ありふれた能力世界最強   作:コロンKY

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帝都

ハジメ達が再び足を踏み入れた【ハルツィナ樹海】は、以前となんら変わらず一寸先を閉ざすような濃霧をもって歓迎を示した。

 

 やはり、亜人族がいなければ、人外レベルのハジメでも感覚を狂わされるようだ。ハジメ達がそれぞれ見失って離れ離れにならないよう、以前と同じく亜人達が周囲を囲むようにして先導してくれる。

 

「ハジメさん、武装した集団が正面から来ますよ」

 

 シアの言葉に周囲の亜人族が驚いたようにシアの方を向いた。その中には攫われていた兎人族も含まれており、どうやら自分達ではまるで察知できない気配をしっかり捉えているシアに驚いているようだ。

 

 そのシアの言葉の正しさを証明するように、霧をかき分けていつか見たような武装した虎耳の集団が現れた。全員、険しい視線で武器に手をかけているが、彼等も亜人族が多数いる気配を掴んでいたようで、いきなり襲いかかるということはなさそうだ。

 

 彼等のうち、リーダーらしき虎人族の視線がハジメ達に止まった。直後、驚愕に目を見開いた。

 

「お前達は、あの時の……」

 

 その虎の亜人の様子にハジメも彼を思い出した。彼の名はギルといい、かつて樹海に踏み込んだハジメ達と相対した警備隊の隊長をしている男だ。どうやら、襲撃を生き延びて、再び警備をしていたらしい。

 

「一体、今度は何の……って、アルテナ様!? ご無事だったのですか!?」

「あ、はい。彼等とハウリア族の方々に助けて頂きました」

 

 ギルは、ハジメに目的を尋ねようとして、その傍らにいたアルテナに気がつき素っ頓狂な声を上げた。そして、アルテナの助けてもらったという言葉に、安堵と呆れを含んだ深い溜息をついた。

 

「それはよかったです。アルフレリック様も大変お辛そうでした。早く、元気なお姿を見せて差しあげて下さい。……少年。お前は、ここに来るときは亜人を助けてからというポリシーでもあるのか? 傲岸不遜なお前には全く似合わんが……まぁ、礼は言わせてもらう」

「そんなポリシーあるわけ無いだろ。偶然だ、偶然」

 

 何やら知り合いらしい雰囲気に、雫達が疑問顔になる。シアが、こっそり何があったのかを簡潔に説明すると、シアがハジメに惚れている理由も分かるというもので、皆、納得顔を見せた。

 

「それより、フェアベルゲンにハウリア族の連中はいるか? あるいは、今の集落がある場所を知ってる奴は?」

「む? ハウリア族の者なら数名、フェアベルゲンにいるぞ。聞いているかもしれないが、襲撃があってから、数名常駐するようになったんだ」

「そりゃよかった。じゃあ、さっさとフェアベルゲンに向かうぞ」

 

 

 傍に人間族がいることに気がついて、一瞬、表情を強ばらせるもののアルテナ達が口々助けられた事を伝えると、警戒心を残しつつも抱き合って喜びをあらわにした。連れ去られていた亜人達の中には、ハジメ達に礼をいうと家に向かって一目散に駆けていく者もいる。

 

 次第にハジメ達を囲む輪は大きくなり、気が付けば周囲はフェアベルゲンの人々で完全に埋め尽くされていた。しばらくその状態が続いたあと、不意に人垣が割れ始める。その先には、フェアベルゲン長老衆の一人アルフレリック・ハイピストがいた。

 

「お祖父様!」

「おぉ、おお、アルテナ! よくぞ、無事で……」

 

 アルテナは、目の端に涙を溜めながら一目散に駆け出し祖父であるアルフレリックの胸に勢いよく飛び込んだ。もう二度と会えることはないと思っていた家族の再会に、周囲の人々も涙ぐんで抱きしめ合う二人を眺めている。

 

 しばらく抱き合っていた二人だが、そのうちアルフレリックは、孫娘を離し優しげに頭を撫でると、ハジメに視線を向けた。その表情には苦笑いが浮かんでいる。

 

「……とんだ再会になったな、南雲ハジメ。まさか、孫娘を救われるとは思いもしなかった。縁というのはわからないものだ。……ありがとう、心から感謝する」

「俺は送り届けただけだ。感謝するならハウリア族にしてくれ。俺は、ここにハウリア族がいると聞いて来ただけだしな……」

「そのハウリア族をあそこまで変えたのもお前さんだろうに。巡り巡って、お前さんのなした事が孫娘のみならず我等をも救った。それが事実だ。この莫大な恩、どう返すべきか迷うところでな、せめて礼くらいは受け取ってくれ」

 

 ハジメはアルフレリックの言葉に、若干、困ったように頬を掻きつつも仕方なさそうに肩を竦めた。

 

 そんなハジメを、ユエやシア、ティオ、香織が微笑ましげに見つめている。そして、人間を救うために迷宮に潜って訓練を積んできた自分よりも、世界を巡り意図せず人々を救ってきたハジメに、光輝は一層、複雑そうな表情を見せていた。

 

 その後、ハジメ達は、ハウリア族はタイミング悪くフェアベルゲンの外に出てしまっているが直ぐに戻るはずだと聞き、アルフレリックの家で待たせてもらうことにした。

 

 アルフレリックの言う通り、差し出されたお茶(頬を染めたアルテナが手ずから入れたお茶)を一杯飲み終わる頃、ハウリア族の男女が複数人、慌てたようにバタバタと駆け込んできた。

 

「ボスゥ!! お久しぶりですっ!!」

「お待ちしておりましたっ! ボスゥ!!」

「お、お会いできて光栄ですっ! Sir!!」

「うぉい! 新入りぃ! ボスのご帰還だぁ! 他の野郎共に伝えてこい! 三十秒でな!」

「りょ、了解でありますっ!!」

 

 余りの剣幕に、パル達でハウリアの反応を予想していたはずの光輝達がブフゥー! とお茶を噴き出した。ボタボタと垂れるお茶を拭いながら全員がそちらを見ると、複数の兎人族がビシッ! と踵を揃えて直立不動し、見事な敬礼を決めている姿があった。

 

 ハジメにも見覚えのない者が何人かおり、先程の言動も踏まえると、どうやらハウリアは他の兎人族の一族を取り込んで自ら訓練を施し勢力を拡大しているようだ。

 

「あ~、うん、久しぶりだな。取り敢えず、他の連中がドン引いているから敬礼は止めような」

「「「「「「「Sir,Yes,Sir!!!」」」」」」」

 

 樹海全体に響けと言わんばかりに張り上げたボスへの久しぶりの掛け声に、とても満足そうなハウリア族と、初めて経験した本物の掛け声に「俺達もついに……」と感動しているハウリアでない兎人族達。

 

 きっと、ハジメが樹海を出て行った後も、樹海にはハートマ○軍曹式の怒声が響いていたのだろう。

 

「ここに来るまでにパル達と会って大体の事情は聞いている。中々、活躍したそうだな? 連中を退けるなんて大したもんだ」

「「「「「「きょ、恐縮でありまずっ!!」」」」」」」

「なるほど。……〝必滅のバルドフェルド〟達からの伝言は確かに受け取りました。わざわざ有難うございます、ボス」

「………………なぁ、お前も……二つ名があったりするのか?」

「は? 俺ですか? ……ふっ、もちろんです。落ちる雷の如く、予測不能かつ迅雷の斬撃を繰り出す! 〝雷刃のイオルニクス〟! です!」

「……そうか」

 

「ハウリア族以外の奴等も訓練させていたみたいだが、今、どれくらいいるんだ?」

「……確か……ハウリア族と懇意にしていた一族と、バントン族を倒した噂が広まったことで訓練志願しに来た奇特な若者達が加わりましたので……実戦可能なのは総勢百二十二名になります」

 

 随分と増加したものだとハジメのみならずシアやユエも驚きをあらわにする。ハジメは、質問の意図がわからず疑問顔を浮かべる〝雷刃のイオルニクス〟を尻目に一つ頷く。

 

「それくらいなら全員一度に運べるな。……イオ、ルニクス。帝都に行く奴等をさっさと集めろ。俺が全員まとめて送り届けてやる」

「は? はっ! 了解であります! 直ちに!」

「ハ、ハジメさん……大迷宮に行くんじゃ……」

「カム達のこと気になってんだろ?」

「っ……それは……その……でも……」

 

 ハジメに図星を突かれて口籠るシア。

 

 ハジメの目的が大迷宮であり、カム達の事情は関係ない以上、シアとしてはわざわざ面倒事が待っていそうな帝都に入ってまでカム達の行方を探して欲しい等とは言えなかった。まして、カム達は連れ去られたというわけではなく、自分達から向かったのだ。何かあっても自己責任である。

 ハジメは、余計な手間を取らせていると恐縮して口籠るシアの傍に寄り、そっとその頬を両手で挟み込んだ。

 

「ふぇ?」

 

 突然のハジメの行動に、シアがポカンと口を開けて間抜け顔を晒す。そんなシアに、ハジメは可笑しそうに笑みを浮かべながら、真っ直ぐ目を合わせて言い聞かせるように言葉を紡いだ。

 

「シア、お前に憂い顔は似合わねぇよ。カム達が心配なら心配だって言えばいいだろう?」

「で、でも……」

「でもじゃない。何を今更、遠慮なんてしてるんだ? いつもみたいに、思ったことを思った通りに言えばいいんだよ。初めて会った時の図々しさはどこにいったんだ? 第一、お前が笑ってないと、俺の……俺達の調子が狂うだろうが」

「ハジメさん……」

 

 ぶっきらぼうではあるが、それは紛れもなくシアを気遣う言葉。シアを想っての言葉だ。それを理解して、シアは自分の頬に添えられたハジメの手に自分のそれを重ねる。瞳は、嬉しさと愛しさで潤み始めていた。

 

「あまり実感がないかもしれないが……これでも、その、なんだ。結構、お前の事は大切に想ってるんだ。だから、お前の憂いが晴れるなら……俺は、俺の全力を使うことを躊躇わない」

「ハジメさん、私……」

「ほら、言いたいこと言ってみろ。ちゃんと聞いてやるから」

 

 頬に伝わる優しくも熱い感触と、真っ直ぐ見つめてくるハジメの眼差しに、シアは言葉を詰まらせつつも、湧き上がる気持ちのままに思いを言葉にした。

 

「……私、父様達が心配ですぅ。……一目でいいから、無事な姿を見たいですぅ……」

「全く、最初からそう言えばいいんだ。今更、遠慮なんてするから何事かと思ったぞ?」

「わ、私、そこまで無遠慮じゃないですよぉ! もうっ、ハジメさんったら、ほんとにもうっですよぉ!」

 

 拗ねたように頬を膨らませているが、その瞳はキラキラと星が瞬き、頬はバラ色に染まっていて、恋する乙女を通り越して完全に愛しい男を見る女の顔だった。贈られた言葉に、幸せで堪らないという気持ちが全身から溢れ出ている。

 

 シア自身、そこまでハジメに遠慮しているという自覚はなかったのだが、ハジメを想う女ライバルが増えてきたため、無意識のうちにいい所を見せようと気張ってしまっていたようだ。

 

 それが、ハジメの〝大切に想っている〟という言葉で一気に吹き飛んでしまった。

 

 そんなシアを見て、女性陣がそれぞれ反応を示す。

 

「……ん。シア、可愛い」

 

 と、ユエは微笑ましげにシアを見守る。完全にお姉さん思考だ。

 

「ふむ、たまには罵り以外もいいかもしれんのぉ~」

 

 と、ティオは変態とは思えないまともな感想を抱く。重病を治すチャンスかもしれない。

 

「うぅ~、羨ましいよぉ~」

「まぁ、惚れた男にあんな風に言われれば嬉しいでしょうね……」

「な、南雲君……ストレートだよ。そっち方面でも変わってしまったんだね。鈴はびっくりだよ」

「シアさん……妬ましい、私もハジメ様に……」

 

 上から順に香織、雫、鈴、そして何故かアルテナである。

 

 そこで、ようやく周囲に大勢いることを認識したシアが、真っ赤になって両手で顔を隠してしまった。しかし、羞恥以上に嬉しさが抑えきれないのか、ウサミミがわっさわっさ、ウサシッポがふ~りふ~りと動きまくり気持ちをこれでもかと代弁している。

 

 その時、ちょうどいいタイミングでイオがやって来た。どうやらハウリア族の準備が整ったようだ。滅茶苦茶迅速な対応である。

 

 ハジメ達は、アルフレリックとアルテナ達の見送りを受けながら樹海を抜け、帝都に向けて再びフェルニルを飛ばした。

 

 

 

「おい、おまえ『ドガッ!!』ぐぺっ!?」

 

 そんな帝都に入ったハジメ達だが、当然、美女美少女を引き連れたハジメが目立たないわけがなく、しきりにちょっかいを掛けられては問答無用に沈めるという事を既に何度も繰り返していた。今も、ニヤつきながら寄って来た武装した男を強制的にトリプルアクセルさせた上、地面に濃厚なキスをさせたところである。

 

 しかし、周囲はそんな暴力沙汰を特にどうとも思っていないようで、ごく普通にスルーしている。この程度の〝ケンカ〟は日常茶飯事なのだろう。

 

シア「うぅ、話には聞いていましたが……帝国はやっぱり嫌なところですぅ」

香織「うん、私もあんまり肌に合わないかな。……ある意味、召喚された場所が王都でよかったよ」

ティオ「まぁ、軍事国家じゃからなぁ。軍備が充実しているどころか、住民でさえ、その多くが戦闘者なんじゃ。この程度の粗野な雰囲気は当たり前と言えば当たり前じゃろ。妾も住みたいとは全く思わんがの」

 

 

「シア、余り見るな。……見ても仕方ないだろう?」

「……はい、そうですね」

 

 シアの目に入ってしまうそれは亜人族の奴隷達だ。使えるものは何でも使う主義の帝国は奴隷売買が非常に盛んだ。今も、シアが視線を向けている先には値札付きの檻に入れられた亜人族の子供達がおり、シアの表情を曇らせている。

 

 傍らのユエが心配そうにシアの手を握る。ハジメも、シアのほっぺをムニムニと摘んで不器用な気遣いをする。二人の暖かさが手と頬に伝わり、シアのウサミミが嬉しそうにパタパタと動いた。

 

「……許せないな。同じ人なのに……奴隷なんて、カービィはなんとも思わないのか!?」

 

 ハジメ達の後ろを歩いていた光輝が、ギリっと歯噛みする。放って置けば、そのまま突撃でもしそうだ。

「たしかに許せないとは思う。けど先っぽじゃなくて根っこからじゃないときりがないから……。」

 

「そう言えば、雫ちゃんって皇帝陛下に求婚されたよね?」

「……そう言えば、そんな事もあったわね」

 

 思い出したくなかった事を思い出して顔をしかめる雫。

 

 ユエ達女性陣が、「ほぉ~」と、どこかニヤついた表情で雫を見る。雫は、その視線に更に顔をしかめた。隣で光輝が渋い表情になる。どうやら国だけでなく皇帝陛下自身も嫌われてしまっているようだ。

 

「そんな事より、南雲君。具体的に何処に向かっているの?」

 

 雫が、今にも詳細を聞いてきそうな女性陣をかわすためにハジメに話を振る。シアの父親達の安否を確認するという話は聞いているが、そのための具体的な方針を聞いていなかったのだ。

 

「ん~? 取り敢えず冒険者ギルドだな。〝金〟を利用すれば大抵の情報は聞き出せる」

「……南雲君は彼等が捕まっていると考えているの?」

「それはわからない。捕まって奴隷に堕とされている可能性もあるし、何処かに潜伏している可能性もある。帝都の警備は厳戒態勢とまではいかないが異常なレベルだろ? 入ったのはいいが出られなくなったってこともあるだろうしな……」

 

 ハジメの言う通り、帝都の警備は過剰と言っても過言ではないレベルだった。入場門では一人一人身体検査までされた上、外壁の上には帝国兵が巡回ではなく常駐して常に目を光らせていた。

 

 都内でも、最低スリーマンセルの帝国兵が厳しい視線であちこちを巡回しており、大通りだけでなく裏路地までしっかり目を通しているようだった。おそらく、魔物の襲撃があったことが原因で、未だ厳戒態勢とまではいかないまでも高レベルの警戒態勢を敷いているのだろう。

 

 そんな帝都であるから、パル達も侵入には苦労していて未だ隙を窺っている状態だ。奴隷でもない兎人族が帝都に入れるわけもなく、ハジメ達の奴隷のフリをするのも限度がある。そのため、ハジメが運んできた増援部隊も、今は目立たないように帝都から離れた岩石地帯に潜伏中だ。むしろカム達がどうやって侵入したのか不思議なほどである。

 

 ただ、ハジメは口では〝わからない〟と言ったが、十中八九、カム達は捕まっているのだろうと考えていた。ハウリア達兎人族は気配操作に関しては亜人族随一な上に、カム達はそれを磨き続けてきたのだ。人の出入りは厳しくとも、何らかの方法で外に伝言を送るくらいは出来るだろう。にもかかわず、それすら出来なかったという事は、捕まっていて身動きがとれないと考えるのが自然だ。

 

 もちろん、冒険者ギルドにカム達の情報がそのままあるとは思っていない。だが、それに関わるような事件や噂があるのではないかと考えたのである。

 

 傍らで、不安そうな表情をするシアにそっと手を伸ばし、再び、ほっぺをムニムニしてやるハジメ。シアは、ウサミミを触られるのも好きだが、ほっぺムニムニもお気に入りなのだ。ハジメは、嬉しそうにしながらも若干、不安さを残すシアに冗談めかしていう。

 

「捕まっているなら取り返せばいいだけだ。安心しろよ、シア。いざとなれば、俺達が帝都を灰燼にしてでも取り戻してやる」

「ん……任せて、シア」

「ハジメさん、ユエさん……」

「いやいやいや、灰燼にしちゃダメでしょう? 目が笑っていないのだけど、冗談よね? そうなのよね?」

「雫ちゃん、帝都はもう……」

「諦めてる!? 既に諦めてるの、香織!?」

 

 冗談に聞こえないハジメの冗談? に雫達が頬を引き攣らせながらツッコミを入れるが、香織が沈痛そうな表情でゆっくり頭を振り真実味が増したため慌てだした。

 

 実際、ハジメ達なら一国を滅ぼすくらいわけなさそうなので、冗談にしては性質が悪すぎである。

 

 そんな冗談ともつかない冗談を言いながら、ハジメ達が冒険者ギルドに向かってメインストリートを歩いていると、前方の街の様子が様変わりし始めた。あちこちの建物が崩壊していたり、その瓦礫が散乱していたりしているのだ。

 

 道中、耳に入ってきた話によれば、コロシアムで決闘用に管理されていた魔物が、突然変異し見たこともない強力かつ巨大な魔物となって暴れだしたらしい。都市の中心部に突如出現した巨大な魔物(体長三十メートルはあったようだ)に対して後手に回った帝国は、いい様に蹂躙されたようだ。

 

 挙句、魔人族がその機に乗じて一気に皇帝陛下に迫ったらしい。その皇帝陛下自らの出陣で何とか魔物も魔人族も退けたらしいが……街の様子を見る限り代償は大きかったようである。

 

 そんなコロシアムを起点にして放射状に崩壊し、悲惨な状態になっている場所で、瓦礫などの撤去に裸足の亜人奴隷達が大勢駆り出されていた。

 

 冒険者ギルドは、その崩壊が激しい場所の更に向こう側にあるので否応なく通らなければならず、自然、彼等の姿を視界に入れることなる。武装した帝国兵の厳しい監視と罵倒の中、暗く沈みきった表情で瓦礫を運ぶ様は悲惨の一言だった。

と、その時、ハジメ達から少し離れたところで犬耳犬尻尾の十歳くらいの少年が瓦礫に躓いて派手に転び、手押し車に乗せていた瓦礫を盛大にぶちまけてしまった。足を打ったのか蹲って痛みに耐えている犬耳少年に、監視役の帝国兵が剣呑な眼差しを向け、こん棒を片手に近寄り始めた。何をする気なのかは明白だ。

 

 そして、それを見て黙っているわけのない正義の味方がここに一人。

 

「おい! やめっ……」

 

 光輝が、帝国兵を止めようと大声を上げながら駆け出そうとする。しかし、その言動は次の瞬間に起きた出来事によって止められることになった。

 

パシュ!

 

 そんな空気の抜けたような音が微かに響くと同時に、帝国兵が勢いよくつんのめり顔面から瓦礫にダイブしたのである。

 

 ゴシャ! と何とも痛々しい音が響き、犬耳少年に迫っていた帝国兵はピクリとも動かなくなった。どうやら気絶してしまったようである。同僚の帝国兵が慌てて駆けつけて、容態を見たあと、呆れた表情で頭を振るとどこかへ運び去っていった。犬耳少年のことは放置である。

 

 犬耳少年は、何が起きたのかわからないといった様子でしばらく呆然としていたが、ハッとした表情で立ち上がると自分が散らかした瓦礫を急いでかき集めて、何事もなかったように手押し車で運搬を再開した。

 

 呆然としているのは駆け出そうとして出鼻をくじかれた光輝も同じだった。そこへ、ハジメから声が掛かる。

 

「面倒事に首を突っ込むのは構わないが、俺達に迷惑が掛からないようにしろよ?」

「っ……今のは南雲が?」

 

 光輝の確認に肩を竦めるハジメ。実際、義手から針を飛ばして帝国兵を躓かせて転倒させたのだ。自分より先に助けたことはともかく、光輝は、ハジメの〝迷惑〟という言葉に眉をしかめた。どうやら正義スイッチがONになったようだ。

 

「迷惑って何だよ。……助けるのが悪いっていうのか? お前だって助けたじゃないか」

「どちらかというと、お前が起こす面倒事を止めたという方が正しいけどな。こんなところで帝国兵に突っかかっていったら、わらわらとお仲間が現れて騒動になるだろうが。こっちは、人探しに来てるんだ。余計な騒ぎを起こすなよ。どうしてもやるならバレないようにやるか、俺達から離れた場所で迷惑にならないようにやってくれ」

 

 手をヒラヒラさせながら、気のない返答をするハジメに光輝は本来の目的であるシアの家族を探すという事も頭の隅に追いやってヒートアップし、倫理やら正義の価値観を訴え出す。

 

「お前は、あの亜人族の人達を見て、何とも思わないのか! 見ろ、今、こうしている時だって、彼等は苦しんでいるんだぞ!」

「はぁ~、おい八重樫、この目的を見失っている阿呆を早く何とかしろよ。お前の担当だろうが」

 

 ハジメとて、かつてミュウを助けたのだ。子供が目の前で苦しんでいれば何も感じないわけではない。大人は……自分で何とかしろや、とか思っているが。

 

「雫は関係ないだろ! 俺は、今、お前と話しているんだ! シアさんのことは大切にするのに、あんなに苦しんでいる亜人達は見捨てるのか!」

 

 光輝の声が大きくなるにつれ、周囲も何事かと注目しだした。離れたところで監視役を担っている帝国兵の幾人かもチラチラとハジメ達の方を見始めている。

 

 ハジメ達の探し人であるカム達が帝国兵と敵対し、かつ不法入国者でもある以上、ハジメとしては、わざわざ自ら騒動を起こして官憲と揉めたくはない。なので、自分にやけに突っかかってくる光輝に向かってスッと目を細めた。

 

「……天之河。物覚えが悪いお前のためにもう一度だけ言っておく。いいか? 俺は、お前の御託を聞く気はないし、倫理観やら正義感について議論する気もない。仲間になった覚えもなければ、連れ合っているつもりもない。お前等が〝付いて来る〟のを〝許可〟しただけだ。だから、いちいち突っかかってくるな、鬱陶しいんだよ。あんまり騒ぐようなら……四肢を砕いて王国に送り還すぞ?」

「っ……」

「さっきも言ったが、俺もお前等に干渉するつもりはないんだ。だから、俺達に迷惑にならない範囲でなら好きにしろ。俺は、ここにカム達を探しに来たんだ。安否もわからない状態で他にかまけている暇はない。……それと、シアが他の亜人と同列なわけないだろう」

 

 ハジメは、歯噛みする光輝を尻目に、興味はないというように踵を返した。

 

 奴隷制度は、この世界では当たり前のこと。確かに酷い扱いではあるが、ここで奴隷にされている亜人族を助ける方が一般的に〝悪い〟ことなのだ。他人の〝所有物〟を盗むのと変わらないのだから。

 

 〝それでも〟と思うなら、相応の覚悟が必要だ。それこそ、帝国そのものを敵に回して戦う覚悟と、二度と亜人族を奴隷にさせない方法を確立させる程度のことは。でなければ、今、奴隷達を力尽くで助けても、後に帝国からの報復や亜人族捕獲活動が激化するという恐れがあり、そうなれば待っているのは更なる地獄だろう。

 

 その辺りのことがわかっているのか、いないのか……光輝はハジメの背中を睨みつけながらその場を動かない。それでも雫達に促され、ようやく渋々といった感じで後を追い出した。

 

 光輝は、ハジメがノイントのような神の使徒が多数現れた時に自分達をぶつけようという考えで同行を許可したとは知らなかったが、ハジメが本気になれば、付いて行くことすら出来ないことは明白で、そうなれば力を手に入れることが難しくなるということはわかっていた。

 

 神代魔法をより確実に手に入れるには、やはりハジメに付いて行くのがベストなのだ。なので、胸の内のモヤモヤをグッと押さえ込み、黙って後を付いて行くのだった。

 

 光輝達だけ微妙な雰囲気のなか、辿り着いた帝都の冒険者ギルドは、まんま酒場という様子だった。

 

 広いスペースに雑多な感じでテーブルが置かれており、カウンターは二つある。一つは手続きに関するカウンターで受付は女性だが粗野な感じが滲みでており、もう一方のカウンターは、完全にバーカウンターだった。昼間にも関わらず飲んだくれているおっさんがあちこちにおり、暇なら復興を手伝えよとツッコミを入れたくなる有様だった。

 

 ハジメ達が中に足を踏み入れると、もう何度目になるか分からない毎度お馴染みの反応が返ってくる。すなわち、ユエ達に対する不躾で下卑た視線だ。なので、ハジメも面倒くさげに〝威圧〟を初っ端から発動しつつカウンターへ向かう。

 

 流石、飲んだくれていても軍事国家の冒険者というべきか気絶するような奴はいなかったが、一斉に酔いが覚めたように警戒心をあらわにしだした。

 

 カウンターの受付嬢に、他の町で見たにこやかさはない。気怠そうな、やる気無さそうな表情でハジメを見返すだけだ。用があるならさっさと言えといった感じである。

 

「情報をもらいたい。ここ最近、帝都内で騒動を起こした亜人がいたりしなかったか?」

「……」

 

「……そういう情報はあっちで聞いて」

 

 ハジメがそちらを見れば、ロマンスグレーの初老の男がグラスを磨いている姿があり、どうやら情報収集は酒場でというテンプレが守られているようだ。受付嬢は、それだけ言うと自分の仕事はやり遂げたというように視線を明後日の方向に向けてしまった。

 

 ハジメ達は肩を竦めると、バーカウンターの方へ向かう。

ハジメがバーカウンターの前に陣取り、マスターらしきロマンスグレーの男に先ほど受付嬢にしたのと同じ質問をする。しかし、相手は無視するようにグラスを磨き続けているだけだった。ハジメの目がスッと細められる。

 

 すると、

 

「ここは酒場だ。ガキが遠足に来る場所じゃない。酒も飲まない奴を相手にする気もない。さっさと出て行け」

 

 という、何ともテンプレな返答を頂いた。何というテンプレマスターだ! とハジメのテンションが少し上がる。既にピカピカのグラスしかないのに磨くのを止めないというのも高評価だ。ここまで来れば、酒をがっぽり飲めば気を良くしてくれるに違いない。

 

 ハジメは、ファンタジー系主人公の気分を味わえて内心ニヤニヤしながらも、それを表に出さずに納得顔でカウンターにお金を置いた。心の片隅にある暗がりから、厨二Tシャツを来たミニハジメが「呼んだ?」と顔を覗かせていることにハジメは気がついていない。

 

「もっともだな。マスター、この店で一番キツくて質の悪い酒をボトルで頼む」

「……吐いたら、叩き出すぞ」

マスターは、ハジメの注文に一瞬、眉をピクリと動かしたものの特に断るでもなく背後の棚から一升瓶を取り出しカウンターにゴトリと音をさせながら置いた。

 

 ガキと言いながらも素直に出したのは、ハジメの放つ威圧感と周囲の冒険者達の警戒した雰囲気から只者ではないと分かったからだろう。

 

 ハジメは、ボトルを手に取ると指先でスッと撫でるように先端を切断する。その行為自体と切断面の滑らかさに周囲が息を呑むのがわかった。マスターですら少し目を見開いている。

 

 封の空いたボトルからは強烈なアルコール臭が漂い、傍にいたシアや香織が思わず鼻を覆ってむせてしまった。光輝達も「うっ」と呻きながら後退りする。

 

「な、南雲君? そ、それを飲む気なの? 絶対、やめた方がいいと思うわよ?」

「そ、そうだよ。絶対、吐いちゃうって。鈴なんか既に吐きそうだよ」

「っていうかハジメくん、どうせ飲むならもっといいお酒にしようよ」

「香織さんの言う通りですよ、ハジメさん。どうしてわざわざ質の悪いのを……」

 

 雫達が口々に制止の声を掛けてくる。傍らのユエも酒の匂いに眉をしかめつつハジメの服の裾をクイクイと引っ張る。

 

「いや、味わう気もないのに、いい酒をがぶ飲みなんて……酒に対する冒涜だろう?」

 

 心配する彼女達を余所に、ハジメはそんな事をいう。

 

 その軽口にマスターの口元が僅かに楽しげな笑みを浮かべた。ハジメの思う通りのタイミングでマスターの微笑みを頂いたのだ! 酒の味に敬意を向ける冒険者などそうそういないのかもしれない。

 

 ハジメは、「え~」と批判的な声を出す香織達を無視して、ほとんど異臭と言っても過言ではない匂いを発する酒を、飲むというより流し込むようにあおり始めた。平然としているように見えるハジメの心はマスター一色だ。「見てるかテンプレマスター。テンプレな反応を期待しているぞっ」と。心の中のミニハジメは左腕が疼き始めている。

 

 シーンとする店内にゴキュゴキュと喉を鳴らす音だけが響き渡る。そして、一度も止まることなくものの数秒でボトル一本を飲み干してしまった。

 

 ハジメは、手に持ったボトルをガンッ! とカウンターに叩きつけるようにして置くと、口元に笑みを浮かべながらマスターを見やる。その目が「文句あるか?」と物語っていた。

 

「……わかった、わかった。お前は客だ」

 

マスターとしても、それを一瞬で飲み干された挙句、顔色一つ変えない以上、〝ガキ〟扱いするわけにもいかなかった。

 

 ちなみに、ハジメはいくら飲んでも酔わない体質だ。その原因は〝毒耐性〟である。元々、日本にいた時も父親に酒の美味しい飲み方というものを教え込まれていたので、それなりに好きな方ではあるのだが、〝毒耐性〟のせいで全く酔えなくなってしまい、ハジメとしてはちょっと残念に思っていたりする。

 

「……で? さっきの質問に対する情報はあるのか? もちろん、相応の対価は払うぞ」

「いや、対価ならさっきの酒代で構わん。……お前が聞きたいのは兎人族のことか?」

「! ……情報があるようだな。詳しく頼む」

 

 どうやら、マスターは相応の情報を掴んでいるらしかった。

 

 曰く、数日前に大捕物があったそうで、その時、兎人族でありながら帝国兵を蹴散らし逃亡を図ったとんでもない集団がいたのだとか。しかし、流石に十数人で百人以上の帝国兵に帝都内で完全包囲されてしまっては逃げ切ることはやはり出来ず、全員捕まり城に連行されたそうだ。

 

 それでも、兎人族の常識を覆す実力に結構な話題になっていたので、町中で適当に聞いても情報は集められたようである。

 

「へぇ、城にね……」

「マスター、言い値を払うといったら、帝城の情報、どこまで出せる?」

「! ……冗談でしていい質問じゃないが……その様子を見る限り冗談というわけじゃなさそうだな……」

 

 ハジメが笑みを浮かべつつも、その全く笑っていない眼で真っ直ぐマスターを射抜く。

 

 得体の知れない圧力に、流石のマスターも少し表情が強ばった。質問の内容も、下手をすれば国家反逆の意思を疑われかねないものだ。

 

 もっとも、ここは冒険者ギルドであり独立した機関であるから、帝国に対する〝反逆〟という観念自体がない。ハジメも、その辺りを踏まえて、ワンクッション挟んだ上で尋ねたのだ。

 

 ただ、いくらマスターが冒険者ギルドの人間であっても、自国の、それも本拠地内部の情報を売り渡したと知られれば、帝国の人間がただで済ますわけがないので安易に情報を渡すわけにはいかない。かといって、目の前の刻一刻と纏わり付くような威圧を増していくハジメ相手に返答を渋っても碌な未来は見えそうにないのが悩ましいところだ。

 

 なので、マスターは苦渋の選択として、代わりにハジメの知りたい情報を知っている人間を教えることにした。

 

「……警邏隊の第四隊にネディルという男がいる。元牢番だ」

「ネディルね。わかった、訪ねてみよう。世話になったな、マスター」

「あの、ハジメさん。さっき元牢番の人を紹介してもらったのは、もしかして……」

「ああ。詳しい場所を聞いて、今晩にでも侵入するつもりだ。今から、俺とカービィで情報を仕入れてくるから、お前等は適当な場所で飯でも食っててくれ。二、三時間で戻るからよ」

 

「? どうして二人だけなんですか?」

「お前等いい加減にしとけ……カービィと二人なのは、ネディルとやらが素直でない場合、より丁寧な〝お話〟が必要になるだろうから、カービィがいいってことだよ。再生魔法?のコピー能力も使えるし……」

「再生魔法なら私だって……」

「香織、今回はカービィに任せた方がいいわ」

「雫ちゃん……」

 

 

 

 その数時間後、とある宿屋の一階にある食事処で待機していたシア達の元へ、カービィとハジメが戻って来たのだった。




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