英雄を求めて   作:ゴマ醤油

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決勝の相手

(あっちは終わったか)

 

 一ゲーム目を取ってもう一個のコートを確認した時には既に試合は終わっていた。結果は見てはいないがどうせ、あいつの勝利で間違いないだろう。

 

(まあ、今は試合についてだ)

 

 今はとりあえず自分のことを優先することにする。

 状況はこちらが有利であろう。相手は割と強い。如何に準決勝といえど、ここまで善戦されるとは思ってなかった。

 

 名前は確か及川だったか。風貌からして一年ではないとは思うが聞いたことがない。ここまでやれるなら前回も少しは話題になっているはずだ。転校生なのか、それとも試合に興味がなかったか。

 

 まあどちらでもいいか。

 私は勝てばそれでいい。ここを進んであいつに挑戦する。そして全国で益子や志波姫を倒す。こんな所で負けてやるわけにはいかない。

 

「──行くか」

 

 インターバルも終わり再びコートに戻る。相手は負けているのに余裕そうな顔をしている。あちらは横にいるやつに助言でも貰えたのだろうか。

 

「──しゃあ!」

 

 気合いを入れる。やっぱり声を出さなきゃ力が入らない。

 大丈夫、どうにも油断はできないが、まあ私が全力でやれればそうそう負けることはないはずだ。

 

 

 

 短めのサーブ。長めに返しラリーに持ち込む。

 高く、より速く。攻めこそが私の至高。これを出来なければ意味がない。

 

 ラリーは次第に速度を上がる。広く使いたそうな相手とは別に私はより狭く、より前で詰まる方が得意なのだ。

 相手はこれについていけず、長めに返して一旦整えようとしている。

 まあ無駄だ。私にそれは悪手だ。あのいけ好かない後輩ぐらい返す自信がないなら、ただ打ち抜けるチャンスにしかなり得ない。

 

「9-6」

 

 次第に点差が開き始める。だがそれほど優位に立っているとは思えないのが本音だ。

 確かに打ち合いになれば私の有利。けどあいつは多分、試合を組み立てるタイプの選手。

 感とセンスではなく、己の経験と知識で試合を型取り展開していく。そういうバドミントンをするタイプ。

 だってそうだろう。現に、あの女は未だに余裕が崩れてはいない。試合が始まってから変わらずにこちらを見据えている。

 

「9-7」

 

 ああくそっ、引きずられた。今のは明らかに飛び出す所ではなかった。もっとこう……二球前ほどのクロスはもっとライン際に……。

 

「11-10。インターバル」

 

 どうにかインターバルまで持ち込み、一旦水分を補給する。

 しかしどうする。だいぶ読まれてきた。前半は割と攻めやすかったのにどんどん有効打が少なくなってきている。

 あいつはまるで毒蛇だ。噛みついて次第に毒を回してくるうざったいやつ。まだ有利なのは変わらないが、それでもこのセット中に抑えておきたいが──。

 頭を回しどう動くか考えていると、突然頭にタオルが被さってくる。冷たっ。

 

「ほら。何馬鹿正直に悩んでるの」

「……美奈」

 

 億劫だったので目だけを向けるとそこには何故か美奈がいた。試合中にここに来たことなかったのだがいきなり何故? 

 

「令は考えて動くような選手じゃないでしょ。少し悩みすぎだよ」

「……そうか?」

「そうだよ」

 

 あっけらかんとした表情でそう言ってくる美奈。

 ……確かにそうだ。私の最も得意なバドミントンは相手のことを考えるスタイルではない。どうやら、ここ最近あの天才女に負け続けたせいで少し見失っていたらしい。

 

 頬を両手でバチンと叩く。よっし悩むのはもう終わり。私は私の出来ることをする。それだけじゃないか。

 

「さんきゅ美奈。流石は副部長だよ」

「そう? ……そういえば、春から聞いたんだけど」

 

 まるで今思い出したかのようにこっちに伝えてくる美奈。それは私の心を更に燃やす燃料には丁度良かった。美奈は多分、私にとって良い起爆剤になるとわかっていてこれを私に聞かせたのだろう。まったく、叶わないな。

 

「……行ってくる。座って見とけ」

「うん。とっとと勝ってこいバカ」

 

 椅子から勢いよく立ち上がりコートに戻る。

 相手は今だ余裕の表情。さっきの話を聞いたら、まるで私なんか前座と言わんばかりのその態度が尚更気に入らなくなる。 

 

 確かに、お前にも負けられない理由があるのかもしれない。あの後輩に対して思う物があるのかもしれない。

 ──そんなことはどうでも良い。結局は勝った方が挑めるのだ。勝ちたい思いはお互いに同じ。

 

 シャトルを上げる。その時にはもう、ほんの少し前まで感じていた焦りやいらつきなどどこかに行っていた。

 

 

 

「ゲーム! マッチワンバイ御劔。21-16,21-13」

 

 審判の試合終了を告げる声が聞こえる。どうやら部長が勝ったらしい。

 読んでいた本を閉じる。まだ読みかけだが、特別続きが気にあるわけでもないので別に良い。

 

 コートを見る。部長が相手選手と握手をしているのが見える。ぼんやりと笑顔も見える。

 試合はもう少ししてからだとか。つまらない。どうせ何か変わるわけでもないのに。

 だってそうだ。何か因縁があったっぽいあの他校の人も結局負けているのだ。例え、どれだけ勝とうという意志を見せたって、どれだけのやる気で試合に臨んだって何も意味など無いのに。

 

「……はやく、早くして」

 

 口から出た言葉はこの空間内の音にかき消される。どうでもいい。

 とっとと試合をしたい。今閉じた本よりは面白い内容になってほしいと心から願う。

 

 




 遅れました。


 
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