英雄を求めて   作:ゴマ醤油

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初戦

 暖かい春の陽気に包まれたその日。県内で有数の大きさを誇るその体育館には数多くの学生が集結していた。

 白、緑、青。来ているユニフォームの色は違えど志は同じ。全国に行くために全力を尽くす──そういう場であった。

 

 しかし、当然ながら人が多ければそれだけ注目される人というもの存在する。全てが同じというわけではないのだから。

 

 この県においてそれは一つの高校が該当する。コート内を蹂躙する黒色のユニが何よりも特徴的なその学校。

 海鳴高校。ここ二、三年において個人と団体の両方で猛威を振るうその学校こそがこの予選において最強であると認識されているのである──。

 

 

 

「──ふわぁあ」

 

 心地よい日差しに欠伸が出る。正直このまま寝てしまいたいが、今寝ると間違いなく試合までに目覚められないだろうから辛い。

 コートに戻ろうか。……やっぱり暑いから嫌だ。一応始まったのを確認してから来たので後二〜三十分ぐらいはかかるだろうし、その間あの密閉された空間にいるのは息が詰まる。

 

 風邪か体を通り抜けていく。少し強いがそれが丁度良く涼しい。

 ふと時計を見る。……いつのまにか二十分近く過ぎていた。

 

(……戻ろっかな)

 

 そろそろ一旦戻った方がいいと思い、体を頑張って起こす。

 眠気に負けないようにコートに戻ろうとした。

 

「──おい」

 

 誰かを呼ぶ声がする。周りを見回してみるが呼んだであろうその女性しかいなかった。

 ……もしかして、私? 

 

「南雲だな? まさか、予選で会うとは思わなかった」

「…………?」

 

 誰だこの人。全くもって思い当たりがないのだが。

 

「……誰、ですか?」

「──あぁくそ。やっぱそういうやつだよ、お前は」

 

 心から憎々しげにそう言ってきているように見える。本当に知らない人なのに。

 何かしただろうか。……だめだ。心当たりがまるでない。でも名前は合ってたから人間違いではないし。

 

「決勝でお前を倒す。絶対にぶっ倒すからな」

 

 知らない人にいきなり宣戦布告された。別にそれだけならなんてことも無い話だが、生憎私は知名度がないからとても怖い。

 

「あいつの敵を絶対に──」

「あ、此処にいたんだ」

 

 続けようとしていた言葉を遮るように、椎名先輩が彼女の後ろから割り込んできた。

 

「隣のコートにいないから探しに来たよ。ほら、戻るよ」

「え、はい」

 

 素早くこちらの手を掴み試合会場に戻ろうとしてくる椎名先輩。もしかして、探しに来てくれていたのか。

 

「おい待てよ。こっちはまだ話が──」

「ごめんね。この娘もう試合だから」

 

 まだ言いたいことがありそうなあの人を意に介さずその場から離れる私たち。……正直凄く助かった。

 

「……すいません。ありがとうございます」

「いいよ別に。それよりあの利根石高のやつは知り合い?」

「……知らない人です。あっちは知っていたようですけど」

 

 椎名先輩に聞かれるが首を横に振るしか出来ない。例え会ったことがあったとしても覚えていないものはどうしようもない。バドミントン関係なら尚更だ。

 

「ふーん。それにしても利根石のやつに絡まれるなんて災難だね。あそこ、何かうちを敵対視してる人多くてね」

「そうなんですか?」

「問題起こしたこともないんだけどね。まあ南雲は気にしなくてもいいから」

 

 少し顔をしかめながら大丈夫だと言う椎名先輩。なんか知っていそうな気もするけどまあ気にしなくてもいいなら別にどうでもいい。

 しかし、さっきの人は明らかに私を狙っていた。本当に、誰なんだろう。

 

 少し駆け足で戻ると試合も既に佳境に入っており、次の試合が始まる寸前であった。

 危ない。椎名先輩が呼びに来てくれなかったら早く行こうと思えずに遅刻する可能性があった。本当にありがたい。

 

「もう始まるね。準備しときな」

「……はい。ありがとうございます」

「気にしない気にしない。……倒したい人が寝坊で棄権なんて嫌だしね」

 

 軽く手を振ってコート近くの場所に座る。少し体をほぐしていたし、恐らく試合はすぐなのだろう。

 

「ゲーム。マッチワンバイ浦原。21-19,18-21,21-15」

 

 少し屈伸をしていたら試合が終わる。……さて、私の番か。

 別に緊張とかはしていない。一応中学で全国には出ているのでこんな所で感じる理由がないのだ。

 

「オンマイライト、南雲。オンマイレフト、鹿島。南雲トゥーサーブ、ラブオールプレー」

 

 審判のその掛け声が己の耳に響く。

 ──さあ、試合の始まりだ。

 

 

 

 海鳴高校は強い。その前提はここ最近でおおよそ共通の認識になっている。

 けれどその強さは団体としてのもの。個人として警戒する必要があるのは、今年三年の御劔と来栖ぐらいだと同世代、そして選手を支える監督達は思っていた。

 それは間違いではない。確かに去年まではそれで良かったのだ。真に警戒するのは二年連続で本戦に行っている御劔だけで、その他の選手なら今まで頑張ってきた選手達ならチャンスはある。そう思えていたのだ。

 

 ──しかし、今年はそれでは行けなかった。

 

「ゲ、ゲーム! マッチワンバイ南雲。……21-0、21-……0」

 

 その試合はまだ一回戦。見ている者は少なかったがその試合を見ていた者はその光景に自分の目を疑った。

 それは常識では考えられなかった。確かに実力が開いていればこのスコアになるかもしれない。しかし、一ゲームならともかく、セットを通して0で抑えられるという現象はあまりにも非現実すぎる。

 

 コートには二人。あまりの出来事に涙を流しながら呆然と立っているだけの少女。そして、ただ相手コートを見ているだけの黒髪の少女。

 挨拶をしコートを去るその黒髪の少女。その服は髪と同じ黒。この大会において統一されたその色を着て試合に出ているのは一校だけ。

 

 南雲咲耶。その少女の大会初戦は見ていた者に恐ろしいほどに衝撃を与え、ほとんどがその黒髪の少女の背を恐れるような眼で見ていた。

 

 




 個人戦の予選は少し長くなるかもしれません。中々原作キャラが出せずに申し訳ないです。
 続きは早く書きたいけど、某ソシャゲの配布がタイプなので回らなければいけないので少し遅くなるかもです。

 
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