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「待て! 待つんだ、南雲! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」
「……」
ハジメは、ドンナーの引き金に指をかけたまま、「何言ってんだ、アイツ?」と訝しそうな表情をして肩越しに振り返った。光輝は、フラフラしながらも少し回復したようで何とか立ち上がると、更に声を張り上げた。
「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」
余りにツッコミどころ満載の言い分に、ハジメは聞く価値すらないと即行で切って捨てた。そして、無言のまま……引き金を引いたのだった。
香織がショックを受けたのは、ハジメに、人殺しに対する忌避感や嫌悪感、躊躇いというものが一切なかったからである。息をするように自然に人を殺した。香織の知るハジメは、弱く抵抗する手段がなくとも、他人の為に渦中へ飛び込めるような優しく強い人だった。
その〝強さ〟とは、決して暴力的な強さをいうのではない。どんな時でも、どんな状況でも〝他人を思いやれる〟という強さだ。だから、無抵抗で戦意を喪失している相手を何の躊躇いも感慨もなく殺せることが、自分の知るハジメと余りに異なり衝撃だったのだ。
雫は、涼しい顔をしているハジメを見て、確かに変わりすぎだと思ったが、何も知らない自分がそんな文句を言うのはお門違いもいいところだということもわかっていた。なので、結局、何をすることも出来ず、ただ香織に寄り添うだけに止めた。
だが、当然、正義感の塊たる勇者の方は黙っているはずがなく、静寂の満ちる空間に押し殺したような光輝の声が響いた。
「なぜ、なぜ殺したんだ。殺す必要があったのか……」
ハジメは、シアの方へ歩みを進めながら、自分を鋭い眼光で睨みつける光輝を視界の端に捉え、一瞬、どう答えようかと迷ったが、次の瞬間には、そもそも答える必要ないな! と考え、さらりと無視することにした。
もっとも、そんなハジメの態度を相手が許容するかは別問題である……
必死に感情を押し殺した光輝の声が響く中、その言葉を向けられている当人はというと、まるでその言葉が聞こえていないかのように、スタスタと倒れ伏すメルドの傍に寄り添うシアのもとへ歩みを進めた。
「カービィ、メルドの容態はどうだ?」
「マキシムトマトをあげたから大丈夫だよ〜」
シア「良かったのですか?」
「ああ、この人には、それなりに世話になったんだ。それに、メルドが抜ける穴は、色んな意味で大きすぎる。特に、勇者パーティーの教育係に変なのがついても困るしな。まぁ、あの様子を見る限り、メルドもきちんと教育しきれていないようだが……人格者であることに違いはない。死なせるにはいろんな意味で惜しい人だ」
「おい、南雲。なぜ、彼女を……」
「ハジメくん……いろいろ聞きたい事はあるんだけど、取り敢えずメルドさんはどうなったの? 見た感じ、傷が塞がっているみたいだし呼吸も安定してる。致命傷だったはずなのに……」
「ああ、それな……ちょっと特別な薬を使ったんだよ、カービィのな。飲めば瀕死でも一瞬で完全治癒するって代物だ」
「そ、そんな薬、聞いたことないよ?」
「そりゃ、この世界にはないものだしな……普通は手に入らない。だから、八重樫は、治癒魔法でもかけてもらえ。魔力回復薬はやるから」
「え、ええ……ありがとう」
「おい、南雲、メルドさんの事は礼を言うが、なぜ、かの……」
「ハジメくん。メルドさんを助けてくれてありがとう。私達のことも……助けてくれてありがとう」
そして、再び、香織によって遮られた。光輝が、物凄く微妙な表情になっている。しかし、香織は、そんな光輝のことは全く気にせず真っ直ぐにハジメだけを見ていた。ハジメの変わりように激しいショックを受けはしたが、それでも、どうしても伝えたい事があったのだ。メルドの事と、自分達を救ってくれたことのお礼を言いつつハジメの目の前まで歩み寄る。
そして、グッと込み上げてくる何かを堪えるように服の裾を両の手で握り締め、しかし、堪えきれずにホロホロと涙をこぼし始めた。嗚咽を漏らしながら、それでも目の前のハジメの存在が夢幻でないことを確かめるように片時も目を離さない。ハジメは、そんな香織を静かに見返した。
「ハジメぐん……生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」
光輝と龍太郎は香織が誰を想っていたのか分かっていないのでキョトンとした表情をしている。鈍感主人公を地で行く光輝と脳筋の龍太郎、雫の苦労が目に浮かぶ。
シアは「むっ、もしや新たなライバル?」と難しい表情をし、ユエはいつにも増して無表情でジッと香織を見つめている。
ハジメは、困ったような迷うような表情をした後、苦笑いしながら香織に言葉を返した。
「……何つーか、心配かけたようだな。直ぐに連絡しなくて悪かったよ。まぁ、この通り、しっかり生きてっから……謝る必要はないし……その、何だ、泣かないでくれ」
光輝「……ふぅ、香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、南雲は無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、南雲から離れた方がいい」
クラスメイトの一部から「お前、空気読めよ!」という非難の眼差しが光輝に飛んだ。この期に及んで、この男は、まだ香織の気持ちに気がつかないらしい。何処かハジメを責めるように睨みながら、ハジメに寄り添う香織を引き離そうとしている。単に、香織と触れ合っている事が気に食わないのか、それとも人殺しの傍にいることに危機感を抱いているのか……あるいはその両方かもしれない。
「ちょっと、光輝! 南雲君は、私達を助けてくれたのよ? そんな言い方はないでしょう?」
「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。南雲がしたことは許されることじゃない」
「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ? 大体……」
そんな彼等に、今度は比喩的な意味で冷水を浴びせる声が一つ。
「……くだらない連中。ハジメ、もう行こう?」
「あー、うん、そうだな」
そんなハジメ達に、やっぱり光輝が待ったをかけた。
「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないんて……失礼だろ? 一体、何がくだらないって言うんだい?」
「……」
光輝が、またズレた発言をする。言っている事自体はいつも通り正しいのだが、状況と照らし合わせると、「自分の胸に手を置いて考えろ」と言いたくなる有様だ。ここまでくれば、何かに呪われていると言われても不思議ではない。
このままでは埓があかないどころかユエを不快にさてしまうと感じたハジメは、面倒そうな表情で溜息を吐きながらも代わりに少しだけ答えることにした。
「天之河。存在自体が色んな意味で冗談みたいなお前を、いちいち構ってやる義理も義務もないが、それだとお前はしつこく絡んできそうだから、少しだけ指摘させてもらう」
「指摘だって? 俺が、間違っているとでも言う気か? 俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」
「誤魔化すなよ」
「いきなり何を……」
「お前は、俺があの女を殺したから怒っているんじゃない。人死にを見るのが嫌だっただけだ。だが、自分達を殺しかけ、騎士団員を殺害したあの女を殺した事自体を責めるのは、流石に、お門違いだと分かっている。だから、無抵抗の・・・・相手を殺したと論点をズラしたんだろ? 見たくないものを見させられた、自分が出来なかった事をあっさりやってのけられた……その八つ当たりをしているだけだ。さも、正しいことを言っている風を装ってな。タチが悪いのは、お前自身にその自覚がないこと。相変わらずだな。その息をするように自然なご都合解釈」
「ち、違う! 勝手なこと言うな! お前が、無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」
「敵を殺す、それの何が悪い?」
「なっ!? 何がって、人殺しだぞ! 悪いに決まってるだろ!」
「はぁ、お前と議論するつもりはないから、もうこれで終いな?――――俺は、敵対した者には一切容赦するつもりはない。敵対した時点で、明確な理由でもない限り、必ず殺す。そこに善悪だの抵抗の有無だのは関係ない。甘さを見せた瞬間、死ぬということは嫌ってくらい理解したからな。これは、俺が奈落の底で培った価値観であり、他人に強制するつもりはない。が、それを気に食わないと言って俺の前に立ちはだかるなら……」
ハジメが一瞬で距離を詰めて光輝の額に銃口を押し付ける。同時に、ハジメの〝威圧〟が発動し周囲に濃密な殺気が大瀑布のごとく降りかかった。息を呑む光輝達。仲間内でもっとも速い雫の動きだって目で追える光輝だったが、今のハジメの動きはまるで察知出来ず、戦慄の表情をする。
「例え、元クラスメイトでも躊躇いなく殺す」
「お、おまえ……」
「勘違いするなよ? 俺は、戻って来たわけじゃないし、まして、お前等の仲間でもない。白崎に義理を果たしに来ただけ。ここを出たらお別れだ。俺たちには俺たちの道がある」
「……戦ったのはハジメ。恐怖に負けて逃げ出した負け犬にとやかくいう資格はない」
「なっ、俺は逃げてなんて……」
光輝が、ユエに反論しようとすると、そこへ、深みのある声が割って入った。
「よせ、光輝」
「メルドさん!」
「メ、メルドさん? どうして、メルドさんが謝るんだ?」
「当然だろ。俺はお前等の教育係なんだ……なのに、戦う者として大事な事を教えなかった。人を殺す覚悟のことだ。時期がくれば、偶然を装って、賊をけしかけるなりして人殺しを経験させようと思っていた……魔人族との戦争に参加するなら絶対に必要なことだからな……だが、お前達と多くの時間を過ごし、多くの話しをしていく内に、本当にお前達にそんな経験をさせていいのか……迷うようになった。騎士団団長としての立場を考えれば、早めに教えるべきだったのだろうがな……もう少し、あと少し、これをクリアしたら、そんな風に先延ばしにしている間に、今回の出来事だ……私が半端だった。教育者として誤ったのだ。そのせいで、お前達を死なせるところだった……申し訳ない」
一方、香織の方も押し黙っていた。それは、メルドの話を聞いていたからではない。ずっと、ハジメの言葉について考えていたからだ。
奈落の底で培った価値観、敵なら躊躇いなく殺す、例えクラスメイトであっても……以前のハジメからは考えられない発言だ。だが、それは先程の殺気が本気だと証明していた。他人のために体を張って行動できる優しいハジメが、自分達にすら躊躇うことなく殺意を向ける。自分の知るハジメと目の前にいるハジメの差に香織の心が戸惑い揺れる。先程、香織を気遣った時に感じた以前のハジメは自分の錯覚だったのかと、不安になる。
と、香織がそんな事を考え込んでいると不意に視線を感じた。香織がその先を見やると、そこには金髪紅眼の美貌の少女。香織でも思わず見蕩れてしまうくらい美しいその少女が、感情を感じさせない瞳で香織をジッと観察していた。
そう言えば、ハジメと随分親密そうだったと思い出し、香織も興味を惹かれてユエを見返した。しばらく、見つめ合う二人。
「……フ」
「っ……」
しかし、その見つめ合いはユエの方から逸らされた。嘲笑付きで。
思わず息を呑む香織。嘲笑に込められた意味に気がついたからだ。すなわち「この程度で揺れる思いなら、そのままハジメの事は忘れてしまえ」ということに。
だが、実際、香織を見てみると、以前のハジメと今のハジメを比べて、以前と異なることに戸惑いと不安を覚え一歩引いてしまっている。その反応は人として当然と言えば当然ではあるのだが……ユエからすると取るに足りない相手に見えたようだ。
お前なんて相手にならない。ハジメはこれからも私のハジメだ。ハジメの〝特別〟は私だ!!
言外にそう宣言され、香織は顔を真っ赤に染めた。それは、怒りか羞恥か。それでも、反論できなかったのは、香織が、ハジメという人間を見失いかけていたからだ。ユエと香織の初邂逅は、ユエに軍配が上がったようである。
香織は、未だ、俯いて思い悩んでいる。雫は、そんな香織を心配そうに寄り添いながら見つめていた。だが、そんな香織の悩みなど吹き飛ぶ衝撃の事態が発生する。ハジメに心を寄せていた一人の女としては、絶対に看過できない事態。
それは、【オルクス大迷宮】の入場ゲートを出た瞬間にやって来た。
「あっ! パパぁー!!」
「むっ! ミュウか」
ハジメをパパと呼ぶ幼女の登場である。
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