英雄を求めて   作:ゴマ醤油

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準決勝

 初日は恙無く進行された。

 負ける者、勝利する者。たった一日で多くがその境界で別れ、この舞台に集まった数多の人間の中からが四人が残った所で一日目は終了を迎えた。

 

 そして、二日目が始まる。

 使うコートの数も減り、より多くの人間に見られるようになる決戦場。そこに上がれるのは残った者だけ。ここで試合ができる者はそれだけで強さがあると証明されているのだ。

 

 当然ながらここで近くで試合を待っている人間も少なくなるということ。初日に比べ喋り声も減り、心なしか寂しくなったその場所。

 その静寂を味わえるのは実力者の証。

 

「…………」

「…………」

 

 そのはずなのだがあるのは気まずさだけである。それもそのはず、さっきからこっちを睨む人が二人ほどいるためである。

 一人は別に良い。主将だから。だが、もう一人の女。先日私に宣戦布告してきたあの女がずっと鋭い視線を送ってくる。……怖い。

 

「……なあ、あいつお前の知り合いか?」

「……違います」

 

 主将も気になったのかこちらに聞いてくるが知らない物はどうしようもない。昨日布団で考えたが、結局誰かわからなかったのだ。もしかしたら、どっかで肩がぶつかったとかそんな程度の関係かもしれない。

 

「そうか。まあ利根石の奴ならたまにあるし気にすんなよ」

「椎名先輩も言ってたんですけど、学校同士で何かをあったんですか?」

「いんや。……まぁ私らが気にすることじゃぁねえよ」

 

 少しつまんなそうに言う部長。理由が分かってそうな感じを出しているが、まあ聞いた所で椎名先輩みたいにはぐらかされるのだろうし気にしないことにする。

 座って体を伸ばす。昨日の疲れなどないが、怪我はしたくないので入念に準備運動をしておく。

 部長とは特に話す事もなく淡々と行っていると、花柳と来栖先輩が近くに来るのが見えた。

 

「そろそろ時間だよ令」

「ファイト! 南雲さん!」

 

 花柳の元気すぎる声が耳にくる。やばい、なんでこんなに元気なんだ。ダブルスもあるのに。というかこいつはダブルスが本領だろうに。

 

「おう。こいつとやるためには止まらねえしな」

「その意気だよ」

 

 私を指差しながらそう答える部長。何だろう、私はそんなに恨みを買っているのだろうか。

 

「……じゃあ」

「うん!」

 

 花柳を背にしてコートに向かう。相手も既にアップをしており、こちらを一瞬見ながらも体を動かしている。ちなみに私の相手も利根石の人だが、睨んできた人は部長の相手なので当たるとしたら決勝である。

 

 軽くラケットを二、三回振り調子を確かめる。……うん、問題ない。

 

「では、試合を始めてください」

 

 体育館に開始を告げる声が鳴り響き、コートの雰囲気が引き締まる。

 

「オンマイライト、白石。オンマイレフト、南雲。白石トゥーサーブ。ラブオールプレー」

 

 サーブが上がる。さて、今度の相手はどうなるか。

 

 

 

 

 白石凪は限界だった。

 呼吸はあまりにも荒く、体はもはや言うことを聞かない。たった一試合しかしていないのにぎりぎりまで走っていたかのような疲労を感じる。

 

「1-16」

 

 無慈悲な宣告が更に心を折りにくる。

 あり得ない。私がこんなに無様に負けているなんて。全くもって理解できない。

 準決勝までは順調に勝ち続けていたのに。あと一つ勝てば全国に行けるというのに。

 

「1-19」

 

 何をしても意味がない。どんなに足掻いたって全く歯が立たない。

 初めてだった。まだ一ゲーム目だというのに、私はもう立っていたくないと思ってしまうのは。

 相手は何もしていない。ただ私の打つ球全てを返しているだけ。こんな時でも笑っちゃうぐらい可笑しいぐらいに実力差を感じる。

 分かってる。唯一取れた一点だって実力で取ったのではない。相手が必要としていないから取れた。そんな慈悲のような情けない一点。

 

 何処までも掌の上。私は所詮あいつのおもちゃでしかない。

 

「諦めるな! 足を動かせ!」

「頑張って! 凪!」

 

 私に関係する人の声が聞こえる。私を励ます魂の叫び。

 厳しくも、真剣に指導してくれた恩師の言葉。常に隣で切磋琢磨してきた友の声。そのどれもが心からのエールなのだろう。

 

 ──けどダメだ。それに答える余裕なんてほんの僅かな可能性すら私には存在できていない。

 目の前の少女がただただ怖い。震えが止まらない。腕は上がろうともしてくれない。

 

「ゲーム。ファーストゲームワンバイ南雲。1-21」

 

 勝ちへの一歩目を取られる。普段ならそれは悔しいはずの出来事なのに──。

 顧問の話し中も心に浮かぶのはたった二つ。

 一つはやっと終わってくれたという安心感。そして二つ目。明らかに過半数を占めるその感情は。

 

 ──まだやらなきゃいけないのかという絶望だけだった。

 

 

 

 

 

「ゲーム。マッチワンバイ南雲。1-21,0-21」

 

 結局、何せずに終わってしまった。わかっていたことだが準決勝でもこうだと流石に嫌になってしまう。

 つまらない。結局、予選程度では何もなく終わってしまうのか。それはしょうがないことなのか。

 

 自分ではどうにも出来ないのが尚更辛い。期待するのが間違いだとわかってはいるのに。私と戦える相手など全国で見つかればラッキー程度であるとは考えているのに。僅かでも、期待はしてしまう。

 

 ふと隣のコートの試合を見る。スコアは19-15。部長が有利な展開であるようだ。

 だからといってどうなるわけでもない。部長だってああも私に言ったところでこの試合に負ける可能性もある。どっちが上がってきたところでやることは変わらない。

 

 コートを出る。思うのはただ一つ。この流れ作業のような大会が少しでも早く終わってほしい。それだけである。

 

 




 アンケートご協力ありがとうございます。一応簡単な設定だけ乗せておきます。


南雲咲耶(なぐもさくや)
 海鳴高校一年C組。身長170cm。長い黒髪。胸はあまりない。
 幼少期より父から教えてもらったバドミントンを始める。

 そこまで勉強が出来るわけではないコミュ障。多分部活やってなければクラスにしゃべる人はいなかったと思う。
 写真の母が眼鏡をしていたのと、何となく頭が良さそうに見えるからという理由で伊達眼鏡を付けるときがある。
 


 

 

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