エスデスは剣状に生成した氷を周りに浮かべ、乱雑に踊らしながらスサノオをダンス会場へと強引に招き入れる。アカメへは氷柱を飛ばし牽制する。飛ばす氷柱を途中で氷柱同士でぶつけて軌道に変化を与える小技を駆使している辺り余裕が伺えた。
飛来する氷柱を躱しつつアカメはあくまでボリックの暗殺を狙うがエスデスは未だ氷の壁を使ってアカメの行く手を塞いだままであった。
自分の帝具では氷の壁は破れないと判断したアカメは氷の壁を破れる可能性を持つスサノオをフリーにすべくエスデスへと迫る。
氷剣とサーベルが躍る会場へと自ら来たアカメをエスデスは余裕の笑みを浮かべて歓迎する。一斬必殺の村雨を前にエスデスは臆することなくサーベルで立ち会う。
氷剣をスサノオに集中させて、一流の剣使いであるアカメとの剣劇を楽しむかのように氷を使わずサーベルのみで応戦して見せるエスデス。
氷剣を蹴散らしながらスサノオはアカメの意を汲みボリックへの道を阻む氷壁へと直進した。
「私と踊るのはお気に召さないか? ならばアカメと踊ってやったらどうだ!」
剣舞の相手であるアカメに裏蹴りを当てスサノオへと吹き飛ばす。
冴え渡るサーベルのキレに気を取られていたアカメは僅かに反応が遅れ飛ばされる方向に自ら跳びダメージを軽減するので精一杯だった。
「アカメ!」
「クッ、すまないスーさん」
受け止めなければ壁に激突し大ダメージを受けると判断したスサノオは足を止めアカメを受け止めた。
二人を同時に斬るべくエスデスはサーベルに氷を纏わせて疑似的な大剣へと変貌させて切り払う。
アカメは回避を、スサノオは棍棒による防御を選択する。
渾身の力で大剣を受け止め切ったスサノオの腹にエスデスは空いた左手をスゥと添える。
「グハァ!?」
左手の平から氷が伸び、そのままスサノオを貫き壁へと縫い付ける。無から氷を生み出せるエスデスならではの不意打ちであった。
そして
「お前なら回避を取ると思っていたぞ」
エスデスは回避したアカメの足元を指差した。
「!? 動かない!?」
足が地から離せない事に気付いたアカメに戦慄が走った。
慌てて視線を下へと向けるとアカメの周りの地面には霜柱が立っておりアカメの靴ごと凍り付いていた。
動けないアカメへエスデスは細い刀では捌けない巨大な氷柱を手元に発生させた。
「これで終わりか、楽しめたぞ」
巨大氷柱をアカメへと飛ばす、その瞬間
ゾクリ
「ッ!?」
本能がエスデスに危険を知らせてくる。
滅多に経験しない感覚に鳥肌を立たせながら、寒気の出どころを知るべく視線を巡らした。
アカメは目の前で器用にも地面と靴の狭間を斬りつけて脱出を図ろうとしていた。
スサノオは貫通された氷を砕き縫い付けから脱したところだった。
タツミは氷に閉じ込められたまま微動だにしていない。
この場にエスデスと敵対しているものは残すところ後一人しかいない。
「お前か! ナジェンダ!!!」
寒気を感じたにも関わらず喜悦の表情を浮かべたエスデスが名を呼ぶ。
「……あぁ、私だよ! エスデス!!!」
スサノオに生命力を吸われ続け立つ事もできず死を待つだけの存在だったナジェンダ。
そのナジェンダが今、背を壁に預け寝そべりながらもライフルを両手にエスデス越しのボリックに狙いを定めていた。
手にしたライフルの名は【浪漫砲台パンプキン】
「お前に対して溜まりに溜まった私の執念だ。釣りはイラン、地獄の沙汰にでも使え!」
引き金が絞られる。
パンプキンは使用者のピンチの度合い、精神力の注ぎ具合で威力が変動する帝具。
スサノオ、パンプキンの帝具同時使用の代償にナジェンダの血管が身体中で弾ける。スサノオに生命力を搾り取られ死は目前。文字通り絶対絶命の状況。
さらにどうせ死ぬならと己の精神力のありったけを注いだ。
その火力は
間違いなく
千年の時を生きたパンプキン史上
最大の火力を誇っていた。
限界を超えた火力を出すパンプキンから煙が吹き自壊を始める。
パンプキン最期の咆哮。
「これは!!」
幾重もの修羅場を潜ったエスデスを以てしても経験した事のない死の予感が眼前へと迫る。エスデスはアカメへと飛ばす予定だった氷柱を解き、全力の大楯を作りに掛かるが直感が過る。
この火力、真正面では受け切れんな
エスデスはそう感じ取りながらも氷で巨大な盾を生成した。
ただし射撃に対して斜めに、であった。
エネルギー弾と大楯がぶつかる。
ナジェンダ最期にして最大の射撃は氷を凄まじい勢いで砕き溶かすが分厚く何層になって作られた盾は全部を溶け切る前にエネルギー弾に変化を齎した。
斜めに設置することによって射撃が逸れたのだ。
エスデスのまごうことなき全力の盾であっても逸らす事しかできないパンプキン最期の咆哮は恐るべきものであった。だが逸らせた。
「流石に肝が冷えたぞ、だが私の勝ちだなナジェンダ!」
エスデスは氷の盾の向こうで渾身の射撃を外されて絶望の表情をしているナジェンダを夢想しサディスティックに満ちた笑みを浮かべた。
ナジェンダは逸らされる射撃を目にして、それでもなお
不敵な笑みを浮かべていた。
逸らされた膨大なエネルギー弾の先に自ら飛び出すものがいた。
自殺志願者、ではない。
トチ狂った、わけでもない。
これはマスターとの最期の連携。
ーーー
エネルギー弾は反射されてボリックへと方向を変えた。
氷の壁がぶち抜かれてボリックや近くにいたスタイリッシュ達へと迫る。
ほぼ真横からの攻撃にアカメと対峙した時のままボリック達のかなり前を陣取っていたセリューは範囲には入っていなかったものの救援には間に合わない。
「スタイリッシュ様!!!」
非戦闘員ではあるもの強化手術を受けていた《耳》《鼻》《目》だけはギリギリ反応する。
3人はなんとかスタイリッシュを射撃の範囲外にまで突き飛ばした。本来なら護衛対象であるボリックを優先すべきだが、瞬時だったこともあり忠誠心が優先された結果であった。
「アンタ達!?」
突き飛ばされたスタイリッシュはもんどりを打ちながら倒れ込み、慌てて振り返った。
そこには
「どうかご無……事………」
「お世話にな……り………」
「スタイリッ……シュ……」
「い、いやだぁーーーーーーー………」
エネルギー弾に身を焼かれ消えゆく《目》《鼻》《耳》とボリックの姿があった。
過ぎ去った後には塵も残されてはいない。
「クソ! やってくれたな、ナジェンダ!!」
事態に気付いたエスデスは悪態を付き、まんまとボリック暗殺をやってのけたナジェンダを睨みつけた。
だが
「……………」
「……勝ち逃げとは、卑怯なやつだ」
ナジェンダは不敵な笑みを浮かべたまま、事切れていた。
一瞬の静寂が大広場を支配する。
ピキリ
それを打ち破る氷にヒビが入る音。
次第に大きくなった音は破砕音へと変え
「ハァハァハァ……死ぬかと思ったぜ」
中に閉じ込められていたタツミが息を上げて飛び出した。
氷の大楯を作り出すのに集中したためタツミを閉じ込める氷の力が弱まったことで脱出することができた。
「タツミ! 良かった」
タツミの復活で気を持ち直したアカメが駆け寄る。
「暗殺は成功した、脱出するぞ!」
「マジか! 了解」
タツミとアカメはナジェンダの元に集まりスサノオも合流する。
「スーさん……ボスは……」
「マスターはエスデスに見事一矢報いて見せた。きっと満足した事だろう」
不敵な笑みを浮かべているナジェンダを見てスサノオの言葉に異論を挟むものなどいない。
「マスターが残した生命力も残り少ないが、お前達と脱出するまでは持たせて見せよう」
己のコアがある、ナジェンダの生命力が宿る胸を叩いて豪語するスサノオの頼もしい姿にタツミとアカメは頷いた。
「みすみす逃すと思うか?」
護衛任務が失敗に終わり腸が煮え繰り返る思いを抱くエスデスが鬼気迫る表情をしてアカメ達へと迫る。
「逃げて見せるさ、じゃないとボスの笑顔が嘘になる!」
アカメがエスデスを迎え撃つ。
サーベルと剣を交わしながらエスデスが自由となったセリューに指示を出す。
「セリュー! 広場の出入口を崩せ、絶対に逃がさんぞ!!」
「了解です!」
セリューはすぐさま巨大ライフル、正義泰山砲を出入口の天井に撃つ。
天井が崩れ出入口が塞がれる。
だがスサノオは気にすることなく両手を構え剣を具現化させる。
ーーー
スサノオが出せる最も高火力の一振りがエスデスを薙ぎ払う。
パンプキンの時ほどではないが大きな氷盾を作り出し防いで見せるが、スサノオが全員を抱えて脱出する準備を整えるには十分な時間を稼いだ。
「アカメは礼儀正しいんでな、しっかり入ってきた所から出させてもらうぞ」
マスターの死に顔に倣って不敵な笑みを浮かべて見せたスサノオは捨て台詞を残して全力で跳躍した。
「! 天井か!!」
エスデスが見上げればアカメが大広場に侵入してきた時に割ったガラスへとナイトレイドを抱えたスサノオが飛び込んでいた。
「逃がさん!!」
特大級の氷塊を発生させて追撃するエスデスだが、スサノオ達が天井の穴から脱出した後、蓋をするように反射する鏡が生じる。
「クッ、また鏡か」
反射された氷塊を難なく避けて見せたエスデスは気を失っているイエヤスをスタイリッシュに任せてセリューを連れてナイトレイドを追うべく大広場を出た。
出入口は瓦礫で塞がっていたが氷塊をぶつけて粉砕した。
大聖堂を出てスサノオを探して空を見上げるエスデス。
空は黒と白の狭間を揺らぎ、夜が過ぎたことを知らせる。
ナイトレイド達は見つからなかった。
ランに空からの捜索を頼もうとしたが負傷していた為断念。
人海戦術を取ろうにも応援を頼んだはずのキョロク各所の兵士も現れなかった。
後に何故大聖堂にこなかったかの報告を聞くと大聖堂から脱出したボリックが命令を取り消していたという謎の事実が残りエスデスが首を捻る結果となった。
このボリックはアカメに化けて大聖堂を撤退したチェルシーが化けたものであるが、それをエスデスが知る術はなかった。
イエーガーズは護衛任務を失敗しナイトレイドは暗殺任務を成功させた。
だが人的被害でいえばリーダー格を失ったナイトレイドの痛手はかなり大きい。
マスターを失ったスサノオが眠りにつく事も考慮するならば二人失ったとも言える。
キョロクの長い夜は明け、それと同時にイエーガーズのキョロクでの活動は終わりを迎えた。
数日後、任務失敗に意気消沈するメンバーを率いてエスデスは帝都へと戻った。
キョロク近郊のとある場所
森の中の開けたところにある崖から這い上がる者の姿があった。
「よっと」
崖端に手をかけ、掛け声と共に崖を登り切った少女はコキッコキッと首を鳴らし調子を確かめながら軽く伸びをする。
「ん~~~、首を直すのにめちゃめちゃ時間掛かったなぁ、やった事ないから無理かと思ったけどやれば出来るもんだね」
レオーネに殺されたはずのメズは生きていた。
首の骨を折られたと思われていたメズだが、実は折られる瞬間に自ら首の骨を外し衝撃を和らげていた。もしレオーネの腕が万全の状態であったならば違和感に気付いたことだろう。しかしまだ本調子ではない腕は、その僅かな手応えの差を見逃してしまった。
「たぶん死んだって思われてんだろうなぁ」
メズはとりあえずキョロクへの帰路へついた。
キョロク編 完