イエヤスが生きる!   作:七峰 舞斗

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14話 ロマリー渓谷

 

 イエーガーズ全メンバーに招集がかかった。

 帝都東にあるロマリー街道付近にてタツミやナジェンダの目撃報告があった事が集まったメンバーにエスデスの口から説明される。

 今までも情報を集め捕えようとしていたが、決定的な尻尾を掴ませなかったナイトレイドの目撃情報にメンバーは色めき立つ。

 すぐさま追うことを指示するエスデスに反対の意見など出るはずもなく、イエーガーズは帝都を出て東へと向かう。

 

 ロマリー街道付近の町へと辿り着いたイエーガーズは先に着いて情報収集をしていた偵察兵から報告を受けて町中央の噴水がある広場にて話し合いが行われる。

 

「ナジェンダはそのまま東へ、タツミは南へ! ここに来て一行が二手に分かれて町を出たという目撃証言があるようだな」

 

 報告書に目を通しながら話すエスデスにボルスがそれぞれの方角の特徴を述べる。

 東は最近教徒を増やしてきている安寧道の本拠地キョロクがある。

 南は反乱軍の息がかかっているであろう町が点在していると言われている。

 今からでも急げば十分追いつけると意気込むウェイブにエスデスは待ったを掛ける。

 今まで散々雲隠れしていたナイトレイドの目撃証言がこうも立て続けて報告されることに違和感を覚えたエスデスはこれを罠だと断定する。

 ランとスタイリッシュはエスデスの意見に同意を示した。

 だが、罠だと知った上で、罠ごと叩き潰すとエスデスは言い放つ。

 部隊を二手に別ける事を決めたエスデスは振り分けを考える。

 

 以前スタイリッシュからイエヤスの成長を気に掛けているから出来るだけ組ませてもらえるように頼まれていた事をエスデスは思い出した。

 イエヤスとセリューは付き合いの長さからイエーガーズメンバーの中でも最も連携が取れている二人なので組ませるべきであることを視野に入れて、イエヤス・セリュー・スタイリッシュがセットとなる。

 エスデスはバランスを考えて、ここには安定性が高いウェイブを組み込むことにした。

 エスデス自身が過去に目を掛けていたナジェンダと戦いたいという思いと、イエヤスはタツミを気にしているであろう事も考慮して振り分けを決めた。

 

「私、ラン、ボルス、クロメの4人がナジェンダを追う。 イエヤス、セリュー、スタイリッシュ、ウェイブの4人はタツミを追え」

 

 エスデスの指示に不満を漏らすものはなく、イエヤスは自分をタツミに充ててくれたエスデスに感謝の念を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 町を南から出たイエヤス達はそのまま南へと馬を走らせる。

 

「イエヤスくん! 逸る気持ちは理解できますが、あまり気負いすぎないようにしてくださいね!」

「セリュー先輩……、はい! 分かりました」

 

 先頭を走るイエヤスにセリューが気遣いの声を掛ける。イエヤスは自分が冷静さを少し失いかけていた事に気が付き、礼を言った。

 ウェイブは自分が励まそうと口を開きかけていたがセリューに先に越されて中途半端な形で口を開いた状態で固まっていた。

 そんな若人達のある意味いつも通りのやり取りを後方で見ているスタイリッシュ。

 

 一行がロマリー渓谷に差し掛かろうとした時、スタイリッシュが連れてきているスタイリッシュ自らが帝具を用いて手術を施した強化兵の一人が渓谷からの異音を報告する。

 

「スタイリッシュ様、前方の渓谷から意図的に息を潜ませているような呼吸音が聞こえます。恐らくは待ち伏せかと」

「流石《耳》ね」

 

 報告した強化兵は小柄な体には似つかわしくない程巨大な耳をしている。

  

「スタイリッシュ様、前方の渓谷の道中に立てられた物を発見しました。恐らくは案山子かと」

「流石《目》ね」

 

 報告した強化兵は大きな眼を限界まで見開いており、傍目から見れば少し不気味な姿をしている。

 

「クンクン、特に匂いはありませんね」

「もう少し頑張りなさい《鼻》」

 

 とてつもなく発達した、まるで鳥の嘴だと見紛う巨大鼻を鳴らした強化兵の呟きにスタイリッシュが苦言を呈する。

 

 スタイリッシュの私兵である強化兵の中でも特にスタイリッシュに寄り添う形で配置されて《耳》《目》《鼻》の3人はそれぞれ聴覚視覚嗅覚が強化されている。

 

 《耳》と《目》からの報告をスタイリッシュは前を走るイエーガーズメンバーに知らせる。

 待ち伏せと聞いて馬の脚を止めようとしたイエヤスにスタイリッシュは、このまま走るように提案した。

 意図を尋ねる3人の視線にスタイリッシュは自分の考えを話す。

 

 渓谷前であからさまに足を止めてしまえば、相手側にこちらが待ち伏せを察知した事がバレてしまう。

 待ち伏せで優位に立っていると考えている相手の隙を突くチャンスを捨てるだけでなく、最悪の場合待ち伏せの失敗を悟ったナイトレイドが撤退を選ぶ可能性すらある。

 ようやく見せたナイトレイドの尻尾をみすみす逃す事はないというスタイリッシュに一同は頷いた。

 

 渓谷へと入り、案山子の元へと辿り着いたイエーガーズは馬から降りて慎重に近づいていく。

 

「っ!!!」

 

 突如、渓谷の影から人影が飛び出すとイエヤス達に襲い掛かった。

 イエヤス達の視線が飛び出してきた影へと向けられると同時に案山子が破裂して中から和装の偉丈夫が飛び出してきて影と同じくイエヤス達へと迫る。

 予期していた事態にイエヤス達は慌てることはなく、

 

 和装の偉丈夫 スサノオの手にした棍棒のような物の一撃を即座にグランシャリオを装備したウェイブが。

 全身を鎧で包んだ戦士 タツミの槍による突撃をイエヤスが。

 クロメによく似た雰囲気を持つ少女 アカメの禍々しい刀による一閃をスタイリッシュの強化兵の一人、メガネを掛けた男 トビーが。

 金髪に獅子の耳を生やした豊満な女性 レオーネの重拳を巨大化したコロが。

 眼帯をした女 ナジェンダの絡繰り仕掛けの右手を飛ばしたパンチをセリューが。

 おっとりとした雰囲気を持った女性 シェーレの斬撃をスタイリッシュの強化兵の一人 大柄な角刈り男 カクサンが。

  

 それぞれ応戦する。

 

 ナイトレイドの待ち伏せは不発に終わるが、それも予測していたようでイエヤス達の淀みない反撃に驚く事はなく、互いに決定打に欠けた第一会合は終わった。

 

「ナジェンダがいる? それにこの人数……まさかナイトレイド全員なの!?」

 

 スタイリッシュが驚きの声を上げた。

 エスデスが向かった東は囮であると察したスタイリッシュは悔しそうに爪を噛んだ。

 

「ドクター・スタイリッシュ、イエーガーズの中でも貴様は最優先のターゲットだ。覚悟してもらおう」

 

 スタイリッシュを指差して宣言するナジェンダ。

 医者であるスタイリッシュを最初に殺しておかなければ、後々厄介になると判断したナイトレイドはスタイリッシュを第一ターゲットに定めていた。

 名指しされたスタイリッシュだが、怖気づいた様子はなく鼻を鳴らした。

 

「フン! モテる乙女の辛いところね、でも、そう簡単にワタシのハートを奪えるなんて思わないことね」

 

 パチン

 

 スタイリッシュの指鳴らしを合図に大多数の強化兵が続々と現れる。

 

「さぁ、チーム・スタイリッシュ! 華麗に進撃開始よ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「葬る!」

 

 強化兵に指示を出すスタイリッシュ目掛けて駆けるアカメ。

 

「させるかよ!」

 

 立ち塞がるウェイブにアカメは容赦なく斬撃を浴びせる。

 ウェイブの反撃を紙一重に躱して肩にアカメの刀がヒットする。

 が

 

「くっ!硬いな」

 

 グランシャリオを纏ったウェイブの生身に届くことはなかった。

 

 アカメの持つ刀型帝具【一斬必殺 村雨】は刀身に呪毒が込められており、僅かでも傷を負わす事ができれば、瞬く間に呪毒が心臓へと廻り死に至る、恐ろしい帝具であった。

 

「お前がアカメだな! 村雨を持ったお前の相手はオレが適任だからな、相手をしてもらうぜ」

 

 全身鎧のウェイブに対して改めて構え直すアカメを横から鋭い斬撃が襲う。

 

「ッ!?」

 

 身体を屈めて回避したアカメの上をすり抜けてウェイブの隣へと着地したトビーは

靴底から生やした刃を使って見事にターンをして見せる。さながらアイススケートをしているかのようであった。

 

「ふむ、避けられてしまいましたか」

「アンタ、ドクター・スタイリッシュの強化兵だよな? アカメの相手をして大丈夫なのか?」

 

 心配の声を掛けるウェイブにトビーは自分は全身機械の機械人間なので呪毒は効かないと短めに説明した。トビーもまた、対アカメを想定して用意されたスタイリッシュの秘蔵っ子なのだ。 

 

「……相手が誰だろうと、斬る!」

 

 相性の悪い相手二人を前に、村雨を構えるアカメに

 

「村雨が効かない相手二人となると厳しそうだな、手を貸そう」

 

 スサノオが合流する。

 スサノオの姿を確認したウェイブの表情が僅かに硬くなる。

 

「さっき、あの男の一撃を受けたが、かなりの強さを感じた。注意しろよ」

 

 ウェイブからの忠告にトビーは頷く。

 

「御忠告痛み入ります。では、いきましょうか」

「おう!」

 

 飛び出すトビーにウェイブが続く。

 

 

 ウェイブ&トビー VS アカメ&スサノオ

 

 

 

 

「悪! 即! 滅!」

 

 声を上げるセリューの掲げた箱状の物からミサイルが幾つも発射される。その名は正義初江飛翔体。 

 ナジェンダへと迫る飛び交うミサイル。

 渓谷の壁に義手を飛ばしめり込まさせて、繋がったロープを巻き取ることで立体的な動きをしてなんとか躱す。

 

「くっ! なんという火力だ、だが」

 

 義手を回収して壁を蹴り、宙へと跳んだナジェンダは義手をセリューへと向ける。

 

「撃っている間、本体はその場から動けないようだな!」

 

 狙いを定めて義手を放とうとするナジェンダに

 

「ボス! 避けてくれ!!」

 

 警告の声が飛んだ。

 迫る危険がなにか確認する前にナジェンダは身を翻した。

 

「っ!??」

 

 ナジェンダの背中を掠めるように大口を開けたコロが通過していく。それを追う形でレオーネも通過した。

 

「お前の相手は私だろうが! 止まれ犬っころ!!」

 

 コロの背中に拳をヒットさせたレオーネはそのまま地面へと叩きつける。

 地面と拳に挟まれてレオーネの拳がコロの身体へと捻じ込まれる。

 

「コロ! 3番!」

 

 セリューがコロの吐き出した巨大な剣 正義宋帝刀を手に取り、勢いそのままにレオーネに切り掛かる。

 

「っと!!」

 

 コロから拳を引き抜いたレオーネは後方に跳んで避ける。

 着地したレオーネにナジェンダが駆け寄った。

 

「レオーネ、無事か」

「あぁ、ボス、引き付け切れなくて悪いね。あの犬、急に方向転換しやがって」

 

 詫びるレオーネにナジェンダは首を振った。

 生物型の帝具はマスターのピンチを本能的に察知する能力があるらしいので仕方がないとナジェンダはレオーネをフォローした。

 

 グルルゥゥゥゥ

 

 レオーネから受けた傷を再生し終えたコロが威嚇するように唸る。

 横でセリューがコロから受け取った鉄球 正義秦広球を持ち構えている。

 

「セリュー・ユビキタス、お前はマインの直接的な仇だな。討たせてもらうぞ」

 

 ナジェンダの言葉にセリューは不愉快そうに眉を顰めながら答える。

 

「悪風情が一端に仲間意識など笑止千万! 悪は悪らしく、己の事だけを考えて惨めに死ね!!!」

 

 放たれる鉄球にコロが追従した。

 

 

 セリュー&コロ VS ナジェンダ&レオーネ

 

 

 

 

 

 

「ワッハッハ、どうしたどうした、近付いてみやがれ!」

 

 角刈りの大柄男 カクサンが豪快な笑い声を上げながら手にしたライフルを連射する。

 シェーレは射撃を避けながらカクサンへと迫ろうとするが多くの強化兵が立ち塞がり、それを防ぐ。

 連射を躱しながら、シェーレは少しずつ強化兵の壁を削いでいく。

 だが、壁を削ぎ、カクサンへと近付くたびに、射撃の威力が増していく。

 その事実にシェーレは歯噛みしながら、複雑な感情が込められた瞳をカクサンに握られたライフルに向け、呟く。

 

「……マイン」

 

 カクサンが手にしているライフルは帝具【浪漫砲台パンプキン】。

 スタイリッシュがメンテナンスという建前で持ち出したパンプキンを扱えるように調整された強化兵、それがカクサンであった。

 

「エクスタスだったかぁ? なんでも切れちまうバツグンの切れ味らしいが近寄れなければ、そんなもの無駄だ無駄!」

 

 近接専用の帝具であるエクスタスに遠距離用帝具であるパンプキンをぶつけ、近付かせないように強化兵で壁を作る。

 スタイリッシュが考えた作戦は見事に機能していた。

 

「……マインを返して頂きます」

 

 カクサンの挑発には乗らずに、シェーレは一度深呼吸をして冷静さを取り戻すと壁を削る作業を再開した。

 

 

 カクサン&強化兵多数 VS シェーレ

 

 

 

 

 

 

「タツミ!!!!」

「イエヤス!!!」

 

 互いの名を叫びながら槍と剣が交差する。

 得物をインクルシオの副武装であるノインテーターへと変えているタツミだが、変わらずイエヤスの速さには手を焼いていた。

 

「さらに速くなってやがるな、イエヤス!」

「お前だって、いやに槍捌きが堂に入ってるじゃねーか!」

 

 軽口を叩き合う二人だが、そこに飛び交うは互いに必殺の刃。

 会うまでは色々と考え込んでしまい悶々としていたイエヤスだが、いざ相対すると不思議と頭の中はスッキリとして、ただタツミに勝つ事だけに集中することができた。これも一種の割り切りだとイエヤスは理解する。それはタツミも同様なのだろう。

 

「あの日のリベンジ、させてもらうぜ!!」

「やれるもんなら、やってみろ!!」

 

 

 イエヤス VS タツミ

 

 

 

 

 

 スタイリッシュは周りを護衛の強化兵で固めて渓谷の上へと上がって戦況を眺めていた。

 

 「角行と飛車は狙い通りの働きを見せているようね」

 

 スタイリッシュは己の駒を将棋の駒に例える癖がある。

 トビーが飛車であり、カクサンが角行である。

 大量にいる無名の強化兵が歩、セリューが香車。

 桂馬は現在、強化兵の中に紛れ込んでおり、必殺の機会を伺っていた。

 金将、銀将は不在であったが、この戦い限定であればウェイブとイエヤスがそれに当たるであろう。

 

 それぞれの戦況を見て歩兵の分配をどう振り分けるべきか考慮する。

 

 そんなスタイリッシュの様子を背後に広がる林の影から窺う人物が一人。

 ナイトレイドの一人、チェルシーである。

 

 直接的な戦闘を不得意とするチェルシーは遊撃として、暗殺の機会を窺っていた。

 

 

 

 

 

 

 ーー人が次第に朽ちるように、国もいずれは滅びゆくーー

 

 ーー国を護る者達 と 新国家の誕生を目指す者達ーー

 

 ーー思想、理念、目的、全てを違えた彼等はーー

 

 ーー避けられぬ運命によって、衝突の日を迎えたーー

 

 ーー必殺の武具をその身に纏いーー

 

 ーー己の決意を胸に秘めーー

 

 ーー決戦の火蓋が斬って落とされたーー

 

 

 戦いはまだ、始まったばかりである。

 

 

 

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