英雄を求めて   作:ゴマ醤油

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帰宅

「で、いつまで静かに見てりゃ良いんだぁ?」

「!?」

「えっ!?」

 

 不意に掛けられたその声に心臓がもうばくばくに驚いた。

 振り向くとそこにいたのは人一人。暗闇で良く見えないが。

 

「私がめそめそ泣いてるとこでいちゃいちゃしやがって。なんだ駄目押しでもしとこうってか?」

「あっ部長!」

 

 その鋭い目。僅かに掠れてはいるが馴染みのある声。茶色の髪の部長が光に当てられながらこっちに歩いてきた。

 

「御劔部長もここに来てたんですか?」

「ああ。せっかく人が試合の負けを悲しんでるのによぉ。いきなり大声で青春始めてんだからいらつくよなぁ」

 

 決して私たちが悪くないのになんか申し訳なくなるぐらいにはしみじみとした声。どうやら言葉の通り落ち込んでいたらしい。……勝ったの私なのだが。

 

「ったくよぉ。……まあ良いや。私ももうそろそろ帰ろうと思ってたし」

 

 そう言って公園を出ようと出口に向かう部長。

 しかし階段付近で一旦足を止め振り向く。……? 

 

「おい南雲。今日の私はどうだった?」

「……いつもとは、違いました」

 

 その質問にはすぐに返せた気がする。だって、それは思ったことをそのまま伝えただけなのだから。

 それを聞いた部長は少しだけ、ほんの少しだけ笑ったような顔をした。

 

「……そりゃ良い。なら、全国には私程度ならごまんといる。てめぇが全力を出せる機会も、もしかしたら見つかるかもなぁ」

「……部長は上から数えた方が早かったですよ」

「はっ。なら決勝を楽しみにしてな。……んじゃ早く帰れよ推薦ども」

 

 優しい声色でそうこちらに告げ、軽く手を振りながら今度こそ公園を去る部長。

 ……決勝か。もしかしたら、全国最後に当たるのはあの人という可能性もあるのか。他のやつよりは楽しめるかな。

 

「いやー。全国でも負けられないね咲耶ちゃん!」

「……もちろん」

 

 そうとも。今回はもう投げ出すことはしない。いくらつまらなくとも途中で辞めた中学生時代とは違う。

 あの何もかもが色褪せた世界に比べたら、今は随分と幸せなものである。

 

「……そろそろ帰ろっか! 冷えちゃうし!」

「……そうだね」

 

 がばっとこっちの手を握りそのまま私を引きずっていく。いつもならそのままか手を離すのだが、今日はそのまま歩幅を合わせる。

 彼女の横に付いて歩く。……なんだか新鮮かもしれない。お父さん以来だ。隣の人が嫌にならないのは。

 

「ふふんふーん。ふふふーん」

「……楽しい?」

「とっても!」

 

 浮かべている笑顔は本物だ。そうはっきりとわかる。

 暗い道を二人で歩く。次第に分かれ道が見えてくる。確か花柳は駅の方に行くって言ってたしここでお別れだ。

 

「ばいばーい! また学校でねー!」

「……じゃ」

 

 手を振ってそれぞれの道を進む。さっきまでのうるささも一気に静寂に切り替わる。

 少し歩き、見慣れた一軒家に辿り着く。

 明かりは一つも付いておらず何か物寂しさを漂わせているこの家。言わずもがな我が家である。

 

「……ただいま」

 

 返ってこないとわかっていながらも変わらぬ習慣を続ける。散らかったリビングに鞄を雑に置き、そのままソファに寝転がる。

 汗のベタベタ感が気持ち悪いが今日はなんだかいつもより疲れた気がする。眠い、お腹減ったがやっぱ眠い。

 

「……あ、本」

 

 読みかけた本のことを思い出す。しかしなんでか続きを読もうと気にならない。

 何でだろう。なんか、満足してる。もうこのまま夢に浸りたい気分。

 

(……とりあえず、風呂入ろ)

 

 ゆっくり立ち上がり浴室に向かう。

 僅かに残った高揚感。その心地よさは風呂に入ってもご飯を食べても布団に入っても取れることはなく眠りについた。

 

 ──今日はいつも見る思い出の夢は、何でか見ることなく次の日を迎えた。




短いです。前の話とまとめようかは後で決めます。
投稿は遅れます。頭痛と吐き気で沈没していたうえテストとレポートがやばいのです。

関係ないですけど、ダンまちの二期が始まったのでギャグ100%で付けられた通り名に怒り、それをバネにベル君張りに強くなっていく友情・恋愛・熱血の作品を誰か書いてくれると嬉しいです。私には無理です。
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