現在の戦況
イエヤス VS タツミ
ウェイブ&トビー VS アカメ&スサノオ
セリュー&コロ VS ナジェンダ&レオーネ
カクサン&強化兵多数 VS シェーレ
剣と槍が無数に交差して辺りに剣劇音が響く。
イエヤスの速さに翻弄されるタツミだが、その打開方法はすでに知っていた。
タツミはかつての決闘と同じように地面を叩くべく、槍を振り上げた。
「同じ手を食らうかよ!」
タツミが地面に槍を叩き付けて震撃を起こすのと同時にイエヤスは高く跳躍をして難を逃れる。壁に向かって跳躍したイエヤスは壁を蹴り、さらに高く跳んだ。
タツミの攻撃を避け切ったイエヤスだが、その高すぎる跳躍を
「避けるのに必死で焦ったかイエヤス! 空中でこれが避けられるかよ!!」
タツミは悪手だと判断した。
空中ではイエヤス自慢の速さは発揮できないと踏んだタツミは地面を強く蹴りだし、イエヤスに向かって槍を突き出して突進した。
タツミの動きにイエヤスは頬を歪ませて笑みを浮かべる。
「お前なら……そう来ると思ったぜ!!!」
叫ぶイエヤスの剣は
鞘に納められていた。
最初に跳躍した時から納刀していた剣を真っ直ぐに突っ込んでくるタツミに向かってイエヤスは抜き放った。
カリバーンの奥の手 【烈風】が放出される。
「ハァ!?」
イエヤスから突如繰り出された風の刃にタツミは驚愕しながら、突く為に突き出していた槍を横向きに構えて防御の姿勢へと移行した。
「ッグゥ!!」
風の刃を受け止めるタツミが苦悶の声を上げる。ノインテーターを砕く程ではないものの油断すれば弾かれそうな威力をタツミは強化された腕力でなんとか耐え切る。
いや、耐え切ろうとした、その時
「オラァ!!!」
跳躍から重力に従って降ってきたイエヤスが追い打ちを掛けるように重剣を叩き付ける。
風の刃と剣の刃による二重の斬撃がタツミを襲うが、風の刃に押されて寸前のところで地面に押し戻されたタツミは、地面を蹴って横に回避することに成功する。
タツミを逃したイエヤスの斬撃が地面に当たり轟音を響かせながら砕かれる。
渾身を一撃を避けられたイエヤスは剣を構え直してタツミへと向き直った。
タツミも避ける事に全力を尽くしていたので、地面を穿つイエヤスの隙を突くことは叶わず、槍を構え直すだけに終わった。
向き合った二人に一時の静寂が訪れる。
イエヤスのカリバーンを握り締めた手に意図せず力が籠もる。
イエヤスの不意打ちともいえる【烈風】に見事に対処して見せたタツミのセンスは流石だと内心舌を巻くイエヤスだったが、それでも確かな手応えを感じた。
タツミもそれは同様のようでインクルシオの鎧の中で背筋に冷や汗を流す。
互いに出方を窺う沈黙を破ったのはイエヤスでもタツミでもなかった。
「!? あぶねぇ!!」
目の前のイエヤスに集中していたタツミは後ろからの突然の襲撃に僅かに反応が遅れるが、致命とはならず、攻撃を掠らせながらも回避した。
タツミを襲った者は口を開くことはなく、沈黙を貫いたまま、タツミへと刃を構える。それに倣うように似た容貌の者が続々と現れ、同じく刃を構えた。
イエヤスとタツミの一騎打ちに水を差してきたのはスタイリッシュが歩兵と呼ぶ強化兵達である。
突然の横槍にはタツミだけでなくイエヤスも面を食らうが、事態を把握してカッと頭に血が上る。
「ッ!!! ……クッ……」
邪魔するんじゃねぇ!!
喉元まで出掛かった言葉をイエヤスは直前で飲み込んだ。
決闘に固執してタツミを逃がしてしまった前回の失敗をイエヤスは忘れてはいない。
この戦いは一騎打ちでもなければ、試合でもない。
イエーガーズとナイトレイドの殺し合いなのだ。
自身の生温い思考を頭を振って消したイエヤスは忸怩たる思いを抱きながらもカリバーンを握り締めてタツミへと向けた。
タツミもイエヤスと同じことを考えているようで、イエヤス側が複数となっても文句を言う様子は見せず、槍を構える。
「よし、これでイエヤスちゃんがインクルシオを仕留めるのも時間の問題ね」
歩兵をイエヤスのところへと廻したスタイリッシュが呟く。
渓谷の上から戦況を見ていたスタイリッシュはどこに歩兵を割くのが効率的か思考を巡らした。
ウェイブ達のところはアカメとスサノオに苦戦しているが、アカメの帝具の特性上、数で押しても意味は薄い。生憎と全身機械化の手術に耐えられた素体はトビーしかおらず、歩兵には生身が残っているのだ。
セリュー達の戦いはいまのところ互角だが、強化兵達は放免を餌に従えた罪人であった。故にセリューとの連携に難があり、逆にセリューの気を散らしてしまうリスクがある。
カクサンとシェーレの状況は一進一退の膠着状態に陥っていたが、すでに多数の強化兵を寄越した上で、その状態であるため、強化兵を増やしたところで打開となる見込みは薄い。
イエヤスとタツミの一騎討ちはイエヤスがやや優勢であり、あと一押しあれば天秤は勝利へと傾く雰囲気があった。
イエヤスがタツミを制しフリーとなれば、各戦況への遊撃が可能となり流れは一気にイエーガーズへと傾く未来が見えたスタイリッシュはイエヤスへと歩兵を回したのだ。
イエヤスは覚悟を以てタツミへと突っ込む。
決して無視はできない強化兵達の猛攻にイエヤスの猛撃が加わり、徐々に捌きに粗が目立ち始める。
あと一歩で決定的一打が決まろうとしていた、その時
「イエヤス! 避けろ!!!」
背後から飛ばされた警告にイエヤスは反射的に横へと跳んだ。
イエヤスの首があった位置に剣閃が煌めく。イエヤスを外した煌めきはそのまま強化兵達へと伸びていき、瞬く間に切り捨てられる。
致命を避けた強化兵もすぐに倒れ動かなくなった。
「タツミ! 無事か」
「あぁ、アカメ! 助かったぜ」
タツミのピンチに加勢しにきたのはアカメだった。
イエヤスに警告をしたウェイブがイエヤスの隣へと立つ。
「悪いイエヤス、速過ぎて抑えきれなかった」
「いや、アカメはナイトレイドの中でも最大戦力だと言われているやつだ、仕方ねぇよ」
詫びるウェイブにイエヤスは気にするなといってウェイブが相手をしていたアカメを見る。
アカメの剣閃を見たイエヤスは内心早まった心臓の鼓動を収めるのに苦労していた。
込められた殺気の濃度に反比例して気配を全く感じる事ができなかった。
もしウェイブの声がなければイエヤスは斬られるまでアカメの存在に気付く事はできなかっただろう、事実にイエヤスは戦慄した。
戦場を移動したアカメとウェイブに釣られてトビーとスサノオも現れる。
「くっ、なんという膂力! 敵ながら見事」
スサノオを相手取り苦戦を強いられているトビーは息が上がっていた。
「貴様は攻撃は凄まじいが、反面防御が甘いな、バランスが悪い!」
トビーの賛辞にスサノオはダメ出しで返し、謎の憤りを発している。
物凄い勢いで飛来物が飛んでくる。
飛来物はなんとか身体を捻って態勢を整えると足からの着地に成功するが、勢いが殺し切れずに足元に長い線路を引く。
飛来物は頬に強烈な打撃を受けているらしく、肉がえぐられていたが、ゆっくりと再生されていた。
「コロ!」
グルゥゥ
イエヤスの呼び声にコロは唸り声で答える。
頬の再生スピードはイエヤスの知ってるものよりも遅く、消耗している事が察せられた。
コロの頬をえぐった人物がタツミ達のすぐ近くに現れ合流する。
「よ! なんか集まってるみたいだな、私も混ぜてくれよ」
レオーネが己の手の平に拳を叩き合わせて重音を立てる。
イエヤスはコロの様子を見るに無理矢理ここまで飛ばされてきた事を悟る。
イエヤスの中に焦燥が燻った。
セリューの強さはコロの中に収納されている武具に依存している所が多い。
ナイトレイド側もそれを理解してセリューとコロの引き剥がしを狙っており、今、それは成功していた。
コロがまだ活動しているという事は、まだ無事という事だが、それも時間の問題かもしれないという予感がイエヤスの中に過る。
いますぐセリューの元へと駆けたい衝動がイエヤスを煽るが、目の前のナイトレイド達がそう易々とそれを許すとは思えなかった。
戦況は混迷を回り始める。
イエヤス&ウェイブ&トビー&コロ
VS
タツミ&アカメ&スサノオ&レオーネ
イエヤスと同じくセリューを一人にして焦燥に駆られるコロが敵陣へと突っ込む。
振るわれた剛腕によるパンチをレオーネが真正面から応戦して拳と拳がぶつかり合う。レオーネの一瞬の硬直を狙ってトビーが靴底の刃で刻もうとするが、間にスサノオが入って防ぐ。
コロの援護をすべくイエヤスがコロの背後から飛び出してレオーネに仕掛けようとするが、そこにタツミが立ち塞がる。
構わず斬り掛かろうとするが、そこで強烈な悪寒がイエヤスに走る。
タツミの影からアカメが飛び出しイエヤスへと刃を閃かせた。
ギリギリのところで剣で受け止めるイエヤスだが、アカメにそこから右へ左へと連続で村正を奮う。
指先でも掠れば即死、文字通り一振り一振りが必殺の斬撃にイエヤスは冷や汗を流しながら対処する。
油断を許さない連撃を捌くイエヤスは横からトビーを吹き飛ばしたスサノオが此方に来る気配を感じた。
流石に捌き切れないと焦るイエヤス。
「ッ!!」
連撃を繰り出していたアカメは気配を感じてイエヤスから離れるように飛び退く。
アカメの脅威が去ったイエヤスが横から来たスサノオの攻撃を受け止めるのと、アカメがいた場所にウェイブの蹴りが炸裂するのは同時だった。
ウェイブとアカメが交戦し始めるのを尻目にイエヤスはスサノオとの攻防を繰り広げる。
一撃一撃が重く精練された攻撃にイエヤスは目の前の男にアカメと同レベルの強さを感じ取り、気を引き締めた。
スサノオの背後ではレオーネとタツミが二人掛かりでコロを追い詰めており、打撃と斬撃を食らっては再生を繰り返している。スサノオの吹き飛ばしから復帰したトビーと強化兵達がコロの援護へと回り、コロは一転攻勢とばかりに吠えた。
事態は二転三転と変わり一進一退の攻防は続くが時間の経過はイエヤスの中で焦燥を膨らませる。
先ほどからのコロの動きに焦りを見たイエヤスはセリューに身に危機が迫っていることを感じていた。
イエヤスはある種の覚悟を決めて後方へと大きく跳躍する。
「……?」
イエヤスの焦燥を表情から察していたタツミはイエヤスの行動に首を傾げた。
だが、イエヤスが剣を鞘へと納めたのを確認して意図を察する。
「皆! 気を付けてくれ、イエヤスが刃を飛ばしてくる気だ!!」
タツミは素早く周りへと注意喚起を行った。
タツミの警告を聞いた他のナイトレイドは目の前の敵を相手にしながらもイエヤスへと警戒心を高めた。これでは【烈風】を放っても大きな成果は得られないであろう。
【烈風】であったなら
タツミはイエヤスの元へと駆ける。遠距離技である以上接近すれば意味は薄く、一度見た技である以上、対処も難くない。防御に構えた槍で受け逸らし一撃を食らわせるつもりであった。
迫るタツミにイエヤスは焦る事はなく、柄を握る手に全集中力を注ぎ込む。
考える事はただ一つ。
斬る事のみ。
スゥゥーーーーー
深く息を吸い
「ーーーーーーーーーッ!!!」
鞘から【疾風迅雷カリバーン】を解き放つ。
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目で追えた者はいなかった。
イエヤスを注視していたタツミも
タツミの警告を聞いてイエヤスを警戒していたスサノオも
野生の動体視力を得ているレオーネも
ナイトレイドで最も戦闘力の高いアカメすらも
すべてが過ぎ去った後に事態の変化に気付く。
タツミの姿は消え、スサノオは胴体から両断され、レオーネは腕が飛んでいた。
唯一アカメだけは、その天性のセンスから何かを感じ取ったのか回避していた。
その艶やかな長髪を僅かに犠牲にして、ではあったが。
その場にいたナイトレイド全員を斬りつけたイエヤスの周りを風が舞う。
普段カリバーンの刀身が纏っている風が今、イエヤスの身体にまで反映されている。
奥の手 【封印された暴風】疾風
鞘の中に溜め込んだ風を一時的に身体に纏わせることによって、人知を超えた速さを得る事ができる技。
「……ッ、ハァハァ」
イエヤスは苦悶の声が漏れそうになるのをなんとか堪える。
イエヤスの活躍にウェイブ達の歓声を上がる。
「ナイスよ、イエヤスちゃん! スタイリッシュな働きだわ!」
渓谷上部で戦況を見守っていたスタイリッシュが歓喜の声を上げた。
イエヤスの奥の手により事態は急変した。
スサノオは上半身と下半身を分かたれて死んでいる。
レオーネは腕を斬り飛ばされて、失血死も遠くない。
姿を消したタツミはイエヤスの一閃を槍で受けた際、槍とインクルシオの高い耐久性のおかげで両断は免れたが、凄まじい勢いで吹き飛ばされて、この戦域を脱していた。吹き飛び具合と受けたダメージを考慮すると、この戦いに戻ってくる可能性は低そうだとスタイリッシュは判断した。
「……でも」
イエヤスへと視線を向けるスタイリッシュ。
ナイトレイドに気付かれない為に表には出さないように気を張っているが研究者であり医者でもあるスタイリッシュの目は誤魔化せない。
今イエヤスは身体中を走る激痛を我慢していた。
風に補助された速さは尋常ではなく肉体が耐えられない。
また、思考速度も追い付かず途中から太刀筋がブレてしまっている。
タツミ、スサノオを斬るまでは良かったが、そこから制御がブレてしまいレオーネは腕を斬るに終わり、アカメに至っては無理矢理軌道を修正しようとした隙を突かれて避けられてしまっていた。
イエヤスがこの局面まで【疾風】を使おうとしなかったのも納得の諸刃の剣であった。
だが
イエヤスのナイトレイド3人抜きという大金星にスタイリッシュはこの戦いの勝利を確信する。
しかしナイトレイドはスタイリッシュの思惑に収まるほど甘くない。
「………うぉぉおおお!!!」
両断されて横たわっていたスサノオが気合の雄叫びを上げて立ち上がる。
イエヤス達が驚きの表情で見ればスサノオの斬られていた胴体が泡立ちながら繋がっている。その光景はコロの再生を彷彿させイエヤス達はスサノオの正体を知った。
【電光石火スサノオ】は人型帝具である。生物型帝具であるコロと同様に相性の良い人間をマスターと定めて付き従い、戦闘だけでなく身の回りの世話もできる性能を持っている。
「さっすがスーさん!! 私だって!」
スサノオの復活を見たレオーネが笑みを浮かべて斬られた腕に力を込める。
筋肉や骨が見える断面が凝縮され出血が止まった。
レオーネの使っているベルト型帝具【百獣王化ライオネル】は装着者を獣と化し、身体能力や五感を大幅に強化する帝具である。ある程度の身体操作も可能であり、それを以て筋肉を操作して止血していた。
「よし! まだまだやれるぞ!!」
片腕を失い戦闘力は低下したものの戦意を失っていないレオーネにアカメは頼もしさを感じながらに頷く。そしてタツミが飛ばされた方角を見た。
「タツミは……、無事だとは思うが、合流は難しそうだな」
「流石はナイトレイド、といったところかしら? でも、流れは此方に来ている。一気に叩き潰しましょ!」
スタイリッシュの言う通りイエヤスの活躍により流れはイエーガーズへと傾いていた。
ナイトレイド側にも戦況の変化に気付いた者がいる。そして、その人物はそれを覆す術を持っていた。
ロマリー渓谷の戦いは佳境を迎える。