「タツミとサヨはもう兵士になってんのかなぁ」
帝都の片隅で蹲るように地べたに座った少年が一人呟くように言った。
中肉中背、黒髪に白地のバンダナの頭に巻いている。その目は気落ちしている今でも元来勝気であろうことが予想できるほど生気に溢れている。
少年の名前はイエヤス。
今呟いた二つの名、タツミとサヨと共に帝国端の村から帝都に兵士になりにきていた出稼ぎである。
が、帝都に向かう途中、夜盗に襲われ散り散りとなってしまったのだ。
一人になったイエヤスは流石に慌てた。イエヤスは方向音痴なのだ。自覚していたイエヤスは二人についていけばいいやと帝都への道のりがうろ覚えであったのだ。
最初はそれでも楽観的に捉えて帝都に歩きで向かったつもりであったが、途中の村で確認してみるとどう考えても帝都から離れていた。
これでは最悪、一生帝都に付けない、そう考えたイエヤスは手持ちの全財産を使って帝都行きの馬車に乗ることにした。帝都まではまだかなりの距離があったため手持ちでは足りなかったが、そこは剣の腕を生かして護衛を買って出たのだ。イエヤスの人生の中でも渾身の作戦であった。
帝都に着いたイエヤスだが、財布の底は尽き、時刻は夕暮れ、兵の受付時間は終わっていた。
野宿を覚悟したイエヤスは適当に帝都を回り堪能した。田舎者丸出しであったがお構いなしだ。そして今、寝る場所を決めて腰を下ろしたイエヤスははぐれた幼馴染達のことを思っていた。
と、そこにとある馬車が近くを通り掛かった。
馬車の中の人物は座り込んだイエヤスを見掛けて興味引かれた。
人物の名はアリア。貴族の少女である。
アリアはイエヤスの服装から田舎からやってきて今日泊まる所がないであろうことを察して、家に招こうと馬車を止めるように引手に言おうとする
しかし、そこでイエヤスに近づく人影があることに気付く。その姿を見て自分の手助けの必要がなくなった事を知ったアリアは開きかけていた口を閉じ、そのまま馬車を行かせた。
「…………チッ」
ここが分岐点であった。
「もしもし、そこな君!なにかお困りですかな?」
「ん?」
唐突に声を掛けられてイエヤスは顔を上げると、そこには簡易な鎧に身を包まれた自分とそう年の変わらない少女が立っていた。ポニーテールで纏められた明るい茶髪がよく似合う美少女は覗き込むようにイエヤスを見ていた。
「えーと、……君は?」
イエヤスの問いかけに少女はビシッと敬礼をすると眉をキリッとさせる。
「帝都警備隊のセリュー!正義の味方です!!」
「帝都警備隊?正義の味方?」
「はい!帝都警備隊とは悪の蔓延る帝都を守る為、日夜パトロールを欠かさない正義の部隊の事です!」
セリューの言葉にイエヤスは目を輝かせた。
「ほぉー!!かっけぇーな帝都警備隊!!」
「ありがとうございます!!ところで」
イエヤスの素直な反応に気分を良くしたセリューは弾けるような笑みを浮かべながらイエヤスにどうしてこんなところで座り込んでいたのかを訪ねた。
イエヤスはここまでの道中の話を掻い摘んで話した。
「なるほどー、それは災難でしたね。ひとまずは今日の寝場所ですか」
ンーーと唇に指を当てながら考え込むセリューは何かを思いつくとポンッと両手を叩く。
「それでは今日のところは帝都警備隊の宿舎のロビーで寝るといいでしょう!」
「え!? 大丈夫なのか? それ」
「多分大丈夫です。宿長には私から話を通しておきますよ」
自信ありげに言うセリューにイエヤスは申し訳なさそうにしながらも、他に行くあてがあったわけでもなく正直助かる為お世話になることにした。
「それじゃあ言葉に甘えて泊めてもらうよ。ありがとな」
「いえ!それではこっちです」
セリューはイエヤスの手を握り導くように引っ張る。
幼馴染に美少女と呼んで差し支えないサヨがいるがそこまで女慣れしているわけではないイエヤスは、その握られた手を見ながら思わず頬を染める。
「キューキュー」
そんな様子を見てセリューの傍ら抗議のような鳴き声が聞こえてくる。
イエヤスがそちらに目を向けるとそこには大きめな首輪を付けられた犬のような生き物がピョンピョンと跳ねていた。顔は完全に犬と称されるべき見た目をしているが、その生き物は2本足で立っていた。
「この生物は?」
「あっ、この子はコロ。正式名称はヘカトンケイルと言うんですよ。こう見えて頼りになる生物型帝具なんです」
イエヤスが帝具というものを理解していない反応をするとセリューが説明する。
帝具とは約千年前、大帝国を築いた始皇帝が用いる権力と財力を詰めた、現在では再現不可能な48の兵器の事である。
「へぇー、そんな貴重な物を任されてるなんてセリューさんは凄いんだな」
「いえ、この子、相性のいい相手じゃないと動くことすらないらしいんです。上層部には動かせる人がいなくて、ヒラであるワタシまで回ってきてワタシの正義の心に反応したんですよ」
「そうなんだ、でもやっぱり凄いってことじゃないか、つまりセリューさんは軍でも屈指の正義感を持ってるってことだもんな」
イエヤスの手放しの誉め言葉にセリューは、えへへっと照れるように後ろ頭に手を伸ばした。
「ありがとうございます。辺りも暗くなってきたようですし少し急ぎましょう。明日は兵舎へと志願しにいくのでしょう?なら今日は早めに休息して英気を養わなくては!コロ、いくよ!」
宿舎に案内され、無事宿長から許可をもらったことをセリューから聞いたイエヤスはほっと胸を撫でおろした。一仕事やり終えたセリューは敬礼する。
「それでは!アタシはここで失礼します。明日早朝に兵舎へと案内しますね」
「えっ!いや、それは流石に世話になりすぎというか……」
セリューの意外な申し出にイエヤスは驚く。
「いえ!イエヤスさんはどうやら地理には疎いようですし、最後まで面倒を見させてください!」
その力強い眼差しに頑固さを感じ取ったイエヤスは素直に甘えることにした。 イエヤスの返事を聞くとセリューは満足そうに去っていった。
セリューの背中を見送ったイエヤスはロビーに置かれたソファに寝転んだ。
(ふぅ、今日は色々あって疲れたなぁ)
(セリューさんか、都会の人は冷たいって聞いてたけどそんなことなかったなぁ)
今日会った事を思い出していたイエヤスはいつの間にか眠りに落ちていった。