会場はすでに熱気に溢れていた。
今日試合があるわけではない。それなのに感じれるその熱はただ暑いだけなのか。否、それだけではないという謎の確信がある。
開会式。大会の始まりを知らしめるそれに私達も参加していた。
本当は出たくなかったがさすがにコーチは言わなきゃ出ないとわかっていたのか強く注意してきた。……よくわかってらっしゃる。
「見て見て咲耶ちゃん人がいっぱいだよ!」
「……あーうん。そうだね」
隣の椅子で楽しそうに周りを見る莉子。本当朝からなんでそんな元気なんだろう。
こっちは人混みで溶けそうなぐらいにふやふやなのだ。真夏にこんな閉鎖空間に待機しなくてはいけないなんてなんたる地獄だ。大会とかもうどうでも良いので一日中冷房の効いた部屋で寝ていたい。
……早く始まらないかな。眠くてしょうがない。……寝よう。
「隣いいですかー?」
「……どうぞ」
そんな時に掛かってきた声だったのですっごく適当に返事をする。
なんでこんな広い中隣に来るんだろう。もっと開いてるところとかあると思うのだが。
「……志波姫か。久しぶりだな」
「やっほー令。変わらず元気そうで良かったよ」
何か部長と話し始めたので頑張って瞼を開け、さっきの声の主に目を向ける。
ショートカットの黒髪、その聞いたことのある声。志波姫唯華が隣に座っていた。
「咲耶ちゃんも久しぶりだねー。相変わらず眠そうで可愛いなー」
「……どうもです」
志波姫さんは相変わらずの気安さで声を掛けてくる。
どうしてこう、私にはコミュ力お化けが近づいてくるのだ。私は構い過ぎてもどうすれば良いかわからずにてんてこまいになるタイプであるというのに。
そういえば、確かこの人の学校って……。
「やっほー咲耶! 元気?」
「……どうも」
やっぱいた。この人受けが良さそうな通る声の持ち主が。
クリステンセン……だっけ。確か、そんなような名前の金髪女が笑顔でこっちに話しかけてきた。
「今度は負けないから。覚悟してね!」
「……そう」
それだけ言って自分の席に座り直すクリステンセン。私に対してのその自信は何処から出てくるんだろう。
生憎私はもうこいつにそこまで興味は無いのだが。何しろ前回の試合で彼女の底には検討が付いてしまっているのだ。例えどれだけ成長していても負けるとは考えられない。
叶うならその想定以上の実力をつけていてほしいが、そうやって期待してもいい事無いのは中一の時に経験済みで無駄だと痛いほどにわかっている。
どうせ、誰が何をしてきても変わりはしないのだ。せめて予選の部長ほどには頑張ってほしいのだが。
しかし、隣にこの会話エンジョイ勢が来てしまったため眠気も少し覚めてしまった。
寝ていれば開会式などすぐに終わったものを。……部屋に置いてきたアイマスクが必要だったか。……ふわぁあ。
「……莉子。寝るから終わったら起こして」
「あ、うん」
志波姫さんにきらきらした目を向けていた莉子に少し寝ることを伝えて無理矢理眠ろうとする。
例え寝れなくても、気分はこのままスリープモード。頼むからもう起こさないでほしぃ……。
「あらら、寝ちゃった」
「……はっ。いつも寝てるやつだから気にすんなよ」
「それは残念。もう少し話したかったのに」
志波姫が特に残念でもなさそうに南雲を見ながら言う。
相変わらず、何考えてるかわかんないやつだ。いきなり寝始める南雲といいこいつといい、私の倒すべきやつらはどうしてこう肝っ玉の強いやつしかいないのか。
「しかし安心したよ。名門フレゼリシアが番狂わせで負けたりしなくてさぁ」
「まあうちは強いからね。うちは」
志波姫はそんなことは当たり前であるように返してくる。よほどチームを信頼しているのか、あるいは己を信用しているのか。
どちらでもいい。わかるのはこいつがこの全国でも負けを一切考えてなどいないということだけだ。
……本当にむかつく女だ。私は美奈と違って人の心なんて覗けないが、それでもこいつのだけは見たくない。
けど本当にむかむかする。何か一言でも言ってやろうか。
そんな時である。志波姫が誰かを見つけたのか後ろの席に手を振っている。大方どこかの選手だろうが益子なら呼ぶのは辞めてほしい。私はあの情緒不安定嫌いだし。
「久しぶりー元気だったー?」
「おう。久しぶり……って御劔?」
こちらに来た人物が知った顔で少し驚いた。
ショートカットとしっかりとした体格でデカい胸の女性。荒垣なぎさである。
「久しぶりだなぁ荒垣。去年以来か?」
「ああ。御劔も元気そうで良かったよ」
元気そうで良かったとこいつは言うが、私からすれば荒垣の方が元気そうで良かったと思える。
何せ前回見たときはあの全日本ジュニア選手権の時。こいつが一点も取れずにコートに立ち尽くしているのを見たのだ最後だったから。
正直辞めてもおかしくないぐらいにはズタボロにされていたと思うが良く立ち直ったな。
「数が少ねぇってことは個人だけか?」
「……残念ながらな。そっちは団体だけ?」
「バカいうなよ。両方に決まってんだろ?」
愚問だ。私がこの海鳴に入ってからずっとこの舞台に立ち続けてきた。今までで一番強いこの面子で負けてちゃ学校の面汚し同然のこと。
海鳴バトミントン部主将として最優先は勝つこと。そのためならそこのいけすかない居眠り女にだって頭を下げるし全力で頼る。そういうものだ。
「……ま、当たれれば良いなぁ本当」
「お互いにな。負ける気はまったくないけど」
相変わらず勝ち気なやつだ。嫌いじゃない。
三強以外にだって化物はいくらでもいる。もし本当に当たれたならその時は全力でやりたいもんだ──。
「なんだばや……さっきから聞いてりゃ」
感傷に浸っていると後ろから聞いたことのある妙になまった声がした。
おおよそ誰かはわかるので適当にそちらに目をやると案の定だらけた体勢で腰掛けている女がいた。
狼森あかね。こいつもこいつでたまに試合をする見知った顔。相変わらず獣みたいに威嚇して生きている女だ。
「狼森あかね様に決まって──」
「なぎさちゃーん」
自慢げにこちらに宣誓してこようとするその瞬間、横から遮るよう新垣を呼ぶ声が聞こえる。
「……」
「………………こっちみんなよ」
恨みがましい目で見つめてくる狼森。そんな目で見てくんな。
……まあ、その。どんまいだな。
一ヶ月近く掛かって申し訳ございません。
言い訳すると原作キャラを動かすのが作者の腕だとどうしても時間が掛かってしまうのでこんなに間が開いてしまうのです。決して他の作品ばっか優先にしていたわけではないです。
……理由になってませんね。ごめんなさい。