イエヤスが生きる!   作:七峰 舞斗

25 / 40
22話 キョロクの長い夜 暮夜

 エスデス達がいる大聖堂の大広場から出て廊下を歩いてすぐの所にはそこそこの広さがある中庭が配置されている。その中庭で今ナイトレイドが現れボリック子飼いの兵やキョロクに配備されている帝国兵を相手に大暴れしていた。

 争いの騒音が大広場にも響きエスデス達の耳朶を叩く。

 イエヤスやセリューは興奮冷めやらぬ様子で時折深呼吸を交え平静を意識する。

 

「気になるのは分かるが行くんじゃないぞ」

「分かっています。中庭の奴らは陽動の可能性が高いですからね」

「はい! 悪の狙いに乗ってやるものですか!!」

 

 エスデスの忠告にイエヤスとセリューは応えた。

 ナイトレイドの侵入報告を聞いたエスデスは確認できたナイトレイドの人数が少数であった事から囮であると読み、中庭で暴れて見せているがあくまで狙いはボリックのはず、ならばわざわざ此方から出向いてやる必要はないと判断した。

 スタイリッシュもその考えに賛同しイエヤスとセリューも納得した。

 報告に来た兵士を使って屋外で待機しているイエーガーズメンバーには中庭の騒ぎは気にせずにそのまま警戒を続けるように指示していた。ついでにキョロクの各所を守っている帝国兵にも応援を頼んでいる。

 

 中庭で確認できたナイトレイドはナジェンダ、スサノオ、タツミの3人であった。

 残りのナイトレイドの姿が確認できていない事からもエスデスは確信に近い気持ちで待ちに徹する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月夜に照らされたキョロクに小さな影を落とすものが空を進む。

 空を泳ぐ空遊漁、特級危険種エアマンタ。

 その背には複数の人が乗っていた。

 アカメ、シェーレ、レオーネの3人。

 大聖堂の中庭で暴れているメンバーがエスデスを引き付け、その間に残りのメンバーがエアマンタによって空から大聖堂へと急襲、そのままボリックを討つ作戦であった。

 

「大聖堂の天井はシェーレが斬ってくれな」

「分かっています。任せてください」

 

 レオーネの言葉に自信満々に頷いて見せるシェーレの膝元ではマーグパンサーの子供が蹲っていた。子猫のような見た目は愛くるしく、だがゆえに緊張感を持ったこの場では場違い感があったが、それを気にするものは一人もいなかった。

 

 ナァー♪

 

 過去最大級の難易度を誇る今回の暗殺を前にメンバーの緊張を解すように可愛い鳴き声をあげる子猫をシェーレは愛おしそうに撫でる。

 

 

 

 キョロクの上空でキラリと一筋の光が煌めいた。

 大聖堂へと近付くエアマンタを後ろから超スピードで横切る者が現れる。

 

「なっ!?」

 

 驚きの声を上げるアカメ。

 

「やはり空から来ましたか。今回は私の読み勝ちですね」

 

 空を駆けるランが勝ち誇るように笑みを浮かべ、

 

「私という存在を知りながら空を選ぶとは、ナメられたものですね」

 

 エアマンタに向かって羽根を連射的に飛ばす。

 

「その代償、払ってもらいますよ!!」

 

 対処されないようにエアマンタの下側から放たれた羽根の銃弾はエアマンタを穿ち命を絶つ。

 

「まずい、落下するぞ!」

 

 落下し始めるエアマンタにアカメ達は焦る。

 ランは追い打ちを掛けるべく今度はアカメ達に向かって羽根を飛ばす。

 エアマンタの上という限られた足場のため回避ができない状況であったが、アカメとシェーレはレオーネを庇うように前へと立ち得物ですべて切り払う。

 遠距離持ちがいない事を確認しているランはその優位を生かすべく決して届かない位置から攻撃を仕掛けるため決定打には欠けていた。

 

「サンキュー! アカメ、シェーレ! 今度はこっちの番だな」

 

 庇ってもらったレオーネは礼を言い、段々と近付く地面へと目を向けた。

 エアマンタの亡骸を蹴って下方向へと跳んだレオーネは誰よりも一早く地面へと向かう。帝具ライオネルの獣化により大幅に肉体強化されたレオーネは僅かに両足に痺れは感じるものの無事着地、空を見上げ降ってくるエアマンタごとアカメ達をキャッチすることに成功する。

 

「ナイスキャッチだ、レオーネ!」

「ありがとうございます」

 ナァー

「いいってことよ」

 

 アカメ達の礼を流しながらレオーネは目的地だった大聖堂へと視線を移した。

 少し離れた位置に着地してしまったアカメ達は大聖堂へと向かおうとするが当然立ち塞がる者達が現れる。

 

「お姉ちゃん、会いたかったよ」

 

 八房を既に抜き、年の瀬に似合わぬ妖艶な笑みを浮かべるクロメと

 

「ここから先は行かせないよ」

 

 帝具ルビカンテの銃口をアカメ達に向けるボルス、さらに

 

「あの高さから落ちて全員無事とは流石はナイトレイド、と言ったところでしょうか」

 

 一旦帝具を休ませる為にクロメ達の後ろへと着地したランであった。

 

 

 クロメ&ボルス&ラン VS アカメ&レオーネ&シェーレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、ナジェンダ」

「エスデス……」

 

 大聖堂の大広場でエスデスとナジェンダが相対する。

 中庭で陽動の為に暴れていたナジェンダ達だったがどれだけ暴れてもエスデスは現れなかった。

 このままでは空から急襲するはずのアカメ達の援護を出来ないと判断したナジェンダ達は危険を承知で標的のボリック含めたエスデス達が待つ大広場へと突入し、現在に至っていた。

 

「お前には色々と聞きたいことがあるんだ。私と踊ってもらった後招待しよう。拷問室へとな」

 

 これから起こるであろう激しい戦闘に備えて被った軍帽の鍔を握り深々と被り直しながら宣言するエスデスにナジェンダは油断なく睨め付けながら応える。

 

「勘弁願いたいな、出来ればお前とは口をききたくない」

「つれない奴だな」

 

 招待状を無碍にされたエスデスは余裕の雰囲気を崩さず侵入者達を眺める。

 ナジェンダはスサノオの後ろへと控えており、スサノオはいつでも戦いを始められる姿勢を取っている。

 報告よりも人数が減っている事に気付いたエスデスは視線をナジェンダ達へと向けたまま、後方に控えるイエヤス達へと指示を出す。

 

「お前達はボリックから離れるなよ、どこから他の奴が来るか分からんぞ」

「「「了解」」」

 

 護衛を信用できる部下に任せたエスデスは一歩前に出ながら腕を上げ宙に氷を発生させる。

 

「では、いくぞ」

 

 

 エスデス VS スサノオ&ナジェンダ

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国最強を前にナジェンダは出し惜しみをしない。

 

「スサノオ、奥の手だ!」

「承知!!!」

 

 ーー禍魂顕現ーー

 

 ロマリー渓谷でも見せたスサノオの奥の手が発動する。

 生命力を吸われ全身に力が入らなくなったナジェンダが片膝を着く。

 圧倒的威圧感を出すスサノオにエスデスは期待を込めた瞳を注ぐ。

 

「それが話に聞いた奥の手か、楽しめそうだ!」

 

 浮かした氷柱がスサノオに向かって放たれる。

 夥しい量で飛来する氷柱をスサノオは手持ちの棍棒を振り回して叩き落す。

 氷柱に紛れて直進したエスデスが接敵してサーベル型の剣を片手に突きをメインとした剣劇を披露する。

 ロマリー渓谷ではコロ、イエヤス、セリューを相手取り引けを取らないどころか、押していたスサノオだが帝国最強は伊達ではない。まるで舞うように振るわれるサーベルは、その細腕から繰り出されているとは思えない程の殺意と練度が込められている。

 氷とサーベルを組み合わせた独自の剣技を前にマスターの命を削る奥の手を以てしても苦戦を強いられるスサノオ。だが決して押されっぱなしというわけではなかった。

 

「ムッ!」

 

 サーベルと棍棒が幾度も交じり合う中、スサノオは回避と両立させた回し蹴りをエスデスの腹へと叩きこむ。

 瞬時に胴体に氷を纏い砕かせる事によって威力を殺したエスデスだが、完全には殺し切れず幾ばくかの距離が開ける。

 ならば好都合とサーベルを掲げて遠距離攻撃を行う。宙に浮かせた氷柱は防がれた為、今度は地を這うような氷柱がスサノオを襲う。対処の難しい下方からの攻撃だがスサノオは棍棒を地面に叩きつけて氷ごと叩き割る。

 

「やるじゃないか、これ程の手練れは久々だな!」

 

 戦闘を楽しむ余裕があるエスデスに対しスサノオは臆面には出さないが焦燥の念を押し留める。禍魂顕現には時間制限があるので攻めあぐねるわけにはいかないのだ。

 

 傍目上は拮抗する戦いを見せるエスデスとスサノオの高レベルな戦闘に目を奪われそうになりながらもイエヤスはある事に気付く。

 気付いたのはイエヤスだけではなく、スタイリッシュの近くで控えている《鼻》も同様であった。

 《鼻》から強化された嗅覚が捉えた異常を聞いたスタイリッシュはイエヤスへと声を掛ける。

 

「……イエヤスちゃん!」

「分かっています」

 

 スタイリッシュが言わんとしている事を察したイエヤスはカリバーンを抜きエスデス達が戦っている場所とは違う大広場のある一点へと真っ直ぐに向けた。

 《耳》と《目》からは逃れても《鼻》からは逃れられず、また風からも逃れる事はできなかった。

 

「そこにいるのは分かってるぜタツミ! 姿を出しな!!!」

 

 上げられた剣先はブレず視線と合致して唯一点を差す。

 イエヤスの確信に満ちた眼差しを受けて徐々に何もなかった空間が色を持ち始める。

 白み掛かった鎧に身に纏った者が姿を現した。インクルシオを装備したタツミである。

 

 タツミは大広場に入る際に奥の手であるステルス機能を使って姿を消していた。

 エスデスとスサノオが戦っている騒ぎに乗じてボリックに少しずつ近付いていった。姿を完全に消し気配も消す事に成功していたタツミであったが、物理的に消えるわけではない以上動けば空気が動く。それを風として読み取る事ができるイエヤスとは相性が悪かった。

 

 タツミの姿を確認したイエヤスは他に怪しい風がないかを確認した後、セリュー達にはボリックの傍を離れないように頼んだ。

 

「タツミとの勝負もこれで3回目か、いい加減決着を付けないとな」

「……渓谷ではイエヤスに一本取られたが、あの日と同じ俺だとは思わないほうがいいぞ」

 

 互いに武器を構え合う二人。

 エスデスはイエヤスの因縁ある相手ということで邪魔をする気はなかった。スサノオはエスデスの相手で精一杯でタツミの援護は不可能。ナジェンダはスサノオに生命力を吸われ動くことはできない。

 邪魔するもののいない中、イエヤスとタツミがぶつかる。

 

 

 イエヤス VS タツミ

 

 

 

 

 戦いは始まったばかり、キョロクの朝はまだ遠い。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。