英雄を求めて   作:ゴマ醤油

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決定

「――て!」

 

 何か聞こえる。最近よく聞いている気がするその声。

 

「――きて! 起きてよー!」

 

 体が揺れているがそれが更に眠りに誘ってくる。ああっ、あと五分……。

 

「起きなさい! 南雲さん!」

 

 何かが破裂したような大きな音で目が覚める。え、何……。爆発? 一体何処から?

 

「やっと起きた! 後一コートで終わりだよ! 上戻ろっ!」

 

 目の前にいたのはポニーテールの少女――まあ花柳であった。なんだか少し不機嫌そうな、安心したような表情を見せながら手を引っ張ってくる。

 目をこすりながら立ち上がり体育館に戻るために歩き出す。まだ眠い。目を瞑ればまた夢の世界にダイブできてしまうほどには。

 

「まったくもう。本当に寝てるなんて! いくら暖かくなったからって風邪引いちゃうんだからね!」

 

 こちらに不満げに言ってくる花柳。その内容は起こせと言われたことではなくこっちの体調の心配なのはどうなのかと思うのだが。

 自分で言うのも何だが起こせと言われたら私なら見捨てる。そういう自信がある。

 

「でも良かった! またデカツリーにまで行っちゃってたら大変だったよー!」

「……ごめん」

「大丈夫! かわいい寝顔が見れて良かったし!」

 

 今度は笑顔でこちらに言ってくる。

 前から思っていたが花柳は気持ちをころころと表情に出す。部員の大体に好かれているその愛嬌の良さは彼女の強みの一つなのだろう。

 

「そういえば、何勝したの?」

「なんと、全勝です! 最後の槇原先輩との試合は見てほしかったなー」

 

 こっちをちらちらと見ながらそう返してくる。決して強くない口調なので心の底から責めてきているのでもないだろうが少しだけ心に来るものがある。

 

「公式戦はちゃんと見てね! 私が勝つところ!」

 

 前に出てこちらにびしっと指をさしながら自信満々に宣言してくる。勝つ前提で話しているのはこの少女も競技者ということなのか。普段のギャップでなんだか笑いそうになる。

 思えばこの少女も何故私に構ってくるのか。部活に出てしまえば後は特別話しかけることなんて意味はないはずなのに。バドミントンさえすればそれ以外に理由はないはずなのに。

 

「?? どうしたの?」

「……なんでもない」

 

 気づけば直前まで近づかれ覗き込まれていた。

 この疑問を聞くことはしない。それは特に意味は無いことだ。彼女にとってそれは必要なことなのだろう。

 

 体育館に戻ったとき、彼女の言葉の通り試合をしているのは残り一組になっていた。

 点を見てみると、20-19。すでに終盤を迎えており今からサーブが上げられようとしていた。

 

「これは椎名先輩が勝つかなー。一ゲーム目も21-15で取ってたし」

「……そう」

 

 花柳はそのまま勝つと思っている。事実そうだろう。

 負けている側の二年は肩で息をしておりもう限界が近いのだろう。反対に三年の椎名先輩はしっかりと冷静さを保ち何処にサーブをしようか思考をしている。

 思考の差は勝敗を分ける。いかに疲労が重なっていようと受ける側が頭を回さずに動こうとしているのは致命的であろう。

 

 案の定、サーブを無理矢理返すがそれはただのその場凌ぎ。

 どうしようもない悪手であるそれは試合を決める。あっさりと打ち込まれて何も出来ずにシャトルは地に落ちる。

 

「ゲーム。マッチワンバイ椎名。21-15,21-19」

 

 試合は終わる。終盤において一つのミスは命取り。

 残酷なようだがこれが真理。結局勝った人が正しい訳で、そこが何よりも大事な点である。

 

「集合!」

 

 試合が終わったのを見計らいコーチが全員を集める。今試合が終わり何かしらの気持ちを途中であろうに随分と厳しいことだ。

 

「集まったな。……では今回の選抜生を発表する」

 

 試合内容をもうまとめたのかすぐにメンバーを発表し始める。

 三年の御劔、椎名、来栖。二年の新崎、根本。そして一年。花柳と私。

 

「以上だ。今回選ばれなかった者は次に向けて練習に励むように」

 

 簡潔に、平坦に言葉を締める。

 鼓舞もなければ励ましもない。この学校でなければ絶対に回りからの批難が飛び交うであろうその対応。この部を全国に連れて行くという目標を何よりも優先しているのだろう。

 

「最後に一つ。今年も他校との練習試合を組めることになった。選抜生七名は来週の土日に行うのでそれぞれ準備しておくように」

 

 練習試合。それは試合に出れる他に選抜生になるもう一つの理由らしい。

 コーチが就任してから始まったと言われているそれは強い他校生と組める数少ない機会。

 どうやって組んでいるのかは知らないが、一昨年も去年も全国で名を見る常連校と試合をしたと最初に先輩が言っていた様な気がする。

 

 一体今年は何処に行くのか。大阪か、東京か、それとも田舎のどっかか。

 私にはどうでも良い。何処だろうとバドミントンは出来る。出来れば強い人がいれば嬉しいのだが、どうせ全国に行けば強い人と出会えるかも知れないので今は優先することではない。

 まあ一応、その場の名産品も食べたいとは思っているがそれは部活に関係ないのでどうでもいい。

 

 

 だがそれは私だけだ。周りの緊張はより強くなる。例え選抜に選ばれなかった者が大半でも次への糧とするため、そして次回への熱意を高めるために耳を傾ける。

 

「今回行く場所は少し遠い。ここ埼玉から距離があるのでしっかりと準備をするように」

 

 さて一体何処になるのか。

 

「場所は宮城。フレゼリシアだ」

 

 コーチから発せられるその一言。それは多くの部員にとって喜びと緊張を強める言葉なのだろう。

 どうやら強いところらしい。しかし、だがしかしだ。

 

 ――宮城って何処だっけ? 東北?

 

 私にとっては地理の方がとても重要な問題であった。

 

 

 




 どうしてか初期構想になかった練習試合が組まれていました。
次は原作読み返すので遅れるかもしれません。
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