恋をしたいおとしごろ

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さくらのころに

 

グラウンドの隅で、淡いピンク色の花が舞っている。

 

高校生の最後の学年となり、新たな始まりの高揚感を感じる。

 

窓から目を背けると、履修科目の関係で変わることのなかったクラスメイト達がいる。

 

その中に、あなたを見つけた。

 

春には溢れるように咲き誇り、花が落ちると青々とした葉を茂らせ、秋になると燃えるような色を撒き散らし、冬の風に耐えながらまた芽吹く力を静かに蓄え。

 

花の名前であなたの名前。何度も口にした言葉。

 

「さくら」

 

私が呼びかける前に、あなたを呼ぶ人がいた。

 

「時間だよ、行こ」

 

体育館で行われる始業式。時計を見ると、その時間の十分前になっていた。

 

名前を呼んだ彼女はこちらの視線に気づくと、少しのいじわるさと申し訳なさが混在したような顔を見せる。どちらが本心なのかは分からなかった。

 

少しだけ残念に思った。それをため息にして吐き出す前に、名前を呼ばれた。

 

「レン、遅れるよ」

 

ああ、そういえば時間なんだった。長い式典と長いお話のために急いで体育館へ向かう。

 

話を聞き流しながら、僅かな時間の間だけでも。あなたの背中を見ていられるのが嬉しかった。

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

体育館で長話を聞いて、教室に戻ってもまたお話を聞く。

 

慣れ親しんだ顔ぶれなので自己紹介などもなく、担任の先生は淡々と事務的な話をしていた。

 

春は、終わりの季節だ。三年生になった私達の行動には、次々と『高校生最後の』という飾りがつく。受験が終わった後の長い春休みのことを考えると、学校であなたを見る時間はもう一年もない。

 

まだ、終わりにしたくない。次の桜の季節も一緒にいたい。

 

どうせ終わってしまうのなら、次の桜の季節までは一緒にいたい。

 

プリントを何枚か。保護者宛の手紙。重要らしい封筒。

 

配り物と形式だけの諸注意が終わると、教室の人たちはめいめいに、去年と同じようなグループでまとまって部活動に行ったり、帰路についたり、はたまた遊びに行ったり。

 

恐らく図書室に行くあなたを少しだけ離れて追った。

 

図書室の扉をくぐって、あなたの姿を探す。

 

本の虫と呼ばれるような人たちが数人。

 

あなたは棚から歳時記を引っ張り出し、近くの机の上で広げていた。

 

近づいてみると、春の季語を見ていた。

 

文字に夢中なあなたは、すぐ隣に人が立っていることに気づかない。気にしていないのかもしれない。

 

小さな声で

 

「さくらくん」

 

私は名前を呼んだ。

 

あなたは驚いて私を見る。

 

名前を呼んで…それから?

 

それから私は何をするつもりだったんだろう。

 

告白?こんなところで?

 

「…レンさん?」

 

名前を呼ばれると、小さな喜びと焦りが溢れ出す。

 

その気持ちに後押しされて、私は言った。

 

「いっしょに、帰りませんか?」

 

 

言えなかった後悔と自責。

 

塗りつぶすほどの嬉しさで私は笑った。


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