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ハジメたちが【オルクス大迷宮】の入場ゲートを出た瞬間にやって来た。
「あっ! パパぁー!!」
「むっ! ミュウか」
ハジメをパパと呼ぶ幼女の登場である。
「ミュウ、迎えに来たのか? メタナイトとティオはどうした?」
「うん。目田内藤さんとティオお姉ちゃんが、そろそろパパが帰ってくるかもって。だから迎えに来たの目田内藤さんとティオお姉ちゃんは……」
「妾は、ここじゃよ」
「ここにいるぞ、あと目田内藤じゃなくてメタナイトだ。」
「おいおい、ティオ、メタナイト。こんな場所でミュウから離れるなよ」
「目の届く所にはおったよ。ただ、ちょっと不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ」
「なるほど。それならしゃあないか……で? その自殺志願者は何処だ?」
「いや、ご主人様よ。妾がきっちり締めておいたから落ち着くのじゃ」
「……チッ、まぁいいだろう」
「……ホントに子離れ出来るのかの?」
唖然とする光輝達の中からゆらりと一人進みでる。顔には笑みが浮かんでいるのに目が全く笑っていない……香織だ。香織は、ゆらりゆらりと歩みを進めると、突如、クワッと目を見開き、ハジメに掴みかかった。
「ハジメくん! どういうことなの!? 本当にハジメくんの子なの!? 誰に産ませたの!? ユエさん!? シアさん!? それとも、そっちの黒髪の人!? まさか、他にもいるの!? 一体、何人孕ませたの!? 答えて! ハジメくん!」
「何だあれ? 修羅場?」
「何でも、女がいるのに別の女との間に子供作ってたらしいぜ?」
「一人や二人じゃないってよ」
「五人同時に孕ませたらしいぞ?」
「いや、俺は、ハーレム作って何十人も孕ませたって聞いたけど?」
「でも、妻には隠し通していたんだってよ」
「なるほど……それが今日バレたってことか」
「ハーレムとか……羨ましい」
「漢だな……死ねばいいのに」
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香織が、顔を真っ赤にして雫の胸に顔を埋めている姿は、まさに穴があったら入りたいというものだった。冷静さを取り戻して、自分がありえない事を本気で叫んでいた事に気がつき、羞恥心がマッハだった。「大丈夫だからね~、よしよし」と慰める雫の姿は、完全にお母さん……いや、止めておこう。
一方でカービィは暇なのでアドレーヌの力を濫用してコピー能力アーティストでおやつ食べ放題てを楽しんでいる。
そのあとハジメ達が出て行ってしまうというその時、何やら不穏な空気が流れた。それに気がついて顔を上げた香織の目に、十人ほどの男が進路を塞ぐように立ちはだかっているのが見えた。
「おいおい、どこ行こうってんだ? 俺らの仲間、ボロ雑巾みたいにしておいて、詫びの一つもないってのか? ア゛ァ゛!?」
その視線がユエやシアにも向く。舐めるような視線に晒され、心底気持ち悪そうにハジメの影に体を隠すユエとシアに、やはり怯えていると勘違いして、ユエ達に囲まれているハジメを恫喝し始めた。
「ガキィ! わかってんだろ? 死にたくなかったら、女置いてさっさと消えろ! なぁ~に、きっちりわび入れてもらったら返してやるよ!あとそこのピンクボールもよこせ!最近寝心地がわるいんだよ!」
「まぁ、そん時には、既に壊れてるだろうけどな~」
何が面白いのか、ギャハハーと笑い出す男達。そのうちの一人がミュウまで性欲の対象と見て怯えさせ、また他の一人が兎人族を人間の性欲処理道具扱いした時点で、彼等の運命は決まった。
今更になって、自分達が絶対に手を出してはいけない相手に喧嘩を売ってしまったことに気がつき慌てて謝罪しようとするが、プレッシャーのせいで四つん這い状態にされ、口を開くこともできないので、それも叶わない。
ハジメは、少しプレッシャーを緩めて全員を膝立ちさせ一列に整列させると、端から順番に男の象徴を撃ち抜いていくという悪魔的な所業を躊躇いなく実行した。さらに、悲鳴を上げながら、股間を押さえてのたうち回る男達を一人ずつ蹴り飛ばし、絶妙な加減で骨盤も粉砕して広場の隅っこに積み重ねていった。これで、彼等は子供を作れなくなり、おそらく歩くことも出来なくなっただろう。今後も頑張って生きていくかは本人次第である。
「また、容赦なくやったのぉ~。流石、ご主人様じゃ。女の敵とはいえ、少々同情の念が湧いたぞ?」
「いつになく怒ってましたね~。やっぱり、ミュウちゃんが原因ですか? 過保護に磨きがかかっているような」
「……ん、それもあるけど……シアのことでも怒ってた」
「えっ!? 私のために怒ってくれたんですか? えへへ、ハジメさんったら……有難うございますぅ~」
「……ユエには直ぐに見透かされるな」
「んっ……当然。ハジメのこといつも見てるから」
「ユエ……」
「ハジメ……」
香織は気がつく。ハジメが暴力に躊躇いを見せないのは、そして、敵に容赦しないのは、そうすることで大切な誰かを確実に守るため。もちろん、其処には自分の命も含まれているのだろうが、誰かを想う気持ちがあるのは確かだ。それは、ハジメを囲む彼女達の笑顔が証明している。
香織は想像した。ハジメは、髪の色を失っている。右目と左腕もない。きっと、想像を絶するような過酷な環境を生き抜いたに違いないと。何度も、心身共に壊れそうになったに違いないと。いや、もしかしたら……一度は壊れてしまったからこそ、変心したのかもしれない。それでも、ハジメは、ああやって笑顔に囲まれる道を歩んでいる。
その事実が、香織の心にかかっていた霧を吹き飛ばした。欠けたパズルのピースがはまりカチリと音がなった気がした。自分は何を迷っていたのか。目の前に〝ハジメ〟がいる。心寄せる男の子がいる。〝無能〟と呼ばれながら、奈落の底から這い上がり、多くの力を得て救いに来てくれた人がいる。
変わった部分もあれば変わらない部分もある。だがそれは当然のことだ。人は、時間や経験、出会いにより変化していくものなのだから。ならば、何を恐れる必要があるのか。自信を失う必要があるのか。引く必要があるというのか。
知らない部分があるなら、傍にいて知っていけばいいのだ。今まで、あの教室でそうしてきたように。想いの強さで負けるわけがない! ハジメを囲むあの輪に加わって何が悪い! もう、自分の想いを哂わせてなるものか!
香織の瞳に決意と覚悟が宿る。傍らの雫が、親友の変化に頬を緩める。そして、そっと背を押した。香織は、今まで以上に瞳に〝強さ〟を宿し、雫に感謝を込めて頷くと、もう一つの戦場へと足を踏み出した。そう、女の戦いだ!
自分達のところへ歩み寄ってくる香織に気がつくハジメ達。ハジメは、見送りかと思ったが、隣のユエは、「むっ?」と警戒心をあらわにして眉をピクリと動かした。シアも「あらら?」と興味深げに香織を見やり、ティオも「ほほぅ、修羅場じゃのぉ~」とほざいている。どうやら、ただの見送りではないらしいと、ハジメは、嫌な予感に眉をしかめながら香織を迎えた。
「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな? ……ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」
「………………は?」
「……お前にそんな資格はない」
「資格って何かな? ハジメくんをどれだけ想っているかってこと? だったら、誰にも負けないよ?」
ユエの言葉に、そう平然と返した香織。ユエが、さらに「むむっ」と口をへの字に曲げる。
「貴方が好きです」
「……白崎」
「俺には惚れている女がいる。白崎の想いには応えられない。だから、連れては行かない」
「……うん、わかってる。ユエさんのことだよね?」
「ああ、だから……」
「でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ」
「なに?」
「だって、シアさんも、少し微妙だけどティオさんもハジメくんのこと好きだよね? 特に、シアさんはかなり真剣だと思う。違う?」
「……それは……」
「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて、ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね? だって、ハジメくんを想う気持ちは……誰にも負けてないから」
香織の強い意志が見える。それは、紛れもない宣戦布告。たった一つの、〝特別の座〟を奪って見せるという決意表明だ。
香織の射抜くような視線を真っ向から受け止めたユエは、珍しいことに口元を誰が見てもわかるくらい歪めて不敵な笑みを浮かべた。
「……なら付いて来るといい。そこで教えてあげる。私とお前の差を」
「お前じゃなくて、香織だよ」
「……なら、私はユエでいい。香織の挑戦、受けて立つ」
「ふふ、ユエ。負けても泣かないでね?」
「……ふ、ふふふふふ」
「あは、あははははは」
ハジメは遠い目をする。笑い合うユエと香織を見て、シアとミュウが傍らで抱き合いながらガクブルしていた。
「ハ、ハジメさん! 私の目、おかしくなったのでしょうか? ユエさんの背後に暗雲と雷を背負った龍が見えるのですがっ!」
「……正常だろ? 俺も、白崎の背後には刀構えた般若が見えるしな」
「パパぁ~! 目田内藤さん〜!お姉ちゃん達こわいのぉ」
「ハァハァ、二人共、中々……あの目を向けられたら……んっ、たまらん」
だが、そんな香織の意志に異議を唱える者が……もちろん、〝勇者〟天之河光輝だ。
「ま、待て! 待ってくれ! 意味がわからない。香織が南雲を好き? 付いていく? えっ? どういう事なんだ? なんで、いきなりそんな話しになる? 南雲! お前、いったい香織に何をしたんだ!」
「……何でやねん」
どうやら、光輝は、香織がハジメに惚れているという現実を認めないらしい。いきなりではなく、単に光輝が気がついていなかっただけなのだが、光輝の目には、突然、香織が奇行に走り、その原因はハジメにあるという風に見えたようだ。本当に、どこまでご都合主義な頭をしているのだと思わず関西弁でツッコミを入れてしまうハジメ。
完全に、ハジメが香織に何かをしたのだと思い込み、半ば聖剣に手をかけながら憤然と歩み寄ってくる光輝に、雫が頭痛を堪えるような仕草をしながら光輝を諌めにかかった。
「光輝。南雲君が何かするわけないでしょ? 冷静に考えなさい。あんたは気がついてなかったみたいだけど、香織は、もうずっと前から彼を想っているのよ。それこそ、日本にいるときからね。どうして香織が、あんなに頻繁に話しかけていたと思うのよ」
「雫……何を言っているんだ……あれは、香織が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ? 協調性もやる気もない、オタクな南雲を香織が好きになるわけないじゃないか」
光輝と雫の会話を聞きながら、事実だが面と向かって言われると意外に腹が立つと頬をピクピクさせるハジメ。
そこへ、光輝達の騒動に気がついた香織が自らケジメを付けるべく光輝とその後ろのクラスメイト達に語りかけた。
「光輝くん、みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど……私、どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」
そう言って深々と頭を下げる香織に、鈴や恵里、綾子や真央など女性陣はキャーキャーと騒ぎながらエールを贈った。永山、遠藤、野村の三人も、香織の心情は察していたので、気にするなと苦笑いしながら手を振った。
しかし、当然、光輝は香織の言葉に納得出来ない。
「嘘だろ? だって、おかしいじゃないか。香織は、ずっと俺の傍にいたし……これからも同じだろ? 香織は、俺の幼馴染で……だから……俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織」
「えっと……光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど……だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ? それこそ、当然だと思うのだけど……」
「そうよ、光輝。香織は、別にあんたのものじゃないんだから、何をどうしようと決めるのは香織自身よ。いい加減にしなさい」
「香織。行ってはダメだ。これは、香織のために言っているんだ。見てくれ、あの南雲を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき南雲の事を『ご主人様』って呼んでいた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。南雲は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。香織、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君のために俺は君を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」
もはや光輝にカービィすら口を出しづらくなっている。
光輝の余りに突飛な物言いに、香織達が唖然とする。しかし、ヒートアップしている光輝はもう止まらない。説得のために向けられていた香織への視線は、何を思ったのかハジメの傍らのユエ達に転じられる。
「君達もだ。これ以上、その男の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな? 安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ」
そんな事を言って爽やかな笑顔を浮かべながら、ユエ達に手を差し伸べる光輝。雫は顔を手で覆いながら天を仰ぎ、香織は開いた口が塞がらない。
そして、光輝に笑顔と共に誘いを受けたユエ達はというと……
「「「「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」」
カービィが代表して歩み出た。
光輝「カービィ!わかってくれたか?」
「いや、そうじゃないんだ。」
光輝「?」
「ボクたちは脅されたから仲間になっているんじゃない。自分のいしで仲間になってるんだよ!それにハジメが悪い人だったらとっくにボクたちがハジメを倒してるよ。」
もう、言葉もなかった。光輝から視線を逸らし、両手で腕を摩っている。よく見れば、ユエ達の素肌に鳥肌が立っていた。ある意味、結構なダメージだったらしい。ティオでさえ、「これはちょっと違うのじゃ……」と、眉を八の字にして寒そうにしている。
そんなユエ達の様子に、手を差し出したまま笑顔が引き攣る光輝。視線を合わせてもらえないどころか、気持ち悪そうにハジメの影にそそくさと退避する姿に、若干のショックを受ける。
そして、そのショックは怒りへと転化され行動で示された。無謀にもハジメを睨みながら聖剣を引き抜いたのだ。光輝は、もう止まらないと言わんばかりに聖剣を地面に突き立てるとハジメに向けてビシッと指を差し宣言した。
「南雲ハジメ! 俺と決闘しろ! 武器を捨てて素手で勝負だ! 俺が勝ったら、二度と香織には近寄らないでもらう! そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」
「……イタタタ、やべぇよ。勇者が予想以上にイタイ。何かもう見てられないんだけど」
「
何をごちゃごちゃ言っている! 怖気づいたか!」
ハジメの返事も聞かず、猛然と駆け出す光輝。ハジメは、溜息を吐きながら二歩、三歩と後退りした。それを見て、武器を使わない戦いに怖気づいたと考えた光輝は、より一層、力強く踏み込んだ。あと数歩で拳が届くという段階でも、ハジメは両手をだらんと下げたまま特に反応もしない。光輝は、ハジメが反応しきれていないのだと思い、勝利を確信した。
その瞬間、
ズボッ!
「ッ!?」
光輝の姿が消えた。
正確には、拳に力を乗せるため最後の一歩に最大限の力を込めて踏み込んだ瞬間、落ちたのだ。落とし穴に。ハジメは、最初に二、三歩下がった時に、靴に仕込まれた魔法陣を使って錬成を行い地面の下に深さ四メートル程の穴を作って置いたのだ。
「あ~、八重樫。一応、生きてるから後で掘り出してやってくれ」
「……言いたいことは山ほどあるのだけど……了解したわ」
光輝に関する面倒事は八重樫雫に! という日本にいた時からの暗黙の了解のまま、雫に面倒事を押し付けるハジメに、手で目元を覆いながら溜息をつく雫。ようやく、邪魔者はいなくなった。
雫達が、檜山達を諌めようと再び争論になりそうな段階で、ハジメは、せっかくなので、あの日の真実の確認と現状の解決のために檜山に話しかけてみることにした。口元に皮肉気な笑みを浮かべながら。
「なぁ、檜山。火属性魔法の腕は上がったか?」
「……え?」
突然、投げかけられた質問に檜山がポカンとする。しかし、質問の意図に気がついたのか徐々に顔色を青ざめさせていった。
「な、なに言ってんだ。俺は前衛だし……一番適性あるのは風属性だ」
「へぇ、てっきり火属性だと思っていたよ」
「か、勘違いだろ? いきなり、何言い出して……」
「じゃあ、好きなんだな。特に火球とか。思わず使っちゃうくらいになぁ?」
「……」
今や、檜山の顔色は青を通り越して白へと変化していた。その反応を見て、ハジメは確信する。そして、出ていこうとする香織への焦った態度から見て、その動機も察する。よく、今まで襲われなかったものだと、ハジメは香織をチラリと見やった。
ハジメは、黙り込んだ檜山から離れると近藤達も含めて容赦なく告げた。
「お前等の謝罪なんざいらないし、過去の事を気にしてもいない。俺にとって、お前らは等しく価値がない。だから、何を言われようと俺の知ったことじゃない。わかったらさっさと散れ! 鬱陶しい!」
「何というか……いろいろごめんなさい。それと、改めて礼をいうわ。ありがとう。助けてくれたことも、生きて香織に会いに来てくれたことも……」
迷惑をかけた事への謝罪と救出や香織の事でお礼を言う雫に、ハジメは、思わず失笑した。突然、吹き出したハジメに訝しそうな表情をする雫。視線で「一体なに?」と問いかけている。
「いや、すまん。何つーか、相変わらずの苦労人なんだと思ったら、ついな。日本にいた時も、こっそり謝罪と礼を言いに来たもんな。異世界でも相変わらずか……ほどほどにしないと眉間の皺が取れなくなるぞ?」
「……大きなお世話よ。そっちは随分と変わったわね。あんなに女の子侍らせて、おまけに娘まで……日本にいた頃のあなたからは想像出来ないわ……」
「惚れているのは一人だけなんだがなぁ……」
「……私が言える義理じゃないし、勝手な言い分だとは分かっているけど……出来るだけ香織のことも見てあげて。お願いよ」
「……」
「……ちゃんと見てくれないと……大変な事になるわよ」
「? 大変なこと? なんだそ……」
「〝白髪眼帯の処刑人〟なんてどうかしら?」
「……なに?」
「それとも、〝破壊巡回〟と書いて〝アウトブレイク〟と読む、なんてどう?」
「ちょっと待て、お前、一体何を……」
「他にも〝漆黒の暴虐〟とか〝紅き雷の錬成師〟なんてのもあるわよ?」
「お、おま、お前、まさか……」
突然、わけのわからない名称を列挙し始めた雫に、最初は訝しそうな表情をしていたハジメだったが、雫がハジメの頭から足先まで面白そうに眺めていることに気がつくと、その意図を悟りサッと顔を青ざめさせた。
「ふふふ、今の私は〝神の使徒〟で勇者パーティーの一員。私の発言は、それはもうよく広がるのよ。ご近所の主婦ネットワーク並みにね。さぁ、南雲君、あなたはどんな二つ名がお望みかしら……随分と、名を付けやすそうな見た目になったことだし、盛大に広めてあげるわよ?」
「まて、ちょっと、まて! なぜ、お前がそんなダメージの与え方を知っている!?」
「香織の勉強に付き合っていたからよ。あの子、南雲君と話したくて、話題にでた漫画とかアニメ見てオタク文化の勉強をしていたのよ。私も、それに度々付き合ってたから……知識だけなら相応に身につけてしまったわ。確か、今の南雲君みたいな人を〝ちゅうに……〟」
「やめろぉー! やめてくれぇ!」
「あ、あら、想像以上に効果てきめん……自覚があるのね」
「こ、この悪魔めぇ……」
既に、生まれたての小鹿のようにガクブルしながら膝を突いているハジメ。蘇るのはリアル中学生時代の黒歴史。記憶の奥深くに封印したそれが、「呼んだ?」と顔をひょっこり覗かせる。
「ふふ、じゃあ、香織のことお願いね?」
「……」
「ふぅ、破滅挽歌(ショットガンカオス)、復活災厄(リバースカラミティ)……」
「わかった! わかったから、そんなイタすぎる二つ名を付けないでくれ」
「香織のことお願いね?」
「……少なくとも、邪険にはしないと約束する」
「ええ、それでも十分よ。これ以上、追い詰めると発狂しそうだし……約束破ったら、この世界でも日本でも、あなたを題材にした小説とか出すから覚悟してね?」
「おまえ、ホントはラスボスだろ? そうなんだろ?」
羞恥心に大打撃をくらい発狂寸前となって頭を抱えるハジメ。そんなハジメを少し離れたところから見ていたユエ達や他のクラスメイト達は、圧倒的強者であるハジメを言葉だけで跪かせた雫に戦慄の表情を浮かべた。
雫の事が気になって詳細を聞きに来たユエと香織が情報を交換する。ユエは、どうにも気心知れたやり取りをした挙句、言葉責めでハジメを下した雫に「むぅ~」と唸り、香織は、そう言えば、二人でこっそり話している事がよくあったような……とハジメと雫の二人を交互に見やる。そして二人は結論を出した。もしかして、女の戦いでもラスボス? と。
雫と香織が、お互いに手を取り合いしばしのお別れを惜しんでいると、ハジメが、〝宝物庫〟から黒塗りの鞘に入った剣を取り出し雫に手渡した。
「これは?」
「八重樫、得物失ってたろ? やるよ。唯でさえ苦労人なのに、白崎が抜けたら〝癒し(精神的な)〟もなくなるしな。まぁ、日本にいたとき色々世話になった礼だ」
雫が、ハジメに手渡された剣を受け取り鞘からゆっくり抜刀すると、まるで光を吸収するような漆黒の刀身が現れた。刃紋はなく、僅かな反りが入っており、先端から少しの間は両刃になっている。いわゆる小烏丸造りと呼ばれる刀に酷似していた。ハジメは日本刀自体には詳しくないが、ハウリアに渡した小太刀と同様に錬成の鍛錬の過程で造り出したものだ。
「世界一硬い鉱石を圧縮して作ったから頑丈さは折り紙付きだし、切れ味は素人が適当に振っても鋼鉄を切り裂けるレベルだ。扱いは……八重樫にいうことじゃないだろうが、気を付けてくれ」
「……こんなすごいもの……流石、錬成師というわけね。ありがとう。遠慮なく受け取っておくわ」
「……ラスボス?」
「……雫ちゃん」
「えっ? なに? 二人共、どうしてそんな目で見るのよ?」
ユエの警戒心たっぷりの眼差しと、香織の困ったような眼差しに、意味が分からず狼狽する雫。最後に何とも言えない空気を残して、雫達が見送る中、ハジメ達はホルアドの町を後にした。
天気は快晴。目指すは【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】。新たな仲間を加え賑やかさを増しながら、ハジメの旅は続く。
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