ありふれた能力世界最強   作:コロンKY

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平和な国プププランド

「これは……船の墓場ってやつか?」

「すごい……帆船なのに、なんて大きさ……」

 

 密林を抜けた先は岩石地帯となっており、そこにはおびただしい数の帆船が半ば朽ちた状態で横たわっていた。そのどれもが、最低でも百メートルはありそうな帆船ばかりで、遠目に見える一際大きな船は三百メートルくらいありそうだった。

 

ハジメも香織も思わず足を止めてその一種異様な光景に見入ってしまった。しかし、いつまでもそうしているわけにも行かず、ハジメと香織は気を取り直すと、船の墓場へと足を踏み入れた。

 

 岩場の隙間を通り抜け、あるいは乗り越えて、時折、船の上も歩いて先へと進む。どの船も朽ちてはいるが、触っただけで崩壊するほどではなく、一体いつからあるのか判断が難しかった。

 

「それにしても……戦艦ばっかだな」

「うん。でも、あの一番大きな船だけは客船っぽいよね。装飾とか見ても豪華だし……」

 

墓場にある船には、どれも地球の戦艦(帆船)のように横腹に砲門が付いているわけではなかった。しかし、それでもハジメが戦艦と断定したのは、どの船も激しい戦闘跡が残っていたからだ。見た目から言って、魔法による攻撃を受けたものだろう。スッパリ切断されたマストや、焼け焦げた甲板、石化したロープや網など残っていた。

 

 大砲というものがないなら、遠隔の敵を倒すには魔法しかなく、それらの跡から昔の戦闘方法が想像できた。

 

 そして、その推測は、ハジメ達が船の墓場のちょうど中腹に来たあたりで事実であると証明された。

 

――うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

――ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

「ッ!? なんだ!?」

「ハジメくん! 周りがっ!」

 

 

 

突然、大勢の人間の雄叫びが聞こえたかと思うと、周囲の風景がぐにゃりと歪み始めた。驚いて足を止めたハジメ達が何事かと周囲を見渡すが、そうしている間にも風景の歪みは一層激しくなり――気が付けば、ハジメ達は大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。

 

 

 

 

 

 

そして、周囲に視線を巡らせば、そこには船の墓場などなく、何百隻という帆船が二組に分かれて相対し、その上で武器を手に雄叫びを上げる人々の姿があった。

 

「な、なんだこりゃ……」

「ハ、ハ、ハジメくん? 私、夢でも見てるのかな? ハジメくん、ちゃんとここにいるよね? ね?」

 

 ハジメも香織も度肝を抜かれてしまい、何とか混乱しそうな精神を落ち着かせながら周囲の様子を見ることしかできない。

 

 そうこうしている内に、大きな火花が上空に上がり、花火のように大きな音と共に弾けると、何百隻という船が一斉に進み出した。ハジメ達が乗る船と相対している側の船団も花火を打ち上げると一斉に進み出す。

 

 そして、一定の距離まで近づくと、そのまま体当たりでもする勢いで突貫しながら、両者とも魔法を撃ち合いだした。

 

ゴォオオオオオオオオ!!

ドォガァアアン!!

ドバァアアアア!!!

メタナイト「私たちにまかせろ。行くぞカービィ!」

「うん任せて!コピー能力エンジェル!」

浮きながらハートの矢をまとめて放つことができる天使の能力、コピー能力エンジェルだ。

カービィは魔法を撃ち落とし、メタナイトが本体を狙った。

しかし、メタナイトの攻撃は当たらなかった。

戦場――文字通り、このおびただしい船団と人々は戦争をしているのだ。放たれる魔法に込められた殺意の風が、ぬるりと肌を撫でていく。

 

 その様子を呆然と見ていたハジメ達の背後から再び炎弾が飛来した。放っておけばハジメ達に直撃コースだ。

 

 ハジメは、なぜいきなり戦場に紛れ込んだのか? などと疑問で頭の中を埋め尽くしながらも、とにかく攻撃を受けた以上皆殺しOKの精神でドンナーを抜き、炎弾を迎撃すべくレールガンを撃ち放った。

 

 炸裂音と共に一条の閃光となって飛翔した弾丸は、しかし、全く予想外なことに炎弾を迎撃するどころか直撃したにも関わらず、そのまますり抜けて空の彼方へと消えていってしまった。

 

「なにぃ!?」

 

 もう何度目かわからない驚愕の声を上げながら、傍の香織を抱いて回避行動に出ようとする。

 

「待って、防ぐから! 〝光絶〟!」

「……そういう事か?」

 

 それを見て、攻撃の有効性についてある程度の推測を立てたハジメは、別の攻撃方法を試してみることにした。飛来する炎弾を防ぐため、香織が、もう一度障壁を張ろうとしたのを制止して、ハジメは、ドンナーに〝風爪〟を発動した。そして、回避と同時に〝風爪〟で炎弾を斬り付けると、今度は、炎弾をすり抜けることもなく真っ二つにすることが出来た。

 

 

「えっと、ハジメくん?」

「どうやら、ただの幻覚ってわけでもないが、現実というわけでもないようだ。実体のある攻撃は効かないが、魔力を伴った攻撃は有効らしい。全く、本当にどうなってんだか」

 

 

 

 咄嗟に、香織は、「大丈夫ですか!」と声を掛けながら近寄り、回復魔法を行使した。彼女の放つ純白の光が青年を包み込む。香織の〝治癒師〟としての腕なら瞬く間に治るはずだ……と思われたが、結果は予想外。青年は、香織の回復魔法をかけられた瞬間、淡い光となって霧散してしまった。

 

「え? えっ? ど、どうして……」

 

 混乱する香織に、ハジメは少し考えたあと、推測を話す。

 

「魔力さえ伴っていれば、魔法の属性や効果は関係ないってことじゃないか?」

「……それじゃあ、わ、私……あの人を殺し……」

「香織、これは現実じゃない。〝直接作用できる幻覚〟くらいに考えておけ。それに、回復魔法をかけられて消えるものを人間とは呼ばない」

「ハジメくん……うん、そうだね。ごめんなさい。ちょっと取り乱しちゃったけど、もう大丈夫」

 

 ハジメの淡々としながらも香織を気遣う言葉に、しかし、香織は、いつものように喜ぶでもなく、ただ申し訳なさそうに肩を落とした。そして、直ぐに笑顔を取り繕う。そんな香織に、ハジメは思わず先程から思っていた事をポツリと呟いた。

 

「……謝ってばっかだな」

「えっ? 何か言った?」

「いや、何でもない」

 

 ハジメが、香織から視線を外す。

 

 香織との間に微妙な空気が流れそうだったからではなく、不穏な気配を感じたからだ。周囲を見渡せば、雄叫びを上げながら、かなり近くまで迫ってきた相手の船団に攻撃する兵士達に紛れて、いつの間にか、かなりの数の男達が暗く澱んだ目でハジメと香織の方を見ていた。

 

 香織が、ハジメの視線に気がつき同じように視線を巡らせた直後、彼等はハジメ達に向かって一斉に襲いかかってきた。

 

「全ては神の御為にぃ!」

「エヒト様ぁ! 万歳ぃ!」

「異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!」

 

 そこにあったのは狂気だ。血走った眼に、唾液を撒き散らしながら絶叫を上げる口元。まともに見れたものではない。

 

 相対する船団は、明らかに何処かの国同士の戦争なのだろうと察することが出来るが、その理由もわかってしまった。これは宗教戦争なのだ。よく耳を澄ませば、相対する船団の兵士達からも同じような怒号と雄叫びが聞こえてくる。ただ、呼ぶ神の名が異なるだけだ。

 

 その狂気に気圧されて香織は呆然と立ち尽くす。

ハジメは、香織を後ろから抱きしめつつ、その肩越しにドンナーを突き出し発砲した。ただし、飛び出したのは弾丸ではなく、純粋な魔力の塊だ。〝魔力操作〟の派生〝魔力放射〟と〝魔力圧縮〟によって放たれたそれは、通常であれば、対象への物理的作用は余りなく魔力そのものを吹き飛ばすという効果をもつ。魔力が枯渇すれば人も魔物も動けなくなるので、ある意味、無傷での無力化という意味では使える技術なのだが、相対した相手にそんな生温い方法をハジメが選ぶはずもなく、今まで御蔵入りしていた技である。

 

 だが今は、その生温い技が何より役に立つ。ドンナーによって撃ち放たれた紅色の弾丸は、一瞬で空を駆け抜けると、狂気を瞳に宿しカットラスを振り上げる兵士の眉間をぶち抜いた。それだけに留まらず、貫通して更に背後の兵士にも着弾し、その体を一瞬で霧散させる。

 

「香織! 飛ぶぞ! 舌を噛むなよ!」

「えっ? っきゃあああ!!」

ハジメ「メタナイト!魔力を通せば攻撃が効く筈だ!」

 

「わかった、やってみよう。カービィ、コピー能力ファイアで私の剣に火をつけてくれ!」

 

「え?うん、わかった。コピー能力ファイア!」

 

カービィはメタナイトの宝剣ギャラクシアに火をつけた。

 

すると……

 

メタナイトの剣、宝剣ギャラクシアは火を纏ったのだった。

 

 

これを後にフレンズ能力と言うが、まだその段階の威力には及ばない。

 

 

 一瞬前まで、目の前の敵と相対していたというのに、突然、動きを止めるとグリンッ! と首を捻ってハジメ達を凝視し、直後に群がって来る光景は軽くホラーだ。狂気に当てられた香織など、既に真っ青になっている。

 

「さて、どうすれば、この気持ち悪い空間から抜け出せるんだ?」

「……どこかに脱出口がある……とか?」

「海のど真ん中だぞ?」

「船のどれかが脱出口になっていたりしないかな? ……ほら、ど○でもドアみたいに」

 

 香織が例えに持ち出した真っ青な猫ロボの便利道具を思い出しつつ、周囲を見渡すハジメは、船の多さに眉をひそめて嫌そうに反論する。

 

「……見た感じ、ざっと六百隻くらいあるんだが……一つ一つ探すのは無理だろ。戦争が終わる方が早いと思うぞ?」

「う~ん、確かに、沈んじゃう船もあるだろうし……じゃあ、戦争を終わらせる……とかかな?」

「終わらせる……なるほど、取り敢えず皆殺せと? 香織も中々過激な事を言うじゃないか」

「えっ? えっと、そういう意味じゃ……」

「うん、きっとそうだな。それ以外思いつかないし、何より俺好みだし」

 

 ちょうど、マストのロープを使って振り子の要領で迫ってきた兵士数人を見もせず魔力弾で撃ち抜き霧散させたハジメは、こんなことなら魔力砲でも作っておけばよかったと思いつつ、撃ち放った紅色の弾丸を〝魔力操作〟の派生〝遠隔操作〟で誘導し、更に飛来した炎弾を迎撃していく。

 

「香織、お前は攻撃系の魔法は不得意だろうけど、ここでは回復魔法すら強力な攻撃になる。脱出方法はよく分からないが、襲われたのは事実なんだから、取り敢えず、全員ぶちのめすぞ」

「わ、わかったよ!」

 

 ハジメの言葉に、震える体を叱咤して決然とした表情で詠唱を始める香織。狂気が吹き荒れる戦場は、香織の精神を掘削機のように削り取っているのだろうが、隣にいる想い人に無様を見せたくない一心で気丈に振舞う。

 

 そんな彼女を守るようにハジメは周囲を睥睨した。

 

 眼下を見れば、そこかしこで相手の船に乗り込み敵味方混じり合って殺し合いが行われていた。ハジメ達が攻撃した場合と異なり、幻想同士の殺し合いでは、きっちり流血するらしい。

 

 甲板の上には、誰の物とも知れない臓物や欠損した手足、あるいは頭部が撒き散らされ、かなりスプラッタな状態になっていた。どいつもこいつも、〝神のため〟〝異教徒〟〝神罰〟を連呼し、眼に狂気を宿して殺意を撒き散らしている。

 

 兵士達の鮮血が海風に乗って桜吹雪のように舞い散る中、マストの上の物見台にいるハジメ達にも、いや、むしろハジメ達を狙って双方の兵士が執拗に襲いかかった。

 

 その度に、紅色の弾丸が縦横無尽に飛び回り、敵の尽くを撃ち抜いていく。更には、ハジメと香織の周囲を衛星のようにヒュンヒュンと飛び回って、攻性防御の役割を果たす魔力弾もあった。

 

 それでも、狂気の兵士達は怯むどころか気にする様子もなく、特攻を繰り返して来た。飛翔の魔法で何十人という兵士達が頭上から、そして、隣のマストやマストにかかる網を伝って兵士達が迫って来る。見れば、ハジメ達の乗る船にやたらと攻撃が集中しており、ハジメの魔眼石には、ハジメ達に向かって手を掲げる術師達から最上級クラスの魔力の高まりが見えていた。

 

 ハジメが、何とか狙撃してやろうかと考えたその時、香織の詠唱が終わり、彼女の最上級魔法が発動する。

 

「――もの皆、その腕かいなに抱きて、ここに聖母は微笑む 〝聖典〟!」

 

 直後、香織を中心に光の波紋が一気に戦場を駆け抜けた。

 

 波紋は、脈動を打つように何度も何度も広がり、その範囲は半径一キロメートルに及んだ。そして、その波紋に触れた敵の一人一人を光で包み込んでいく。

 

 光系最上級回復魔法〝聖典〟。

 

 それは、超広範囲型の回復魔法で、領域内にいる者を全員まとめて回復させる効果を持つ。範囲は、術者の魔力量や技量にもよるが、最低でも半径五百メートル以内の者に効果がある魔法だ。また、あらかじめ〝目印〟を持たせておけば、領域内で対象を指定して回復させることも出来る。当然、普通は数十人掛りで行使する魔法であるし、長時間の詠唱と馬鹿デカイ魔法陣も必要だ。たった一、二分で、しかも一人で行使できるなど、チート以外の何者でもない。

 

 香織の放った〝聖典〟の光が戦場を包み込むと同時に、領域内の兵士達は敵味方の区別なく全てが体を霧散させて消え去った。魔法の効果が終わり、香織の体が魔力枯渇で傾ぐ。ハジメが、すかさず支えに入った。

 

「おぉ、メアリー・セレスト号の量産だな。やるじゃないか、香織。いや、流石というべきか?」

「あ、う、そ、そんなことないよ。ハジメくん達の方がずっと凄いし……」

 

 

香織は、ハジメの素直な称賛に照れくさそうに頬を染めつつも、ユエなら、もっと早く、もっと強力な魔法が使えるのだろうなと思い、自嘲気味の笑みをこぼした。そして、「〝補充〟」と呟いてハジメから貰った魔晶石のペンダントより失った魔力を充填していく。香織は魔力の直接操作が出来ないので、ハジメが魔法陣を刻んで詠唱で取り出せるように改良したのだ。

 

 

ハジメは、香織の表情を見て眉を少ししかめ何かを言いかけたが、新たな敵が迫ってきたのでそれに対処するため、一旦脇に置き、再び戦闘に入った。

 

 物理攻撃が一切通用せず、どのような攻撃にも怯まない狂戦士の大群と船の上で戦わなければならないという状況は、普通なら相当厳しいものなのだろうが、ここにいるのはチートと化け物。

 

 二国の大艦隊は、その後、一時間ほどでたった二人の人間に殲滅されたのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……うっ、げほぉ、かふっ、ごめ゛……」

「いいから、我慢すんな」

 

 最後の兵士達を消滅させた直後、再び、周囲の景色がぐにゃりと歪み、気が付けば、ハジメ達は元の場所に戻っていた。

 

 やはり、殲滅で正解だったかと、安堵の吐息を漏らした直後、香織は近くの岩場に駆け込み、胃の中ものを吐き出し始めた。夕食は消化された後なので吐けるものがなく、一層苦しそうに嘔吐えづいている。

 

 目尻に涙を溜めながら、香織は、片手で「来ないで」とハジメに制止をかけた。

 

 

 しかし、ハジメはお構いなしに近寄り、香織の背をさする。思い人に無様を見られたくない香織だったが、背中に伝わる優しく温かい感触が心地よくて、次第に精神も吐き気も収まっていくのを感じた。

 

 ハジメが〝宝物庫〟から取り出し、差し出したリンゴジュースのような飲み物を、素直にコクコクと飲むと活力も戻ってきたようだ。甘く爽やかな味が、胃液の苦さを洗い流した。

 

「ごめんね……」

 

 面倒を掛けて申し訳ないと眉を八の字にして謝罪する香織に、ハジメは目を細める。

 

「まぁ、無理もないだろ。俺でも気持ち悪かった。人間ってのはあそこまで盲信的で狂気的になれるもんなんだなって思ったよ。……とにかく、少し休憩しよう。俺も相当魔力を使ったからな回復したい」

「……うん。ねぇ、ハジメくん。あれは何だったのかな? ここにある廃船と関係あるよね?」

 

 立ち上がり近くの岩場に腰掛けながら、香織が問いかける。ハジメは、少し考えたあと推測を話した。

 

「おそらくだが、昔あった戦争を幻術か何かで再現したんだろうな。……まぁ、迷宮の挑戦者を襲うという改良は加えられているみたいだが……あるいは、これがこの迷宮のコンセプトなのかもしれない」

「コンセプト?」

「ああ。【グリューエン大火山】でティオが言ってたんだよ。大迷宮にはそれぞれ、〝解放者〟達が用意したコンセプトがあるんじゃないか? ってな。それが本当だとすれば、ここは……」

「……狂った神がもたらすものの悲惨さを知れ……かな?」

「ああ、そんな気がするよ」

 

 

ハジメの言葉を引き継ぎ、答えを呟いた香織は、先程までの光景を思い出して再び、寒気に襲われたように体をぶるりと震わせながら顔を青ざめさせた。

 

 香織が吐き気を催すほど精神を苛んだのは、兵士達の狂気だ。〝狂信者〟という言葉がぴったり当てはまる彼等の言動が、思想が、そしてその果ての殺し合いが気持ち悪くて仕方なかったのだ。

 

 狂気の宿った瞳で体中から血を噴き出しながらも哄笑し続ける者や、死期を悟ったからか自らの心臓を抉り出し神に捧げようと天にかかげる者、ハジメ達を殺すために弟ごと刺し貫こうとした兄と、それを誇らしげに笑う弟。戦争は狂気が満ちる場所なのだろうが、それにしても余りに凄惨だった。その全て〝神の御為〟というのだから、尚更……

 口元を抑えて俯く香織を見かねて、ハジメは香織のすぐ隣に腰掛けると香織の手を取って握り締めた。狂気に呑まれそうになっている香織を放っておくことは出来ない。香織は、少し驚いたようにハジメを見ると、次いで、嬉しそうに頬を緩めてギュッと手を握り返した。

 

「ハジメくん、ありがと……」

「気にするな。狂気に呑まれそうになる辛さは……わかる。俺も、奈落の底で堕ちそうになったしな……」

「……そうならなかったのはどうして? ……って聞くまでもないか……ユエ……だよね?」

「ああ、そうだ。奈落の底で、あいつと出会わなければ……どうなっていたことやら」

 

 懐かしそうに、それでいて愛しそうに遠い目をするハジメ。きっと、ユエと出会った時のことを思い出しているのだろう。その表情を見て、香織の胸が締め付けられる。

 

「悔しいなぁ。ハジメくんをつなぎ止めるのも、守るのも……私でありたかったよ。って言っても、私じゃ何が出来たかわからないけどね……約束一つ守れなかったし。あ~、ユエは強敵だなぁ~」

 

 おどけたように笑う香織に、ハジメは、また目を細めた。香織の笑顔が、いつもの温かな陽だまりのような笑みではなく、多分に自虐や自嘲が入ったものだったからだ。

 

「……ここに来てから、やたら謝ったり、そんな笑みばかり浮かべるな」

「え? えっと……」

 

 突然のハジメの言葉に、香織は頭に〝?〟を浮かべる。しかし、次ぐ、ハジメの言葉で笑みが崩れ一気に表情が強ばった

 

「……なぁ、香織。お前、なんで付いて来たんだ?」

「……それは……やっぱり邪魔だってことかな?」

 

 ハジメは、俯いてしまった香織に、溜息を吐くと質問には答えず話し出す。

 

「あの日、月明かりの下でマズイ紅茶を飲みながら話をしたこと、俺は覚えている。だから、正直、『今の俺』に好意を寄せてくれることが不思議でならない」

「ハジメくん、私は……」

「だが、否定するつもりもない。きっと、香織には香織にしか見えないものがあって、それが心を動かしたんだろう。その上で決断したことを、他者が否定するなんて意味ないしな。俺は、俺の答えを示したし、〝それでも〟というんなら好きにすればいいと思う。シアなんか、全然めげないしな。むしろ、最近、寝込みを襲われないか割かしマジで心配なくらいだ」

 

 最近、身体能力がバグってきたウサミミ少女を思って、どこか恐ろしげな表情をするハジメ。そんなハジメを見て、香織は苦笑い気味に同意する。

ちなみにカービィはたまにシアに枕にされてたりするが本人は知らない。

 

「……うん、あのアグレッシブさとポジティブさはすごいと思う」

「最初の頃は、自分で言うのもなんだが相当雑な扱いだったんだ。俺は、ユエしか〝特別〟に思えそうになかったし……さっさと諦めてくれればそれに越したことはないだろうとも思っていたしな」

「……」

「でもあいつは、俺が、どんなに雑な扱いしても、ユエを特別扱いしても、いつも怒ったり笑ったり泣きべそ掻きながら、それでも、どこか楽しげなんだ。例え、適性が全くなくてユエのように魔法を使えなくても、模擬戦でユエにあしらわれても、前を向くことを止めたりはしない。劣等感に苛まれて、卑屈になったりはしない」

「わ、私、卑屈になんて……」

 

 

「気がついているか? ここに来てから、事あるごとに謝ってばかりだってことに。笑い方が、前と全然違うことに」

「え?」

「なぁ、香織。下を向くな。顔を上げて俺の目を見ろ」

 

 そう言われて、香織は、自分がずっと俯いていたことに今更ながらに気が付いた。以前は、話をするときは、きちんと相手の目を見て話していたというのに……香織は、ハッとしてハジメと目を合わせた。

 

「いいか、もう一度いうぞ。俺は、ユエが好きだ。他の誰かを〝大切〟には思えても、〝特別〟がユエであることは変わらない。その事に、辛さしか感じないなら、ユエと自分を比べて卑屈にしかなれないなら……香織、お前は、俺から離れるべきだ」

「ッ……」

 

「あの時、香織の同行を認めたのは、シアと同じで、俺の傍にいるという決断が香織にとって最善だと、香織自身が信じていたからだ。俺の気持ちを理解した上で、〝それでも〟と願い真っ直ぐ前を向いたからだ。それなら、好きなだけ傍にいればいいと、そう思ったんだ……だけど、今は、とてもそうは思えない」

 

 ハジメは、一度言葉を切ると、俯いてしまった香織の手を離し、最後の言葉を紡いだ。

 

「もう一度、よく考えてみてくれ。なぜ、付いて来たのか、これからも傍にいるべきなのか……香織はシアとは違う。シアは、ユエのことも好きだからな。……場合によっては、親友『八重樫』のもとに送り届けるくらいのことはするつもりだ」

「わ、私……」

 

気まずい雰囲気のまま、それでも前に進まねばならないと、ハジメは香織を促し、一番遠くに鎮座する最大級の帆船へと歩みを進めた。

 ハジメと香織が見上げる帆船は、地球でもそうそうお目にかかれない規模の本当に巨大な船だった。

 

 全長三百メートル以上、地上に見える部分だけでも十階建て構造になっている。そこかしこに荘厳な装飾が施してあり、朽ちて尚、見るものに感動を与えるほどだ。木造の船で、よくもまぁ、これほどの船を仕上げたものだと、同じく物造りを得意とするハジメは、当時の職人達には尊敬の念を抱かずにはいられなかった。

 

 ハジメは、香織を抱えると〝空力〟を使って飛び上がり、豪華客船の最上部にあるテラスへと降り立った。すると、案の定、周囲の空間が歪み始める。

 

「またか……香織、気をしっかりもてよ。どうせ碌な光景じゃない」

「……うん。大丈夫だよ」

 

 テンポの遅い香織の返事に、ハジメは、先程の指摘は、迷宮攻略中に言う事ではなかったかと軽く後悔した。明らかに、香織のテンションがダダ下がりである。言わなければならないことだったと確信しているが、もう少し、タイミングというものがあったかもしれない。香織の浮かべる笑みが、ハジメの知っているものと余りに異なり見ていられなくなったのだが……せめて【メルジーネ海底遺跡】を攻略するまで我慢すべきだった、かもしれないとハジメは頬をカリカリと掻きながら思った。

 

 

 

 

 そうこうしている内に周囲の景色は完全に変わり、今度は、海上に浮かぶ豪華客船の上にいた。

 

 時刻は夜で、満月が夜天に輝いている。豪華客船は光に溢れキラキラと輝き、甲板には様々な飾り付けと立食式の料理が所狭しと並んでいて、多くの人々が豪華な料理を片手に楽しげに談笑をしていた。

 

「パーティー……だよね?」

「ああ。随分と煌びやかだが……メルジーネのコンセプトは勘違いだったか?」

 

 予想したような凄惨な光景とは程遠く肩透かしを喰ったような気になりながら、その煌びやかな光景を、ハジメと香織は、おそらく船員用の一際高い場所にあるテラスから、巨大な甲板を見下ろす形で眺めていた。

 

 すると、ハジメ達の背後の扉が開いて船員が数名現れ、少し離れたところで一服しながら談笑を始めた。休憩にでも来たのだろう。

 

 その彼等の話に聞き耳を立ててみたところ、どうやら、この海上パーティーは、終戦を祝う為のものらしい。長年続いていた戦争が、敵国の殲滅や侵略という形ではなく、和平条約を結ぶという形で終わらせることが出来たのだという。船員達も嬉しそうだ。よく見れば、甲板にいるのは人間族だけでなく、魔人族や亜人族も多くいる。その誰もが、種族の区別なく談笑をしていた。

 

「こんな時代があったんだね」

「終戦のために奔走した人達の、まさに偉業だな。終戦からどれくらい経っているのか分からないが……全てのわだかまりが消えたわけでもないだろうに……あれだけ笑い合えるなんてな……」

「きっと、あそこに居るのは、その頑張った人達なんじゃないかな? 皆が皆、直ぐに笑い合えるわけじゃないだろうし……」

「そうだな……」

それを見てメタナイトは

「そういえばハジメたちは、我々が住んでいる国はプププランドと言うのだが、別名何て言われているか知ってるか?」

 

ハジメ「カービィからプププランドの話は少し聞いたことはあったが結構事件も起こるんだろ?」

シア「そんな危ない場所なんですか?」

 

メタナイト「それがな、プププランドは別名『呆れ返る程平和な国』と呼ばれているんだ。」

 

 

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

その言葉にカービィ一行以外は驚く。

メタナイトは話を続ける。

 

「プププランドには恐怖が存在しない。」

 

ハジメ「どういうことだ?プププランドでは怖いことが何も起こらないと言うことか?」

 

「いや、そういうわけではないのだが、プププランドの住民はどんな時も楽観的だ。カービィが来るまではそうではなかったのだが………」

 

 

マホロア「そういえばボクたちがプププランドを侵略とかしようとした時はいつもカービィがいたヨォ!」

うんうん、とカービィ一行は頷く。

 

 

香織「じゃあカービィがいたからってこと?」

 

「カービィが来てからはどんな危険が起ころうとカービィが守ってくれるからな……。昔、私もプププランドを変えようと試みたことがあったが、やはりカービィにやられてしまった。プププランドは悪夢も見ない。以前夢の泉に巣くっていた悪夢の根源ナイトメアをカービィが倒して以来プププランドの住民はあくを一度たりとも見ていないのだ。」

 

カービィ「たしかにそうだね。でも悪いことじゃないでしょ?」

 

一旦この話はやめて続きを見るハジメたち。

 

 

 やがて、全ての人々が静まり注目が集まると、初老の男の演説が始まった。

 

「諸君、平和を願い、そのために身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君、平和の使者達よ。今日、この場所で、一同に会す事が出来たことを誠に嬉しく思う。この長きに渡る戦争を、私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来たこと、そして、この夢のような光景を目に出来たこと……私の心は震えるばかりだ」

 

 そう言って始まった演説を誰もが身じろぎ一つせず聞き入る。演説は進み、和平への足がかりとなった事件や、すれ違い、疑心暗鬼、それを覆すためにした無茶の数々、そして、道半ばで散っていった友……演説が進むに連れて、皆が遠い目をしたり、懐かしんだり、目頭を抑えて涙するのを堪えたりしている。

 

 どうやら初老の男は、人間族のとある国の王らしい。人間族の中でも、相当初期から和平のために裏で動いていたようだ。人々が敬意を示すのも頷ける。

 

 演説も遂に終盤のようだ。どこか熱に浮かされたように盛り上がる国王。場の雰囲気も盛り上がる。しかし、ハジメは、そんな国王の表情を何処かで見たことがあるような気がして、途端に嫌な予感に襲われた。

 

「――こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ………………実に、愚かだったと」

 

 

 国王の言葉に、一瞬、その場にいた人々が頭上に〝?〟を浮かべる。聞き間違いかと、隣にいる者同士で顔を見合わせる。その間も、国王の熱に浮かされた演説は続く。

 

「そう、実に愚かだった。獣風情と杯を交わすことも、異教徒共と未来を語ることも……愚かの極みだった。わかるかね、諸君。そう、君達のことだ」

「い、一体、何を言っているのだ! アレイストよ! 一体、どうしたと言うッがはっ!?」

 

 国王アレイストの豹変に、一人の魔人族が動揺したような声音で前に進み出た。そして、アレイスト王に問い詰めようとして……結果、胸から剣を生やすことになった。

 

 刺された魔人族の男は、肩越しに振り返り、そこにいた人間族を見て驚愕に表情を歪めた。その表情を見れば、彼等が浅はかならぬ関係であることが分かる。本当に、信じられないと言った表情で魔人族の男は崩れ落ちた。

 

 場が騒然とする。「陛下ぁ!」と悲鳴が上がり、倒れた魔人族の男に数人の男女が駆け寄った。

 

「さて、諸君、最初に言った通り、私は、諸君が一同に会してくれ本当に嬉しい。我が神から見放された悪しき種族ごときが国を作り、我ら人間と対等のつもりでいるという耐え難い状況も、創世神にして唯一神たる〝エヒト様〟に背を向け、下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この日に終わる! 全てを滅ぼす以外に平和などありえんのだ! それ故に、各国の重鎮を一度に片付けられる今日この日が、私は、堪らなく嬉しいのだよ! さぁ、神の忠実な下僕達よ! 獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ! ああ、エヒト様! 見ておられますかぁ!!!」

 

 膝を付き天を仰いで哄笑を上げるアレイスト王。彼が合図すると同時に、パーティー会場である甲板を完全に包囲する形で船員に扮した兵士達が現れた。

 

膝を付き天を仰いで哄笑を上げるアレイスト王。彼が合図すると同時に、パーティー会場である甲板を完全に包囲する形で船員に扮した兵士達が現れた。

 

 甲板は、前後を十階建ての建物と巨大なマストに挟まれる形で船の中央に備え付けられている。なので、テラスやマストの足場に陣取る兵士達から見れば、眼下に標的を見据えることなる。海の上で逃げ場もない以上、地の利は完全に兵士達側にあるのだ。それに気がついたのだろう。各国の重鎮達の表情は絶望一色に染まった。

 

 次の瞬間、遂に甲板目掛けて一斉に魔法が撃ち込まれた。下という不利な位置にいる乗客達は必死に応戦するものの……一方的な暴威に晒され抵抗虚しく次々と倒れていった。

 

 

 何とか、船内に逃げ込んだ者達もいるようだが、ほとんどの者達が息絶え、甲板は一瞬で血の海に様変わりした。ほんの数分前までの煌びやかさが嘘のようだ。海に飛び込んだ者もいるようだが、そこにも小舟に乗った船員が無数に控えており、やはり直ぐに殺されて海が鮮血に染まっていく。

 

「うっ」

「香織」

 

 吐き気を堪えるように、香織が手すりに身を預け片手で口元を抑えた。余りに凄惨な光景だ。無理もないと、ハジメは香織を支える。

 

 アレイスト王は、部下を伴って船内へと戻っていった。幾人かは咄嗟に船内へ逃げ込んだようなので、あるいは、狩りでも行う気なのかもしれない。

 

 彼に追従する男とフードの人物も船内に消える。

 

 と、その時、ふと、フードの人物が甲板を振り返った。その拍子に、フードの裾から月の光を反射してキラキラと光る銀髪が一房、ハジメには見えた気がした。

 

 周囲の景色がぐにゃりと歪む。どうやら、先程の映像を見せたかっただけらしく、ハジメと香織は元の朽ちた豪華客船の上に戻っていた。

 

「香織、少し休め」

「ううん、大丈夫だよ。ちょっと、キツかったけど……それより、あれで終わりかな? 私達、何もしてないけど……」

「この船の墓場は、ここが終着点だ。結界を超えて海中を探索して行くことは出来るが……普通に考えれば、深部に進みたければ船内に進めという意味なんじゃないか? あの光景は、見せることそのものが目的だったのかもな。神の凄惨さを記憶に焼き付けて、その上でこの船を探索させる……中々、嫌らしい趣向だよ。特に、この世界の連中にとってはな」

 

 この世界の人々は、そのほとんどが信仰心を持っているはずであり、その信仰心の行き着く果ての惨たらしさを見せつけられては、相当精神を苛むだろう。そして、この迷宮は精神状態に作用されやすい魔法の力が攻略の要だ。ある意味、【ライセン大迷宮】の逆なのである。異世界人であるハジメ達だからこそ、精神的圧迫もこの程度に済んでいるのだ。

 

ハジメと香織は甲板を見下ろし、そこで起きた凄惨な虐殺を思い出して気の進まない表情になった。ハジメの場合、ただ単にウザそうなだけのようだったが。

 

 二人は意を決して甲板に飛び降り、アレイスト王達が入って言った扉から船内へと足を踏み入れた。

 

 船内は、完全に闇に閉ざされていた。外は明るいので、朽ちた木の隙間から光が差し込んでいてもおかしくないのだが、何故か、全く光が届いていない。ハジメは、〝宝物庫〟から緑光石を使ったライトを取り出し闇を払う。

 

「さっきの光景……終戦したのに、あの王様が裏切ったっていうことかな?」

「そうみたいだな……ただ、ちょっと不自然じゃなかったか? 壇上に登った時は、随分と敬意と親愛の篭った眼差しを向けられていたのに……内心で亜人族や魔人族を嫌悪していたのだとしたら、本当に、あんなに慕われると思うか?」

「……そうだね……あの人の口ぶりからすると、まるで終戦して一年の間に何かがあって豹変した……と考えるのが妥当かも……問題は何があったのかということだけど」

「まぁ、神絡みなのは間違いないな。めっちゃ叫んでたし。危ない感じで」

「うん、イシュタルさんみたいだった……トリップ中の。痛々しいよね」

 

 どうやら聖教教会の教皇は、女子高生からイタイ人と思われていたらしい。ハジメは、少しだけ同情してしまった。二人で、先程の光景を考察しながら進んでいると、前方に向けられたハジメのライトが何かを照らし出した。白くヒラヒラしたものだ。

 

 ハジメと香織は足を止めて、ライトの光を少しずつ上に上げていく。その正体は、女の子だった。白いドレスを着た女の子が、俯いてゆらゆらと揺れながら廊下の先に立っていたのだ。

 

 猛烈に嫌な予感がするハジメと香織。特に、香織の表情は引き攣りまくっている。ハジメは、こんなところに女の子がいるはずないので取り敢えず撃ち殺そうとドンナーの銃口を向けた。

その瞬間、女の子がペシャと廊下に倒れ込んだ。そして、手足の関節を有り得ない角度で曲げると、まるで蜘蛛のように手足を動かし、真っ直ぐハジメ達に突っ込んで来た!

 

ケタケタケタケタケタケタケタッ!

 

 

奇怪な笑い声が廊下に響き渡る。前髪の隙間から炯々と光る眼でハジメ達を射抜きながら迫る姿は、まるで何処ぞの都市伝説のようだ。

 

「いやぁあああああああああああ!!!!」

「うおっ!? 落ち着け香織! 腕を掴むな!」

 

 テンプレだが、それ故に恐ろしい光景に、香織が盛大に悲鳴を上げてハジメにしがみついた。ケタケタ笑って迫る少女? をドンナーで撃とうとしていたハジメは、香織がしがみついたせいで照準をずらしてしまった。

 

「ケギャ!!」

 

 瞬く間に足元まで這い寄った少女? は、奇怪な雄叫びと共にハジメの顔面に向かって飛びかかった。

 

 ハジメは、仕方なく銃撃を諦めて、ケタケタ笑う少女? の腹部に必殺のヤクザキックをぶち当てた。念のため、魔力を纏わせた上で〝豪脚〟も発動させている。

 

 ハジメのヤクザキックが腹にヒットした瞬間、少女は盛大に吹き飛び壁や廊下に数回バウンドしたあと、廊下の奥で手足を更におかしな方向に曲げて停止し、そのまま溶けるように消えていった。

 

 ハジメは、溜息を吐くと、未だにふるふると震えながらハジメにしがみつく香織の頭を拳で軽く叩く。ビクッとしたあと、香織は、恐る恐るという感じでハジメを見上げた。既に目尻には涙が溜まっており、口元はキュッと一文字に結ばれている。マジビビリだった。

 

「香織って、こういうの苦手か?」

「……得意な人なんているの?」

「魔物と思えばいいんじゃないか?」

「……ぐすっ、頑張る」

 

 香織はそう言って、ハジメから離れた。手だけはハジメの服の裾を掴んで離さなかったが。

 

 先程まで、ハジメに言われたことを気にして、どこか遠慮があったというのに、今は、絶対離れないからね! という強靭な意志が濡れた瞳に宿っている。必死だ。告白したときと同じくらいに。

 

 その後も、廊下の先の扉をバンバン叩かれたかと思うと、その扉に無数の血塗れた手形がついていたり、首筋に水滴が当たって天井を見上げれば水を滴らせる髪の長い女が張り付いてハジメ達を見下ろしていたり、ゴリゴリと廊下の先から何かを引きずる音がしたかと思ったら、生首と斧を持った男が現れ迫ってきたり……

 

 そのほとんどは、ハジメが魔力弾で撃ち抜くか、ヤクザキックで瞬殺したのだが……

 

「やだよぉ……もう帰りたいよぉ……雫ちゃんに会いたいよぉ~」

 

 船内を進むごとに激しくなる怪奇現象に、香織が幼児退行を起こし、ハジメの背に張り付いてそこから動かなくなった。

 

 ちなみに、雫の名を呼ぶのは、小さい時から光輝達に付き合わされて入ったお化け屋敷で、香織のナイト役を勤めていたのは雫だったからだそうだ。決して、ゆりゆりしているわけではない。

 

 【メルジーネ海底遺跡】の創設者メイル・メルジーネは、どうやらとことん精神的に追い詰めるのが好きらしい。ハジメは、奈落の底で、闇と化け物に囲まれながら長期間サバイバルしていた経験があるので、特に、どうとも思わないが、普通の感性を持つ者なら精神的にキツイだろう。もっとも、ユエやティオが驚きむせび泣くところなど想像できないが……

 

 先程までの人生の迷子的なシリアスな雰囲気は何処に行った? と、思わずツッコミを入れたくなるくらいハジメに引っ付き半泣きになりながら、それでも何とか回復魔法で怪奇を撃退していく香織とそれを見守るハジメ。途中、何度か香織が意識を飛ばしそうになりつつも、遂に二人は、船倉までたどり着いた。

 

 重苦しい扉を開き中に踏み込む。船倉内にはまばらに積荷が残っており、ハジメ達は、その積荷の間を奥に向かって進む。すると、少し進んだところで、いきなり入ってきた扉がバタンッ! と大きな音を立てて勝手に閉まってしまった。

 

「ぴっ!?」

「……」

 

 香織がその音に驚いて変な声を上げる。何だか、迷宮を攻略したあとも自分のした大切な話を覚えているのか心配になって来たハジメ。ああいう話を何度もするのは勘弁だった。

 

 ハジメが、溜息を吐きながらビクつく香織の肩をポンポンと撫でて宥めていると、また異常事態が発生した。急に濃い霧が視界を閉ざし始めたのだ。

 

「ハハハハハハ、ハジメくん!?」

「何か陽気な外人の笑い声みたいになってるぞ。今まで通り、魔法でぶっ飛ばせばいいだけだ。大丈夫だって」

 

 ハジメがそう答えた瞬間、ヒュ! と風を切る音が鳴り霧を切り裂いて何かが飛来した。咄嗟に、ハジメが左腕を掲げると、ちょうど首の高さで左腕に止められた極細の糸が見えた。更に、連続して風を切る音が鳴り、今度は四方八方から矢が飛来する

 

「ここに来て、物理トラップか? ほんとに嫌らしいな! 解放者ってのはどいつもこいつも!」

「守護の光をここに 〝光絶〟!」

 

 ハジメは、一瞬、意表を突かれたものの、所詮はただの原始的な武器であることから難なく捌き、香織も防御魔法を発動した。直後、前方の霧が渦巻いたかと思うと、凄まじい勢いの暴風がハジメと香織に襲いかかった。

 

 ハジメは、靴のスパイクで体を固定し飛ばされないようにしつつ、咄嗟に、隣の香織を掴もうとしたが、運悪く香織の防御魔法が邪魔になり、一瞬の差で手が届かなかった。

 

「きゃあ!?」

 

 香織は悲鳴を上げて暴風に吹き飛ばされ霧の中へと姿を消す。ハジメは舌打ちをして感知系能力を使い香織の居場所を把握しようとした。しかし、どうやらこの霧は【ハルツィナ樹海】の霧と同じように方向感覚や感知系の能力を阻害する働きがあるようで、あっさり見失ってしまった。

 

「ちっ、香織。そこを動くなよ!」

 

 舌打ちしつつ香織に呼びかけるハジメに、今度は前方の霧を切り裂いて、長剣を振りかぶった騎士風の男が襲いかかってきた。何らかの技なのだろう、凄まじい剣技を繰り出してくる。

 

 ハジメは、それを冷静にドンナーで受け流すと、大きく相手の懐に踏み込み左のシュラークを腹に当てがって魔力弾を撃ち放つ。腹に風穴を開けられた騎士風の男は苦悶の声を上げることもなくそのまま霧散した。

 

 しかし、同じような並みの技量ではない剣士や拳士、他にも様々な武器を持った武闘派の連中が、霧に紛れて次々に襲いかかってきた。

 

「クソ面倒な……」

 

 悪態を吐きつつ、ハジメは、紅色の魔力弾を衛星のように体の周囲に展開し、〝瞬光〟も発動して即行で片付けにかかる。香織の声が聞こえないのが気がかりだったのだ。

 

 一方、その香織はというと、ハジメの姿が見えなくなってしまった事に猛烈な不安と恐怖を感じていた。ホラーは、本気で苦手なのだ。こればっかりは、体が勝手に竦んでしまうので、克服するのは非常に難しい。ただでさえ、劣等感から卑屈になっている点を指摘されてしまい、何とか、そんなことはないと示そうと思っていたのに、肝心なところで縋り付いてしまう自分がほとほと嫌になる。

 

 こんなことではいけないと震える体を叱咤して、香織は何とか立ち上がる。と、その時、香織の肩に手が置かれた。ハジメは、よく肩をポンポンと叩いて励ますことがあるので、自分を見つけてくれたのかと、一瞬、喜びか湧き上がった。

 

「ハジメく……」

 

 直ぐに振り向こうとして、しかし、その前に、香織は、肩に置かれた手の温かみが妙に薄いことに気がついた。いや、もっと正確に言うなら、温かいどころか冷たい気さえする。香織の背筋が粟立った。自分の後ろにいるのは、ハジメではない。直感で悟る。

 

 では、一体だれ?

 

 油を差し忘れた機械のようにギギギと音がなりそうな有様で背後を振り返った香織の眼前には……目、鼻、口――顔の穴という穴の全てが深淵のような闇色に染まった女の顔があった。

 

「あふぅ~」

 

 香織の精神は一瞬で許容量をオーバーし、防衛本能に従ってその意識を手放した。

 

 

 その頃、ハジメは、わずか二分程で五十体近い戦士の亡霊達を撃滅していた。大体、二~三秒で歴戦の戦士を一体屠っている計算だ。と、その時、一瞬、攻勢が止んだかと思うと、霧の中から大剣を大上段に振りかぶった大男が現れ、霧すら切り裂きながら莫大な威力を秘めた剣撃を繰り出した。

 

 ハジメは、半身になってその一撃をかわす。しかし、最初から二ノ剣が想定されていたのか、地面にぶつかった反動も利用して大剣が跳ね上がった。

 

 

「香織! どこだ!」

 

 ハジメは、香織の気配を感知しようと集中する。しかし、そんなことをするまでもなく、香織はあっさり見つかった。

 

「ここだよ。ハジメくん」

「香織、無事だったか……」

 

 微笑みながら歩み寄ってくる香織に、ハジメは安堵の吐息をもらす。そんなハジメの様子に、香織は更に婉然と微笑むと、そっとハジメに寄り添った。

 

「すごく、怖かった……」

「そうか……」

「うん。だからね、慰めて欲しいな」

 

 そう言って、香織はハジメの首に腕を回して抱きついた。そして、鼻と鼻が触れ合いそうなほど間近い場所で、その瞳がハジメの口元を見つめる。やがて、ゆっくりと近づいていき……

 

ゴツッ

 

 と音を立てて、香織のこめかみにドンナーの銃口が突きつけられた。

 

「な、なにを……」

 

 狼狽した様子を見せる香織に、ハジメの眼が殺意を宿して凶悪に細められる。

 

「なにを? もちろん、敵を殺すんだよ。お前がそうしようとしたようにな」

 

 そう言って、ハジメは微塵も躊躇わず引き金を引いた。ドンナーから紅色に輝く弾丸が撃ち放たれ容赦なく香織のこめかみを穿ち、吹き飛ばす。

 

カランカラン

 

 音を立てて転がったのは錆び付いたナイフだ。香織の手から放り出された物であり、抱きつきながら袖口から取り出したものでもある。コツコツと足音を立てながら、倒れた香織に近寄るハジメ。香織は体を起こし、怯えたように震えた声でハジメに話しかける。

 

「ハジメくん、どうしてこんなことッ!?」

 

 しかし、ハジメは取り合わず再び香織に魔力弾を撃ち込んだ。

 

「香織の声で勝手に話すな。香織の体で勝手に動くな。全て見えているぞ? 香織に巣食ったゴミクズの姿がな」

 

 そう、ハジメの魔眼石には、香織と重なるようにしてとり憑いている女の亡霊のようなものが映っていた。正体がバレていると悟ったのか、香織の姿をした亡霊は、先程までの怯えた表情が嘘のように、今度はニヤニヤと笑い出した。

 

「ウフフ、それがわかってもどうする事も出来ない……もう、この女は私のものッ!?」

 

 そう話しながら立ち上がろうとした香織(憑)だったが、ハジメに馬乗りに押し倒され再び倒れこんだ。

 

「まてっ! なにをするの! この女は、あんたの女! 傷つけるつもりッ!?」

「頭の悪い奴だ。話すな、動くなと言っただろう? 別に香織は傷つけないさ。魔力弾で肉体は傷つかない。苦しむのは取り憑いたお前だけだ」

「私が消滅すれば、この女の魂も壊れるのよ! それでもいいの!?」

 

 

 その言葉に、ハジメが少し首を傾げる。ハッタリの可能性も十分にあるが、真偽を確かめるすべがない。普通なら、躊躇し手を出せなくなるだろう。香織(憑)もそう思ったのか、再びニヤつきながら、上からどけとハジメに命令した。それに対するハジメの返答は、

 

スパンッ! スパンッ!

 

 魔力弾を撃ち込むことだった。苦痛を感じているのか香織(憑)の表情が歪む。そして焦った表情で更に魔力弾を撃ち込もうとするハジメに怒声を上げた。

 

「あんた正気なの!? この女がどうなってもいいの!?」

「黙れ、ゴミクズ。お前の言う通り攻撃を止めたところで、香織の体は奪われたままだろうが。それに、逆に言えば、消滅させなければ魂は壊れないんだろう? なら、出て行きたくなるまで死なないようにお前を嬲ればいいだけだ」

 

 あまりに潔い発言に絶句する女の亡霊。そして、ハジメの濃密な殺意が宿った眼光に射抜かれて硬直する。

 

「俺の〝大切〟に手を出したんだ……楽に消滅なんてさせない。あらゆる手段を尽くして、消えないようにしてやる。あらゆる苦痛を与えて、それでも狂うことすら許さない。お前は敵だが……絶対に殺してやらない」

 

 

 ハジメは、激怒しているのだ。かつてないほど。ただ敵を殺すだけでは飽き足らない、〝残虐性〟が発露するほどに。

 

 香織にとり憑いた亡霊は、余りに濃密でおぞましい殺意に、もはや硬直してハジメを凝視する以外何も出来なかった。この時になって、ようやく悟ったのである。自分が決して手を出してはいけない化け物の、決して触れてはいけない禁忌に触れてしまったのだと。

 

 ドンナーの銃口が、香織(憑)の額に押し当てられる。とり憑いた亡霊は、ただひたすら願った。一秒でも早く消えてしまいたいと。これからされるだろう〝何か〟を思うと、少しでも早く消えてしまいたかった。

 

 亡霊の正体は、元々、生に人一倍強く執着する思念が変質したものだったのだが、その思いすら吹き飛ばすほど、今のハジメの放つ雰囲気は恐ろしかったのだ。

 

消えたい! 消えたい! 消えたい! 消えたい! 消えたい! 消えたい!

 

 亡霊の叫びが木霊する中、ハジメがまさに引き金を引こうとした瞬間、香織の体が突然、輝き出した。それは、状態異常回復の魔法〝万天〟の輝きだ。香織が万一に備えて〝遅延発動〟用にストックしておいたものである。

 

 突然の事態に呆然とする亡霊に内から声が響いた。

 

――大丈夫、ちゃんと送ってあげるから

 

 その言葉と共に、輝きが更に増す。純白の光は、亡霊を包み込むように纏わりつくと、ゆらりふわふわと天へ向けて立ち上っていった。同時に、亡霊の意識は薄れていき、安堵と安らぎの中、完全にこの世から消滅した。

 

 一拍の後、香織のまぶたがふるふると振るえ、ゆっくり目を開いた。馬乗り状態のハジメが、真上から香織の瞳を覗き込む。香織が輝き出してから、ハジメの魔眼石には、存在が薄れていく亡霊の姿が映っていたので、取り敢えず殺意を薄め、香織の中にいないか確かめているのだ。

 

 間近い場所にハジメの顔があり、押し倒されている状況で、ハジメの視線は真っ直ぐ香織の瞳を射抜いている。びっくりするほど真剣で、同時に、心配と安堵も含まれた眼差し。そんな瞳を見つめ返しながら、香織の体は自然と動いていた。

 

 スっと顔を持ち上げて、ハジメの唇に自分のそれを重ねる。唇と唇を触れ合わせるだけのもの。それでも確かに、香織のファーストキスだ。

 

 ハジメは、〝魂が壊れる〟と言われたために、万一を考えて香織に巣食うものがないか〝見る〟ことに集中しており、ごく自然な動作で迫った香織のキスを避けることが出来なかった。驚いて一瞬硬直するハジメから、香織は、そっと唇を離す。

 

「……なにして……」

「答えかな?」

「答え?」

「うん。どうして付いて来たのか、これからも付いて行くのか……ハジメくんの問い掛けに対する答え」

 

 そう言ってハジメに向けられた香織の微笑みは、いつも見ていた温かな陽だまりのような微笑みだった。ここに来てから見せていた、作り笑いの影は微塵もない。

 

 実のところ、とり憑かれている間、香織には意識があった。まるで、ガラス張りの部屋に閉じ込められてそこから外を見ているような感じだった。それ故に、香織もしっかりと認識していたのだ。未だかつて見たことがないほど怒り狂ったハジメの姿を。香織を〝大切〟だと言って、敵に激情をぶつけた姿を。

 

 

「好きだよ、ハジメくん。大好き。だから、これからも傍にいたい」

「……辛くなるだけじゃないか? シアのように、ユエもいなければ、ってわけじゃないだろう?」

「そうだね。独占したいって思うよ。私だけ見て欲しいって思うよ。ユエに、嫉妬もするし、劣等感も抱くよ……辛いと感じることもあるかも」

「だったら……」

「でも、少なくとも、ここで引いたら後悔することだけは確かだから。確信してるよ。私にとっての最善はハジメくんの傍にいることだって……最初からそう思って付いて来たのに、実際に差を見せつけられて色々見失ってたみたい。でも、もう大丈夫」

 

 ハジメの頬を両手で挟みながら、ふわりと微笑む香織。ハジメは、困ったような呆れたような複雑な表情だ。香織が自分で決めて、その決断が最善だと信じているなら、ハジメに言えることは何もない。幸せの形など人それぞれだ。ハジメに香織の幸せの形を決めることなど出来ないし、するべきでもない。

 

「……そうか。香織がそれでいいなら、俺はこれ以上なにも言わない」

「うん。いっぱい面倒かけるけど、嫌わないでね」

「今更だろう。学校でも、ここに来てからも……お前は割かしトラブルメイカーだ」

「それは酷いよ!」

「そうか? 学校でも空気読まずに普通に話しかけて来たし、無自覚に言葉の爆弾落とすし、その度に、周りの奴らが殺気立つし、香織は気づかないし、深夜に男の部屋へネグリジェ姿でやって来るし……」

「うぅ、あの頃はまだ自覚がなくて、ただ話したくて……部屋に行ったのは、うん、後で気がついて凄く恥ずかしかった……」

 

 

 ある意味、イチャついていると言えなくもない雰囲気で香織を背負ったハジメは、スタスタと進み、躊躇いなく魔法陣へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 淡い光が海面を照らし、それが天井にゆらゆらと波を作る。

 

 その空間には、中央に神殿のような建造物があり、四本の巨大な支柱に支えられていた。支柱の間に壁はなく、吹き抜けになっている。神殿の中央の祭壇らしき場所には精緻で複雑な魔法陣が描かれていた。また、周囲を海水で満たされたその神殿からは、海面に浮かぶ通路が四方に伸びており、その先端は円形になっている。そして、その円形の足場にも魔法陣が描かれていた。

 

 その四つある魔法陣の内の一つが、にわかに輝き出す。そして、一瞬の爆発するような光のあと、そこには人影が立っていた。ハジメと香織だ。

 

「……ここは……あれは魔法陣? まさか、攻略したのか?」

「えっと、何か問題あるの?」

「いや、まさかもうクリアとは思わなくてな……他の迷宮に比べると少し簡単だった気が……最後にあのクリオネモドキくらい出てくると思ったんだが……」

 

ちなみにカービィ一行は何にも怖くなかったのでつまらなそうにしているメンバーが多い。

メタナイトが言った通り恐怖が存在しないのだ。

 

 どうやら、メイル・メルジーネの住処に到着したようだとわかり、ハジメは少し拍子抜けしたような表情になる。それに対して、香織は、ハジメの肩越しに顔を覗かせて、苦笑いしながら答えた。

 

「あのね、ハジメくん。十分大変な場所だったよ。最初の海底洞窟だって、普通は潜水艇なんて持ってないんだから、クリアするまでずっと沢山の魔力を消費し続けるし、下手をすれば、そのまま溺死だよ。クリオネみたいなのは、有り得ないくらい強敵だったし、亡霊みたいなのは物理攻撃が効かないから、また魔力便りになる。それで、大軍と戦って突破しなきゃならないんだよ? 十分、おかしな難易度だよ」

「むっ、そう言われればそうなんだろうが……」

「まして、この世界の人なら信仰心が強いだろうし……あんな狂気を見せられたら……」

「余計、精神的にキツいか……」

 

 香織の指摘は、要するにハジメが強すぎたという事だ。そこまで言われると、確かに、【グリューエン大火山】も最後のフリードの襲撃さえなければ無傷で攻略出来ていたなぁと納得するハジメ。

 

 そして、そう言えば、ユエ達と合流する前に到着してしまったが彼女達はどうしているだろうかと考えたその時、ハジメの思考を読んだように右側にある通路の先の魔法陣が輝き出した。

 

 爆ぜる光が収まると、そこにはユエ、シア、ティオの三人の姿があった。絶妙なタイミングだった。

 

「いいタイミングだな。そっちは大丈夫だったか?」

「ん……そっちは……大丈夫じゃなかった?」

「あ、香織さん大丈夫ですかっ!」

「む? 怪我でもしておるのか? 回復魔法はどうした?」

 

 ハジメの呼びかけに、それぞれ元気な様子を見せつつ、ハジメに背負われている香織に心配そうな視線を送っている。それに対する香織の返答は……

 

「心配してくれて、ありがとう。でも、大丈夫だよ。半分は甘えているだけだから」

 

 

香織は、どうやら立ち直ったようで、むしろ、前より決然としている雰囲気すらある。何があったのか気になるところだった。

 

「……そうだね。ハジメくんにも、いっそそうした方がいいって言われたよ。でも、ユエとの色々な差とか……今更だしね」

「……開き直った?」

「そうとも言うかも。というかね、元々、開き直って付いて来たのに、差を見せつけられて、それを忘れてただけなんだよ。情けないとこ見せちゃった」

「……そのまま諦めれば良かったのに」

「ふふ、怖い? 取られそうで?」

「……調子にのるな。トラブルメイカー」

「……それ、ハジメくんにも言われた。……私、そんなにトラブル体質なのかな……」

 

 辛辣なユエの言葉に、香織の頬が引き攣る。想い人と恋敵に揃ってトラブルメイカー呼ばわりされて若干落ち込みそうなるが、直ぐに気を取り直す。ちなみに、実はユエも、というかハジメ達全員が割かしトラブル体質なので、かなりブーメランな言葉なのだが、ユエにその自覚はなかった。

 

「まぁ、ユエの言う通りかもしれないけど……少なくとも私はハジメくんの〝大切〟だから、頑張って〝特別〟を目指すって決めたの。誰になんと言われようと、ね」

「……そう。なら今まで通り受けて立つ」

「うん! あ、それと、ユエの事は嫌いじゃないからね? 喧嘩友達とか、そういうの、ちょっと憧れてたんだ」

「……友達? 私と香織が?」

「そう、友達。日本にはね、強敵と書いて友と表現する人がいるみたい。なら、恋敵と書いて友と読んでもいいんじゃないかな?」

「……日本……ハジメの故郷……聞けば聞くほど不思議な国。でも……いいセンスだと思う」

「だよね。うふふ、そういうわけで、これからも宜しくね?」

「……ん」

 

 

 

 

「ここでこの魔法か……大陸の端と端じゃねぇか。解放者め」

「……見つけた〝再生の力〟」

「ボクも新しくコピー能力が増えたよ!」

カービィ一行で新しい能力を得たのはカービィだけだった。

 

 ハジメが悪態をつく。それは、手に入れた【メルジーネ海底遺跡】の神代魔法が〝再生魔法〟だったからだ。

 

 思い出すのは、【ハルツィナ樹海】の大樹の下にあった石版の文言。先に進むには確かに〝再生の力〟が必要だと書かれていた。つまり、東の果てにある大迷宮を攻略するには、西の果てにまで行かなければならなかったということであり、最初に【ハルツィナ樹海】に訪れた者にとっては途轍もなく面倒である。ハジメ達は、魔力駆動車という高速の移動手段を持っているからまだマシだったが。

 

 ハジメが解放者の嫌らしさに眉をしかめていると、魔法陣の輝きが薄くなっていくと同時に、床から直方体がせり出てきた。小さめの祭壇のようだ。その祭壇は淡く輝いたかと思うと、次の瞬間には光が形をとり人型となった。どうやら、オスカー・オルクスと同じくメッセージを残したらしい。

 

 人型は次第に輪郭をはっきりとさせ、一人の女性となった。祭壇に腰掛ける彼女は、白いゆったりとしたワンピースのようなものを着ており、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持っていた。どうやら解放者の一人メイル・メルジーネは海人族と関係のある女性だったようだ。

 

 彼女は、オスカーと同じく、自己紹介したのち解放者の真実を語った。おっとりした女性のようで、憂いを帯びつつも柔らかな雰囲気を纏っている。やがて、オスカーの告げたのと同じ語りを終えると、最後に言葉を紡いだ。

 

「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」

 

 そう締め括り、メイル・メルジーネは再び淡い光となって霧散した。直後、彼女が座っていた場所に小さな魔法陣が浮き出て輝き、その光が収まると、そこにはメルジーネの紋章が掘られたコインが置かれていた。

 

「証の数も四つですね、ハジメさん。これで、きっと樹海の迷宮にも挑戦できます。父様達どうしてるでしょう~」

 

 シアが、懐かしそうに故郷と家族に思いを馳せた。しかし、脳裏に浮かんだのは「ヒャッハー!」する父親達だったので、頭を振ってその光景を霧散させる。ハジメは、証のコインを〝宝物庫〟にしまうと、シアと同じように「ヒャッハー!」するハウリア族を思い出し、頭を振ってその光景を追い出した。

 

 と、証をしまった途端、神殿が鳴動を始めた。そして、周囲の海水がいきなり水位を上げ始めた。

 

「うおっ!? チッ、強制排出ってかっ。全員、掴み合え!」

「……んっ」

「わわっ、乱暴すぎるよ!」

「ライセン大迷宮みたいなのは、もういやですよぉ~」

「水責めとは……やりおるのぉ」

 

 凄まじい勢いで増加する海水に、ハジメ達は潜水艇を出して乗り込む暇もなく、あっという間に水没していく。咄嗟に、また別々に流されては敵わないと、全員がしっかりお互いの服を掴み合い、〝宝物庫〟から酸素ボンベ取り出して口に装着した。

 

 そして、その直後、天井部分が【グリューエン大火山】のショートカットのように開き、猛烈な勢いで海水が流れ込む。ハジメ達も、その竪穴に流れ込んで、下から噴水に押し出されるように、猛烈な勢いで上方へと吹き飛ばされた。

 

 

 おそらく、【メルジーネ海底遺跡】のショートカットなのだろうが、おっとりしていて優しいお姉さんといった雰囲気のメイル・メルジーネらしくない、滅茶苦茶乱暴なショートカットだった。しかも、強制的だった。意外に、過激な人なのかもしれない。

 

 押し上げられていくハジメ達は、やがて頭上が行き止まりになっていることに気が付く。しかし、ハジメ達がぶつかるといった瞬間、天井部分が再びスライドし、ハジメ達は勢いよく遺跡の外、広大な海中へと放り出された。ハジメは確信する。メイル・メルジーネは絶対、見た目に反して過激で大雑把な性格だと。

 

 海中に放り出されたハジメ達は、急いで潜水艇を〝宝物庫〟から取り出した。そして、ハッチから乗り込もうとするが、その目論見は阻止される。一番、会いたくなかった相手によって。

 

ズバァアアアアアアッ!!!

 

 ハジメ達の眼前を凄まじい勢いで半透明の触手が通り過ぎ、潜水艇が勢いよく弾き飛ばされた。

 

〝ユエ〟

〝凍柩!〟

 

 ハジメが向けた視線の先には、一見妖精のような造形でありながら、全てを溶かし、無限に再生し続ける凶悪で最悪の生物――巨大クリオネがいた。わざわざ攻略が終わった後で現れたことに歯噛みしながら、ハジメはユエに〝念話〟を発動して呼びかける。

 

 巨大クリオネは、再び無数の触手を水の抵抗などないかのように猛烈な勢いで射出した。それに対して、ユエがハジメの呼びかけに応え阿吽の呼吸で周囲の海水を球形状に凍らせて、氷の障壁を張る。

 

 直撃した触手の勢いで海中を勢いよく吹き飛ばされる氷の障壁と中のハジメ達。激しい衝撃に全員が障壁内でシェイクされる。

 

〝どうするんじゃ! ご主人様よ!〟

 

 念話石を使って通信してきたティオに、ハジメが答える。

 

〝全員海上を目指せ。水中じゃあ嬲り殺しだ。時間は俺が稼ぐ!〟

 

 ハジメは、そう言いながら指輪型の感応石を操って潜水艇を遠隔操作した。ハジメ達の背後から、吹き飛ばされ沈んだはずの潜水艇が猛スピードで突き進み、船体を捻りながら襲い来る無数の触手をかわしていく。そして、船底から無数の魚雷を射出した。

 

 一度に射出された魚雷の数は十二。普通に考えれば十分な破壊力。しかし、ハジメは、ここで確実に隙を作らなければジリ貧だと判断し、手を緩めず潜水艇に搭載されている魚雷の全てを連続して射出した。船体を横滑りさせるように航行させ、巨大クリオネを中心に円を描かせる。普通の船なら不可能な動きを実現しながら、次々と放たれた魚雷の数は、総じて四十八発。

 

 泡の線を引きながら殺到したそれらは、狙い違わず巨大クリオネに直撃し凄絶な破壊をもたらした。

 

ドォウ! ドォウ! ドォウ! ドォウ!

 

 そんなくぐもった衝撃音が鳴り響き、海水が膨張したように膨れ上がる。海上から、巨大クリオネの直上を見ているものがいれば、海面が一瞬盛り上がり、次いで、噴き上がる巨大な水柱を観測したことだろう。

 

 ハジメ達は、全魚雷が爆発した直後、水流を操作して浮上を試みた。いくら化け物じみた再生力を持っていても、しばらくは時間を稼げるはずだ。しかし、巨大クリオネのデタラメさはハジメ達の予測を軽く超えていたらしい。

 

〝ユエ、上だ!〟

〝っ…ダメ、間に合わない!〟

 

 潜水艇を遠隔操作で回収しながら浮上するハジメ達の頭上に半透明のゼリーが漂っており、数瞬で集まり固まると三メートルサイズのクリオネモドキになったのだ。そして、頭部をガパッ! と大きく開くとそのまま、氷の障壁を呑み込んでしまった。当然、ハジメ達は、障壁と一緒に、クリオネの腹の中である。

 

〝くそっ、再生が早すぎるぞ!〟

〝ちぎれた触手から再生したみたい!〟

〝マズイですよ、ハジメさん。周りがゼリーだらけですぅ!〟

 

「ボクに任せて!コピー能力フリーズ!」

 

カービィは対象を凍らせた。

 

こうしてあとはカービィ一行のターンである。

 

あっさり倒すことができ、海上の町エリセンに着いたのだった。

 




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