な呼吸の音は聞こえていないと祈りたい。

 めいいっぱい、それこそ関節を外してまで腕を伸ばし(〝痛みは波紋で和らげる〟とは親父の言葉だ)、ポルナレフのこめかみに触れた指先で思いっきし波紋を流し込む。

 

波紋指尖疾走(サミングオーバードライブ)、だぜ」

 

 そうおれがキメたその後ろで、ポルナレフが崩れ落ちる。ちゃあんと気絶してくれたようだ。そりゃあそうだよなァ、だって波紋をありったけぶち込んだんだぜ? 痛み止めに使ってた分まで流したんだから、そりゃあ──。

「いッ、いっでェェェエエエ!!」

 忘れかけていた痛みにおれも崩れ落ちた。何これ痛い。何で親父こんなのぽんぽん使えるンだよ!

『ジョルジョはんジョルジョはん、ヒッヒッフー』

「それラマーズ法ーッ!」

「だ、大丈夫かジョルジョ」

 アヴドゥルさんが関節をはめ直すのを手伝ってくれたので痛みは少し治まったが、痛いモンは痛い。波紋の呼吸を意識して自然治癒を待つしかないってのが酷い。何だってこんな技を人に教えるんだあの人は。

「あ、そーだポルナレフ!」

『なーんか肉の芽があったらしいで?』

「マジ? じゃあ本当は良い奴ってことか!」

『多分なあ。洗脳されてアレやもん』

 

「……と、これで肉の芽がなくなって、()()()ない奴になったわけじゃな~。ジャンジャン」

 

 ジョースターさんの駄洒落に思わずおれ達は水を打ったように静まり返った。JOJOとか何か普段以上に表情ないし! 怖!

「……花京院、オメーこういうダジャレ言う奴って無性に腹が立ってこねーか」

「……」

 おおっとこれには流石の花京院も苦笑いーッ! 中華料理屋でウンチク語ってた饒舌さとは大違いです!

「……どうやらわしの波紋治療はいらんな、そんなに元気なら」

「あっごめんなさい大人しくしてますから波紋で治してください! いやマジで! 痛い!」

 

 

 その後何とかジョースターさんに波紋を流してもらい(やっぱりジョースターさんの方が波紋使用歴が長いからか、めちゃくちゃ効く、気がする。うん。少なくともコントロールはおれより上だ)、おれ達はポルナレフを連れてホテルを取った。明日港に行き、そこから船に乗るらしい。おれ寝てたから全く知らんかったわ。

 部屋に戻ってシャワーを浴び、ベッドに寝っ転がればすぐに眠気がやって来る。ちょっとおれ最近寝すぎとちゃーう? とまあ、そんなことを思ったところで襲いかかる眠気には勝てないンだけどなァ……。

 

 

 ⿴⿻⿸

 

 

 暗い室内。その中で一人動く影があった。

「よう、スティール」

 その影は私の名を呼ぶ。

『君は一体何者なんだ』私は疑問を口にした。

『昼にも、今のように全く違う人格が乗り移ったように振る舞うことがあった。君は多重人格か何かなのか?』

 私がそう尋ねると、影はさも面倒臭いと言わんばかりに頭を掻く。そうして、数秒後に口を開いた。

「面倒臭ェ。コイツ煙草も吸わねェしよォ……。……〝全く違う人格〟ってのは当たりだ。だが()()()()じゃあない。()()は別人だ。……いや違うな、違う世界の同じ人物と言うか……まァどうでもいいな。とにかく、俺達は元はちゃんと個として存在していたよ」

『だからスタンドも違ったのか』

「あん?」

『昼間、君──いや、君達の内の誰かがスタンドを使ったんだ。その時は……そうだな……工具が全身についたスタンドだった』

 私がそう言えば、影は納得したように「ああ」と声をもらした。

「ソイツは俺達のリーダーみてェなもんだ。コイツはともかく、俺達はある目的を持っている」

『そのためにその身体に宿ったのか? 幽霊となった私のように』

「いや、コイツの中に押し込まれたのは俺達の本意ではなかった。むしろこの身体に集まったから目的を持って行動するようにしたな」

 そこまで言うと、影は話は終わりだと言うように手を振り、ベッドに寝転がった。

『最後に一つだけ訊かせてくれ。君達の行動は()()を邪魔するものなのか?』

 返ってくる声はなく、もう眠ってしまったのかと私は落胆する。しかし、もうしばらくしてから、ボソリと声が返った。

 

「ただ〝帰りてェ〟ってだけなら、アンタらの邪魔にはならねェよ」

 

 なぜそのことを知っているのか。私は〝ジョースター一行〟の障害になるのかどうかだけを尋ねたつもりであったのに。

 しかし今度こそ部屋に静寂が訪れる。私の疑問に答えるものはいなかった。

 

 

 ⿴⿻⿸

 

 

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