イエヤスが生きる!   作:七峰 舞斗

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6話 氷の女王と恋人候補 ☆

「よし!! ほぼ完治したな!」

 

 病室にて軽く体を動かして程度を確かめていたイエヤスは満足そうに頷いた。

 ナイトレイドとの闘いの後、重体で病院へと担ぎ込まれたイエヤスだったが、命に別状はないものの全治数か月を言い渡されてしまう。

 ナイトレイドの一角をセリューとの協力で仕留めたものの、片方は取り逃がし、未だ活動を繰り返している事実に何か月もジッとなどしていられないと悔しそうにしていると、セリューからある医者を紹介された。

 名医だと言われて期待して会うとあまりの癖の強さに後悔しそうになったイエヤスだったが、腕に間違いはなく、僅か数日で完治させてしまった。

 

「あれだけの重体をもう完治させてしまうなんて、流石はワタシ! 実にスタイリッシュね!!」

 

 イエヤスの容態を見ていた医者がそう言って片手を振り上げ、腰に捻りを加え、ポージングを取る。イエヤスは背景に薔薇まで舞っているかのような幻視を覚えた。

 切り揃えられた黒髪に黒縁メガネ、堀の深い顔には整えられた顎髭を嗜み、長身を白衣で包んでこなれ感を演出していた。

 医者のいつもの様子に慣れつつあるが、引き攣った笑みを返すイエヤス。

 

「ドクター・スタイリッシュ、本当にありがとうございました」

 

 イエヤスが頭を下げると、スタイリッシュと呼ばれた医者は手を振った。

 

「いいのよ♥、あのオーガちゃんの秘蔵っ子っていうじゃない? それにセリューからのお願いとあっちゃ仕方ないでしょ、アタシ お気にの子にはオ・オ・ア・マ、なのよ♥」

 

 体をくねらせながら答えるスタイリッシュに苦笑しか返せないイエヤス。

 だが、唐突にキメ顔で放つスタイリッシュ。

 

「でも~、どうしてもお礼がしたいっていうなら一つ、お願いを聞いてもらえるかしら?」

 

 野獣の眼光、という表現がとても似合う目つきでイエヤスへと顔を寄せるスタイリッシュにイエヤスは背筋が凍るような思いを感じながらも恩を返すべく返事をする。

 

「はい! 俺にできることなら! ただ俺は、その、ノーマルなので、その」

「やーねー、そんなんじゃないわよバカね、確かに素材は悪くないかもだけど、アタシの好みじゃないのよねー」

「ハハハ、そうっすか」

 

 乾いた笑いしか出てこない。

 

「あなたの帝具を見せてもらいたいのよ、疾風迅雷カリバーンをね?」

 

 そういってスタイリッシュは病室の片隅で立て掛けられている剣に視線を向けた。

 意外そうに首を傾げるイエヤス。

 

「あれ? 医者なのに帝具に興味があるんですか?」

 

 イエヤスの言葉にスタイリッシュは、分かってないわねーとでも言いたげに首を横に振った。

 

「アタシの本分は研究者よ。化学工学生物学、すべてを兼ね備えた美しき知識の探究者、それがアタシなの♥」

 

 スタイリッシュの説明に納得しながら剣を取り鞘から抜き取る。

 初めて抜いた時と同じく、キィーーーンと風の鳴く音が病室内を木霊する。

 

「なかなかにスタイリッシュな刀身ね」

 

 うっとりと恍惚な表情を浮かべながらイエヤスが持つカリバーンを様々な角度から観察するスタイリッシュ。

 

「…………風を纏う性質と刀身の色から推測するに遥か北の山脈に生息していたと言われている超級危険種、暴嵐竜クシャラダオルの角を研ぎ澄ましてできているわね。定説ではもう絶滅したとも言われているから、再現はもうできないかしら。いえ、風を纏う性質だけなら颶風獣ビャックの爪でも代用が効くかもしれないわね、素材はそれでいいとしてどうやって加工しているのかしら。通常の加工術では最硬質を誇る竜属の角に傷一つ付けられないわ。もしかして東方から伝わっている特殊な鍛冶術を使っているのかも? …………ブツブツブツ」

 

 研究者魂に火が付きスタイリッシュの脳がフル回転を始める。スタイリッシュの言う事の8割を理解できないイエヤスはただなされるがままに待つことしかできなかった。

 そうして数分が経った時、スタイリッシュの観察眼はあるものを見逃さなかった。

 

「あら? ちょっとイエヤスちゃん、その鞘も見せてもらえるかしら」

 

 言われた通りに腰から鞘を抜き取りスタイリッシュに渡した。またしばらく観察した後、鞘をイエヤスに返しながらスタイリッシュは自分の推測を話し始める。

 

「やっぱり、鞘もかなり特別製ね。なにかしらの機能が携わっていると見て間違いないわよ」

 

 鯉口のすぐ下を指差すスタイリッシュ。

 

「ここに小さな穴が開いているでしょ? そして上の留め金を下ろすと穴を塞ぐようにできているわね。仕組み的に普段は開けておくのがデフォルトのようだけど、ここを塞いだことはある?」

 

 指摘されて初めて気づいた事実にイエヤスは目を剥きながら首を横に振った。

 イエヤスの反応を予想していたのだろう、軽く嘆息を漏らしながらもスタイリッシュは続ける。

 

「でしょうねぇ、イエヤスちゃん大雑把そうだものね。ならさっそく試してみましょう! 善は急げよ♥」

 

 スタイリッシュはポンッと手を叩くと急かすように剣を鞘に納めるように言う。鞘だけを手にした時、塞いでみたがなにも起こらなかった。つまり納刀時に使うことによって発揮される機能であると予想したスタイリッシュ。

 

 鞘を腰に戻して剣を納める。そして留め金を下ろして穴を塞いでみた。

 

 カチッ

 

 ………………

 

 しばらく待つがなにも起こらず、特に変化を感じなかったイエヤスは首を傾げる。スタイリッシュに目線を向けるが、何も語らずジッと鞘を見守るばかりである。

 肩透かしを食らったイエヤスは分からない程度に肩を竦めながら、剣を抜こうとする。

 

「あっ バカ 待ちなさっ!!!!」

「えっ!? うわぁぁああ!!????」

 

 スタイリッシュの制止も届かず、鞘から刀身が姿を覗かせたその瞬間、荒れ狂う暴風が鞘から放たれて油断していたイエヤスは近くのスタイリッシュ諸共吹き飛ばされる。

 

「うげっ!!」

「っ!! もう!!! うっかりさんねぇ」

 

 無様に地面に腹打ちしてカエルが潰されたようなポーズと声を上げるイエヤスと、なんとか着地に成功させて嘆息を漏らすスタイリッシュ。実にスタイリッシュである。

 風で乱れた髪を櫛で整えながら今の現象を説明するスタイリッシュ。

 

「穴を塞いで鞘の中を密封状態にすることによって風を溜め込む事ができるようね。溜め込んだ風をどう扱うかは担い手のセンス、と言ったところかしら? おそらくはこれが疾風迅雷カリバーンの『奥の手』ね、ん~スタイリッシュ♥」

 

 そう言ってカリバーンに対する観察を締めたスタイリッシュにイエヤスは感心するばかりだった。

 

「凄いですね! 俺なんてカリバーンを手にして数週間は経つのに全然気が付かなかったのに、それはほんの一瞬で奥の手まで見つけるなんて」

「アタシの手にかかれば、こんなのお茶の子さいさいよ♥ アタシの夢はね、いつか帝具と並ぶものを自作することなの」

 

 フフンと鼻を鳴らすスタイリッシュにイエヤスは素直に応援を送る。

 

「おぉ! いい夢っすね! ドクター・スタイリッシュならきっと帝具を超えるものも作れますよ、応援してます!」

「超え?………」

 

 帝具と並ぶ物を作る、それがどれだけ大変か門外漢のイエヤスには到底思い至らず、故に簡単に超えるという言葉を使った。実に無責任な発言であったが、スタイリッシュにはそれが琴線に触れるものであった。

 

「もう……ほんとおバカねぇ……でも、ありがと♥」

 

 イエヤスのおでこを指で突きながらも満更でもない返事をするスタイリッシュ。

 

「失礼します! イエヤスくんのお見舞いとドクター・スタイリッシュに軍からの通達をお知らせにきました!」

 

 威勢のいい掛け声とともにセリューが病室へと入ってくる。

 いまだ帝都の平穏はほど遠く、忙しいであろうに時折見舞いにきてくれているセリューにイエヤスは嬉しさで口元を僅かにニヤけさせながらセリューに話しかける。

 

「セリュー先輩! お疲れ様です」

「イエヤスくんも元気そうでなによりです! 聞けば明日から復帰するとか、また一緒にパトロールをしましょう!」

「はい!」

 

 二人のやり取りを見ていたスタイリッシュはセリューへと要件を聞く。

 

「はい! エスデス将軍が北の遠征から帰ってきた事はすでに承知だと思いますが、そのエスデス将軍直属の特殊警察部隊が結成されることになりました。メンバーは6名とのこと。その一人にドクター・スタイリッシュが選ばれましたので、そのご報告に」

 

 そう言って敬礼するセリューにスタイリッシュは目を剥いた。

 

「あのエスデス将軍直属の部下にアタシが? それは光栄ね♥ 将軍のスタイリッシュさはアタシすらも凌駕するもの、是非近くで勉強させてもらいましょう」

 

 エスデス将軍を思い出し、思わず絶頂してしまうスタイリッシュにセリューは頬を掻き、少し照れを混ぜながら報告する。

 

「実は私も選ばれています。話によればエスデス将軍は悪に容赦が一切ないようなので楽しみにしています」

 

 セリューの言葉に今度はイエヤスが目を剥いた。

 

「えっ!? セリュー先輩、別の部隊へと異動するんですか?」

 

 ショックを隠し切れない様子の問い掛けにセリューは少し申し訳なさそうにした。

 

「はい、イエヤスくんにはまだまだ教えたいこともあったので残念ですが、そうなりますね」

「……そう、ですか。分かりました。いえ、子供の我儘みたいなことを言ってしまってすいませんでした」

 

 バツが悪そうにしながら頭を下げるイエヤス。

 

「今までお世話になりました。特殊警察部隊でのセリュー先輩の活躍、楽しみにしています」

 

 イエヤスの言葉にセリューは慌てた様子で両手を上げて振った。

 

「いえいえ、異動となるのはまだ一週間程先の話で明日から復帰するイエヤスくんとはまだ一緒に仕事ができますよ? さっきも一緒にパトロールをしようと言ったじゃないですか」

「あっ、そうなんすね……、うわっ恥ずかしー……」

 

 真っ赤になった顔を見られないように両手で隠すイエヤス。

 

「アオハルね~~」

 

 その様子をそんな言葉で片付けながらほっこりするスタイリッシュであった。

 

 

 

 

 それからの一週間はあっという間だった。

 今日はセリューが帝都警備隊を離れる日、朝に詰め所に挨拶に来ると聞いていたイエヤスは身支度を整えていた所、肩をくすぐる伸びた襟足が気になった。

 改めて鏡と向かい合うと髪がだいぶ伸びていることに気付く。髪先を摘まみながら切るべきか、と思案を巡らしていると、不意にある考えが脳裏をよぎる。

 悪くない考えだと思ったイエヤスは予定より早く外へと繰り出して寄り道をすることにした。

 

「おはようございます! みなさん今日までお世話になりました! 所属が変わっても同じ正義を抱き、帝都を護ることには変わりありませんので、また協力することもあると思います! その時はよろしくお願いしますね!!」

 

 元気溌剌に別れの挨拶をするセリューに隊員達は各々で声を掛ける。みながセリューの離脱を惜しむ様子には人望が伺い知れた。

 そんな中、イエヤスのところへと回ってきたセリューはあることに気付く。

 

「あれ? イエヤスくん、そのヘアバンドは……」

 

 覗き込むようにイエヤスの髪型を観察するセリューに気付いてもらえたイエヤスは照れるように鼻を掻いた。

 後ろ髪を括るように付けられたヘアバンドが4つ。その姿はある人物を連想させた。

 

「髪が伸びてきたので切ろうかとも思ったんですが、ちょっと真似してみようかと……、似合ってますかね?」

 

 控え気味に聞いてくるイエヤスを見て微笑ましく思いながら、フッと目を閉じるセリュー。その脳裏に尊敬すべきオーガ隊長の姿を浮かべる。隊長に率いられてパトロールをするとき、いつも目と鼻の先では、この4つのヘアバンドが揺れていた。それがセリューの日常であった。

 もはや懐かしくもある思い出に涙腺が緩みそうになるが先輩の矜持がそれを留まらせた。

 ゆっくりと目を開けたセリューは返答を待つイエヤスに向かって満面の笑みを浮かべて

 

「オーガ隊長ほどではありませんが………似合ってますよ」

 

 と言った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 セリューが惜しまれつつも詰め所を出ようとしたところで、イエヤスにある通達が届いた。

 宮殿の一室に呼ばれたイエヤスは同じく宮殿へと向かうセリューと同行することにした。

 途中でスタイリッシュとも合流し3人と一匹となったイエヤス達。

 そこでイエヤスの呼び出しを受けた場所がセリュー達と同じ特殊警察会議室であることに気付く。

 

「もしかして、俺もその特殊警察に選ばれたとかですかね!!」

 

 まさかの可能性に鼻息を荒くするイエヤスだが、セリューは難しい顔をする。

 

「うーん、どうでしょうか、それなら私達のように前もって通達があると思うんですが、ドクターはどう思いますか?」

「まあ、ない話ではないわね。噂によれば選ばれるのは帝具使いであり、重要な役職についていないものに限られるらしいわ。イエヤスちゃんはそのどちらにも該当しているから可能性としてはあるわね。前もって通達がないのはスタイリッシュではないけれど」

 

 スタイリッシュの言葉にイエヤスはますます期待を募らせる。興奮冷めやらぬ様子にセリューとスタイリッシュは肩を竦め合うのだった。

 

 会議室を前にした三人と一匹は配置に着いた。

 

「それじゃあ、セリュー、イエヤスちゃん、手筈通りにね!」

「「はい!!!」」

 

 スタイリッシュの合図と同時にイエヤスとセリューは部屋へと入る。

 

「失礼します! 帝都警備隊所属、セリュー・ユビキタス! アンドコロです!」 

「失礼します! 同じく帝都警備隊所属、イエヤスです!」

 

 部屋へと入ると二人は左右に分かれて入口に向かって跪く。その際、花吹雪を舞わせることを忘れない。

 二人の傅きに導かれるようにスタイリッシュが入室する。

 

「第一印象に気を遣う。それこそがスタイリッシュな大人のタシナミ」

 

 入室を済ませた3人に視線を向けるものもまた3人。

 

 ザ・海の男といった服装で身を包んだ青年ウィイブ。

 黒髪黒目に黒衣装、全身を深淵に染め、頬をお菓子で膨らました少女クロメ。

 不気味な防護マスクを被り、巨体を礼儀正しい姿勢で椅子に納まらさせている男性ボルス。

 

 3人の印象的な登場にクロメとボルスは無反応のまま、ただ眺めるだけ。唯一ウェイブだけが茫然とした視線を送ってきていた。

 そんなウェイブを見てスタイリッシュが粉を掛ける。

 自分は好みではないと言われていたのにウェイブには好感触を見せているスタイリッシュを見て謎の嫉妬心に燃えるイエヤス。

 見れば確かにイケメンであった。もしやセリュー先輩も!? とチラッと視線をやるが特にウェイブに対してのリアクションはなく、クロメのお菓子に近寄ろうとしているコロを止めているところであった。

 その様子にひとまず安堵の息を漏らした。

 

「こんにちは、どうやら私が最後のようですね」

 

 次に入ってきたのは爽やかでスレンダーな好青年であった。

 

「ランです。よろしくお願いします」

 

 鮮やかに嫌味なく微笑む姿は一枚の絵画ではないかと見紛うほど優美なものであった。

 これまた別タイプのイケメン登場にイエヤスは落ち着かなかった。

 そこでようやく、ずっと巨体を縮こまさせて、その濃い見た目の割に存在感を隠していたボルスが立ち上がって皆にお茶を配る。

 

「ごめんなさいね、私人見知りってやつで、緊張してたんだよね。でも多分私が一番年長だし、こんなんじゃダメだよね! 帝具使い同士仲良くやっていきましょ! 焼却部隊からきたボルスです」

 

 厳つい覆面に威圧感のある巨体、そこからは想像もつかない程の物腰の柔らかさでボルスは自己紹介をした。

 

 そこでふと静かに部屋に入ってきたものがまた一人。 

 こちらもたま顔に仮面を被っており素顔は分からなかったが、その軍服で包まれた体付きからみて妙齢の女性であることは誰の目からも明らかであった。

 

「え? だれ?」

 

 ウェイブの戸惑い混じりの問い掛けに仮面の女は部屋の住民を指差して言葉を発した。

 

「お前たち、見ない顔だな! ここで何をしている!」

 

 そう言ってウェイブに向かって蹴りを放つ。いきなりの攻撃とそのあまりの鋭さにウェイブは反応できずに蹴りを食らってしまい吹き飛ばされる。

 

「賊には殺し屋もいる! 常に警戒を怠るな!」

 

 忠告とともに女が次の標的に選んだのは近くに立っていたランであった。ランは突然の事態にも慌てることはなく、仮面の女が放つ連続蹴りを躱していく。

 

(うむっ! こいつはいい反応だ!)

 

 ランの動きに仮面の女が感心したところに、凄まじい殺気が背後から襲い掛かる。

 セリューとコロが二人掛かりで仕留めにかかっていた。

 それに対処をしようとしたところで女はあることに気付く。

 真横から腰の柄を握り締めたイエヤスが低姿勢で駆けてきていた。

 

(後ろの殺気を囮に気配を殺した一閃を横からか、いい連携だ、だが)

 

 後ろのコロが口を開こうとするところを手から発生させた氷で覆うことで阻止、セリューへと一瞬で近付き、その腕を取り投げた。投げる際に体に一捻りを入れて投げる方向は横、つまりイエヤスがいる場所である。

 

「えっ!? うわぁあ!」

「グゥ、イエヤスくん、すいません!」

 

 セリューとイエヤスはぶつかりあってきりもみする。

 

(判断が僅かに遅かったな、もう少し早く動いていれば投げが間に合わずに、違う対処法を強いられていた)

 

 と判断したところでイエヤスとは反対側の横から駆けるクロメに気付く。

 速さ鋭さ申し分ない一閃に余興もここまでか、と女は敢えて避けずに仮面のみを切らせた。

 

「ふざけられても、こちらは手加減できない」

 

 そう言い切るクロメに女は笑う。

 露わにされた女の素顔を見て一部の分かるものが叫ぶ。

 

「エ、エスデス将軍!?」

 

 襲撃者の正体に気付かなかったものは騒然となるが、当の本人はあっけからんとしたものでる。

 

「普通に歓迎してもつまらんと思ってな、楽しんでもらえたかな?」

 

 反応はまちまちだったが、概ねエスデスの予想通りであった。

 

「ところでこの中に一人、他とは違う呼び出しを受けたものがいるはずだが、誰だ?」

 

 視線を巡らせながら問い掛けるエスデスに心当たりのないウェイブ・ボルス・クロメ・ランは首を傾げる。

 セリューとスタイリッシュだけはイエヤスへと視線を向け、向けられたイエヤスは慌てて背筋を伸ばしつつ主張した。

 

「は、はい! それは多分オレです!」

 

 エスデスはイエヤスへと近付き、己の顎に手を当ててじっくりと観察する。

 蒼い長髪と同じ色をした力強い瞳に囚われて落ち着かないイエヤス。

 絶対的強者の威風に気圧されるのもそうだが、その目鼻立ちの整った顔は美しいという言葉が陳腐に思えるほどのものであり、教養のないイエヤスにはその美しさを真に表現できる言葉が見当たらなかった。

 

「いくつか質問をする、答えろ」

「はい!」

「育ちは?」

「北の辺境の村です」

「年は?」

「17です」

「危険種狩りは……問題ないな、将来の夢などはあるか?」

「自分は将軍級の器だと自負しています! なので将軍になるのが夢であります!」

「………ほう?」

 

 淀みなく質疑応答を繰り返していたが、イエヤスの大言壮語とも言える返答にエスデスは面白そうに笑みを浮かべる。

 オーガの言葉を思い出して発した言葉。話は聞いていたセリューはイエヤスの言葉に嬉しそうに微笑む。

 

「笑え」

「………はい?」

 

 もはや質問ではなく、さらには意味の分からない要求に思わわず間の抜けた返答をしてしまうイエヤス。

 エスデスはそれには答えずに無言で待つ。

 二度は言わない、という意思表示を受け取ったイエヤスは戸惑いながらも笑顔を浮かべた。かなり引き攣っていたが。

 

「こ、こうですか?」

「……………」

 

 イエヤスの引き攣った笑顔を見て、腕組みをしてなにか考え事を始める。

 自分が一体なにをやらされているのか、さっぱり分からないイエヤスは周りに助けを求める目線を送る。

 

 ウェイブは目が合うとあからさまに目を逸らしにかかった。

 クロメは興味がないようで手持ちのお菓子を食べることに注力している。

 ボルスはジッとこちらを見ているが覆面のためどんな顔をしているのか分からない。

 セリューはよく分かっていないが、とりあえず頑張れと両手を握りしめている。

 スタイリッシュとランは特にイエヤスのヘルプには答えずにエスデスを観察している。

 コロはクロメになんとかお菓子を分けてもらおうと足元でピョンピョンしているが無視されている。

 

「うむ、検討したがないな、惜しいが好みではないのだから仕方がない」

「なんかよく分からない間に振られました!!!!」

 

 突然のエスデスの振り発言でイエヤスもついには叫ぶ。混乱の極みで立ち尽くすイエヤスにエスデスはフォローのため肩を叩く。

 

「なに、気にすることはない。恋人候補としては不採用だが、動きは悪くなかったし志も高く好印象だぞ。上に掛け合って私の部隊に入れるようにしておこう。それで満足しておけ」

「あっ、はい! ありがとうございます。みんなもよろしくお願いします」

 

 フォローの内容の魅力さになんとか持ち直したイエヤスは敬礼とともに改めて挨拶をするのだった。

 

 

 

 新部隊結成のパーティが開かれるということで黒スーツ姿に着替えることになったイエヤス達。慣れない着替えに四苦八苦しながらもなんとか終えたイエヤスは女性達を待つ間ウェイブ達と雑談に興じた。

 

「へぇ、ナイトレイドの一人を倒したっていう帝都警備隊ってイエヤス達のことだったのか!」

「ま、このイエヤス様にかかればナイトレイドの一人や二人、楽勝ってもんよ」

 

 ウェイブの称賛に鼻を高くしたがすぐに取り消した。

 

「と、言いたいところだけどな、俺がしたのは敵の足止めぐらいで、実際に仕留めたのはセリュー先輩だからな、正直あんまり誇れたもんじゃねぇんだよな」

 

 バツが悪そうに頬を掻きながら苦笑いする。

 イエヤスの様子に意外そうな顔をするウェイブ。

 

「将軍になれる器なんて豪語するから、すっげぇ自信家かと思ったけど意外と謙虚なんだな」

「それはそれ、これはこれってやつだ。やってもいない功績を自賛するほど面の皮は厚くねぇよ」

 

 二人の会話を聞いていたランは終始笑みを絶やさずに会話に入ってくる。

 

「良い心掛けだと思います。将軍の器とは強さだけではなく、そういった振る舞いにも求められるものだと考えられていますからね」

 

 ところで、と周りに視線を這わすラン。

 

「ドクター・スタイリッシュの姿が見られませんが何処へ行かれたのでしょう?」

 

 雑談している3人とその輪に入れずに遠くでポツンと一人立っている人見知りを自称しているボルスの姿は見えるが、確かにスタイリッシュはいなかった。ランの問い掛けに心当たりがあるイエヤスが答える。

 

「ドクター・スタイリッシュなら、早々に着替えて出てきたセリュー先輩とクロメに、パーティに出るのに化粧の一つもしないなんてマナー違反よ! こっちにいらっしゃい、って言って連れて行ってたぜ。隊長も興味深げについていったな」

 

 イエヤスの腰のくねりまで入れた渾身の物真似に苦笑を返す二人。

 

「おっ、噂をすれば帰ってきた」

 

 イエヤスが視線を向けた先に女性陣の姿が見えた。満足そうなスタイリッシュを見るに化粧しているらしいのは理解できたが、どこが変わったのかいまいち違いが分からないイエヤスが首を捻る。

 その様子に手を額に当てて呆れたポーズをとるスタイリッシュと特に気にした様子もない女性陣。

 

「化粧というのも、なかなかに面白いものだったな」

 

 そう締めたエスデスはいつも被っている帽子を被り直すと、皆を引き連れて歩き出す。

 

「エスデス隊長、新部隊の名称とか決まっているのでしょうか?」

 

 スタイリッシュの質問にエスデスは不敵な笑みを浮かべた。

 

「うむ、我々は独自の機動性を持ち、凶悪な賊の群れを容赦なく狩る部隊、ゆえに、特殊警察イエーガーズだ」

 

 

 イエヤスの新たな部隊での日々が始まった。 

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