イエヤスが生きる!   作:七峰 舞斗

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7話 覚悟 ☆

  イエーガーズ結成の次の日、帝都警備隊の詰め所にて突然決まった異動の挨拶を終えたイエヤスは昼過ぎまでは自由行動を許されている為、自主的パトロールをすることにした。

 すっかり慣れた様子で迷うこともなくパトロールをしている自分に感慨を抱くイエヤス。今でもコロとの特訓は時折行われているがそれは純粋に身になるためであり、寝坊で怒られていたのはもう過去の話である。

 

 意気揚々と見回りを続けていたイエヤスはふと視線を感じて振り向いた。

 

「あっ」

 

 見知った顔におもわず声を漏らす。

 昼前で人通りも多い往来の端で立っている少年はイエヤスをじっと見つめているが動かない。目が合ったにもかかわらず動こうとしない少年に首を傾げるが深く考えることはなく走り寄る。

 

「よっ、元気にしてたか? タツミ!」

 

 きさくに幼馴染へと挨拶を送る。

 が、反応は鈍く、口を開けようとしないタツミにますます意味が分からず困惑する。

 

「…………久しぶりだな、イエヤス……怪我はもういいのか?」

「? ああ、名医を紹介してもらったからな、もう万全よ!」

 

 ようやく口を開いて容態を聞いてきたタツミにイエヤスは元気に腕を振り回してアピールする。

 

「なんだよ、怪我してんの知ってるんだったら見舞いの一つも来てくれてもよかっただろ?」

「悪いな、こっちはこっちで色々忙しくてな、それより話がある。ちょっと場所を移そう」

 

 返事を待たずして歩き出すタツミにイエヤスは慌ててついていく。

 

 ジャラ

 

 前をゆくタツミの腰には大きめな剣が納められており、柄頭からは重力に従って垂らされた鎖が摩擦音を鳴らす。特徴的な剣に興味を引かれて注目しているとタツミに話しかけられる。

 

「前に会った時はずいぶん参ってたようで心配だったけど、だいぶ持ち直したようだな」

 

 今のイエヤスの様子を見てそう評したタツミに、あの日の不甲斐ない自分を思い出して軽く赤面するイエヤス。

 

「まぁな、いつまでもウジウジしてるなんて俺らしくないし、サヨにも笑われると思うしな」

 

 なにより、と続ける。

 

「ずっと狙っていた賊をやれたのが大きいのかもな、お前もサヨの仇を斬ったなら分かるだろ?」

 

 ジャララ

 

 腰の鎖が鳴らす音が一際大きくなる。さながら威嚇音であるかのように。

 

「………?」

 

 一瞬奇妙な感覚に襲われたイエヤスはタツミを注視するが、タツミにとくに変化はなく、ただ前を歩いている。

 

(気のせいか)

 

 そうイエヤスは決定づける。

 気のせいに決まっているのだ。

 タツミから殺気を感じることなどあるはずがないのだから。

 

 

 

 

 

 

 タツミに連れられたのは帝都郊外であった。

 帝都市街地から離れ始めた時点でイエヤスは何処にいくのか予想が付いていた。

 立ち並んだ石の前に疎らに人の姿が見えた。

 花束を飾る人、祈る人、静かに佇む人、様々な人がいるがそこには一つの共通点があった。

 皆、表情が暗いのだ。

 それも当然で、イエヤスとタツミが足を踏み入れた場所は死者が眠る場所。

 墓場であった。 

 タツミが立ち止まった場所には一つの墓があった。

 

「ここが?」

「あぁ、サヨが眠っている」

 

 タツミは端的に答えて道中で買った花束を捧げる。それに倣ったイエヤスも花束を捧げ手を合わせて祈った。

 静寂が二人を包み込む。

 

 私達三人、死ぬ時は同じと誓わん!

 

 ふと、村を出るときにサヨが言っていた言葉がイエヤスの脳を掠めた。

 三人で村を救うんだと息巻いていたあの頃は、もう帰ってはこない。

 

 どちらともなく祈りを終えた二人がサヨの墓から離れ、帰路についた。

 そのまま市街地へと戻ると思っていたイエヤスだったが、タツミが脇道に逸れていくのを見て眉を傾ける。

 しばらく付いていくと徐々に人気がなくなっていく。

 流石に不審に思ったイエヤスが問い質そうと口を開くより僅かに早くタツミは振り返った。

 

「イエヤス、これから大事な話があるんだ」

 

 太陽が真上で輝いている。

 そろそろ午後に移ろうかという時間帯。集合時間までリミットは残り少ないと感じたイエヤスだったが、それを口には出さなかった。

 エスデス将軍のドSっぷりは噂で聞いているし、それが怖くないわけではなかった。

 だが、それでも伊達に幼馴染をやってきたわけではない。

 タツミの目を見たイエヤスは、そこになにかしらの強い覚悟のようなものを感じ取っていた。

 ゆえにただ頷く。

 

「イエヤスはオネスト大臣の事を知ってるか?」

 

 オネスト大臣。 

 その名を帝都で住んでいて知らない者などいないであろう。

 幼い皇帝に代わって政治を取り仕切る事実上の最高権力者である。

 イエヤスは実際に会ったことも関わったこともなかったが、噂は聞いたことはあった。

 

「ああ、いい噂は聞かないな」

 

 イエヤスの答えにタツミは同意し頷く。

 

「そうだ。大臣を筆頭に帝国では腐敗があちこちで起こっている。サヨを殺した貴族なんかはその最たるものだ」

 

 サヨを持ち出されてイエヤスは息を詰まらせる。

 その反応を見てタツミは続ける。

 

「このままほっとけばサヨみたいな犠牲者は後を絶たない。誰かが大臣を止めなきゃならないんだ!」

「………タツミの言いたいことは分かる。だけど、今の俺たちに大臣を止められるだけの力なんてないだろ?」

 

 帝国二大将軍であるブドー大将軍とエスデス将軍。

 その二人に認められつつあるイエヤスは順調に昇っている自負があったが、大臣をどうこうできる程ではないことくらいは理解できていた。

 

「俺達だけの力でどうにかできるだなんて思わないさ。でも、大臣をなんとかしたいのは俺達だけじゃない」

 

 タツミの言を飲み込むにつれてイエヤスは自分の顔が強張っていくのが分かった。

 タツミの今までの振る舞い、言動、そして覚悟、それらは一つの結論へと収束していった。

 イエヤスは自分の考えが外れていることを祈りながらタツミを見る。

 

「タツミ………お前!」

「俺は今、反乱軍として動いている」

 

 祈りは虚しく無碍とされた。

 信じられないものを見るような目でタツミを見るイエヤス。

 その視線を真っ向から受け止めたタツミは開いた手をイエヤスへと伸ばした。

 

「お前も来い! イエヤス! 一緒に帝国を変えるんだ!!」

 

 イエヤスは見開いた目でその手を茫然と眺める。

 整理が追い付かない頭の中で、それでもその手を取るわけにはいかないことだけはすぐに弾き出された。

 帝国の敵に回るには、イエヤスは帝都での繋がりを持ち過ぎていた。

 世話になった人がいる。

 一緒に戦おうと誓った人がいる。

 目を掛けてくれている人がいる。

 仇を取ってやりたい人がいる。

 脳裏を過ぎる帝都に来てからの出会いの数々がイエヤスに目の前の手を拒ませた。

 

「それは……でき………」

 

 喉元まで出かかった拒否の言葉を詰まらせた。

 今度は帝国に来るまでの思い出がイエヤスの脳内を駆け巡る。

 タツミの手を取らないという事は、そのまま敵対関係を表す。

 物心ついた頃から一緒にいた。

 いつからなんて覚えていない。

 遊んだ回数もケンカした回数も互いに一番だ。

 同じ師を仰ってからは切磋琢磨に競い合ってきた。

 何が好きかも嫌いかも嬉しいかもムカつくかも悲しいかも楽しいかも一番知っていると思っているし、知られているとも思っている。

 

 しかし、それでも

 

「………ない!」

 

 続きの言葉を紡いだ。

 イエヤスの返答にタツミは悲痛な表情を浮かべる。

 それがまたイエヤスの胸を締め付ける。

 

「なんでだ!? お前は帝国がこのままで良いって思っているのか!?」

 

 腕を横に薙ぎながら強弁するタツミ。

 

「違う!! 違うが……俺はお前のように帝国を見限ることはできねぇよ」

 

 タツミの言葉を否定しつつイエヤスは続ける。

 

「帝都に来てすぐだったら迷わなかったかもしれねぇ。でも! 俺には今、この帝都でできた繋がりってやつがあるんだ。俺には帝都で必死にやってきたこの1ヶ月を……なかったことにはできねぇよ……」

 

 それに、と呟き、己の握り締めた拳を見つめる。

 帝都にきて一か月とちょっと、その間にイエヤスは帝国の双璧とも呼ばれる2大将軍に目を掛けられ、経緯は少し特殊ではあるものの片方の直属部隊にも配属されることになった。

 自分でも異例の速さで伸し上がっていっている自覚はあった。手応えがあった。勿論、運に助けられていた部分はかなりある。だが運を引き込むにも実力は必要。

 見つめていた拳を開きタツミへと伸ばす。ちょうど先ほどのタツミと同じように。

 

「帝国を変えるなら中からだ。俺達の力が十分通じることはオレが保証する。俺達なら中からだって変えられる!! お前がこっち側に来い!!」

 

 イエヤスからの逆勧誘にタツミは目を見開くが返答は決まっているのだろう、イエヤスとは違い迷い素振りは見せずに首を横に振った。

 

「俺だって今の仲間を裏切ることなんてできない」

 

 仲間、という単語を聞いてイエヤスは察した。

 イエヤスが1ヶ月ちょっとの間に新たな絆ができたようにタツミにもできたのであろうことを。

 自分が捨てられないものを相手には捨てろ等と言えるはずもなかった。

 道は分かたれるしかないのか、と絶望が深まっていく。

 

 ハァア

 

 タツミの深い呼吸音がイエヤスの耳を打つ。

 それは溜息のようなものではなく、内の何かを吐き出すような呼吸であった。

 力なく垂れ下がっていたタツミの腕がゆっくりと持ち上げられていく。

 ゆっくりとゆっくりと

 

「……ボスには、今日の説得に失敗したら諦めろって言われている」

 

 腰の柄へと伸ばされていく。

 

「そして、こっからは俺自身の判断だ」

 

 とうとう柄へと辿り着いた手は強く握りしめられ、引き抜かれてゆく。

 同時にイエヤスへと向けられている眼の温度が急激に下がっていくのをイエヤスは感じた。

 イエヤスは今日タツミから感じた本当の覚悟の内容を察する。

 背筋が凍るような感覚に意図せず、イエヤスも腰の剣へと手を掛ける。

 

「仲間がお前を斬る前に、お前が仲間を斬る前に!」

 

 抜き放たれた刃に覚悟を乗せてイエヤスへと向け構え

 

「俺が斬る!!!」

 

 そう言い切った。

 此方を向いた剣先から目が離せないイエヤスは震える声で問い掛ける。

 

「冗談……じゃないんだな」

「冗談で親友に殺気なんて向けるかよ!」

 

 返すタツミの声に震えはなく、迷いはなく、暖かさもなかった。

 その声を聞いてイエヤスの頭の中がスゥーーーと冷えていく。

 タツミのように覚悟が決まったわけではない。

 考えがまとまったわけではない。

 ただ、これ以上タツミに情けなく狼狽えた姿を見せたくはなかった。

 幼馴染で、親友で、ライバルに対する矜持だけが、今のイエヤスを支えていた。

 

 二人はもっと話し合うべきであった。

 互いに開示した情報も少なく十分とは言えなかった。

 例えばタツミは自分を反乱軍だと言ったが厳密に言えば反乱軍の暗殺部隊ナイトレイドに所属していた。それをイエヤスに言わなかったのはイエヤスがナイトレイドの一人であるマインを間接的にとはいえ殺してしまっているので、そこに負い目を感じさせるのは勧誘においてマイナス要素となると判断したからだ。

 例えばイエヤスがオーガを帝都の繋がりの一つを考えている事をタツミは知らない。タツミから見れば外道であったオーガにイエヤスが世話になっているとは考えつくはずもない。もし、この場でオーガの悪行を指摘できていればイエヤスの繋がりに一石投じることもできていたのだ。

 あえて二人を擁護するならば二人共決して冷静ではなかった。

 タツミは仲間の一人をイエヤスの殺された事実を整理しきれてはいない。

 イエヤスはタツミが反乱軍にいる事実を受け止めきれていない。

 

 もし二人が冷静に事務的に包み隠さずに全てを話し合っていたなら結果は違っていた。のかもしれない。

 

 イエヤスはカリバーンを煌めかせながら腰を据えて構える。

 

「……言っとくけど今の俺は帝具使いだ。お前相手に手を抜くなんてできないからな」

 

 イエヤスの言葉にタツミは笑うように鼻を鳴らして、口角を上げる。

 今日再会してからイエヤスはタツミの笑みを初めて見た。

 決して友好的な笑みではなく挑発的な笑みではあったが。

 

「お前だけが強くなっているだなんて思うなよ?」

 

 構えられていた剣を地面へと突き刺すタツミ。

 その勢いに釣られて柄頭に付いた鎖が豪快に鳴る。

 

「インクルシオオオオオオオオォォォォォ!!!!!!!」

 

 裂帛の咆哮は凄まじくイエヤスの肌を焼く。

 タツミの後ろに強大な怪物の姿をイエヤスは幻視した。

 怪物がタツミを覆うように纏わりついていき鎧へと変化する。

 それは鎧を纏っていくと言うよりは鎧に喰われていくと言った方が的を射ている印象をイエヤスに与えた。

 鎧で全身を余すことなく包んだタツミの姿は歴戦の勇士と呼ばれて遜色ない威圧を放っている。

 悪鬼纏身【インクルシオ】は鎧型の帝具である。凶暴な超級危険種タイラントを素材として作られ、並の人間が装着すれば死に至るほど甚大な負担がかかる。しかしその性能は絶大かつ汎用性に優れ、高い防御力は当然ながら灼熱の大地から極寒の環境にも対応可能。素材となった竜の強靭な生命力により、装着者に合わせて進化するが、その度に装着者の肉体を侵食していく危険性も孕んでいる。

 イエヤスはもう驚きの感情を見せることはなかった。

 戦闘中に予想外の事が起きることなど当然。イエヤスは意識を切り替えており隙を生む驚愕の感情は引っ込めている。

 インクルシオという言葉が頭の片隅で引っ掛かるが今は目の前に集中することにした。

 

「「……………」」

 

 無言で剣を構え合う二人。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 次に動く時に始まるは殺し合い。

 互いに惜しむように睨み合いを先延ばしにするが、それも長くは続かなかった。

 

「いくぞ! タツミ!!!」

「来い! イエヤス!!!」

 

 イエヤスの姿がブレたかと思うと瞬く間にタツミとの距離を詰め、横薙ぎの一閃を放つ。

 

「!? っ!!!」

 

 タツミが久しぶりに見たイエヤスの一閃は速さに磨きが掛かっていた。

 なんとか反応できたタツミは剣によるガードを成功させる。が、受け止めた一撃はあまりに重く、踏ん張りが効かずに吹っ飛ばされてしまう。

 

「ぐぁあ!? 重ぇ!!」

 

 後方へと飛ばされたタツミにイエヤスは追い縋る。態勢を整えられる前に一気に片を付ける腹積もりであった。

 だが、高い防御力を誇るインクルシオにより衝撃は緩和されており、ダメージ自体は軽微で済んでいたタツミはイエヤスの予想より早く立て直した。

 カウンターの構えを取ったタツミに一早く気付いたイエヤスは追撃は早々に断念してタツミの横を駆け抜けた。

 その姿を目で追うタツミだが、自らの長所として磨きを掛けたイエヤスの速さはインクルシオによって強化を受けたタツミを以てしても舌を巻くほどであった。

 足を止めずタツミの周りを動き続けるイエヤス。

 駆け抜けザマの斬撃は機動性を重視して放たれたとは思えないほど重く、遠心力を味方につけ腰を据えたフルスイングのような重さを誇っていた。

 それを最初の逢瀬で理解したタツミはイエヤスの一撃一撃に対してガード等という生温い対処はせずに、こちらも全力の一撃を以て相殺する形で迎撃を行っていた。

 剣から伝わってくる重圧にイエヤスは密かに息を飲んだ。

 あくまで受け寄りで放たれているはずのタツミの斬撃の威力は常軌を逸しており、自分が少しでも動きを弱めれば放たれるであろう攻めの一撃を真面に食らえば、一撃で致命となることが分かったからだ。

 

 辺りに剣劇の音だけが響き渡る。

 イエヤスはタツミの防御を崩し切れず、タツミはイエヤスの速さを捉えきれない。

 一種の膠着状態の中、先に動いたのはタツミであった。

 

「だったら、これで」

 

 繰り返される斬撃の嵐の僅かな合間を狙って剣を大きく真上へと振り被った。

 

「どうだぁぁぁああ!!!」

 

 イエヤスの怖れた攻めの一撃がタツミの足元へと向かって放たれる。

 その威力はイエヤスの想像を優に超え、地を裂き、轟音を響かせ、イエヤスの足元を揺らした。

 しっかりと地に足を付けていたタツミとは違い、素早く動くために重心をズラしていたイエヤスは唐突な地割れと地震に態勢を崩す。

 それこそがタツミの狙いであり、故に逃すはずもない。

 よろけそうになるのを踏ん張るイエヤスへとタツミが迫る。

 強く振り被られた剣は先程地面を割った時と同等の威力が込められており、直撃は勿論のこと、剣によるガードすらも意味をなさない程のものであった。

 避けることしか許されない一撃。

 されど足場は不安定で態勢は整わず。

 眼前に迫る不可避で必死の一撃にイエヤスは死を覚悟した。

 

「させるかよ!!」

 

 気合の掛け声と共に横槍ならぬ横蹴りがタツミへとかまされる。

 直前に気付いたタツミは衝撃をズラして致命傷を避けるが不意打ちとはいえ恐るべき威力の蹴りであった。 

 

「イエヤス、大丈夫か?」

 

 吹き飛んだタツミに警戒しつつイエヤスの前に立った人物がイエヤスへと声を掛けた。

 タツミと同じように全身鎧を纏っているが、そのフォルムはインクルシオと比べてより近代的になっているように見えた。

 横槍をしてきた全身鎧に身に覚えはなかったイエヤスだが、その中から発せられる声には聞き覚えがあった。

 

「ああ、その声、ウェイブか?」

「そういえばまだ見せていなかったな、これが俺の帝具、グランシャリオだ」

 

 修羅化身【グランシャリオ】

 鎧型の帝具。インクルシオをプロトタイプとして開発された帝具であり、タイラントとは別の超級危険種と鉱石を素材としているため、インクルシオよりも安定した力を発揮するインクルシオと外見は似ているが、外装は黒く、背中にはジェットのようなものが付いており、そこから推進力を得て加速することが可能である。

 

「ウェイブ、助けてもらって悪いが、手を出さないでくれ」

「えっ!? お、おい」

 

 戸惑いの声を上げるウェイブをよそにイエヤスは前に立つウェイブの肩に手を掛けて前へと出る。

 タツミの様子を伺うとウェイブの一撃が相当効いているようで動きに色彩が欠けていた。

 ギリィと奥歯を噛み締める。苛立ちが脳を焼く。

 それは一騎打ちを邪魔したウェイブに対して、ではなく、自分に対してであった。

 ウェイブは悪くない。悪いのはウェイブが助けに来なければ死んでいた己の弱さだ。

 手を出すなと意地を張ったものの二人の闘いの決着はすでに着いていた。

 さっきの時点でイエヤスの敗北であり、タツミが負傷した以上続行することもできない。

 親友との決着がこんな形で終わるのかとイエヤスは腸が煮え繰り返る思いであった。

 動くことができないイエヤスにタツミは何も言わない。

 悔しそうにしているイエヤスの顔を見れば何を考えているかタツミには手に取るように分かった。伊達に親友やっているわけではない。

 道が分かたれた今でも通じるものがあることに鎧の下で小さく笑みを浮かべる。

 息を整えるために深呼吸をしたタツミは手にした剣をイエヤスへと向ける。

 

「イエヤス! お前にこれが見切れるかな!!! いくぞ!!!」

 

 啖呵を切ったタツミの姿が色素が薄くなり始めてイエヤスは驚愕する。

 あっという間に透明化してしまったタツミを探してイエヤスは視線を動かすが、見つかるはずもなく。

 冷や汗が一気に噴き出し始める。

 待ち構えるべきか、不意打ち防止に動き回るべきか、判断が難しく正解が見つからない。

 視界に頼れない以上肌から感じる気配と聴覚に全集中するが、それすらも何も感じなかった。

 己の心臓の音だけがやたらとうるさく、後は背後の先でウェイブの息を飲む音が聞こえるばかり。

 タツミはなかなか仕掛けることはせず、集中しているイエヤスは時間の感覚が狂いもうどれだけ待ったか分からなくなっていた。

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………?

 

 時間の感覚がなくなったイエヤスはどれほど経ったか分からない。

 もう数分は待ったような気がするが、実は数秒なのかもしれない。

 そう思い、ゆっくりと後ろを向く。

 ウェイブと目が合った。

 首を横に振られた。

 

「…………………」

 

 どれだけ気配を探っても分からないはずである。

 タツミは透明化を使い、それにイエヤスが動揺している間にそのまま離脱していたのだ。

 直前の言葉は逃げを悟られないようにするためのフェイク。

 

「タツミィィィイイーーーーーー!!!!!!!!」

 

 まんまとしてやられたイエヤスの叫びだけが帝都郊外に響き渡る。

 

 

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