「はい私の勝ちー!」
「ええー! もう一回!」
目に映るのは小さな少女達のバドミントン。
片方が勝ち、もう一方がやり直しを求める。なんてこと無い平和な光景。
ああ、懐かしい。昔は良く負けたりもしたっけ。普通に押し負けたり相手の作戦に嵌められた時とか。
敗北だって次に行かせると思える楽しかった。お父さんが見に来てくれた試合で勝てたときの喜びもあった。バドミントンが一番楽しかったのは多分この時期だろう。
思えば随分と大きくなったものだ。得るものは確かにあったけど、振り返ると無くした物の方が多かった気がする。
ふと気になる。そういえば、最後に負けたのはいつだったか。なんで負けが次に繋がると思っていたのか。
そんなことはもはや覚えてもいなかった。
太陽の光で目を覚ます。先程までは当たってなかったこの場所もすっかり日光に包まれていた。
「……そろそろ準備しなきゃ」
少し固まった体をほぐす。時計が指すのは十二時五十分。確か始まるのは一時過ぎ。ゆっくりで大丈夫。
指、手、足。少しずつ己を調整していく。いつも通りに動けるように、ただそれだけのために。
……うん。もういいかな。
「……行こっか」
そろそろ近くに戻った方が良さそうなのでコート近くに戻ることにする。思えば二日間、両日此処で寝てた気がする。
まだ穏やかな春の風。少し温かいその自然の恩恵。もうずっとこれを浴びて寝ていたい。
けど試合はしなければ。無駄だとは思っているけど棄権はしたくない。中学の時はあっさりそれをしたけど、なんでか今はしたいとは思えない。
どうしてだろう。……やっぱり期待とかしてるんだろうか。無駄だとわかってるのに。
「あ、南雲さん!」
こちらを見つけてから駆け寄ってくる花柳。もしかして、また探しに来ていたとかだろうか。
「……そろそろ始まるよ! 探しに行こうと思ってたんだ!」
「……必要ない」
「ダメだよ! そう言っといてこないかもしれないのが南雲さんだもん!」
酷い言いぐさだ。そんなに信用がないか。……うん、逆だったらこんな身勝手なやつ信用できやしない。
「レッツゴーだよ!」
そう言って先に進む花柳を見ながらゆっくりと歩く。少し歩くと入り口付近には来栖先輩と部長がいた。
屈伸をしながら集中力を高めている部長。少し近づきがたい。
「あ、来たね。調子はどう?」
「……問題無いです」
「そっか。じゃあ安心だね」
私の返事を聞いて少し嬉しそうにする来栖先輩。どう見ても部長に勝ってほしそうな彼女なら、私の調子は悪い方が良いのではないのだろうか。
「だってね。我が部長には全力の南雲さんを倒してもらいたいじゃん?」
「……そうですか」
「そう」
はっきりと言う来栖先輩。始めて見たときからこの人は割り切りが良さそうだと思ってはいた。でも同じ学校なのにここまではっきりと勝ってほしい方を言えるのは凄いと思う。一応副部長なのに。
「ただ今よりシングルス決勝を行います」
そうこうしていると試合開始のアナウンスが流れる。……時間か。
二三回屈伸をしておく。ああ、早く終わらして帰りたい。
「南雲」
「……?」
隣から今まで無言だった部長が声を掛けてくる。試合前になんで話しかけてくるんだろう。
もしかして、挑発とかだろうか。
「──負けねえから」
「……そうですか」
その言葉に意味なんてあるのか。自分が折れないためか、あるいは本気でそう思っているのか。
くだらない。結局、私の方が強いのは練習でわかっているはずなのに。理解ができない。
入場と共に歓声が上がる。
見に来ただけの観客。二日間ここで戦った学生達。
どうでもいい。すべては変わることはない。結局、私が来てほしいと思う応援など今はいやしないのだから。
「頑張って! 南雲さん」
「……なんでいるの?」
「応援だよ!」
何故かこちらの控え場所にいる花柳。あちらを見れば来栖先輩がそのまま付いて行って座っていた。コーチは恐らく上で見ているだろうし自由すぎると思う。
まあいい。それもまた、私にはどうでもいい話。一人だろうが誰かいようが気にする理由はない。
部長と目が合う。まるで燃えたぎるマッチのよう。私にはとっても弱く見えるのに、どうにも目に付いていらつく。
──かったるい。ああ、本当にどうしようもない。
「オンマイライト! 南雲咲耶 海鳴高校。オンマイレフト! 御劔令 海鳴高校」
互いに同じ学校。本来注目度は低い試合のはずなのだが何故かこの試合を観る者は少なくない。
理由は単純。片方は一年時から全国進出をしている御劔。もう片方はこれまですべての試合を圧勝してきた一年。
この地域の最強である御劔。この空間で最も未知な南雲。わかるのはその両方が強いということだけ。
「南雲トゥーサーブ」
果たしてどちらが勝つか。今の最強か、それとも新しい世代のダークホースか。
今この場でバドミントンをする者、した者にとっての最大の興味がここにある。
「ラブオールプレー!」
誰もが息を呑む。あれほどうるさかった歓声もすでにない。そこには緊張と静寂のみ。
──さあ始まる。この二日間の集大成。決勝戦が。
短いですが区切りなので。
次は遅くなるかもしれないです。