大聖堂へと続く、両端を林で囲まれた道では争いの騒音が絶え間なく鳴り響いていた。
死体人形ヘンターと剣舞を演じていたアカメがその場を飛び退く。
アカメが居た場所を巨大な足が地面ごと踏み砕いた。
難を逃れたアカメが足の持ち主を見上げながら睨みつける。
全長数十メートルは下らない巨体は外骨格で覆われており恐竜の骨を彷彿とさせた。
超級危険種デスタグール
洞窟で冬眠していたところをクロメが斬り殺し死体人形にした自慢の一体であった。
キンッ
隙だらけの足にアカメは村雨を振るうが硬い手応えと無情な弾かれ音が響くだけで効果はなかった。もともと死体には村雨の呪毒は意味を持たない。さらにデスタグールは表面を硬い外骨格で覆われているため刃が通らずアカメとの相性は最悪と云えた。
だが、
「失礼します」
掛け声と共に現れたシェーレがエクスタスをデスタグールの太い足首にあてがい勢いよく閉じる。
バツンッ
エクスタスは抵抗を感じさせない所作で閉じ切りあっさりと足が切断される。
硬い防御力に慢心したデスタグールは避ける動きが苦手な為、万物切断の特性を持つエクスタスとの相性が悪かった。
すでにシェーレとの戦いで片腕も切り落とされていたデスタグールはすでに戦力としては半減していると言っても過言ではない。
「その帝具だとデスタグールの防御力が意味ないなー、お気に入りだったのに……」
八房の死体人形の中でも一押しの戦力だったデスタグールを傷付けられたクロメが頬を膨らませながら呟く。
ランの羽とドーヤの銃弾を刀で弾くアカメとエクスタスを盾に使い防ぐシェーレの元にボルスの火炎放射を避けていたレオーネが合流する。
「八房の死体人形4体始末したぞ」
「ナイスだレオーネ」
「こちらはちょっと苦戦しています。空と地、両方からの射撃がかなり厄介ですね」
主にボルスの相手をしていたレオーネだったが、死体人形3体がボルスを護衛するように配置されていた。だが、その3体はラバックに再生不可能にされたロクゴウ、エイプマン、ウォールの代わりにキョロクで用意した急造の死体であり質は他の死体とは大きく劣るものであった。
火炎放射に触れないように気を付けながらも肉薄しようとするレオーネから守るように壁となる死体。どれだけ殴っても意味のない死体相手は分が悪いと判断したレオーネに閃きが舞い降りる。
死体の攻撃を避けながらその腕を掴み、ボルスの火炎放射に対する盾としたのだ。
一度付いた炎は消える事なく死体を灰にするまで燃やした。
ボルスも細心の注意を払ってはいたが盾にされては防ぎようもない。ボルスの帝具とクロメの帝具の相性の悪さを利用したレオーネの作戦勝ちであった。
補充された3体の死体の火葬をしている間にレオーネの隙を突いて死体人形の一つ、カイザーフロッグと呼ばれるカエル型の危険種の舌に巻かれ飲み込まれてしまうハプニングもあったが肉体強化されたレオーネは内側からあっけなく腹をブチ破り脱出して事無きを得ていた。
「ゴメンねクロメちゃん、死体を盾にされて燃やしちゃった……」
「気にしなくていいよボルスさん、簡単に掴まれて盾にされちゃうのが悪いんだから」
申し訳なさそうにしているボルスにフォローを入れるクロメ。
ヘンターやナタラ、ドーヤなどはしっかりとレオーネの掴みを避けている為その通りであった。
「ふむ、此方の特性を上手く利用して対処されていますね……」
相手に有効な遠距離技がない利点を最大限に生かし空から援護射撃を続けていたランだが、距離が開いているため有効打とはなりにくくジリ貧を感じたランがボルスの近くへと移動して提案を口にする。
了承したボルスはクロメ達に向かって炎を発射した。だが今までとは違い直接的にアカメ達を狙うわけではなく、アカメ達の手前にちょうど炎の壁ができるように吹き付ける。
間違っても触れないように炎の壁から距離を取ったアカメ達に向かってランが羽を連続的に飛ばした。
炎の壁を潜るように狙って。
「なに!?」
「くっ!」
「これは……」
羽の銃弾がボルスの炎を帯びてアカメ達を襲う。
衣類に掠れば燃え移るという危険性が格段に高くなった羽を捌くアカメ達だが、全部を捌く事は叶わず3人のそれぞれ長い髪端に明かりが灯ってしまう。
村雨やエクスタスですぐに端だけを斬り払ったため重症には至らなかったが軽度の火傷を負ってしまい時間も消費してしまう。
本来の突入時間を大きく過ぎてしまっているナイトレイドの中に焦燥が生まれる。
3人は目配せをして短期決戦の為の覚悟を決める。
炎の壁が消えたタイミングで辺りが目映い光に包まれる。
エクスタスの奥の手の存在を知っていたクロメ達は焦る事なく相手の出方を窺う。
光に乗じてアカメが真っ直ぐに突撃してくる。
「ヘンター! ドーヤ!」
ボルスの火炎、ドーヤの銃弾を極限までの低姿勢で回避したアカメがクロメに急接近する。立ち塞がるヘンターを一合ですり抜けナタラの薙刀をも紙一重に躱しアカメは止まらない。ナイトレイド最大戦力として注目を集めるアカメだが、本命は別であった。
未だ辺りを包む光源を潰すべくデスタグールが残った腕を叩き付ける。
シェーレはそれを横へと躱しそのまま腕に跳び乗ると首元まで駆けた。
デスタグールの首元まで来たシェーレはデスタグールの首を切断する事に成功するが、それすらも本命ではない。
デスタグールの身体を駆けあがる事によって高所を得たシェーレはデスタグールの肩から強く跳び、ボルスと連携すべく高度を下げていたランへと迫った。
「!! 狙いは私ですか!」
己を本命だと悟ったランは急激に高度を上げつつ迎撃の羽根を放つ。
エクスタスを盾にして羽を弾きながらランとの距離を0に近づけたシェーレがランの胴体目掛けてエクスタスを挟み込む。
バツンッ
エクスタスが閉じる快音が辺りに響いた。
ランの胴体は真っ二つに
「あと一歩でしたが残念でしたね!」
されてはいなかった。
ランの言う通り高度は僅かに足りずエクスタスは虚空を斬るに終わった。
勢いを失いただ落下を待つ身となったシェーレにランは追撃の羽根を向ける。
だが
「背中、借りるぜシェーレ!!!」
「はい、レオーネさん!!!」
落下するシェーレの背を蹴りレオーネが跳ぶ。
「なっ!?」
ランが驚愕の声を上げる。
帝具により肉体強化されているレオーネは悠々とランへと届く勢いであった。
ランはすぐさま羽の標的をレオーネへと変え放つ。
アカメやシェーレとは違い武具を持たないレオーネに空中で防ぐ手段はない。だが、頭や心臓、急所を庇い致命傷だけを避ける決死の姿勢を持ったレオーネは止まらない。
そして
「おらぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
「ガッ!! ……ハッ」
レオーネの拳がランの鳩尾に埋めり込む。
殴り飛ばされたランが錐揉みしながら落下する。
レオーネも重力に従い落下を始めるが地面を見据えなんとか着地の姿勢を取る。
「ランくん!? くっ!」
そんなレオーネへとボルスが帝具の銃口を向け、口先に炎を溜め始める。丸く凝縮された炎弾が発射される。これが【煉獄招致ルビカンテ】の奥の手、本来そこまで飛距離のでないはずの炎を遠くへと飛ばすことができる技
「……クソ」
身体のいたるところに羽が刺さり空中で回避へと移れないレオーネに灼熱の炎弾が迫る。
死を覚悟するレオーネ。
「レオーネさん!!」
「!? バカ! やめろ!!!」
目の前に庇うように現れた背中にレオーネは驚き止めに入る。
シェーレはエクスタスを横向きに盾の構えを取り、炎弾を受け止める。
ジュゥゥゥウ
「ッ! ぐぅぅぅ!!!」
炎弾は一瞬でエクスタスを高温の拷問器具へと変えシェーレの手を焼く。
だが頑丈さでは帝具の中でもトップクラスを誇るエクスタスは高温に至るだけで幸い溶ける様子はなかった。
「ァァアアアアアア!!!」
己を鼓舞する叫び声を上げながら炎弾を逸らす事に成功したシェーレとレオーネが地へと着地する。
「ハァハァハァ、……無事…ですか……レオーネさん?」
「それはコッチの台詞だバカシェーレ! 無茶しやがって!!!」
己の身を顧みずレオーネの心配をするシェーレにレオーネは顔を蒼くしながら駆け寄る。
シェーレの両の掌は火傷で爛れ見るも無残な事になっていた。確認するレオーネも突き刺さりまくった羽から血を流し決して無事とは言えない状態であった。
「ボルスさん! ランは?」
落下したランを受け止めたボルスの元にクロメが駆け寄りながら問い掛ける。
「……気絶しているけど致命傷ではないみたい、どうやら殴られる直前に背中の翼をガードに使ったみたいだね」
「そっか、よかった……」
安堵の吐息を漏らすクロメにボルスも同意する。だが当分は安静にして出来ればドクター・スタイリッシュに見せたいところだとボルスは話した。
ランの無力化には成功したナイトレイドであったがその代償は大きい。
シェーレは両手に重度の火傷を抱えエクスタスを振るう事は無理をすればできるであろうが繊細な操作は不可能、レオーネは血を流し過ぎていた。唯一戦力が低下するような怪我はしていないのはアカメだけであった。
3人はイエーガーズとは少し離れた位置で少し会話をすると頷き合う所作をした。
次は何をするつもりなのかと警戒心を上げるクロメとボルスの目を再び光が覆う。
「また光を……、って、あれ?」
「……撤退していく?」
眩しい光の中、接近に気を張っていたクロメ達だが、何事もないまま光が消えゆくと同時にアカメ、シェーレ、レオーネの3人が大聖堂から離れていく後ろ姿が見えた事に戸惑いの声を上げる。
「っ! 待って! お姉ちゃん!!」
「あっ、クロメちゃん! 駄目だよ」
置いていかれる状況にかつての事を思い出したクロメが思わずアカメを追い掛けようとするがそれをボルスが止める。
ナイトレイドの行動はあからさまに怪しく、何を狙っているかはボルスにも分からなかった。だが標的であるボリックが大聖堂にいる以上、ここを攻めるしかナイトレイドには手がなく護衛である自分達を大聖堂から離すのが目的の可能性もあった。
屋内にもナイトレイドの侵入があった事から仲間をみすみす見殺しにするとも考えにくい為、追わずともすぐに戻ってくるはずだとボルスは話した。
ボルスの言葉にしばしの間を置いてクロメは小さくうなずく。
「……うん、そうだね。ボルスさんの言う通りだよ」
クロメは自分にもそう言い聞かせるかのように呟くと精神安定の為か懐からお菓子を取り出して頬張った。
「ごめんねボルスさん、ボルスさんが止めてくれなかったら我を忘れて護衛任務を放棄しちゃうところだった……任務は絶対なのに」
頭を抑えて何かを耐えるように辛そうにしているクロメにボルスは首を横に振った。
「こっちこそごめんね、クロメちゃんがお姉さんともっと一緒にいたい気持ちは伝わってきたよ、それなのに冷たい事を言っちゃって」
「そんな! これは私の我儘だからボルスさんが気に病むことなんてないよ」
互いを気を遣い合うボルスとクロメは気付かない。
アカメ達が撤退を行う直前の光に乗じてとても小さな影がクロメ達に気付かれないように大聖堂へと向かったことを。
光が発せられる前と後でナイトレイドのメンバーが変化していなかったのも気付かれない理由であった。
小さな影とはエアマンタに乗っていたマーグパンサーの子供であった。
子猫は駆ける。大聖堂へと一目散に。
道ではなく、道の左右に敷かれた林の中を。
その途中子猫は気付く。大聖堂直前の道を塞ぐように配置された兵士たちに。
全員がそれなりの手練れであることが子猫には分かった。特に真ん中の鎌持ちが。
子猫は考える。任務終了後、脱出するのに彼らは邪魔だろうと。時間もそろそろ切れると。
子猫の決断は速く、林を飛び出して兵士たちの元へと駆けた。
「ん?」
「なんだなんだ?」
此方へと真っ直ぐ向かってくる子猫を見つけた兵士たちが声を上げる。
最初はその小さな姿にのほほんとしていた兵士たちだが、すぐ異変に気付く。
子猫から煙が立ち始めているのだ。
兵士達は慌てて武器を構えようとする。だが遅かった。あまりに遅かった。
子猫の全身を覆った煙から一人の少女が現れて兵士達の間を駆け抜ける。
「あ?」
「え?」
「ん?」
「お?」
別々の声を上げた兵士達だが、同じ結末を追った。
急所を手際よく斬りつけられた兵士達は地面へと倒れ伏し終わった。
斬り終えた刀を鞘へと戻し少女は再び駆ける。その黒髪を靡かせながら。
ナイトレイドの一人チェルシーが使う帝具【変幻自在ガイアファンデーション】には奥の手がある。
名は
全員でのクロメ達の突破が困難だと判断したアカメ達はアカメだけでも大聖堂へと向かわせる事にした。
近くの林で子猫の姿で身を隠していたチェルシーは2度目のエクスタスの発光時にアカメ達に合流し、すぐさまアカメを子猫に変身させ自らはアカメへと姿を変えたのだ。
大聖堂へとアカメが今駆け付ける。
キョロクの夜は更け、だが朝はまだ遠い。
バトル編はあまり合間を空けるとテンポが悪くなると思いますので出来るだけ早めに更新したいと思います。