英雄を求めて   作:ゴマ醤油

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疑問

「……ありがとうございます」

「ん? いいよ別に。私も走ってた途中だし」

 

 二人で少し長い語り坂を歩く。軽く挨拶をして終わりだと思ったが志波姫さんは心配だからと言ってさっきの銭湯まで付き添うと言って付いてきている。

 

「ところで、なんであんなところにいたの? 家出?」

「……違います」

 

 志波姫さんが隣から聞いてくる。あんまり表情が読めない人だが、何故という疑問を持っているのは伝わってくる。

 

「……ちょっと散歩です」

「──そっか。けど危ないから気をつけなよ? 遠征先で遭難なんてしょうもないし」

 

 その答えを聞き少し嗜めるように注意してくる。なんだろう、来栖先輩に似ている気がする。

 

 それからあまり会話もなく、坂を下り平坦な道を進む。

 ここはさっき通った。ということは、もう直ぐ着くだろう。

 

「──ねえ。私のこと、覚えてる?」

 

 唐突にそう聞かれる。

 それは一体どういう意味だろう。志波姫さんとちゃんと話すのはこれが初めてだろうに。

 

「……えっと?」

「ああごめんね。気にしないで」

 

 どういう意味か訪ねようと思ったが話をそこで切り上げる志波姫さん。結局、何が聞きたかったのか。

 

「あ、いたぁ!」

 

 前方から大きな声がし、こちらに手を降ってくる花柳。どうやら知らないうちに到着していたらしい。

 

「てめぇどこ行ってた南雲ぉ!」

「……すいません」

「ああっ!?」

 

 ずかずかと近づいてきて怒りを露わにしてくるみつるぎ主将。何か一言でも言っておけばよかったと本当に思う。……言っても多分怒鳴られただろうが。

 

「悪りぃな志波姫。この馬鹿のお守りしてもらって」

「気にしない気にしない。うちもコニーがたまにやるから」

 

 礼を言う部長に笑って返す志波姫さん。確かコニーというのはあの金髪の名前だったか。

 

「もうっ。知らない場所ではふらふらしちゃだめだよ!」

「……ごめん」

 

 ぷりぷりと怒っている花柳に、そして他の人達にも謝る。格好からしてもう少し遅かったら探しに行かせてしまっていたかもしれない。

 流石に人にまで迷惑をかけて散歩はしたくないし。

 

「じゃあ私は行くね? そろそろ戻らないと」

「……少し待ってくれ。──お前らは先戻ってろっ!!」

 

 部長がこっちに少し大きな声で帰れ宣言してくる。

 まあそろそろ良い時間だし戻りたい。風呂から上がった状態なら夕食はまだ食べてないはずだし。

 

 部長と志波姫さんを残しその場を去る。

 心なしか体が冷めた気がする。これは風邪を引かないように祈るばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……悪いな。残ってもらって」

「良いよ別に。何か聞きたいことがあったんでしょ?」

 

 自販機で適当に飲み物を買い、それを志波姫に渡しながら銭湯近くの少し古くさいベンチで声を掛ける。

 志波姫はそれを遠慮無く蓋を開け中身の液体を飲みながらこちらに耳を傾ける。相変わらず、部員以外には遠慮無いよなこいつ。部活内では違う意味で遠慮が無いんだろうな。

 ……まあいい。聞きたいことがあるのは事実。……残ってもらったのは良いが門限とか平気なのかこいつ。

 

「まあそこは気にしなくていいよ。後でうまくやっとくから」

「……相変わらず、お前は人を見透かすよな」

「令が顔に出すからだよ」

 

 考えがわかったかのようにこちらの疑問に答えてくる志波姫。昔からこいつはそういう所があった。少なくとも、私にはこういう風に接してくることが多かった。あの津幡路(イノシシ女)ですら私の心は読みやすいのだという。……何でだ。

 

「まあいい。それより質問だ。……これに答えると全国不利になるだろうから答えなくても構わないぜ」

「相変わらず正直だなー令は。そこが可愛いってよく言われない?」

「……うるせえ」

 

 声に出してこちらを少し笑う。こういうとき、こいつは茶化すが質問には応じようとしてくれるのを知っている。それをわかっていてこういう聞き方をした自分が少し気にくわない。

 

「志波姫。あの金髪プロは、お前より強いのか?」

「んー。どうだろうね?」

 

 少しはぐらかすように答える志波姫。それはこいつには珍しく困ったような捉え方である。

 

「……別に、そこは答えなくても良い。…………」

「どうした?」

「いや。……南雲は、うちの一年の一人の扱い方でな」

 

 一度話し始めてからはもう言葉は止まらなかった。

 あの強すぎる後輩のことについて話し終わったときには、今の時間を正確に把握できてはいなかった。

 風が少し吹く。少し冷たい春の夜風。それが暖まっていた頭と心を冷やす。

 

「……そっか。つまり、後輩の扱いについて困ってるって訳だ。思いの外普通の相談じゃん」

「悪いか?」

「いーや。令は昔から、後輩が出来ると愚痴愚痴言ってたし特には」

「……そうかよ」

 

 そうだ。あの頃から変わらずにこいつには相談していた。だから今も尋ねているのだ。

 こいつにも今は、あの留学生がいる。強い後輩がいるって事には変わりないはず。

 

「……まあ私は別に思うところはないかな? コニーが強ければそれだけ全国も勝てる見込みが高くなる。それに、あんなに可愛い娘と一緒に暮らせるんだからねー。だから、令も少しは簡単に考えたら?」

 

 それはもう素晴らしい笑顔でそう言ってのける志波姫。その笑顔は去年も見たし、それに似た言葉を去年も聞いた。

 ああっ。そういえば、こいつはそういうやつだった。

 志波姫唯華は去年言っていた。フレゼリシアは家族と一緒だと。代えがたい一つの宝だと。

 あの学校で一年から信じられないほどに重い物を背負っていたこいつだからこそ、それは軽い言葉ではないはずなのに。

 

 それを簡単にだと? ふざけるな。そう思えるならとっくにそう考えている。

 昔からずっとそうだ。益子に負けたときも、どっかの馬鹿記者のふざけた言葉を聞いたときも、こいつは常に私の先を行っていた。バドの強さでも、心の強さでも。

 志波姫唯華には追いつけない。それを再び突きつけられたかのような言葉であった。

 

「……お前はすげえな。すげえよ、本当に」

「そう? ありがとっ」

「──。そろそろ戻るよ」

 

 ベンチから立ち上がり志波姫を向く。

 もう聞きたいことはない。こいつに聞いたって、多分私が満足いく答えは返ってこない。そんな気がする。

 

「そうだ。……南雲さんって、さっきの綺麗な迷子少女だよね?」

「ああそうだが」

「そっか。……やっぱりそうなんだ」

 

 志波姫の独り言は風に消された。

 私は興味ないが南雲に何か用でもあったのだろうか。この世代の半分と仲が良いこいつならすぐに親密になれるだろうに。

 

「なんだ? 伝言でもあるのか?」

「そうだねー。……うん、今は良いかな。今度自分で言うよ」

「?? そうか」

 

 その言葉を最後に今度こそ宿に戻る。

 結局、志波姫との話で残ったのは心のしこりだけだった。あいつをどう扱うか、接すれば良いのかのヒントになることはこれっぽちも無く、自分の懐の狭さだけが理解できた気がする。

 

 月が照らす夜道を歩く。その光は太陽の反射のくせにとても明るく輝いている。

 

 ──悩みがつきない。ああっ、今だ私の心はすっかり影だらけだ。

 

 

 

 




 読んで下さっている方ありがとうございます。
 始めて評価に色が付きました。とっても嬉しいです。
 毎日は無理ですが、なるべく早めに投稿できればなと思っています。
 
 
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