大聖堂の大広場、激しい戦闘を繰り広げるエスデス達とは裏腹に互いの出方を窺い睨み合うイエヤスとタツミ。
先に仕掛けたのはイエヤスであった。後方に護衛対象を背負う身であるなら、これ以上タツミをボリックへと近寄らせないためにイエヤスから突っ込むのは必然であった。
イエヤスの斬撃を正面から受け止めるタツミにイエヤスは違和感が感じる。
吹き飛ばすとはいかずとも押し引かせるつもりの攻撃だったがタツミは耐えて見せた。そこから一合二合と打ち合わせてイエヤスの違和感は確信に変わる。
タツミのやつ、めちゃくちゃ強くなってやがる!
ロマリー渓谷での戦いからそれなりに時間は経っている。イエヤスやタツミはまだまだ伸び盛りで日々成長しているが、それを加味しても凄まじいタツミの成長スピードにイエヤスは驚愕する。
インクルシオの鎧の中でイエヤスを映したタツミの瞳には十字架のような模様が浮かんでいる事をイエヤスには知る由もない。
「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!」
「ッ! クッ! ウォッ!? 危ねぇ!」
息も吐かせぬタツミの槍捌きにイエヤスは徐々に押され始める。
速さで翻弄しようとするが前ほどの差がないため対処される。
タツミの猛攻を捌き切れず身体の傷が少しずつ増える。
「だったら!!」
「! させねぇ!!」
イエヤスは一旦距離を取って納刀しようとするがイエヤスの狙いを知っているタツミは即座に肉薄してさせはしない。
納刀する隙など与えず攻め続けるタツミにイエヤスは反撃の糸口を掴めずにいる。
「イエヤスくん! 避けてください!!」
「!!」
セリューの掛け声を聞きイエヤスが後ろへと跳ぶ。先程と同じようにタツミは追おうとするが危険を察知して中断した。
イエヤスとタツミの間を射線が横断する。
ボリックの傍から離れる事のできないセリューがその場から巨大ライフル、正義泰山砲を撃ったのだ。
セリューの援護に感謝しつつイエヤスはもらった時間を使い納刀する。
今のタツミに《烈風》を放ったところで避けられてしまうのは目に見えていたイエヤスは躊躇をしない。
《疾風》
鞘から抜き放つ刹那、イエヤスの脳裏にある事が過る。
それが駄目だった。
ガキィィィィィン
「な……に……?」
イエヤスが放った神速の刃をしかと槍で受け止めているタツミ。
《疾風》が破られた。その事実にイエヤスは頭を殴られたかのような衝撃を受ける。
イエヤスが何をしてくるのかタツミは予め分かっていた事もある。
タツミの反射速度が人の領域を超えつつあったのもある。
ロマリー渓谷の時とは違い、鞘に風を込める時間が短かったのもある。
だが一番の原因は
「先を見たな! イエヤス!!!」
声を張り上げるタツミの言の通りであった。
イエヤスは《疾風》を放つ瞬間、その先の事が頭を過った。
全力で《疾風》を放った後、イエヤスは全身の筋肉を痛め戦力として数え難い存在に成り下がる。タツミを倒したとて、それで戦いは終わりではない。
未だナイトレイドの半数近くは姿を見せておらず、ナイトレイド最大戦力とされるアカメもそこに含まれているのだ。
いざアカメ達が現れた時、自分は無力な存在となっていてもいいのか?
そんな考えがイエヤスの脳裏を掠め、毒となり無意識レベルで《疾風》に加減をさせた。だがそれは目の前のタツミを倒せなければ何の意味もない。イエヤスは判断を誤ったのだ。
「俺を見ずに先を見た! それがお前の」
「グハッ!!」
タツミが《疾風》を急激に止められた反動で動きが緩慢なイエヤスを受け止めた槍を振るい近くの壁へと叩きつける。壁にヒビが入る勢いで背中を強かに打ち付けたイエヤスが苦悶の表情を浮かべ声を漏らす。
突きの構えを取り渾身の力で貫きに掛かるタツミ。
「敗因だ!!!」
イエヤスは未だ動けず、セリューは距離が遠く援護に使った正義泰山砲は連射が効かない。
眼前に迫る槍からイエヤスは目を逸らせなかった。
「そこまでだ」
イエヤスへと突撃するタツミが横から蹴りを食らう。
突然の攻撃にタツミは受け身を取れずに地面に擦られながら吹き飛ぶ。
「無粋なのは承知の上だが、みすみす部下を殺されてやるわけにもいかないんでな」
エスデスが倒れ伏したイエヤスの元へと行きしゃがみ込んで容態を確認する。
「うむ、大事ないようだな、そこで安静にしてるといい」
「た、隊長、どうしてこっちに? 隊長が相手していた奴は……!?」
イエヤスがエスデスの肩越しの光景に気付き息を呑む。
大広場中央に巨大な氷のオブジェができており、その中に閉じ込められる形でスサノオが凍り付いていた。髪の色が黒に戻っている事から奥の手が切れた事を物語っていた。その近くではナジェンダが気絶しているようで倒れ込んでいる。
「十分に堪能したんで捕獲させてもらった。ナジェンダのやつは勝手に弱っていたようで軽く小突いただけで気絶してしまってな」
情けないと肩透かしを食らった様子で鼻を鳴らすエスデスにイエヤスは苦笑する。
「ハハッ、流石隊長、敵わねぇなぁ……」
イエヤスが力なく座り込み気を失う。
「ふっ、大丈夫だ、気を失っただけだ」
エスデスはイエヤスの容態が気になってしょうがない様子で落ち着きがなくなっているセリューに問題ないことを伝える。
「さて」
エスデスは態勢を立て直したタツミと向き合う。
「ほう? 今のを食らってすぐ立てるとは中々丈夫なようだな」
「……スーさんをよくも!」
仲間を凍らされて激情に駆られるタツミだが相手は泣く子も黙るエスデス将軍、感情に任せて立ち向かっても勝てない事は百も承知であるため慎重に対峙する。
「来ないのならこっちから行くぞ」
エスデスが足元を凍らせ滑りながらタツミへと接近する。さながらアイススケートのような移動方法にタツミは面食らいながらも突き出されるサーベルを受け止める。
サーベルを薙ぎながら周りに氷を浮かせ、時に飛ばし、時にタツミの障害物としてぶつからせるバラエティに富んだ戦い方にタツミは翻弄されながらもギリギリで凌いでいた。
「ふむ、これを耐えるか、イエヤスでは少し手に余るのも頷けるな」
接近戦でタツミを追い詰めながら冷静に戦闘力を分析してみせるエスデスにタツミは忸怩たる思いを抱きながらも防戦一方であった。
その時、スタイリッシュの傍で控えていた《耳》が天井を見上げて警告する。
「上から来ます!」
天井に張り巡らされた製錬されたガラス細工を叩き割って刺客が飛び降りてくる。
刺客は着地までの僅かな時間に周りを見渡し状況を把握、着地と同時に地を蹴り標的の元へと駆ける。
「葬る!」
「アカメか!」
エスデスは即座に走ろうとするが
「アカメの邪魔はさせねぇ!!!」
「ムッ!」
タツミが叫び、ここを勝負の賭け所と踏んでステルス機能を発動させる。
不可視の存在となったタツミがエスデスへと猛攻を仕掛ける。目に見えない攻撃をエスデスは殺気を頼りに捌く。見えない程度で倒せるほどエスデスは容易くはないが、今アカメのところにさえ行かさなければ良いタツミにはそれでも良かった。
「ひぃぃーーー!!??」
真っ直ぐに自分の所へと駆けてくるアカメに死神を重ね悲鳴を上げるボリック。
「皆さんは下がってください!」
セリューが守るように前に立ちボリックを含めた非戦闘員を下がらせた。
傍らに置いた数ある武具の中から一つを選択しアカメへと向けた。
掠り傷で終わる村雨を相手に接近戦は愚策、巨大ライフルは射線を読まれて避けられる可能性が高い。
セリューが選択したのは小型ミサイルを発射するポッドだった。
「こっちへ来るな! 正義初江飛翔体!!!」
「!!」
此方へと発射された幾多のミサイルを前にアカメは対処方法を考える。
だが
「!? クッ!」
ミサイルはアカメよりも遥か手前を着弾点としていた。
アカメの前方で小型ミサイルが列を成して誘爆し爆炎の壁を作る。
直接狙ってくれれば避けるなり斬るなりできたが、如何にアカメと云えど爆風を掻い潜る事はできない。足を止めざるを得なかった。
爆風はセリューからも近くセリューの肌をも焼くが気にはしなかった。
その為にボリック達を下がらせていた。
爆風が止むと同時にアカメは再び標的へと駆けるが
「良い判断だセリュー」
今度はエスデスが氷の壁を発生させてアカメの行く手を遮った。
目の前に生成された氷の壁を斬りつけるアカメだがやはり弾かれてしまう。
仕方なくエスデスへと向き直ったアカメはエスデスの近くにいるタツミを視界に捉えて絶句する。
「……タツミ」
スサノオと同じく氷に閉じ込められたオブジェとなっているタツミの名をアカメは小さく呟いた。
「後はお前だけだなアカメ、それともまだ後続がいるのかな?」
サーベルをアカメへと向けるエスデスの問い掛けにアカメは応えず唯構える。
「残るはアカメだけ? それは間違ってるぞエスデス」
氷が砕ける音と共に宣言される。
「何!?」
エスデスから驚愕の声が上げられた。
砕けた氷の欠片に照らされながら白い髪を揺らし黒き角を煌めかせスサノオが地に足を付ける。その後ろでは目覚めたナジェンダがスサノオへと腕を伸ばし生命力を捧げていた。
ーーー禍魂顕現ーーー
3度目の発動。
ナジェンダの死がここで確定する。
2度目の発動時、スサノオは3種の神器と呼ばれる禍魂顕現使用時のみ使える技を使わなかった。理由は3種の神器はその名に恥じない性能を誇るがその分マスターの生命力を多く消費して制限時間を縮めてしまうデメリットが存在していた。2度目の発動はアカメ達を待ちボリック暗殺成功後、脱出するまで禍魂顕現を持たさなければならず、瞬間火力よりも持続力を優先する必要があった。
だが、アカメは合流を果たし後はボリックを殺し脱出するのみ。
ここからがスサノオの全力。ナイトレイドの反撃が今始まる。
キョロクの空が白みを帯び始める、朝は近い。