団体戦とは一人が勝てば良いものではない。
例えどれだけの強者が二勝しても、その他の選手が負ければ勝利にはならないもの。
個人戦で負けた相手がいるチームと試合をしたとして、勝てる可能性を見出すことが出来る形式。
──しかし現実とは非情なもの。
強い人間は強い場所に集まる。自身の身に合った場で己を育むことが多いとされる。
ただ、それを踏まえても運という物は存在する。
そしてその運を、その年にこの予選に集まる学校は悲しくもそれを持っていなかったとはっきり言えてしまう。
──理由は一つ。単純なもの。
この地域には存在してしまったのだ。
明確な最強が。手を伸ばしたところで届きはしない距離が。強さという一つの不条理が。
故に結果は決まりきったもの。
黒いユニフォームの集団が全てを塗り潰す。残酷だが、なるべくしてそうなった。それだけのことである。
団体戦はあっけなく優勝した。
あれだけコーチに脅されたのが効いたのかは知らないが結果は圧倒的。誰もが一試合も落とすことなく無事に終わることが出来た。
私は結局、シングルで使われることがなかった。
まあ、個人戦を見る限りやりたいと思える人がいなかったので別に良いが。
代わりに出ていたダブルスの試合も随分と簡単に進んだ。組む相手が莉子だったからということもあり、本当に楽に終わった。
ダブルスにおいて彼女の才は強く輝く。
あれほど人を生かすことが出来る人間はそうはいないだろうと私でも強く思える程の才。
同じコート内に存在しても動きづらいと感じることはなかった。それどころか私が動いて取りに行かなきゃいけない場面がいつもより少ないとすら感じれた。
考えて動いているのか、それとも直感なのか。
花柳莉子は私が頭を回して試合をするのと同等の快適さを作り上げた。
コーチから聞いた通りだ。莉子は試合を制御出来る。
コート内の人の位置、誰が何処に打つか。それを察知し最適に動かす。
人に好かれやすい彼女の才。それは、どの人間とでも格上に勝利出来る可能性を生まれさせる天才。
コーチが言うには、中学の全国大会において、彼女は準決勝でチームが負けるまで一回も試合を落とさなかったとらしい。
私はダブルスがあまり好きではない。
単純にやる意味がないのだ。大体の場合味方が邪魔になるし、一人で十分勝ててしまうからだ。少なくとも、中学時代は途中から一人でやった一試合しか記憶にない。
けれど、莉子と組んでいると少しだけ見方が変わった気すらしている。
彼女が誰か強い人と組めば、あるいは私と戦えるかもしれないと期待すらできる。
「うーん! やっぱウォメバーは美味しいなー!」
……目の前で美味しそうにアイスを頬張っている彼女はそうは見えないけれど。
大会帰りにコンビニに寄ろうと提案してきたのは莉子であったが、まさかここまでだとは。
よくもまあそこまで美味しそうに食べれるものだ。ご飯前のこの時間の二本目だというのに。
まあ多分考えていないだけであろう。
「あー美味しかったー!」
「……そんなに食べて夜ご飯入るの?」
「もちろん! さすがに三本目は無理だけどね!」
私のことなど気にすることなくしゃくしゃくと音を立てアイスを食べきる莉子。
どうやら莉子がよく食べるだけらしい。そういえば普段の弁当のサイズも大きめであったことを思い出す。……元々よく食べる子であったか。
笑顔で歩く莉子。随分と楽しそうであるが、まあいつもと変わらないので気にすることはない。
……一緒に帰るのをいつもと言っている自分にどうにも違和感がある。
中学では一切こんなことが無かったからだろうか。昔の私が見たらどう思うのか。
「いやー、全国前にはやっぱアイスだよね!」
莉子はお腹をさすりながら満足げにそう言ってるが、大体いつも食べてるのに何で全国前限定にされているなんだろうか。
「全国でも一緒にダブルスやりたいなー? けど咲耶ちゃんシングルに回されちゃうだろうし」
「……どうだろう。二回出るならやれるかもね」
どうだろう。コーチのオーダーは正直まだ読み切れないのでどうなるかはわからない。
私はどっちでも良いが、もしダブルスを組むのなら莉子が良いとは思うけど。というか、多分莉子以外は邪魔になるだけだけど。
「……まあ、出た試合を勝てばいいだけ」
「そうだねっ! 頑張ろうねっ!」
道端だというのにさらにやる気を露わにする莉子。
やる気を見せる莉子には悪いけど、なんだかそこまで乗り切れない自分がいる。
どうしてだろう。最近、自分が勝ちたいと思っているかもはっきりとしない。
自分の心だというのにどういう風に考えてるかがもう断定できない。
負けてみたいのか、負けたくないのか。勝ちたいのか、勝ちたくないのか。いつからか何も考えずに試合をしていたからか、練習中もぐるぐると脳を思考で回しているのだ。
……煩わしい。どうしようもなくこの変動が己を苦しめている。
「どうしたの? なんか変な顔してるけど……」
「……なんでもない」
莉子に指摘されるまで表情に出ていることすら気づかなかった。
……まあ、これは東京行くまでにどうにかすればいいか。なあなあにしてたら忘れられるかもしれないし。
気持ちを切り替え莉子と適当に雑談をすることにする。
人と話した方が落ち着くとか信じてなかったが、そうした方がなんだか今は考え事をしなくても済みそうだし。
さて、夏まで特に何もないので、この心の疑問を解決できるのか──。
「──テスト勉強もしないとねー。補習になると夏は拘束されっぱなしらしいからねー」
──えっ? ………………えっっ?
約一ヶ月ぶりでこの文の短さ、申し訳ないです。……次こそは早め投稿したい。
そういえばはねバド本誌は終わるらしいですね。単行本最後の巻が出るまでに終わらせたいです。