英雄を求めて   作:ゴマ醤油

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ようやく

 莉子にゆっくりと起こされたときにはほとんど終わりの雰囲気を出していた。 

 まあその前に起こされても迷惑極まりないので都合が良かったのだが、どうしてか仮眠前よりもこの周囲の空気が重い様に感じる。

 それぞれの学校、それぞれの選手の視線が一様に交差している。誰かが誰かを意識して、対抗心という火花を溢れさせている。

 私にはそういったバチバチは縁の無いことなのでそれこそどうでも良いとすら思っているが、それでもこの場に限っては居心地の悪さという面で意識せざるを得なかった。

 

「起きたか寝ぼすけ女。戻るぞこら」

「……ふぁい」

 

 どうしようもない物を見るかのような目で睨んできながらこっちに言ってくる部長。……そんな目をしなくたって遠征先での言うことぐらい聞きますよ。……多分。

 

「行くの?」

「おう。……決勝で会おうぜ志波姫。断言してやる。今年勝つのは、うちだ」

 

 志波姫さんに三下っぽいセリフを言い放ちその場を立ち去る部長に付いていく。

 クリステンセンはこっちに何も言ってくることはなかった。それよりも優先すべき誰かを見つけたのかそちらを意識しているような感じを隠そうとして隠せてないのだけチラ見できた。

 

 外に出ると中と違って昼の太陽が私の目を焼こうとしてくる。

 辛い。超絶的に暑く明るい。こんな夏になるのなら帽子の一つでも用意してくれば良かった。

 

 それでも夏の日差しに負けずに頑張ってホテルまで歩き、一回自動販売機で某栄養ドリンクを飲んだりして無事到着する。

 ……眠い、疲れた。さっきまで仮眠してたけどそれでも眠い。やはりあれか。布団派の私にとって慣れないベッドは体に合わなかっただろうか。

 とにかくもう部屋に戻りたい。戻って至福の休憩に浸りたい。……よし休もう。

 

「そういや南雲。コーチの部屋でミーティングするからこのまま部屋戻んなよ」

 

 そうと決まればと急いでエントランスのエレベーターに向かおうとした私に部長が後ろから非常な言葉の刃を突き刺してくる。

 

「ったく、こいつなんでそうまでして寛ぎたいんだ?」

「あー部長、多分理由は無いと思いますよー。本能的な?」

「ほら皆。邪魔になるからとっとと上がるよ」

 

 先輩達が言いたいように言っているのを来栖先輩がぴしゃっと切りエレベーターに乗り込んでいく。

 まったく、皆して私をどう思っているのだ。これじゃ私がただの怠け者みたいな扱いではないか。莉子だってそこまで言わない、きっと否定してくれるはずだ。

 

「んー、あんまり寝ると夜寝れなくなっちゃうよ?」

 

 ダメだ。フォローになっていない。

 私の味方はどこにもいない。この閉鎖空間では頼れるべきやつなんて存在しないのだ。……辛いわぁ。

 

 

 

 

 

 ……つーん。

 

「集まったな。……どうして南雲は不機嫌そうなんだ?」

「あー。気にしなくてもいいですよ別に。いつもの駄々ですから」

「そうか。なら、ミーティングを始める」

 

 コーチがこれからの日程や対戦する相手について話し始めると、多少浮ついていた空気が一気に変わる。

 それはコーチが前にいるからか。それともきっちり切り替えただけか。

 

 いずれにしても、ミーティングが始まった瞬間にはもういずれにしても先程までのお遊びムードでは無く、それぞれが選手としての希薄を感じさせている。

 

「──────―」

 

 流石の私もここで茶化す気にはなれないし、先に帰ると言ってやれる度胸はない。

 私はそこまで真剣になれないけど、ここにいる先輩達の熱意は一応わかっているからだ。

 

「──オーダー基本変えずにいくが、南雲は花柳とダブルスもやってもらうこともあるかもしれないので気持ち準備しておいてくれ」

「……はい」

 

 ダブルスか。……まあ莉子とならいいか。

 そこまでやりたいと思わないが、別に体力的には二試合したところで問題は無いだろう。さすがに個人と一緒とかだと面倒くささの方が上回るが、ちゃんと日程が分けられているのでそこは心配ない。

 

「恐らくお前達なら決勝以外は順当に勝ち進むと信じている。いや、それが当たり前だという実力を持っていると確信している」

 

 そこまで褒めてくれるのは嬉しいがそこまで言ってしまうのはどうなのか。なんていうかこう、慢心的な意味で足をすくわれたりしないのか不安になってくる。

 まあ私はどっちでもいいが、団体は私が二勝しても負ける可能性が存在してしまうのだ。是非とも油断しないでほしいが、まあこの人達なら心配ないだろう。

 

「決勝の相手については見当はついているが、そこは明日のミーティングで話す。今日はもう休み体を整えておけ。以上だ」

『はい!』

 

 コーチの話が終わりそれぞれが自分の部屋に戻リ始める。

 私も莉子と自室に戻り、それぞれが自由に過ごす。

 

「じゃあ私は先シャワー浴びちゃうね」

「うーい」

 

 今日は疲れたらしく部屋のシャワーでいいと浴室に向かう莉子。

 私も入りたかったがまあそこまで急いでないので、適当にお茶でも飲みながら窓際に設置されている椅子に座って夕日でも眺めておくことにする。

 

 階層が高いからか夕焼けが綺麗に見える。

 

 赤い太陽の落ちるその短い時間。まるで情熱をそのまま仕舞い込むかのように暗くなるごく普通の現象。

 けど、なんだか今日は少し何かに似ていると思い、そしてそれが先程まで感じていた先輩達の、そして開会式で少し察せられた感情のようで。

 

 情熱。それは私には無い物で、このインターハイという舞台に立つ者の誰もが持っている者。

 

「……やっと。始まる」

 

 ようやくだ。この地に着いてからどうにも気持ちが収まらない。

 早く始まってほしい。そして、私にはっきり示してほしい。

 

 戦える者がいるのならそれも良し。誰もいないのならそれもまたしょうがないこと。

 私は納得できる答えがほしいだけ。父の言葉が正しかったのか、どうしてラケットを捨てられなかったのか、その理由が知りたかっただけ。

 

 ただぼんやりと茜色の空を眺める。

 ──ああ、本当に。

 

「楽しみ。だなぁ」




 はねバド最終巻読みました。三下ムーブ全開の橋詰さんが見れて良かったです。
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