英雄を求めて   作:ゴマ醤油

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第一ゲーム

 試合は初めから激烈な展開であった。

 勢いのあるラリーで繋ぎ、ラストにスマッシュを打つ。それは流れとしては王道であるといえる。

 様々な種類のあるショットの中で、最も点を取りやすい形になるのが恐らくこの形になるのだろう。

 バドミントンは速度の競技。いかに相手が優れた選手でも、洗練された強く速い一撃は通じるもの。

 

 ──そのはずだった。

 

「12-2」

 

 会場に言葉はなかった。

 決勝というにはあまりに開いている点差。そして、疲労を全く見せないその姿。それが勝っている者の恐ろしさを引き立てる。

 この場の誰もがこういう展開になると予想はできていなかった。海鳴高校の生徒でさえ、本番の試合でなら差は縮まって来るだろうとたかを括っていたからだ。

 

「14-2」

 

 決して差が縮まることはない。広がり続けていくのみ。

 御劔令は弱くない。彼女が高校に上がってから全国に行かなかったことは少ないぐらいには優秀な選手である。

 けれども、ここにいる多くの人はどちらが勝つのか。その答えをもう心の内に出してしまっていた。

 

「16-3」

 

 ──僅か二人を除いては。

 

 

 呼吸が辛い。体が重い。

 またこの感じ。この自分が自分でないと思えてしまう程の不自由感。

 思えばこいつと試合をするのは何度目だ。三〜四回はしている気がするが気付けばいつも動きが悪くなる気がする。

 

「17-3」

 

 まただ。形こそ理想に近い打ち方はできている。しかし、その最後で完璧封殺される。

 ならドロップやカットを混ぜるか。いや、意味がない。こんな打たされているだけのフェイントなどあっさりと看破される。

 

「17-4」

 

 点が取れる時はある。だけど、これは私が自力でやっているわけではない。

 あいつは、南雲は自分の調整の為だけに相手に点を渡す時がある。

 より絶望させる為の前段階なのか、それとも本当に意味はないのか。

 どっちでもいい。どちらにしても、共通してるのは一つ。あいつには点を失える余裕があるということ。

 

「19-4」

 

 ──ふざけんな。どこまで舐め腐っているのか。

 どうしてこんな練習にも来ない、試合で一点を大事にしないあんなやつにここまでぼこされる。

 一度もこちらを見ることなく、試合後に溜息を吐かれるのは何回経験しても腹が立つ。

 

「20-4」

 

 ああくそ。認めよう。確かに私は驕っていた。

 目標はあくまで益子、志波姫、津幡の三強。それ以外にならどれだけ苦戦しても勝てる。そんな傲慢さを確かに持っていた。

 だからこそ、こいつとの最初の試合であそこまでの無様を晒したのだ。

 

 だが、今はもうそんなことは思ってない。自分が強い位置にいるとは思える気がしない。

 あるのはたった一つの思い。勝ちたいという思いだけだ。

 この一ヶ月ちょっと、自分を限界まで絞った。コーチにもたくさん意見を聞きにいった。うちの部の誰よりも練習したという自負がある。

 

「20-5」

 

 分かっている。所詮は人間の付け焼き刃。怪物が元々持っている牙には届き得ないなまくらでしかない。私はどこまでいっても天才じゃあない。

 

 だからこそ、慣れない分析をしているのだ。

 こいつが部活に出る回数は少なかった。故に、まともに見学できる試合が少なくどうしてもこの試合でどうにか見つけるしかなかった。

 もちろん一人なら無理だ。私は頭が良くはない。無駄に疲労するだけだろう。

 

 だけど、今は後ろにあいつがいる。美奈がいる。

 誰かがいても一人で戦う後輩とは違い、私にはずっと一緒にいた最高の美奈(あいかた)が共にいる。

 なら迷うことはない。あいつが一ゲームほしいと言ったんだ。

 私はあいつを信じてる。怪物にだって付け入る隙があることを証明してくれる筈だ。

 

「21-5」

 

 ならこのゲームは別にいい。このゲームだけはくれてやる。

 どうせ正面からでは変わらない。ならやれることは全部やる。そして勝つんだ――!

 

「――はあっ、どうだ美奈。何かわかるか?」

「……」

 

 美奈の表情は重い。やはり、この短時間ではあいつの攻略法なんてわからないか。

 

「……ひとつだけ。付け入る隙があるとしたら、それは――」

 

 美奈によって導かれる結論。それは藁に縋るより可能性が少ないであろう可能性。

 ――だがそれで十分。元より零でしかなかったのなら、光が見えてきただけで体にも力が漲ってくる。

 

「ありがとな。美奈」

「感謝してるなら勝って。それが一番嬉しい」

「……応!」

 

 美奈に笑いかけコートに戻る。

 ネットの向こうにはあのいけ好かない後輩がいる。相変わらず、こちらに興味の無い無機質な瞳。

 

 ああ、やっぱりあいつは嫌いだ。気に入らないという心の叫びが体に響く。

 けどそれと同じくらい競技者として。バドミントンプレーヤーとして南雲に感じる何かが確かにある。

 

「――南雲!」

 

 南雲がこっちを僅かにだが確認してくる。

 かつて、その無機質な眼に心は飲み込まれた。動くことすら嫌だと心と体の両方に思わせてきた化物。

 

「こっからだ!!」

 

 その叫びは己を鼓舞するものであり、あの少女にまだまだやれるとわからせるための覚悟の証。

 第二ゲームが始まる。此処で負けるかもしれない、そんな不安は不思議と無かった。

 

 ――さあ行こう。こっからが本番。反撃開始だ――!

 




 書いてて何故か、この部長が主人公ではないかと一瞬思いました。
 
 
 
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