高度1万メートル。
水平線の彼方に朝日が登り始めたのが見える時間帯。
横の席では紅が幸せそうに寝息を立てている。
ドイツ、アメリカを経由しての日本への空路。
民間機に乗るのは久しぶりだったが、ハイジャックなんてことも起きず平和な旅路だった。
朝日によって世界が照らされる。
ダークブルーの世界に朱色が侵食していく。
視界の端に街が見えてきた。
さあ、もうすぐだ。
「ん~!久々だな日本」
紅が体をほぐしながらそうこぼす。
相変わらず人の多い国だ。
日本の人々の表情は私にとっては少し不気味に感じる。
来るたびにそう思う。
戦地の人々はその顔に絶望の色を浮かべることはあっても、生を投げ捨てる色は見せない。
みな必死に生きようとしている。
だけどこの国の人間は違う。
なんというか、人生の優先順位が狂っている気がするのだ。
「遊ぶのは仕事の後よ。しっかりこなしてよね」
「わかってるよアリシア。さあ、とりあえず神奈川に行って仕事道具を受け取ろう。3番に迎えの車が来てるってよ」
PDAを確認しながら彼女はそういった。
「やあアリシア。元気かい?僕の方は東南アジアエリアの売上が芳しく無くてねえ」
久しぶりに顔を合わせたこの白髪の男は、顔に笑みを貼り付けながら手を振っている。
神奈川で装備を受け取った後、今回の護衛対象であるレスター・ビヤークネスと合流した。
レスターは昔のクライアントのオルレアの実兄だ。
何度か仕事をしたこともある。
「ハロー、レスター。お久しぶりね」
「ああ久しぶり。紅も久しぶりだね~。ウラジオストクでの仕事以来だっけ?」
「こんにちはレスター。おひさ。もうそんなに会ってなかったっけ?」
しばし軽く談笑をする。
彼の部隊とは全員顔見知りだ。
「東南アジアのそれってOmerの仕業?」
「そうだよ~。もう連中が最近出ずっぱりで邪魔してきてさ~。今回君らをわざわざ呼んだのもその件なんだよ」
「ああ、なるほど。それにしたって私達をヨーロッパから呼びだすのは大げさなんじゃないの?私達よりも腕が立つ連中なんて極東、ユーラシアにはゴロゴロいるでしょ。そういえばカインの姿が無いけど」
「親父さんは中央アジアで作戦中だよ。最近入り込んできたロシア系の武器商人が派手にやっててさ。ちょっとお灸を添えに行ってもらってる」
彼はガムを口に放り込んでから言葉を続ける。
「今回紅とアリシアに来てもらったのは大げさでもなんでもないよ。今回の交渉相手はOmerの中央アジア、東南アジア輸送部隊。つまりユディスちゃんのいる部隊だ。知り合いが双方に居たほうが話がスムーズに進むだろ」
「ああ、なるほど」
「ユディスか~。イギリスであったA国のUAVトライアル以来だな。あいついるってなるとネゴシエイターは…」
「ああ。アルゼブラだよ。君たち二人彼に気に入られているだろ?」
溜息を付きながら煙草に火をつける。
今回の仕事は懐かしい顔を一気に見ることになりそうだ。
アルゼブラ。
Omer Science Technology社に所属する武器商人。
Omerの中央アジアから東南アジア武器輸送ルートを取り仕切る人物で、頭が切れる。
壮年の男であり、元ノルウェー猟兵中隊中隊長。
ユディス。
同Omerに所属する軍事オペレーター。
アルゼブラの部下で、若年の女。
戦争のすべてをそつなくこなす。対人格闘、狙撃、指揮、運転、操縦。
通称ワンマンスクワッド。
元ポーランド急対応作戦グループGROM所属。
主にアジアで対立するOmerとRayleonardだが、時には共同作戦を展開する場合もある。
それは大規模な神話的事象に対し、正規軍が行動を起こさないときにだ。
久々の旧友との再開に備えて、私は煙を吐き出した。