イエヤスが生きる!   作:七峰 舞斗

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1話 入隊試験

翌日

 

「イエヤスさん………イエヤスさんってば」

「……………んぇ……?……」

 

 自分を呼ぶ声に夢心地だったイエヤスは間抜けな声を上げながら目覚める。目を擦りながら身を起こすと、そこには困り顔のセリューが立っていた。

 

「もう、イエヤスさん、いつまで寝ているんですか!!そんなことでは兵士としてやっていけませんよ!」

「セリューさん!?、あっすみません」

 

 ようやく脳が働きだしたイエヤスは自分がまた寝坊してしまったことを悟り慌てて謝り支度する。

 

 道中

 

「気を付けてくださいね!寝坊は悪の始まりですから」

「本当にすみませんでした」

 

 聞いたことのない方便を口にしながら歩くセリューに平謝りをするイエヤス。その様子を見て、一応の収まりがついたセリューは今日の予定について話す。

 

「昨日、あの後考えてみたんですが、兵舎に案内する予定でしたが、イエヤスさんさえよければ私達が普段利用する訓練場へと行ってみませんか?おそらく今の時間なら帝都警備隊隊長のオーガ隊長がいると思うんです。オーガ隊長に腕を見てもらえれば一兵卒としてではなく、ある程度の階級からスタートできると思うんです。もしかしたら警備隊に入れてもらえるかもしれません」

「え!、それは有難いけどいいのか?」

 

 昨日のイエヤスの話を聞いたセリューは一級危険種である土竜やレッドマンティスを難なく討伐していることをふまえるとイエヤスの実力は即戦力級なのではないか、とあたりを付けたのだ。

 危険種とは帝国全域に生息する獰猛で凶暴な生物の総称。その危険性から駆除の対象とされているが、時には食料や生活の糧にもなっている。

危険度によって「四級」「三級」「二級」「一級」「特級」「超級」に分類され、上に行くほど強さが増す。中でも「超級」は伝説の存在とされており、討伐の際には帝具使いの力が必要となるほか、帝具の素材にもなっている。

 

「はい!それに実は今、即戦力となる人材が必要な時なんです」

 

 そういうとセリューは内緒話をするように手を口に当てイエヤスに近づく。

 

「っ!?」

 

 急に距離を詰められたイエヤスに緊張が走る。

 香水等といった色気なものを使わないセリューからは、ほんのり汗とお日様の匂いがした。あまり女慣れしているわけではないイエヤスはどぎまぎしてしまう。

 その様子を見てコロは不機嫌そうにしている。

 

「最近帝都では『ナイトレイド』と呼ばれる悪の殺し屋集団が暗躍しているんです。それに便乗してか、治安も悪くなっている傾向のようで私達警備隊も夜のパトロールを増やす等をして対策を練っているんですが、あまり成果を上げられていません。つい此間もパトロールをしていた別部隊の警備隊が賊の犯罪に巻き込まれて多くの死者を出してしまいました」

 

 そう言いながら悔しそうに口を歪めているセリューを見てイエヤスの中の浮ついた思いは霧散していった。

 

「そっか、確かにそれなら俺の力は役に立ちそうだな、よし!そのオーガ隊長って人に俺の腕を見てもらって帝都警備隊に入れてもらう!そんでもってナイトなんとかってのも、このイエヤス様が退治して見せるぜ」

 

 自信あり気に言って見せるイエヤスに一瞬キョトンとしたセリューだったが、すぐに笑みを浮かべた。

 

「今の話を聞いて怖気づくどころか、退治ときましたか、頼もしいですね!それでは訓練場に案内しますね!こっちです」

 

 歩きだしたセリューは、あっとイエヤスへと振り向く。

 

「自信満々なのはいいですが、気を付けてくださいね。悪はどんな手段を使ってくるか分かりません。決して一人で相手などはしないようにしてください」

「もちろん、油断なんてしないぜ。でも相手がどんな手を使ってこようと最後に勝つのは俺だ、なんてったって」

 

 ビシッと親指で己を指すイエヤス。

 

 

「正義は悪には屈しないからな」

 

 

「えっ!?」

 

 イエヤスの言葉に虚を突かれたような声を出したセリューにイエヤスは?を浮かべる。

 

「?、どうかしたか?」

「……あっ、いえなんでもありません。そうです!正義は悪に屈してはならないんです!分かってますね、イエヤスさん、さあ急ぎましょう」

「お、おう」

 

 勢いよくまくりたてるセリューの圧に押されながら足早に訓練場へと向かっていくイエヤスであった。

 

 

 

 

 

「入隊希望者だぁ?」

 

 訓練場

 案山子に向かって拳を唸らせていた大男が半ば呆れるような声を出しながら振り返る。

 白髪混じりの黒髪、伸ばされた襟足を長めのヘアバンド4つでまとめている。無精髭を生やした顔は厳つく迫力があり、その迫力に拍車をかけるように左目が大きな傷によって潰れていた。歴戦、という言葉がよく似合う大男、それが鬼のオーガと呼ばれ、犯罪者達に恐れられる帝都警備隊隊長であった。

 

「はい!話に聞くと有望そうな少年でしたので連れてきました。ささっイエヤスさん!」

 

 セリューに紹介されたイエヤスは歓迎ムードとは言えないオーガの迫力に押され気味ながらも自己紹介をした。

 

「オレの名前はイエヤスって言います。警備隊に入れてください!田舎の村に仕送りするために帝都までやってきました!剣には自信があります!!」

 

 勢いよく話すイエヤスだが、オーガの反応はいまいちであった。ハァと溜息をつくとイエヤスの後ろに控えていたセリューへと視線を向ける。

 

「セリューよぉ、いつも言ってるだろ、少しは疑う事を知れって。こんな小僧の戯言みてぇな自己申告をいちいち信じてんじゃねぇよ」

 

 正規の手続きを踏んで来いボケ、と門前払いのようにシッシッと手を振るオーガにイエヤスはカッと頭に血が上るのを感じたが、紹介してくれたセリューの手前であったこともあり、反射で喉まで出かかっていた言葉をグッと飲み込んだ。そんなイエヤスに代わりセリューが食い下がる。

 

「っ!、確かに彼の実力をこの目で確かめたわけではありません。しかし隊長、彼には正義の心があります。警備隊に入れる資格はあるかと!どうか、彼にチャンスを与えてやってください」

「セリューさん……」

 

 自分のために頭を下げてくれているセリューに感激したように名を呟くイエヤス。

 すぐにイエヤスも習うように頭を下げる。

 

「お願いします!!」

 

「…………」

 

 しばらく無言を貫いていたオーガであったが頭を上げる様子のないセリューにやがて根負けしたように深いため息をついた。

 

「しゃーねぇな、あくまでチャンスを与えるだけだぞ、見込みがないと判断すれば警備隊どころか兵になる事も許さねぇ、それでもいいんだな?」

 

 オーガの台詞にセリューは顔を上げて笑顔を浮かべ、イエヤスも即答する。

 

「はい!それでいいです。よろしくお願いします」

 

 

 オーガ隊長自らの入隊試験が始まると聞いてワラワラと各々で訓練をしていた隊員達が野次馬となって並んでいた。

「おまえら、見学もほどほどにしとけよ、ほら」

 

 オーガが壁に立て掛けられていた木剣をイエヤスに投げて寄越す。それを危な気なく受け取ったイエヤスは手に馴染ませるように軽く振る。

 

「試験は俺との立ち合い。細かい内容はなしだ。試合が終わった時、オレが見込みありだと判断したら合格。それ以外は不合格だ、分かったか?」

「はい!」

 

 イエヤスの返事に頷いたオーガは剣を構え始まりの合図をセリューに頼む。

 

「それでは……………はじめ!!」

 

 

 

 

 

 

 

(………ほぅ?)

 

 オーガは思わず唸る。

 勝ち気で世間を知らない自信過剰なクソガキ、としか評価していなかったイエヤスが、試験開始の合図とともに雰囲気が変わったのだ。

 剣を正眼に腰を低く構えて真っ直ぐ相手を見据えるその姿には一種の風格が宿っていた。サクッと終わらせる為に切り込もうとしたオーガだったが、その気迫に足が止まってしまっていた。

 

「っ!」

 

 ガキィンと木剣の交わる音が響く。

 一瞬の間に距離を詰めたイエヤスが走り抜け様に一閃。それを木剣で受け止めたオーガは振り向きながら遠心力を乗せて力強い一撃をイエヤスに叩き込む。

 オーガと同じく木剣で受け止めたイエヤスだったが、大柄なオーガが放つ一刀は予想以上の威力だったらしく、踏ん張りきれずに後ろへと飛ばされてしまう。

 飛ばされたイエヤスが態勢を整えようとするが、それを待たずにオーガの追撃が放たれる。

 相手のパワーを理解したイエヤスは避けと受け流しによってオーガの連撃を捌いて、真正面から力を受け止める事を防いでいく。

 訓練場に木剣と木剣が克ち合う音が幾度も響き渡る。

 

(あの一太刀で俺の力を把握して捌き方を変えてきたか、いい適応力だ)

(……だが、ッ!!)

 

 オーガは自分の連撃を上手くいなすイエヤスに舌を巻きながらも、内心ほくそ笑んだ。

 イエヤスの背後には訓練場を壁が迫っていた。最初の一撃で飛ばされたイエヤスは、その時すでに壁との距離が迫っており、そこからオーガは連撃でうまく壁際へと誘導していたのだ。

 イエヤスは飛ばされてから一度も背後を見た様子はなかった。ゆえにオーガはもう間もなく訪れるであろう詰みを待った。

 

「おらぁ!!」

 

 中段を大きく薙ぐ切り払いにイエヤスは大きく背後へと跳躍しての回避を選択した。

 その跳躍はただでさえ詰められつつあった壁との距離を一気に0へともっていく。壁との激突を予感したオーガは、その大きすぎる隙を突いて終わらせるために、イエヤスに向かって突進する。

 

「ッ!?、なにぃ!!??」

 

 戸惑いの声を上げたのはオーガであった。

 イエヤスの後ろへの跳躍は、まるでそこに壁があることを把握していたかのように、壁に着地した。そして、そのまま壁を蹴ってオーガへと飛んで行く。

 攻めっ気に囚われていたオーガはそのイエヤスのカウンターに虚を突かれるが、何とか反応してイエヤスの一撃を受け止めることに成功した。

 

「……っと、と、今の止められるのか、つえぇ……」

 

 渾身の一撃を止められたイエヤスは着地時に少しよろめきながら木剣を構え直す。

 

「……今の」

「ん?」

「今の壁蹴りはなんだ?、後ろに視線をやった時なんぞなかったはずだ。何故壁の位置を完璧に把握していたんだ?」

 

 オーガの問い掛けに、こともなさげにイエヤスは答える。

 

「あれだけ剣劇の音が響けば、反響ですぐ後ろに壁が迫っていることくらい把握できるさ」

「………なるほどなぁ」

 

 答えを聞いたオーガは周りに視線を軽く向けると剣の構えを解く。それにイエヤスが首を傾げた。

 

「合格だイエヤス、警備隊への入隊を認めてやるよ」

 

 内定宣言にポカンとした表情をしていたイエヤスだったが、徐々に意味が分かってきたらしく、破顔しガッツポーズを取った。周りのギャラリー達も新たな同僚の登場に歓声を上げる。

 

「っよっしゃあああぁあ!!ありがとうございます!!」

「よかったですね!予想以上の強さにびっくりしましたよ」

 

 我が事のように喜んでくれるセリューにイエヤスは礼を言う。

 

「ありがとう、セリューさん」

 

 笑顔のセリューはふとなにかに気付いた様子であった。

 

「あっ、これからは同僚なわけですから、どうか先輩と呼んでください。私もイエヤスくんと呼ばせてもらうので、それでいいですか?」

 

 セリューの申し出にイエヤスは改めて向き直り、敬礼をした。

 

「はい! 以後よろしくお願いします。セリュー先輩!」

「はい!イエヤスくん!」

 

 新しい後輩の誕生に心からの笑顔を爆発させるセリューにイエヤスはドギマギしてしまう。そんな青臭い反応に何とも言えない表情で眺めるオーガ。

 

「それぐらいにしておけ、見てるこっちが恥ずかしくなってくらぁ、おいセリュー」

「?、はい!隊長」

 

 オーガに言われた意味がよく分かってなさそうな反応を見えるセリューは首をかしげながらも返事をする。

 

「お前が連れてきたんだ。責任をもって面倒をみてやれ。おいイエヤス、しばらくはセリューに付いて色々教えてもらいな」

「はい!これからよろしくお願いします、オーガ隊長」

 

 勢いのある返事をしながらイエヤスは想う。

 

(俺は道を歩きだしたぞ、タツミ、サヨ。今どこにいるのかは分かんねぇけど、目指してる場所は一緒なんだ。そのうち会えるって俺は信じてるぞ)

 

 

 

 

 

 こうしてイエヤスは帝都警備隊に入った。

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