英雄を求めて   作:ゴマ醤油

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団体戦準決勝

 体育館の蒸し暑いほどの熱気の中、私たち海鳴高校は特に何も無く順当に勝ち進んでいき、二日目の準決勝を迎えていた。

 

 パイプ椅子に腰掛けながら部長の試合をぼんやりと眺める。

 試合はすでに終盤。終始自分のペースで攻めることのできている部長がもうすぐ勝ちを決めようとしている。

 

「……来栖先輩。部長ってあんな落ち着いて試合する選手でしたっけ?」

「どうだろ? 前はもっと荒々しく動いていた気もするけどね」

 

 ま、令も成長するのさとどこか保護者染みた目で応援を続けている来栖先輩。何か思うところでもあるのだろうか。

 部長とは知り合ってまだ少しだが、それでも一瞬でも私に何かを感じさせてくれた人であることには変わらない。だからこそ、あんな風に冷静に一つ一つを処理する試合運びに違和感が生じるだけなのかもしれないが。

 

 ……まあいいや。勝ってくれれば問題は無い。負けても特に気にすることでもない。

 むしろ暇に殺されそうな私に回せ。負けろ。私と来栖先輩はまだ試合すらしていないのだ。このままじゃただの特等席の観客同然ではないか。

 

『ゲーム。マッチワンバイ御劔。千葉、海鳴高校。21-14。21-16』

 

 まあ当然そんな番狂わせが起きるはずもなく、部長が試合を決め我が校は決勝へと駒を進めた。

 つまらないがまあ良い。私が出ないということは結局、試合をする価値が無いと言うことに他ならない。先輩達がそれを見せてくれているだけ。そう思えば納得もできるのかも。

 

 ……それにしても暇。本の一つでも持ってくれば良かったか。

 

「よくやった。次がいよいよ決勝、団体戦最後の試合だ」

 

 休憩を挟み、いよいよ決勝前というタイミングで行われた最後のミーティングでコーチはそう口にした。

 最後。改めてそう言われるとそれがいよいよ現実味を増してくる。そう、この先輩達の部活動生活はもうすぐ終わりを迎えるのだ。

 

 そんなに長い期間この部にいたわけでもない。それほど練習に参加したわけでもない。

 それを良いように思ってはいないだろう。それで試合に出れているのだから恨んでる人させいるのだろう。

 強い選手はこれ以後も全日本ユースなんかの特別選抜もある。しかし、そこら辺のことはよく知らないし、ほとんどの人間には関係はないはずなので、実質これが最後なのは間違いではないはずだ。

 

 三年である部長、来栖先輩、椎名先輩。それぞれが何かを振り返っているのだろう。

 付き合いも長いはずの二年の新崎先輩と根本先輩も、この二日間の内最も真剣な表情でコーチの話に耳を傾けている。

 

「──ここまでこれたのは今回が初めてだ。正直、私も胸の高鳴りが止まらない」

 

 普段から冷静さを崩さないコーチからにしては随分と意外な言葉だ。

 

「──もはや小言は必要あるまい。勝つぞ」

『はい!』

 

 私以外のこの場の全員の意志が一つになっていると肌で感じられる。

 その熱も、自分だけがそうなりきれないという疎外感もよくわかる。わかってしまう。

 

 この中の誰にだって勝てる自負がある。この中で最強を聞かれたら私だと自信を持って答えられる。

 けど、熱意はない。燃え上がれる何かを私は持っていない。すべてを賭けるという感情を知らない唯一のヒト。

 

 期待もない。不安もない。恐怖もない。

 感情も揺さぶられない。子どもの映画よりも退屈極まりない。これで試合がないのならもう本当に帰ってもいいレベルでどうでもよくなっている。

 

 別に団体戦に勝っても喜びはない。結局自分が出なくてはつまらない。

 ……つまらない? バドミントン自体がつまらないはずなのに、試合に出れないのがつまらない? 

 

 以前なら、試合なんて出れなくても心を動かすことなんてなかった。どうせ勝つのならやらなくてもいいとコートに立っているのすら憂鬱であった。

 

 両耳を突き抜けるかのような大きい歓声を浴びながらコート前に進む。

 すでに相手──フレゼリシアの面子はそこにいた。パイプ椅子に座る見覚えのある監督。全員でうちではやらない円陣を組み、試合を待ちわびている特徴的なユニフォームの連中。

 

 ──ああ、やっぱりあの人達も燃えている。目の前の一生目指して死力を尽さんとしている。

 あそこの最強らしきあの金髪を負かしてやったというのに、それでも勝利を諦めてなどいない。

 

「──じゃあ、いってくるよ」

「……うん。がんばって」

「うんっ!!」

 

 花柳が意気揚々とコートに向かって歩き出す。

 多分勝てるだろう。そう思っているが、実際にどういう結果になるかは私の試合以外、予想が付かない。

 対戦相手をちゃんと視れば予想も立てられるが、生憎と無駄に疲れることに労力を割きたくない。

 

「……はあっ」

 

 ため息を吐きながらぼーっと前を見ていたら、ふと向こう側の志波姫さんと目が合った気がした。

 どんな表情とかどんな感情だとかには興味が無い。けれど、交差したであろう視線から感じたのは強い気迫。目を背けるには強すぎるその瞳。

 

 ……どうでもいいか。うん、どうでもいい。

 あれほど真剣にやっている人でも限界がある。越えられない運命というものは確かに存在するのだから。

 

 私の興味はただ一つ。あなたが私に何処まですがれるか。──何処までなら耐えられるのか。

 

 ダブルスの試合をぼんやりと眺めながら己の出番を待つ。志波姫唯華との試合をただゆっくりと待ち続けた。




 お久しぶりです。そしてあけましておめでとうございます。 
 短いですが久しぶりの投稿です。更新頻度を変えられるかはわからないですが、失踪しないように頑張りたいと思いますので気長に待っていただけると嬉しいです。
 
 正月にニコニコ漫画のデレマスキャラがテニスするやつを一気に見てモチべが高いです。……レポートもありますがね。

 

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