イエヤスが生きる!   作:七峰 舞斗

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20話 慟哭 ☆

「フンッ、ハァッ! セイッ!!」

 

 拳を鋼の如く強化したシュテンが次々と繰り出す手刀や突きをシェーレは冷静に躱していく。エクスタスを広げ突き出された拳の切断を狙うが、そう易々と切られるシュテンではない。しっかりと腕を引いて隙は見せないでいた。

 生半可な刃を通さない強靭な肉体を持ち味としているシュテンだが、エクスタスの切れ味は全帝具の中でもトップクラス、何の抵抗もなく分かたれてしまうだろうことはシュテンにも分かっている。

 しかし、エクスタスは反則級の切れ味を持っているがそれはしっかりと挟んだ時に発揮されハサミを開いたまま片刃の剣のように扱っては切れ味は大幅に落ちてしまう欠点があった。

 並の相手であれば、シェーレの巧みな鋏捌きの前に難なく挟まれ真っ二つとしてしまうが皇拳寺羅刹四鬼は並ではない。シェーレは焦らず確実に挟める機を狙う。

 

「フハハッ! 若いのに肝の据わった小娘だな! さぞ苦難を味わってきたのであろう、ワシが魂の救済をしてやろう!!」

 

 気合を入れたシュテンが拳を唸らせ目にも止まらぬ連打を放つ。

 

「皇拳寺百裂拳!!!」

「魂の救済が何かは存じ上げませんが、遠慮させて頂きます!」

 

 幾重もの拳があるように幻視する程の連打。

 これは回避だけでは捌き切れないと判断したシェーレはエクスタスを横向きに構え盾として用いた。後方へと下がり拳の勢いを殺しながら連打を受け切ったシェーレは、ここを反撃の好機と見た。

 

「ヌォ!!?」

 

 突然の発光がシュテンの視界を覆う。

 事前にエクスタスの奥の手の存在は聞かされていたシュテンは目に光の直撃は避けられたが、エクスタスの奥の手は分かっていて防げる類いのものではない。

 絶対の切断力を持つエクスタスを直視できないのはかなりのリスクが伴う。間合いを図れず見切りが困難となり、どうしても大袈裟な避け方を余儀なくされる。

 動きの大きな回避行動は反撃する隙が生まれず、シュテンは防戦一方となっていた。

 

「!! 勝機!!」

 

 あと一歩で追い詰める事ができると踏んだシェーレの功を焦った動きに隙を見つけたシュテンは口周りに生やした髭を硬化、伸長させてシェーレの不意を突く。

 

「ッ!?」

 

 眼前に迫る鋭利な髭を首を逸らして躱し目をえぐられる事は避けられたシェーレだが、攻撃が途切れてしまう。その大きすぎる隙にシュテンは渾身の一振りをシェーレの鳩尾を狙い穿つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シェーレと分断されたタツミは近場の森の中でスズカと対峙する。

 

「うぉぉおおおおおおおおお!!!」

「ッ、ック、アッ! ハン!!」

 

 インクルシオの副武装ノインテーターによる連撃を浴びて嬌声を上げるスズカ。

 だが、直撃は受けず全身から血を吹き出すが深手はないという器用な状態となっていた。

 

「いい、いいよ!! 動きに粗が多くて実戦不足が感じ取れるのは残念だけど、それを余りある身体能力のポテンシャル! 聞いてた話よりも楽しめそうじゃない!!!」

「何なんだコイツ……」

 

 スズカの謎のテンションについていけないタツミは困惑する。

 だが、こんなノリでも数多の帝具使いを処理してきたスズカは帝具使いとの戦い方を熟知していた。

 インクルシオの装着時間に制限があると見抜いたスズカは焦らずじっくりと戦うことを狙っていた。とはいえ、タツミの猛攻は激しく堪え切れるかは五分五分というのがスズカの予想であった。

 耐え切れるか分からない戦いにスズカは喜びで身震いする。

 

「あぁ……堪らないわぁ」

「クソ! ……落ち着け俺」

 

 真剣に本気で攻めているにも関わらず、マイペースを崩さずのらりくらりと時間稼ぎをするスズカに苛立ちを隠せないタツミだったが、兄貴だと慕っていた先代のインクルシオの使用者であり今は亡きブラートの言葉を思い出して冷静さを取り戻した。

 

 魂は熱く、だが頭はクールに! だよな兄貴

 

「………」

 

 思ったことを敢えて口にする事で相手の冷静さを掻く作戦が失敗した事を悟ったスズカはどうしたものかと思考する。

 とそこに

 

「ふむ、まだ終わっておらんようだな」

 

 シュテンが駆け付け、スズカの傍まで来る。

 

「そっちは終わったようだね」

「うむ、メガネの女は救済した。今度は小僧の番だな」

 

 拳を掲げてシェーレを殺した事を報告したシュテンは両腕の埃を払うように動いた後、タツミへと視線を向けた。

 

「ッ!! ……オオオオオオオォォォォォ!!!」

 

 視線を向けられたタツミは裂帛の声を上げて槍を構え突撃の姿勢を取った。

 

「うわっ! びっくりしたー、何? 仲間が殺されて怒ったの?」

 

 突然の大声に驚きつつもスズカはカウンターの構えを取る。

 作戦とは違ったが冷静さを掻き色彩の欠けた突撃をしてきたタツミに必殺のカウンターを食らわそうとする。

 だが

 

「…………えっ!?」

 

 軽い衝撃を首に受けたスズカは身動きが取れなくなってしまう。

 そして

 

「ガハッ!!!」

 

 タツミの突撃をもろに受け胴体を貫かれた。

 そのまま押され続けたスズカは樹へと激突しノインテーターによって樹へと貼り付けられる形となった。

 

「ハァハァ……ゲハッ! ……フフフ」

 

 内臓を傷付けられて吐血したスズカは胴を貫かれた未曾有の痛みと死が迫る感覚に笑みを浮かべた。

 そんな様子を薄気味悪そうに見るタツミとシュテン。

 スズカが最初に受けた首への不意打ちはシュテンが手にしている針によるものだった。

 シュテンから煙が立ち込み始め姿が変わる。

 ムキムキの巨体から小柄な女性へと姿を変えたシュテン、改めチェルシーが正体を現した。

 

「……なるほ、ど……ね………」

 

 自らの敗因を悟ったスズカは死へと至る痛みをじっくりと堪能しながら息を引き取った。

 スズカの最期を見送った二人は拳を合わせて勝利を祝う。

 

「ナイスだよタツミ、戦闘の最中でもしっかり合図を覚えてて冷静だったじゃん」

 

 チェルシーはタツミを褒めウインクする。

 シュテンとして合流して最初に行った両腕を払う動作と目配せはチェルシーが敵に化けている時に誤って攻撃しないようにするための符丁だったのだ。

 

「合流場所に来たらバトってたから焦ったよ。シェーレは大丈夫そうだったからこっちに来たけど正解だったかな」

「実際助かったけどさ、そう言われると微妙な気持ちになるな、俺だって大声で注目を浴びてチェルシーの援護をしただろ?」

 

 功績を訴えるタツミにチェルシーは指でタツミの額をコツンと軽く弾く。

 

「ちょっとあからさま過ぎて怪しかったけどね、あれは」

 

 でも、と付け足す。

 

「いい援護だったよ、ありがと」

 

 二人はレオーネとシェーレの援護をすべくその場を後にした。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バ、バカな………」

 

 身体を袈裟に両断されたシュテンが地べたを這いながら呟く。

 

 相手の鳩尾に向かって渾身の一撃を放ったシュテンだったが、それを待っていたかのようにスラリと躱したシェーレはそのまま流れるように懐へと飛び込み開いていたエクスタスの刃をシュテンの左肩と右腰へと当て閉じた。

 抜群の切れ味はシェーレの手に抵抗を感じさせず、あっけないほど簡単にシュテンを両断した。

 死にゆくシュテンを冷たい視線で見下ろすシェーレは冥土の土産を口にする。

 

「貴方が見出した隙はワザとです。エクスタスの奥の手を発動すると大体の方が勝機を焦って私が用意した隙に飛び込んでくれます。すいません」

「…………」

 

 袈裟に両断されたシュテンが長く生きられるはずもなく、シェーレが《貴方が見出した》といった時点で絶命しているので冥土の土産を受け取れたのかは微妙なところであった。

 

 ペコリ

 

 自らが命を奪ったシュテンに頭を下げたシェーレは分断されたタツミを援護すべく走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオーネとメズが肉薄しながら互いに拳を振るい合う。

 メズの拳がレオーネの露出した肩を掠め傷を作る。

 レオーネの拳はメズの頬にもろに当たる。

 だが

 

 ツルッ

 

 頬を捉えた手応えは霧散して拳は横へと逸れてしまう。

 渾身の一振りを空かされて態勢を崩したレオーネにメズの攻撃が当たり呻き声を上げた。

 

「ウグッ! なんなんだ、そのビックリボディは……」

 

 接敵した当初は互角の戦いをしていたレオーネだったが、レオーネの戦い方が主に格闘であることを理解したメズが大量の汗を分泌してから戦況は変わった。

 ただの冷や汗かと思ったそれは唯の汗とは思えない程、潤滑性が高くよく滑る。

 摩擦を殺されて掠める程度のヒットどころか、先程のようなやや当たりの攻撃すらも空かされてしまっていた。

 

「羅刹四鬼ってのはこういうのが得意なんだよ、それに」

 

 メズは器用にも自分の攻撃は滑らないように汗を掻いていない手でレオーネを指差した。

 

「唯よく滑るってわけじゃないんだよ?」

 

 その言葉を聞いてレオーネは汗を浴びた拳を見る。言われてみれば少し手が痺れる感覚が湧いてきた事に気付いた。

 流石に致死性の毒は出せないが弱い麻痺毒が込められている事を悟ったレオーネの顔色が悪くなる。

 今はまだ戦いに支障が出る程ではないが、戦いを重ね手を汗で濡らす度に深刻化していくことは想像に難くなかった。

 

 拳で戦うレオーネはメズとの相性が最悪と言えた。

 さらに

 

「戦ってて気付いたんだけどさ、アンタ利き腕の調子悪そうだな?」

「………」

 

 メズの指摘にレオーネは返答を返さなかった。

 それは肯定するに等しい沈黙であったが、レオーネも羅刹四鬼相手に隠し通せるとは思っていなかったため、気にはしなかった。

 

 渓谷での戦いでイエヤスに腕を斬り飛ばされたレオーネ。

 腕を持ち帰り縫合することで隻腕になる事は免れた。通常ならば引っ付く事はないが、回復力を大幅に上げるレオーネの帝具ライオネルの奥の手【獅子は死なず】(リジェネレーター)によって事なきを得たのだ。だが、如何に回復力が高くとも縫合が上手くいかなければ完全に元通りとはいかない。糸使いであるラバックが居れば問題なかったであろうが、残念ながらラバックはエスデス達の足止めの際に死んでしまっていた。

 故にレオーネの利き腕の神経は通いきっておらず本調子とは呼べない状態となっていたのだ。

 

「そんな腕でアタシに勝とうなんてナメすぎじゃない?」

 

 メズの言葉は至極最もな話であったがレオーネは全く気にはしないし引きもしない。

 

「状況ってのは待っちゃくれないんだよ、アレだから勝てないコレだから勝てないなんて逃げる理由を探しても何も変わらねぇ! そんなもん気にする頭がありゃ」

 

 拳を握り締めて構えを取る。

 

「今ここに立っちゃいねぇよ!!」

 

 啖呵を切ったレオーネの気迫を受けたメズは楽しそうな笑顔をしながら同じく構える。

 

「いいね! そういうの嫌いじゃないよ、まっ、死んでもらう事に代わりはしないけどね!」

 

 地面を蹴り互いに接近した二人は再び戦闘を始める。

 身体の芯を捉えなければダメージを与えられないレオーネの劣勢は啖呵を切っても変わらず徐々に押され始める。

 気付けば場所は移り変わり森を出て開けた所となっていた。レオーネの背後には崖が待っており見た通り追い詰められている。

 

「……クッ」

 

 身体に受けた節々の傷が痛みレオーネは顔を歪ませ、思わず片膝片手を地面に付いた。

 

「本調子じゃないのに頑張ったと思うよ? じゃあね」

 

 メズはシュテン直伝の拳を硬化させる技を用いて止めをさすべく駆ける。

 レオーネは突っ込んでくるメズから一縷も視線を外さず、地に着けた手に力を込めた。

 地に着けた握り締められた手の中でゴリッという音を鳴らし、そのまま手を開きながらメズに向かって腕を振る。

 

「!? うわっ!!」

 

 地面の石ころを砕き粉状にしたものを顔面に食らいメズの勢いが弱まる。目に入り視界も黒に染まる。突進を中断し一旦距離を取ろうとするが自ら手繰り寄せた千歳一遇のチャンスをみすみす逃すレオーネではなかった。

 

「逃がさねぇよ!!」

「ガァ!?」

 

 首を掴まれ持ち上げられるメズ。

 ほっそりとした首をしっかり掴み、汗には先程塗した土埃が付着しており潤滑性を弱めていた。

 

「ありゃ、つい癖で利き腕のほうで掴んじゃったよ」

 

 握り潰さんと力が込められてゆく。

 

「ま、リハビリってことで!」

「……グッ………ごのっ!!」

 

 首を掴む腕を抑えるメズだがピクリともしない。基本的な膂力では勝てないと悟ったメズは身体を捻りオーネの脇腹を狙って蹴りを放つ。

 

「っ! よっと!!」

 

 蹴りはレオーネにダメージを与えたが首を離すには至らず、蹴り脚を残っていた腕で抑えつけられて拘束力が増す。がレオーネの両腕が埋まったのを確認したメズは手をレオーネへと向けて爪を伸ばす。

 メズの爪を読んでいたレオーネは首を逸らして目をえぐられる事を避ける。

 レオーネの頬を爪が掠め血が流れる。

 密着で行われる攻防の間もレオーネは利き腕に力を籠め続けていた結果

 

「……ハッ………ァグ……ァ」

 

 メズの顔色は朱から蒼へ、そしてドス黒く変わってゆく。

 

「いたぶる趣味はないんで、じゃあな」

 

 抵抗する気力を無くした事を察したレオーネは利き腕に力を籠める事に全力を尽くした。

 

 

 

 

 

 

 そして

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 決着がつく。

 

 

 

 

 メズの腕から力が消え失せダランと垂れ下がる。

 首の骨を折った感触を得たレオーネはメズの身体を放り投げた。

 崖へと吸い込まれていったメズは数秒後、地面との激突音。

 音を確認したレオーネはタツミ達の元へと戻るべく、その場を後にした。

 

 

 合流したタツミ、チェルシー、シェーレ、レオーネの四人は互いの無事に安堵しながらアジトへと戻り、そこでアカメから羅刹四鬼の残り一人イバラを倒した事を知らされ皇拳寺羅刹四鬼の全滅を喜び合うのだった。

 

 

  

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 翌日、エスデスから総集を受けたイエーガーズが集まり、昨日の夜ランが空からの偵察にてアカメを発見したことによりナイトレイドのキョロク入りを説明された。

 さらには朝方アカメを発見したキョロク郊外の墓地で羅刹四鬼のイバラの遺体が発見されていた。他の羅刹四鬼も昨晩から連絡が途絶え消息を絶っていた。

 ナイトレイドが確認できた以上生存は絶望視され、地理関係を知る為の町巡りは終わりとして護衛に集中する旨がエスデスの口から達せられた。

 イエヤスが捜索を願い出るが却下され、捜索はボリック子飼いの手下達に任せるように言われた。エスデスの口調には羅刹四鬼の全滅を確信めいたものがあり、それはイエヤスにも嫌というほど伝わった。

 

「………」

 

 イエヤスは護衛の任務を終わらせ日課である寝る前の素振りを中庭にて行っていた。

 結局イバラ以外の羅刹四鬼は発見されなかった。

 

 雑念を払うように一振り一振りに気合を込めるイエヤスだが頭の中では羅刹四鬼の姿、特に交流の多かったメズの姿が浮かんでいた。

 

「……クソ」

 

 剣を振る

 

「………クソ!」

 

 ひたむきに

 

「…………クソ!!」

 

 我武者羅に

 

「……………クソ!!!」

 

 ひたすらに

 

「……………………」

 

 素振りを唐突にやめカリバーンを地面へと突き刺す。

 

「クソーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 

 慟哭がメズと共に飛んだ冷たい空へと上った。

 

 

 

 

 

 再びイエーガーズとナイトレイドがぶつかる日は近い。

 

 

 

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