ありふれた能力世界最強   作:コロンKY

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帝城潜入

ヘルシャー帝国を象徴する帝城は、帝都の中にありながら周囲を幅二十メートル近くある深い水路と、魔法的な防衛措置が施された堅固な城壁で囲まれている。水路の中には水生の魔物すら放たれていて城壁の上にも常に見張りが巡回しており、入口は巨大な跳ね橋で通じている正門ただ一つだ。

 

 帝城に入れる者も限られており、原則として魔法を併用した入城許可証を提示しなけばならない。跳ね橋の前にはフランスの凱旋門に酷似した巨大な詰所があり、ここで入城検査をクリアしないと、そもそも跳ね橋を渡ることすら出来ないのだ。不埒な事を考えて侵入を試みようものなら、魔物がはびこる水路にその場で投げ入れられるとか……

 

 詰所での検査も全く容赦がない。たとえ、正規の手続きを経て入場許可証を持っている出入りの業者などであっても、商品一つ一つに至るまできっちり検査される。なので、荷物に紛れ込んでの侵入なども、もちろん不可能だ。

 

 つまり、何が言いたいのかというと、帝城に不法侵入することは至難中の至難であるということだ。

 

 

 そんな今更な事実を、凱旋門の前で入城検査の順番待ちをしながら考えていた光輝は、チラリと肩越しに背後を振り返った。そこにいるのは、いつものパーティーメンバーにして幼馴染である雫と龍太郎、そして鈴、それに加えてカービィ、メタナイト、ハジメ達である。

 

 光輝達は、堂々と正面から帝城に入るために再び帝都にやって来たのだ。

 

 光輝は思う。自分達が陽動をしていたとは言え、よく何の騒ぎも出さずにカム達を脱獄させることなど出来たな、と。もちろん、ハジメ達には空間転移の魔法があるので侵入、脱出はそれほど難しくはないだろうが、入るだけでこれだけ厳重な警備がなされているなら、帝城内の警備は言わずもがなだ。

 

 あらかじめ地下牢の位置を聞き出していたとは言え、正確な位置がわからなければピンポイントでの空間転移は使えない。なので、侵入後は徒歩で捜索したはずである。それでも全く見つからずに事を成し遂げたのだから脱帽する他ない。自分との〝差〟を再び感じて光輝は思わず「はぁ」と溜息をついた。

 

「次ぃ~……見慣れない顔だな。……許可証を出してくれ」

 

 門番の兵士が光輝達を見て訝しげな表情になる。

 

 帝城内に入ることの出来る者が限られている以上、門番からすれば大抵は知っている顔だ。そして、たとえ初めての相手であっても帝城に招かれるような人物は大抵身なりが極めて整っているのが普通である。なので、光輝達のように、どこぞの冒険者のような装いの者は珍しいのだ。それこそ胡乱な目を向けてしまうくらいに。

 

「いや、許可証はないんですけど、代わりにこれを……」

「は? ステータスプレート? 一体……」

 

 当然、ハジメ達は誰一人として帝城に入るための許可証など持ってはいない。だが、ここで光輝の立場が役に立つ。何せ、彼は〝勇者〟。世間一般では対魔人族戦において神が遣わした人間族の切り札であり〝神の使徒〟なのだ。たとえ、実態が伴っていなくとも。

 

 許可証を持っていない時点で剣呑な目付きになった門番だったが、渡されたステータスプレートに表示された〝勇者〟の文字に目を瞬かせ、何度も光輝の顔とステータスプレートを交互に見る。その門番の様子に、周囲の同僚達が何事かと注目し始めた。

 

「えっと……勇者……様、ですか? 王国に召喚された神の使徒の?」

「あ、はい、そうです。その勇者です。こちらにいるリリアーナ姫と一緒に来たのですが……ちょっと事情があって」

「は、はぁ……」

 

 門番の呟きに、同僚達が光輝の正体を知ってにわかにざわつき始めた。その表情は、当然のことながら、「なぜ、リリアーナ姫と別に来たのか?」「なぜ、事前連絡がないのか?」など疑問に溢れていた。

 

 しかし、相手は自分達が信仰する神の使徒であり、きっと秘密の使命でも帯びていたに違いないと勝手に納得して、取り敢えず、上に取り次いでくれるようだ。

 

 流石に、勇者と言えど、入城者の予定表にない者を下っ端門番の一存で通すような勇気はないので、待たせる失礼に戦々恐々としながら数人の門番が猛ダッシュで帝城の方へ消えていった。

 

 ハジメ達は詰所にある待合室のような場所に通される。

 

 待つこと十五分。

 

 もはや誰もツッコミを入れないくらい自然の光景と化している〝ハジメと膝の上のユエ〟を尻目に、誰が反対側の膝に座るかでシア、香織、ティオがそれぞれ片手ずつ別の相手と手四つ状態でギリギリと組み合っていると、跳ね橋からドタドタと足音が聞こえ始めた。

 

「こちらに勇者殿一行が来ていると聞いたが……貴方達が?」

「あ、はい、そうです。俺達です」

 

 そう言って姿を見せたのは、一際大柄な帝国兵で、周囲の兵士の態度からそれなりの地位にいることが窺える。彼は、応対する光輝を無遠慮にジロジロと見ると、光輝のステータスプレートを確認しながら、他のメンバーにも探るような視線を向け始めた。

 

 その過程で、死角の位置にいたシアに気がつくと驚いたように大きく目を見開く。そして、何が面白いのかニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ始めた。いきなり向けられた嫌な視線に、シアが僅かに身じろぐ。

 

「確認しました。自分は、第三連隊隊長のグリッド・ハーフ。既に、勇者御一行が来られたことはリリアーナ姫の耳にも入っており、お部屋でお待ちです。部下に案内させましょう。……ところで、勇者殿、その兎人族は? それは奴隷の首輪ではないでしょう?」

「え? いや、彼女は……」

 

 ステータスプレートを返しながらグリッド・ハーフと名乗った男はシアについて尋ねた。

 

 しかし、光輝としても返答に困るところ。奴隷でない事は、シアが身に付けているチョーカーが既にどう見ても奴隷の首輪に見えないことから一目瞭然であるし、ハジメの恋人と断言していいものかも迷う。「そんなこと俺に聞かれても……」というのが正直なところだ。

 

 口籠る光輝から答えは期待できないと判断したのか、視線を転じたグリッドはシアを見る。そして、彼がなぜシアに注目するのか、その理由を察せられる質問をした。

 

「よぉ、ウサギの嬢ちゃん。ちょっと聞きてぇんだけどよ。……俺の部下はどうしたんだ?」

「部下? ……っ…あなたは……」

 

 グリッドから発せられた唐突な質問。

 

 一瞬、何を聞かれているのか分からなかったシアだが、直ぐに察したようで驚愕に目を見開いた。

 

 シアにとって直接関わりのあった帝国兵など限られている。それは、当然、樹海から出たばかりの頃の自分達ハウリア族を散々追い詰めた連中だ。大勢の家族を殺し、拉致し、奴隷に落とし、そして、シア達を【ライセン大峡谷】へと追いやった敵。

 

「おかしいよな? 俺の部下は誰一人戻って来なかったってぇのに、何で、お前は生きていて、こんな場所にいるんだ? あぁ?」

「ぅあ……」

 

「あなたの部下の事なんて知ったことじゃないですよ。頭悪そうな方達でしたし、何処かの魔物に喰われでもしたんじゃないですか? あと、私のことであなたに答える事なんて何一つありません」

「……随分と調子に乗ったこと言うじゃねぇか。あぁ? 勇者殿一行と一緒にいるから大丈夫だとでも思ってんのか? 奴隷ですらないなら、どうせその体で媚でも売ってんだろ? 売女如きが、舐めた口を利いてんじゃねぇぞ」

 

 グリッドが、剣呑に目を細めながらそんな事を言うが、シアは既にグリッドから視線を外して見てすらおらず、その態度から眼中にないということが明らかだった。むしろ、シアを売女呼ばわりしたことに、他の女性陣が怒りを宿した眼差しをグリッドに向けている。

 

 シアの態度に青筋を浮かべて怒りに表情を歪めつつも、その眼差しに気がついたようでグリッドは誤魔化し笑いをしながら光輝に向けて提案する。

 

「申し訳ありませんがね、勇者殿。この兎人族は二ヶ月ほど前に行方不明になった部下達について何か知っているようでして、引渡し願えませんかね? 兎人族の女が必要なら、他を用意させますんで、ここは一つ――」

「おい、下っ端」

「なに……」

「口を開くな、下っ端。お前の役目はもう終わったんだろうが。いつまでもくだらない事で足止めしてんじゃねぇよ。ガタガタ言ってないで、さっさと案内させろ」

「てめ……」

「黙れという言葉の意味すら理解できないのか? 俺達に、お前のために使ってやる時間は微塵もねぇんだ。身の程を弁えろ」

 

ただ、シアを売女呼ばわりしたのは頂けないので言って分からないなら〝股間スマッシュ〟をするつもりだったのだが……グリッドは、自分の自制心に感謝するべきだろう。

 

 ハジメ達は背中に突き刺さる凶悪な視線を特に気にするでもなく、青ざめた表情の案内役に従って巨大な吊り橋を渡っていった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「それで?」

 

 帝城の一室に案内されたハジメ達を待ち構えていたリリアーナからの第一声がそれだった。満面の笑みを浮かべているものの、目は笑っておらず声音は冷たい。言外に「事情を説明しろや、ゴラァ!」と言っているのが分かる。

 

 おそらく、帝国側との協議で死ぬほど多忙なのだろう。そんな中、どう考えても厄介事を運んできたとしか思えないハジメ達に、つい、きつく当たってしまうのは仕方ないと言えば仕方ない。ある意味、それだけ親しみがある……と言えなくもない。

 

「帝都での茶番といい、一体全体どうして皆さんがここにいるのですか? 納得の出来る説明を求めます。ええ、それはもう強く強く求めます。誤魔化しは許しませんからね! 特に、南雲さん! 絶対、裏で糸を引いているのは貴方でしょう! 他人事みたいにシアさんのウサミミをモフらないで下さい! ユエさんも何でシアさんのほっぺをムニムニしているんですか!」

 

「声がでかいって、姫さん。しょうがないだろ? 今のシアは、ちょっと不安定なんだ」

「不安定……ですか? どこか具合でも……」

 

 途端に心配そうな表情になる辺り、リリアーナも人がいい。

 

 視線を受けたシアは、何かを堪えるようにグッと唇を噛み締めていたが、先程からされていたモフモフとムニムニに表情を緩め始め、俯かせていた顔を上げると「大丈夫」というように笑顔を見せた。

 

 シアの情緒が少し不安定になったのは、言うまでもなくグリッドが原因だ。

 

 だが、別に彼に対する恐怖などで不安定になっていたわけではない。逆だ。溢れ出す殺意を抑えていたのである。何と言っても、グリッドはシアの家族を大勢奪った憎き相手だ。トラウマさえ乗り越えてしまえば、あとに来るのは強烈な殺意だけ。

 

 しかし、ここに来た目的を考えると、早々に殺してしまうわけにはいかなかった。だから、必死に我慢していたのだ。そして、それを察したハジメとユエが、シアを甘やかすことで宥めていたのである。

 

 

「それで、なぜこちらに来たのですか? 樹海での用事は? それと、昨夜の仮面騒動は何なのです? もうそろそろ、ガハルド陛下から謁見の呼び出しがかかるはずです。口裏を合わせる為にも無理を言って先に会う時間を作ってもらったのですから、最低限のことは教えてもらいたいのですが」

「まぁ、そう慌てるなよ、姫さん。夜になれば全部わかる。俺達のことは……用事が早く片付いたから、遠出する前に立ち寄った……くらいに言っておけばいいさ」

「そ、そんな適当な……夜になればわかるって、まさか、また仮面でも着けて暴れる気ですか? わかっているのですよ! 雫達に恥ずかしい格好をさせたのは南雲さんだって!」

「そうカリカリするなよ。ハゲるぞ、姫さん」

「ハゲませんよ! 女性に向かって何てこと言うのですかっ!」

「……ストレスハゲ」

「ユエさん!?」

 

 どうやらハジメ達は話す気がないのだと悟り、またぞんざいな扱いを受けたリリアーナが「王女なのに……」と落ち込む。その隣では、雫は「恥ずかしい格好……」と呟きながら自らの黒歴史にどんよりするのだった。

 




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