イエヤスが生きる!   作:七峰 舞斗

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18話 キョロク ☆

 ロマリー街道からキョロクへと向かって数週間、無事キョロク入りを果たしたイエーガーズ。

 護衛対象のボリックが歓迎会を開くとのことでそれぞれが用意された衣装に着替えて集まっていた。

 

「イエーガーズ結成の時にも似たようなやつを着たけど、やっぱ慣れねぇな」

 

 渡された衣装に息苦しさを覚えたイエヤスは首元を指で引っ掛けて伸ばしながらぼやく。

 

「そうですね、というか私がドレスを着てもミスマッチのような……」

 

 イエヤスに同意しつつも自らが着た衣装を見下ろしてなんとも言えない顔をするセリュー。

 だが、イエヤスはそれに同意で返すような事はしない。

 

「いえいえ、セリュー先輩は似合ってますよ!」

「しかし、この格好じゃいざという時に正義を実行しにくいです!」

 

 実にセリューらしい返答にイエヤスは苦笑で返す。

 イエヤス達が雑談に興じていると着替えを終わらせたエスデスが蒼髪を靡かせドレスアップした姿を披露しながら現れる。

 

「まあ、せっかくの歓迎会だ。開き直って楽しめ、なにか余興もあるかもしれんしな」

 

 エスデスを最後にイエーガーズ全員が揃ったところで会場へと移動した。

 会場に入るとすでに会場は少なくはない人数の人で賑わっていた。

 並べられた料理は豪勢の限りを尽くしており煌びやかな飾り付けも相まって宮殿で開かれたイエーガーズ結成を祝うパーティにも引けを取らない印象をイエヤスに与えた。

 会場の一番奥、俗にいう上座には一際大きなソファが置かれており、踏ん反り返るように居座る人物こそ、今回の護衛対象であるボリックである。

 ボリックは妖艶な恰好をした女性を多く侍らせており、まさにキョロクにおける王者の振る舞いをしている。

 イエヤスはその様子に鼻白んだが、それはセリューも同じなようで眉間に皺を寄せていた。

 パーティ入りしてまずは主催者へと挨拶すべくエスデスに連れられてボリックの元へと歩くイエヤスは周囲から浴びせられる好奇、羨望などなどが綯交ぜとなった視線が気になった。

 イエヤスだけに向けられたものではなくイエーガーズ全体に向けられたものだと理解しつつも僅かに居心地の悪さを感じたが、それを表には出さないように努める。

 

「……?」

 

 と、そこでイエヤスはいつぞやの宮殿で迷子になった時と同様に風の違和感を覚えた。

 会場には多くの人がいて賑わっており風は乱れているのが当然であるが、イエヤスの感覚は天井裏でも風が乱れている事を知らせてくる。

 

 風を身体に纏う【疾風】を駆使してからは、さらに感覚が研ぎ澄まされたイエヤスは明確に風が乱れた場所を探り当て、天井の一部に視線を送りながらエスデスの後に続く。

 エスデスに報告するべきかと思ったイエヤスだが、エスデスと一瞬だけ目が合い、エスデスも気付いている事を察する。

 生憎と風の乱れによって存在が分かるだけで、敵意があるかどうか等は分からないイエヤスだがエスデスが動かないのを見て、それに倣うことにした。

 エスデスがボリックと会話している間も一応油断しないように天井へと視線を送り続けているとエスデスが天井裏の存在を言及したところでついに姿を現した。

 

 ボリックの合図で姿を現した気配の正体は大臣お抱えの処刑部隊《皇拳寺羅刹四鬼》であった。

 

 堀の深い顔に異様な文様が刻まれている男イバラ

 皇拳寺特有の道着を身に着けた鼻に一文字の傷をつけた女スズカ

 口を覆うほどに髭を蓄えた大柄な禿頭の男シュテン

 道着を着崩し褐色の肌を惜しめもなく晒した少女メズ

 

 大臣から渡された帝国が誇る最高戦力の一つを我が事のように語るボリックの説明を聞かされる中、イエヤスはメズと目が合う。

 以前宮殿内で面識がある事をメズも覚えているようで、にこやかな表情を浮かべながらイエヤスに小さく手を振る。

 相変わらず謎のノリの軽さにイエヤスが答えるべきか迷っているとセリューがボリックの言葉に食って掛かった。

 イエーガーズが来たことで羅刹四鬼を護衛ではなく攻撃へと回せると言うボリックにセリューが異論を唱えたのだ。

 

「この町には帝具を使うナイトレイドという悪の集団が潜入した可能性があります。そいつらと戦うのに帝具なしでは……っ!?」

 

 セリューの話の途中で羅刹四鬼で最もの実力者であるイバラが目にも止まらぬ動きで背後へと回り込み、首筋へと手刀を繰り出す。無論寸止めするつもりであったイバラであったが

 

「なんの真似ですか?」

 

 イバラの手刀がセリューの首に触れるのとセリューが掌にある銃口をイバラの鼻先に向けるのは同時であった。

 互いの腕を交差した形で静止する二人。

 イバラはセリューの反応に意外そうにしながら先に手を引いた。

 

「ヒューー! 今のに反応するたぁ、アンタ中々やるねぇ!!」

「セリュー、イバラは自分達の強さを示すためやったにすぎん。銃口を下げろ」

 

 自分達の実力を示すためにやった示威行動だと理解したセリューはエスデスに言われた通りに腕を下げた。

 

「確かに凄い速さでしたが、私はもっと速い人を知っています! 毎日のように一緒に特訓をしてますからね」

 

 バカにしないください、と胸を張るセリュー。

 

「俺よりもっと速いぃ? クックックッ、アンタ面白い事を言うねぇ、いいねぇ惚れそうだよぉ」

 

 セリューの言葉を冗談だと思ったイバラは笑いを押し殺しながらそう言った。

 

「惚れっ!?」

 

 セリューの事が気になる今日この頃なイエヤスがイバラの言葉に過剰な反応を示す。ボリックの挨拶が終わりイエーガーズの面々は各々パーティを楽しむ事になったところで、イエヤスは先程の言葉はどういう意味かを問うべくイバラの元へと行こうとするが、その前に声を掛けられた。

 

「よっす、迷子の風くん! 久しぶりだな!」

 

 快活な挨拶をしてきたのはメズであった。

 メズは不満そうに膨れっ面をしながらイエヤスへと近付く。

 

「手を振ってるのに無視はひどいんじゃない?」

「あ、あぁ、悪い、距離感がいまいち掴めなくてな」

 

 グイグイ来るメズに押されっぱなしのイエヤス。

 二人の様子をメズの後ろで見ていたスズカとシュテンも会話に参加してくる。

 

「君が迷子の風くんね、前にメズから聞いた事があるよ」

「規格外のエスデス将軍と暗殺部隊上がりのクロメは分かるがお主もワシらに気付いておったな! やるではないか迷子の風とやらよ!!」

 

 片目を瞑りながら手を上げて気さくに声を掛けてくるスズカ、胸の前で腕を組んで黒髭の奥から白い歯を見せて愉快げな笑みを浮かべているシュテンの二人にイエヤスは小さな声を漏らす。

 

「……変な渾名が浸透してる……」

 

 イエヤスの呟きをスルーしたメズがキョロクの案内を買ってでる。

 明日からイエーガーズがボリックの護衛を始める事になるが、初めて来たキョロクの地理を頭に入れるために交代制で街に出ることになっていた。

 他のメンバーに比べてイエヤスはその割り振りが多く与えられているのはエスデスが部下の性分をよく理解している証拠であろう。

 先にキョロク入りをしていたメズの案内があれば道を覚えるのが少しでも早くなると判断したイエヤスはメズの申し出を喜んで受けることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外側はそうでもないけど、中心付近は凄い入り組んでるなぁ」

「そうだねー、私達も慣れるのにちょっとだけ手間取ったし、迷子の風くんだとどれくらいかかるか検討もつかいないね」

 

 イエヤスがキョロクの案内をしてもらって数刻、まるで迷路のように入り組んだ街並みにイエヤスが辟易としているとメズが煽るような事を言った。

 

「……あのさ、その迷子の風くんってやつ、やめないか?」

「ん? もしかして結構気にしてる感じ?」

 

 堪らず漏らしたように言葉を出したイエヤスにメズは気にした様子はなく、変わらず軽いノリで聞き返す。

 

「あぁ、ちょっと前にな、自分の方向音痴に嫌気が差しているところなんだ」

 

 イエヤスは渓谷でウェイブを探せなかったことを思い出して苦虫を嚙み潰したような顔をする。

 

 仮にイエヤスがウェイブの捜索を始めて真っ直ぐに向かったとしてもチェルシーがウェイブを仕留めて離脱するのには間に合わないタイミングであったが、それを知る由もないイエヤスは自分の方向音痴に心底うんざりしていた。

 そこに迷子の風くんと言う不名誉にすぎる渾名は神経を逆なでされた気分となるのも無理もないことであった。

 

「そっかそっか、……うーーん」

 

 納得した様子のメズは少し考えるような素振りを見せた後、何かを閃いたようでポンッと手を叩いた。

 

「ちょっとついてきて!」

「えっ!? お、おい」

 

 壁を蹴って民家の屋根へと上っていくメズの突然の行動にイエヤスは戸惑いながらも同じ動きでついていった。

 屋根で待っていたメズに追い付いたイエヤスにメズは町の中央を指差す。

 

「キョロクの町ってさ、建物の高さが統一されやすい傾向にあるから屋根に上れば、ほら、ボリックがいる中央の宮殿がここからでも見えるでしょ?」

 

 メズが逆の方向へと指を返す。

 

「で、町の門があっち、方向が分からなくなっても高い位置からだと自分の場所も把握しやすいからオススメだよ」

 

 メズの説明を受けたイエヤスに電撃が走る。

 

「……自分の場所……高い位置……風…………そうか!」

 

 何かを閃いた様子のイエヤスが一人呟く様子にメズは首を傾げる。

 イエヤスは腰の鞘に手を掛け、カチリと金属音を鳴らした。その後、柄を握り締めて集中する。

 いきなり臨戦態勢へと移行したイエヤスにメズは目を丸くしながら思わず距離を取った。

 

「え? なにをするつもりだ?」

 

 メズの問いにイエヤスは内心申し訳ないと思いながらも反応しなかった。

 脳裏に過った閃きが過ぎ去る前に実行に移りたいのもあったが、理由はもう一つあった。

 両手から伝わってくる感覚に全集中力を注ぎ込むためである。

 鞘の中で溜まり始める風の感覚をしっかりと把握する。渓谷での戦いではなりふり構わず全力の風を纏い、その後の活動に支障をきたすレベルの反動を受けてしまった。

 だが、今求めるのは全力じゃなくていい。

 鞘からカリバーンが抜かれる。

 あの時の感覚を思い出しながら、あの時とは違い多くの風を周りへと逃がしつつ上空へと向かわせる。

 纏う風を加減して、真上へと跳ぶべく地面を全力で蹴った。

 

 

 

 

 

「………うぉぉ………」

 

 今まで経験したことのない景色がイエヤスの視界を覆う。

 上を見れば空を間近に感じ、空気が澄んでいる気がした。

 下を見れば賑わっていた出店通りの人々がまるで蟻のように小さく見えた。

 身体を纏う風はイエヤスに浮遊感を与え、慣れていないイエヤスはむず痒さな感覚に小さく身震いする。

 己の身体を軽く見渡したイエヤスは手加減は上手く働き、身体を痛めるには至っていない事を確認して安堵の吐息を漏らした。もっとも手加減をした故に上昇スピードは決して速いものではなく、【疾風】のように絶大な速さを得ることはできなかったが。

 

「ねぇねぇ、今のどうやったの?」

「うぇ!?」

 

 キョロクの遥か上空でまさかの掛け声にイエヤスはへんな声を出してしまった。

 慌てて声のした方向に顔を向けると直ぐ近くにメズがいた。

 

「メズ!? どうなってんだ、それ!!」

 

 メズは両手を下に向けており、そこから伸びた爪が地上へと伸びていた。

 皇拳寺羅刹四鬼は爪や髪の毛、汗などを特殊な特訓によりある程度操る事ができる事を説明されイエヤスは自分の帝具の事を話した。

 

「へぇ!! 凄いじゃん、空を飛べんのか!!」

「いや、飛んでねぇよ。よく見ろ、ちょっとずつ落ちていってるだろ?」

 

 イエヤスが纏った風によって起こされる浮力によって落下スピードが著しく低下しているだけで飛んでるわけではないと説明するイエヤスにメズは納得した。

 

「あと、戦闘には使えないな、重大な欠点に気付いた」

「なになに?」

「こっちから攻撃する手段がない」

 

 イエヤスが持つ唯一の遠距離技である【烈風】は一度カリバーンを鞘に納めなければならない。そうするとイエヤスに纏う風は消えて自由落下してしまう。

 また、イエヤスの速さは蹴り脚の強さによるもののため、浮いた状態だと身動きが取れない。相手側に遠距離武器があれば唯の的となる。

 

「え、弱……」

「率直な意見やめてくれ」

 

 イエヤスは俺には意味があるんだと息を巻く。

 上空から見れば自分の居場所や地理関係などが一目瞭然であり、これで少なくとも屋外では目的の場所へといけないという事態にはならないとイエヤスは豪語した。

 

「これでもう迷わなくてすむぜ」

「もう迷子にならずにすむな!」

「……迷子って表現やめて」

 

 歳はそう変わらないはずなのにやたらと子ども扱いしてくるメズに溜息を吐く。

 元居た屋根へと着地しながらイエヤスは

 

「ありがとな、いいヒントをもらったぜ」

 

 礼を言った。

 

「なんか思ってたのと違うけど、風くんの力になれたなら良かったよ」

「……意地でもイエヤスって呼ぶ気はないのな」

 

 げんなりと肩を落とすイエヤスにメズは肩を叩いて笑みを浮かべる。

 

「せっかくついた渾名だし残してこうよ」

「お前が勝手に付けたんだろ……」

 

 それとも、とメズは少し上目遣いで窺うようにイエヤスを見た。

 

「この渾名も不快?」

  

 メズの独特な距離の詰め方に翻弄されて忘れていたが、改めて見るとメズがかなりの美少女であることを思い出さされたイエヤスは少しドキリとさせられながらも答えた。

 

「いや、別にいいよ、風が俺の代名詞な感じはあるしな」

 

 風を纏って戦う事ができる自分の渾名が風なのにイエヤスはしっくりきていた。

 

「どうせなら今度からは自分で名乗ろうかな。【疾風】のイエヤス! とか」

 

 調子に乗って自分で渾名を考えるイエヤスだが

 

「ださっ!!」

「は?」

 

 メズの容赦のない言葉が刺さる。 

 

「おま! 風くんとどう違うんだよ!!」

「風くんはなんか愛嬌があるじゃん、可愛い感じの! でも【疾風】とか格好付けてる感ありすぎ! ダサいよ、逆に!」

「……逆ってなんだよ」

 

 初めて出会った時から変わらず翻弄し続けるメズに対する苦手意識は簡単には拭えそうにないイエヤスであった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

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