英雄を求めて   作:ゴマ醤油

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一歩目

 審判の合図と共に二ゲーム目が始まる。

 先程部長が何やら叫んでいたが別に気にすることではない。

 どれだけ叫ぼうとも無意味。生憎だが、私と部長の差はそんな行動一つで埋まることはない。

 あんなに啖呵切っといて、結局何も出来ずに一ゲーム目は終わっていた。このまま行けば変わらずに試合が終わるだろう。

 

「──はあっ」

 

 溜息と同時にロングでサーブを打つ。少し甘く相手のコートに落ちようとするそれを力強く返してくる。

 甘かろうがどうしようが関係はない。部長の最高速はジャンピングスマッシュ。それが通用しないのはすでにわかっているはずだ。

 

「2-0」

 

 今だってそうだ。相手の一撃は完璧に返した。

 いくらどうしようとももう意味は無い。試合は終わり。後はこの事実をスコアに載せるだけ。

 現にも差は出来つつある。こっちの体力はまだ余裕。パフォーマンスが出来なくなるのはあっちのはず──。

 

「3-0」

「くっそー!!」

 

 なのに、何故諦めようとしない。練習試合ではあんなに簡単に折れたのに。

 何で足が止まらない。どうして。一体何で──。

 

「4-0」

 

 なんで相手のショットすべてが強くなってきている? 

 どういう理由でスマッシュの速度が上がる。何故疲れた体でさっきよりも動けている。

 理解が出来ない。試合で加速するなど。疲労よりもその勢いが上回るなど全く持って不可思議だ。

 

「5-0」

 

 まただ。また増した。打ち返すのは軽い羽のはずなのに、どうにも感じたことのないほどに重さを感じる。

 限界にはほど遠い。私が打ち返すのは容易。けれども、どうしてか。

 

「6-0」

 

 この胸に、私の心に僅かによぎる何かがある。試合中にこんなことを感じるなど、始めて──始めて? 

 

「6-1」

 

 わからない。何も、わかることはない。のに──。

 

「7-1」

 

 少しサーブに力が入る。いつもよりも速いその出だしにも付いてくる部長。

 左右、ラインぎりぎりに散らし走らせるが慣れたと言わんばかりに打ち返してくる。

 

(ちぃっ──)

 

 ラリーを切るためにドライブで返す。

 私のクロスファイアは良く曲がる。今日初めてのそれに対処できるわけが──。

 

「──うらあぁ!!」

 

 咆哮を共に強引に返される。ふざけるな、何故返せる? おおよそ不可能だろうが──。

 思わず高く上げてしまう。しまった、イージーショット。

 

 向こうから放たれるスマッシュ。弾丸のようにボディ目掛けて放たれるそれをラケットで浮かせる。

 部長の部上を超えさせようと放ったそれを待っていたかのように構える部長。

 

「──らぁっ!!」

 

 轟音と共に放たれるそれは最初のよりずっと強力。多分、こっちが本命。

 だが問題無い。逆を突くのでもなく再び胴近くを狙うなんて、何よりも愚策で愚かなチャンスの潰し方。

 再度しっかり捉え、相手コートに押し戻す。恐らくこれで終わり。部長の足は止まり、シャトルは地に転がるであろう──。

 

「────っ」

 

 だが、何故そこにいる。落ちる場所近くに、どうして飛び上がっている──? 

 

「──────―ぁぁぁっ!!」

 

 もはや人の声ですらないその咆哮。それとほぼ同時にその白い羽に確かにコートの上に墜落している。

 だがしかし、予想とは違う。落ちている場所は、だって、そんな、どうして。

 

 ──どうして私の陣地の中であるのだろう。

 

 

 

 

「7-2」

 

 別に、その一点で歓声が上がることはない。だってそれはただの一点。

 試合を決めるとか今日初めての得点だとかそんな特別なものではない。

 会場にとって、その中の多くの者にとってはなんてことの無い試合の構成要素の一つ。

 

 それはいっそ哀れみすら思う者いるのかもしれない。これまでの試合展開からその抵抗は無駄なあがきでしかないと考える者もいるのかもしれない。

 けど、それでも──。

 

「──うぉっしゃー!!」

 

 確かにわかることがある。何かを感じる人もいる。

 

 その一点は始まり。両者にとっても始まりの一歩。

 片方はこれからの試合のための。このゲームを死んでも取るという意志の強調。

 

 そして、もう一方の少女には。怪物と人に揶揄させるその少女にとっては──。

 

「……うそっ」

 

 止まっていた時間の、望んでいた何かが動き始める音のする。

 そんな一点であった。

 

 

 

 

「……うそっ」

 

 その一言は心の底からつい出てしまった。

 だってありえない。それは余りに未知で余りに処理が追い付かない事態。

 私が点を取られた? 私の意志ではなく、私のミスでもなく。

 

 ただ単純に相手の実力に押し負け。相手の力によって、私の意志とは関係もなく。

 普通に点を奪われた──? 

 

「見たか南雲ぉ!? やっと、やっと一点だ!!」

 

 ネットの奥を、その白帯の向こうに目を向ける。

 部長が嬉しそうな顔をしている。隠せない疲労を見せながら、それでも心から楽しそうに笑っている。

 

「さあ行くぜぇ。こっからだ!!」

 

 試合中に相手を見たのは久しぶりだ。一体、いつ以来だろう。

 この胸の何かが、少しだけ。ほんの少しだけだけど。

 

 ――動き出そうとしていた。

 

 




 レポートもテストもあるのに今更シンフォギアを一期から見始めました。一期が名作すぎる。
 なので、ペースは落ちると思います。申し訳ございません。……書きたくなったらどうしましょう。
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