英雄を求めて   作:ゴマ醤油

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放課後

 二日間の練習試合も終わり、また一週間が始まった。

 私もここ最近は珍しく授業を聞き、学業に勤しみながら日常を送っている。

 

 今日は木曜日。変わらず部活はあるのだが、全くもって行く気にならない。

 フレゼリシアに行く前よりもやる気が起きない。中三のときと同じくらいのテンション。これならまだ机に向かっていた方がましだ。

 

「……ふわぁ」

 

 その気持ちを出すかのように欠伸が出る。もう、今日はあの木で寝てようか。いや、やっぱり帰ろう。外にいるのもかったるいし。

 

「南雲さん! 今日は部活──」

「行かない」

 

 どこから湧いたのか、花柳がまた部活に行こうと誘ってくる。

 今週は毎日来るが、選抜になったから張り切っているのだろうか。

 

「えっ。……ちょ、調整は?」

「必要ない。大会前にやる」

「そんなー」

 

 誰が見ても分かるぐらいにへこむ花柳。どうしてそこまで人に感情を見せられるのか、これが一番謎である。

 

「そんな事言わずに行こうよー? 楽しいよー?」

 

 私の手を掴み、ブンブン振りながら更に誘ってくる。……子供か。

 

「帰る。映画見る」

「えー? ……なら、私も行く!」

「──はっ?」

「私も一緒に映画見るー! 」

 

 何をとち狂ったのか花柳が一緒に帰ると言い出してくる。その場を乗り切るための適当な嘘が事態を余計にこんがらせている気がしなくもない。

 

「……練習は?」

「……ま、まあ今日はお体を休めよっかなって!」

 

 一応確認してみるが、随分と苦しい言い訳だ。そもそもさっきまで行く気満々だったではないか。服だってもう練習着だし。

 ……はあっ、しょうがない。何か見るものあっただろうか? 

 

 わたわたと着替え直す花柳を待ち学校を出る。置いていってあげた方が彼女の為にもなっただろうが、親に捨てられそうになった子犬みたいな目を向けられたのでどうすることもできなかったのだ。

 

「……本当に部活平気?」

「心配ないよぉー! 部長には伝えたしコーチはどっちでもいいって言ってたし!」

 

 笑顔で答えながら街を歩く花柳。まあ確かに、選抜生は己に必要なことをするようにとコーチは言っていたけど。それはあくまで練習内容の話であって練習に出るかどうかなのかは若干悩む所である。

 ……まあいいか。明日は出るから練習に付き合ってやれば良いし。

 

 映画館までの道を歩く。駅近くのビルに入っているのでそこまでかかることはない。

 この道を二人で歩くのは二回目だ。思えば一回目も大分昔のことのように思える。あの時も、こいつから声を掛けてきたんだっけ。

 

 本当になんで私に構うのか。バドミントン以外にこちらに来る理由はないはずだ。こいつは友達も多く、勉強も出来る。

 こいつからは未知しか感じない。他の部員や先輩達は中学までと変わらない視線で見てくるのに。

 思えばこいつはずっとこんな感じで私に接してくる。学校が始まったときも。部活で始めてペアを組んだときも。変わらず笑顔で。

 

「南雲さんどれ見るのー?」

 

 映画館に到着し、上映されているリストから花柳が聞いてくる。しまった忘れていた。こいつについて考えていたらいつの間にか到着していた。どれ見よう? 

 とりあえず適当に目を向けてみる。何かラブコメっぽいやつ、SFだろうと思えるやつなど様々な映画がやっている。

 何見よう。なんだかんだ映画館なんて来たのは久しぶりだ。……あっ。

 

「……これ」

「どれ? えっこれ?」

「悪い?」

 

 指さしたのは劇場版『ほえほえ 未来へのドリームスイム!!』という映画。いわゆる小さい子向けのやつである。

 

「ええっと……。……うん。それにしよっ!」

 

 かなり考え込む様子を見せたが花柳もそれでいいと言ってくれた。

 ドリンクを買い、上映シアター入ると平日の夕方だというのに割と席が埋まっていた。

 

「ふむふむ。ふーむふむ」

 

 パンフレットとにらめっこをしている花柳と共に座席に向かう。椅子が少し柔らかい気がするが、別に問題は無い。

 

「たのしみー。おとうさんまだなのー?」

「もうすぐだよ。だから座って待っていようね」

「はーい」

 

 未だに花柳がパンフを熟読していると、近くから子供と親の会話が聞こえてくる。多分後ろだろうか。

 なんてこと無い親子の会話。その辺に耳を傾ければ聞けない方が少ないだろう家族の団欒。

 

「南雲さん?」

「…………」

 

 ふと思い出す。昔、父とこういった場所に来たことを。映画の途中で泣きじゃくる私に父が優しい言葉を掛けてくれたあの出来事を。ああっ、懐かしい。本当に、懐かしい。

 

 世界が暗転する。正面の大画面に明かりが点き、物語が開始される。その時にはもう子供はの声は聞こえなかった。

 

 映画の内容はありきたりの物。遠くに行ってしまった友を追い、ほえほえという鯨が世界を回る。七色の海、青い雲と白い空の海、自身の記憶を泳げる渦巻き。そのどれもが鯨の思いを強くし、やがて旅の終着点にて友と再開する。

 

 映画の内容なんてそこまで興味が無かった。だって、特別見たいとも思わずに決めたものだから。

 けど、なぜだか心は落ち着かなかった。

 

 エンドロールが流れ終わる。劇場に明かりが戻り、次々と人が立ち去っていく。

 

「──楽しかったー! おもしろかったね! 南雲さん!」

 

 隣の花柳はご満悦そうな表情をしている。思いの外楽しんだようだ。最初の苦笑いは何処へ行ったのか。

 映画館を出る。外はすでに茜色から黒へと変わっている途中だった。

 

 さてどうしようか。このまま解散だろう。私はどこかでご飯を食べていこうか。

 

「南雲さん! まだ時間ある?」

「……あるけど」

「なら、一緒にご飯食べよっ!」

 

 軽く頷くと、嬉しそうに一瞬でどこかで電話する花柳。多分親にだろう。親がいるならそっちと食べる方が楽しいだろうに。

 花柳と近くのファミレスに入る。流行っていそうな曲が流れるその空間で、スタッフに案内され席に誘導される。

 

「えへへー。何食べようかなー?」

 

 花柳が今度はメニューとにらめっこをしている。私は頼む物が決まっているから良いとして、これは当分時間がかかりそうだ。

 

「よーし! これで決まりー! 南雲さんは?」

「もう決まってる」

 

 あちらから見れば決して愛想が良いとは言えない返し方。それなのに。花柳はそっかと軽く頷きそのまま席に着いているスイッチを押し店員を呼ぶ。

 それぞれで注文をし、ドリンクバーで飲み物を取ってくる。私はいつも飲むメロンソーダ、花柳は多分オレンジジュース。確認した訳ではないが、おおよそその液体の色で判別できる。

 

「楽しかったよねほえほえ! いやー、以外とちゃんと見ちゃった!」

「……そう」

 

 映画館で買ったほえほえのストラップを見せてくる花柳。こいつ、なんだかんだ言って気に入ったらしい。

 適当に映画について話していると頼んでいた品がテーブルに届く。私はハンバーグ。花柳はパスタである。

 

「いっただきまーす。……うん、美味しい!」

 

 美味しそうに食べ進める花柳。こいつに嫌いな食べ物とかあるのかはわからないがそれでも、何かどれでも笑顔で食べてそうなイメージだ。

 

 ……何でそんなにいつも笑顔なんだろうか。

 

「……あのさ、なんでいつも笑ってられんの?」

「──もぐ。──えっ?」

「練習中でも、私と話してるときもずっと楽しそう。なんで?」

 

 食べながら首を傾げる花柳。けど、もう気になって仕方が無い。こんな気持ちは初めてだ。

 

「何でって、楽しいからだよ? 練習も、南雲さんといるのも」

「……はい?」

 

 当たり前だというように言う花柳。それは全くもって理解が出来なかった。

 まあ練習に関してはわからなくもない。うちの部活にいる連中は私を除いてバドミントンに対しての熱意は並外れている。だから、それがどれだけ辛くても強くなれるのなら受け入れるのだろう。

 

 だが、私といるのが楽しい? 何を言っている。どういう意味で言っているのだ。

 自分で言うのもあれだが、私は周りと楽しく会話できる人間でもない。基本バドミントン以外で目立った特徴も無い女である。

 反面、花柳は客観的に見ても魅力的だとわかる少女である。人に気に入られる社交性、テストの成績も良く、部活にも真面目に取り組む文武両道を無意識でいってるすごいやつである。

 だから、余計にわからなくなる。バドミントン以外で私に何か構う理由があるのか。バドミントンしかない私に、部活以外で話しかける意味があるのか。

 思えば、同じクラスになってからずっとこの娘は話しかけてくる。他に話す人などたくさんいるのに。

 

 考えながらフォークを進めていると、いつの間にか食べきっていた。食べた実感など全く湧かない。本当に。

 

「けどね、南雲さんといるのはね。……笑ってる顔が見たかったからなんだ!」

「笑ってる顔?」

「そう! 南雲さんは可愛いのに、いつもつまらなそうにしているから!」

 

 思わず顔を触る。笑ってる顔が見たかった? 

 ……なるほど、詰まるところこの少女は面白がってるだけなのだ。普段仏頂面のやつの笑顔は珍しい。それを見れればさぞ楽しいし、他のやつとのの話のネタにもなるのだろう。

 

 次第に心は落ち着いてくる。この鉄板のように冷め切っていくのがわかる。

 

「……そう」

「うん!」

 

 何を期待したのか。そもそも何かに期待していたのか。もはやどうでも良い。

 やはり私にはバドしかない。それが無ければこいつにだって、単なるおもしろ女という動物園のパンダみたいな扱いしか受けることはないのだろう。

 

 それから少しして店を出て解散した。彼女は結局、始終笑顔であったが、もはやそれに何か思うところはない。

 結局、私にはバドミントンしかないのだ。これしか人にとっての興味の対象にはなれないのだ。

 

 バドミントンしかないのに、バドミントンですらやる気になれない私。他の取り柄もないからそれにすがりつくことしか出来ない私。

 父の言葉が正しいと証明したかったのか、自分がやりたいことだったか、それともそれしかないからなのか。

 

 帰り道をふらふらと歩く。もうわからない。心はぐちゃぐちゃ。自分でも、どうしようもなかった。

 

 ただ一つ、私は私が大嫌い。それだけがわかる放課後であった。

 




 書いてて何ですが、主人公面倒くさいですね。
 
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