英雄を求めて   作:ゴマ醤油

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迷子

 体から水が滴り落ちる。

 誰もいないこの落ち着く部屋。蒸し暑い空気も段々と慣れてきてまだまだいけると確信できる。

 すでにどれくらい経っただろうか。十分か、二十分か、あるいはもっと経っているか。まあ関係ない。私は私。いけるところまで耐えきるのみ──! 

 

 刹那、音もしないその空間の扉が開く。

 

「おっ。いたのかお前」

 

 いきなりの音に少し驚きながらそちらを見てみるとそこから先輩達がぞろぞろ入ってくる。ああっ……。心の休まる場所……。

 

「南雲さんもサウナいたんだー! 言ってくれればよかったのに!」

 

 当たり前のように隣に座ってくる花柳。暑苦しいのでやめてほしい。……そういえばサウナは元々熱いものだった。

 

「やっぱ髪綺麗だよねー南雲さん。どうして洗わせてくれなかったの?」

「……どうして花柳に洗われるの?」

「それはもう、そこに綺麗な娘がいるからだよ!」

 

 問題しかない発言をしている花柳。既に熱さでまいったか。あるいは元々そっちなのか。……考えるのはよそう。

 

「花柳ぃ! てめぇまた南雲を甘やかしてるなぁ!」

「──ひゃぁ!」

「うるさいよ令。他の人も来るかもしれないんだからボリューム考えて」

 

 怒号を発する御劔主将を嗜める来栖先輩。いつでもうるさいその声だが流石は副部長。見ている感じ主将よりも権力ありそうな声と顔である。

 

「そういえばさー。南雲はどんくらいサウナいんのー?」

「……数えてない」

「あ、私三分前ぐらいに入ってるのを見たよー」

 

 根本先輩の疑問を誤魔化すもあっさりと椎名先輩に暴露される。

 ……ああそうだ、認めよう。私はあんなにも限界ぶってはいたが全然入ってない。サウナ内の時計だって必死に見ないように頑張ったのだ! それなのに。それなのに──! 

 

「南雲ってバドだと化物みたいだけどそれ以外抜け過ぎじゃない?」

「……そんなことないです」

「そんなことあるよ! この前の小テストほとんど間違ってたし! このまま中間テストやったら赤点だよ!」

 

 頬を膨らませながらこちらに言ってくる花柳。全く、どうしてそこまで言われなきゃいけないのだ。この前のは偶々勉強してなかっただけで徹夜でやれば赤点はないのに。

 何か頭がくらくらしてきた。多分先輩達のいじりのせいであろうからもう出よう。別に、この空間から逃げたいわけでは断じてないのだ! 

 

「……まだいらついてるの? クリステンセンさんと打てなかったこと」

「……別に」

 

 後ろから椎名先輩の声が聞こえるが振り返らずにそのまま部屋から出る。

 いくら他より気持ち距離が近い椎名先輩でもその質問は答える気はない。

 

 ──結局、あの後試合は出来なかったのだ。

 理由はなんてことの無い些細なこと。クリステンセンの遅刻のペナルティのせいだ。

 あの監督は留学生にも決して遠慮することなくランニングを強いて試合をさせなかった。金髪も最初はブーブー言っていたが、意外と素直に走って行ったためそのまま流れることになったのだ。 

 その後、帰ってきて試合が出来るかと思ったのだがその時は、生憎他の選手と試合をしていて誘えることもなく今日が終わってしまった。

 

 濡れた髪をドライヤーから出る温風が揺らす。普段はまとめている髪だが最近、そろそろ切りたいと思えてきた。──いっそ、全国でも何も得るものが無かったら切ってしまおうか。

 どうせ、邪魔でしかないこれを残していたってどうしようもない。思えばなんで髪を長めのままにしてきたのか。……ああっ、写真の母の真似だったっけ。

 

 まだ皆お風呂中なので建物の外に出て少し歩く。日もすっかり落ち女が一人で出るのもどうかと思うが、今はなんだかそんな気分なのだ。

 思えば何か嫌なことがあるといつもこれをしている。特に店に入るわけでもなくふらふらと近場を歩く。

 今日は場所は違うが携帯のマップで何処に帰れば良いかは記録している。決して迷うことはない。

 

 

 

「……ここどこ?」

 

 

 そう思っていた。甘かった。田舎を舐めていた。

 なにやら見晴らしの良い場所。何だろう、心なしか手を繋いでる男女が多く自分にとってここは不釣合いな気がする。

 まあ気にせずベンチに腰掛ける。二~三人座れる所の中央に一人でいるととっても楽で良い。

 

「……星か」

 

 顔だけ上を向き宙に浮かぶ光を眺める。どれもが違う光量の塊。あんなに小さくても、実際には私なんかよりもずっとずっと大きい天体であろう。

 ああっ、空にあるだけではなく人型になってコートに立ってくれないか。こんなちっぽけなヒトの悩みなんて吹き飛ばせるぐらいの大きな存在として降臨してきてはくれないか。

 ……馬鹿馬鹿しい。知らない土地だからか。都会では見れない星に興奮していたのか。どちらでも良い。

 

 そろそろ帰ろう。帰って寝よう。特に気持ちよく寝れる場所はないけどとにかく寝たい。

 

「あれ? 海鳴の娘?」

 

 地図を見れたため携帯に目を向けようとした瞬間に後ろからそんな声が聞こえた。

 少し低い女性の声。それは今日聞いた気がするそんな声。

 

「……志波姫さん」

「やっぱり。こんな所で何やってるんだ? 迷子?」

 

 志波姫唯華。今日の練習相手であったフレゼリシアの部長がなにやら驚いた顔でこちらに寄ってきた。

 

 ………………なんでどいつもこいつも迷子扱いするのだろう。

 




 たくさんのお気に入り登録ありがとうございます。とっても嬉しいです。
 拙い文章ですがこれからも読んでいただけるように頑張っていきたいです。
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