でもどうしようもなく私はこの世界が好きなんだ。
私は、会社員だ。
会社員と言っても、大抵の人が思いつくような書類仕事やデスクワークはあまりしない。
私の業務は武器を持って戦うこと。
平たく言えば民間軍事会社のオペレーター。
このくそったれの街は今日も雨だ。
窓ガラスを叩くこの雨を見ない日のほうがこの街では珍しい。
散発的な銃声も、誰かの悲鳴も、何もかもがただの日常の音として存在している。
ここはクリミア。ウクライナ南部に位置する黒海の要衝。
ロシアによる強行的な吸収とそれに対する反発。
ここは政治的にも経済的にも軍事的にも不安定で最悪な場所。
普通の企業なら一目散に逃げ出すような場所。
だけど私達の仕事はこういう地帯でこそ需要がある。
そもそもPMSCsはただの傭兵ではない。
提供する商品は軍事力、インフラ整備、軍事指導、警備。
戦争地域で必要とされているものをすべて提供するのが我々民間軍事会社だ。
私達はここクリミアで学校を建てている。
クライアントはクリミア共和国。
自称ロシア連邦の構成国の一つ。
他称しているのはロシアだけ。
まあこんなことはよくある話。
私達にとってはロシアだろうがウクライナだろうがどうでもいい。
大事なのは信用ができるかどうか。
その点に置いてこのクリミア共和国は十分に信用に値すると上は認めたのだろう。
武器を持って人を殺す我々が学校を建てていると考えると、自嘲めいた笑いが溢れてしまった。
吸っていたタバコを投げ捨てる。
『こちらAngelSmileリーダー。LINKSリーダー聞こえるか?…おいアリシア』
ヘッドセットから男の声が流れる。
思考を中断し、応答を行う。
「聞こえてる。こちらLINKSリーダー。AngelSmileなにか問題か?オーバー」
『目的地点で搬入を行っていたAngelSmile2-2から応援要請。現地親ウクライナ派の武装勢力から攻撃を受けている模様。数は凡そ20。テクニカルも確認されている。50口径だぞ』
「了解した。LINKSのみで対処を行う。LINKSリーダーより全車。AngelSmile全車及びLINKS1-3、1-4は30秒後に停車。LINKS1-1、1-2は目標地点の安全確保の為急行する」
命令を下せば了解という声が次々に返ってくる。
子供達のための学び舎を建てようというのに、攻撃される。
こんなことは日常茶飯事だ。
どうやら人間は子どもたちの将来よりも戦争が好きらしい。
「さあ紅、飛ばして。さっさと行かないと連中全滅しちゃうわよ」
「了解。捕まっておけよ」
車列から黒塗りのアウディA8 が2台離脱し、ぐんぐんとスピードを上げていく。
「さあTime to Attackだ」
アウディA8に増設されたサンルーフを開き、身を乗り出す。
手に持つのはM249MINIMI軽機関銃。
雨に打たれることも気にせずに、私の口角は奇しく釣り上がった。
雨の中を飛び交う光弾を視認する。
目標地点まで凡そ600m。
林道の先で交戦は起きているらしい。
建設地は整地が行われており、林の中で唯一大々的に開けている場所だ。
敵勢力は建設地の西側、つまり私達と建設地の間90度に渡って展開しているようだ。
数台のテクニカルによる制圧射撃を行っているのがここからでも確認できる。
距離500m、400m、300m。250mを切った瞬間にインカムに向かって叫ぶ。
「LINKS各員攻撃開始。連中にたらふく鉛玉を喰わせてやりなさい」
MINIMIの引き金を弾く。
重い反動が方に伝わり、毎分800発の暴力的な初速をともなった鉛玉が標的へ向かって放たれた。
「ああ、そうだ。誤射はやめてよね。始末書かくの私なんだから」
こちらに気がついたようだがもう間に合わない。
標的が振り向く頃には鉛玉が頭蓋を砕き、ザクロを咲かした。
車両による高速移動中でも数撃ちゃ当たるのだ。
「LINKSは標的の50m手前で停車。制圧射撃を持って釘付けにしなさい」
私の指示通り50m手前で2台とも停車し、総員降車する。
私の同僚であり運転手そして友人の蒼井紅は口笛を吹きながらMagple MASADAを単発で撃っている。
「残存目標8人。投降勧告を行う。総員射撃中止」
インカムにそうつぶやくと、一斉に射撃が止んだ。
眼の前で仲間が死んでいくさまを見ていた残りの敵兵はパニックになりながら、恐る恐る車両の横から顔を出してくる。
「勧告を行う。武装解除し、投降するのであれば、我々はこれ以上の攻撃を行わない。我々はこれ以上の殺戮は望まない。武装解除し、投降しなさい」
拡声器を使って、敵兵たちへ勧告を行う。
しかし、それが聞き遂げられることはなかった。
仲間を殺され、激昂状態であった連中はテクニカルに取り付けてある重機関銃へと手をかけた。
溜息を付きながら、部隊へ殲滅指示を下そうとした時、空気を引き裂く回転翼の音が耳に届く。
空を見上げれば真っ黒なUH-60ブラックホークが3機上空でホバリングを行っていた。
ペイントされたエンブレムは我々Rayleonard社の社章。
「友軍機?」
そう呟いた瞬間、ブラックホークに取り付けられたドアガンが火を吹き始める。
M134ミニガンの毎分6000発放たれる大量の鉛玉の雨が残存していた敵兵に降り注ぎ、一瞬にして対象を沈黙させる。
口を開くよりも前にインカムからきれいな女の声が聞こえてきた。
『ハローアリシア、べーにぃ。お邪魔だったかしら?』
聞き覚えのある声。
ああ。あの子なのね。
「あらアンリエッタ。いえ寧ろ仕事が減って助かったわ。これで私達がやるのはミニガンで耕された地面を整地するだけだもの」
「おい、アンリエッタ!!なんでお前ここにいんだよ!?お前フランスでA国外務相の護衛してるはずだったろ!」
『キャンセルになっちゃったのよ。だからしばらくこっちで仕事。またあとでね』
アンリエッタがそう言うと、頭上のブラックホークは機首を翻し、飛び去っていく。
さあ。この陰鬱な街もしばらくは騒がしくなりそうだ。