ありふれた能力世界最強   作:コロンKY

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帝国の皇帝

どうやらハジメ達は話す気がないのだと悟り、またぞんざいな扱いを受けたリリアーナが「王女なのに……」と落ち込む。その隣では、雫は「恥ずかしい格好……」と呟きながら自らの黒歴史にどんよりする。

 

 その後、落ち込むリリアーナから聞き出したところでは、どうやら既にガハルド陛下には、聖教教会の末路や狂った神の話が伝えられたようだ。

 

 しかし、流石は実力至上主義、実利主義の国のトップだ。それなりの衝撃はあったようだが、どちらにしろ今までとやることは変わらないと不敵に笑ったそうだ。すなわち、敵あらば斬る、欲しいものは力で奪う、弱者は強者に従え! というわけだ。

 

 それよりもガハルドとしては、リリアーナがどうやって帝国に来たのか、その方が気になっていたらしい。

 

 つまり、王国襲撃の顛末はわかったが、それからリリアーナが帝国にやって来るまでの期間が早すぎるというわけだ。帝国としても王国との連携については直接的な協議の必要性を感じていたので助かりはしたのだが、いくら何でも襲撃の一週間後に帝国に到着するのは有り得ない。

 

 同時に、王国がどうやって魔人族の軍勢を追い返したのか、その方法にもかなり興味を持たれているようだ。

 

 魔人軍に壊滅的打撃を与えた〝光の柱〟については、ガハルドに神の話をする以上、〝天の裁き〟という言い訳が通用しない。となると、当然、誰かが一撃で軍を滅ぼせる攻撃手段を持っていると判断するのが自然な流れだ。その事実は、ヘルシャー帝国皇帝としても、一個人としても看過できることではない。

 

 調べれば直ぐに分かることなので、事前にハジメから許可を貰っていたリリアーナは、特に困ることもなくハジメの事を話した。

 

 しかし、それはハジメが帝国におらず遠く離れた場所を旅していると思っていたからであり、本人が帝国の懐に入ってしまっては、強欲で豪気なガハルドがどのようなちょっかいを掛けるか、そして、それに対してハジメがどのような対応をとるのか、リリアーナは気が気でなかった。

 

……主に、帝国が地図から消えやしないかという意味で。

 

 なので、普通なら先にガハルドと謁見するところを、色々手を回して先に面会できるようにしたわけなのだが……ハジメはのらりくらりとして真面目に取り合わず、リリアーナはもう「なるよ~になぁ~れぇ~」と投げやり気味の心境だった。まさか、自分の危惧したことが、当たらずとも遠からずとは夢にも思わないだろう。

 

 リリアーナから、ある程度、帝国側との協議内容について聞いたところで部屋の扉がノックされた。どうやら時間切れらしい。案内役に従って、ハジメ達はガハルドが待つ応接室に向かうことになった。

 

通された部屋は、三十人くらいは座れる縦長のテーブルが置かれた、ほとんど装飾のない簡素な部屋だった。そのテーブルの上座の位置に、頬杖をついて不敵な笑みを浮かべる男――ヘルシャー帝国皇帝ガハルド・D・ヘルシャーがいた。彼の背後には二人、見るからに〝できる〟とわかる研ぎ澄まされた空気を纏った男が控えている。

 

 そして、部屋の中に姿は見えないが、壁の裏に更に二人、天井裏に四人、そして閉まった扉の外に音もなく二人が控えているのをハジメはしっかりと感じ取っていた。ガハルドの背後に控える男二人程ではないが相当の手練である。

 

「お前とそのピンク球体が、南雲ハジメと星のカービィか?」

 

ハジメ達が部屋に入るなり、リリアーナによる紹介も、勇者である光輝への挨拶もすっ飛ばして、ガハルドはハジメとカービィをその鋭い眼光で射抜きながらプレッシャーを叩きつけた。

 

 数十万もの荒くれ者共を力の理で支配する男の威圧。半端なものではない。同じ王族であるリリアーナが息苦しそうに小さな呻き声を上げ、光輝達は思わず後退りをする。

 

 しかし、そんな強烈なプレッシャーの中でも、ハジメ、ユエ、シア、ティオ、香織の五人は平然としていた。一番、経験の少ない香織ですら【メルジーネ海底遺跡】では極まった狂気の嵐と太古より生きる不死身の怪物と相対して生き残ったのだ。

 

 皇帝の威圧とは言え、大迷宮攻略者にとってはそよ風に等しい。

 

 そんなハジメ達を見て、ますます面白げに口元を吊り上げるガハルドに、ハジメが返事をする。

「そーだよ、ボクがカービィだよ。」

「ええ、俺が南雲ハジメですよ。御目に掛かれて光栄です、皇帝陛下」

「「「「「!?」」」」」

 

胸に手を当てて軽くお辞儀しながら、そんな事を言うハジメに光輝達が驚愕の視線を向けた。

 

 その見開いた瞳は明らかに「お前、誰だよっ!」と物語っていた。特に、リリアーナの動揺が激しい。ガハルドの威圧を受けて小さな呻き声を上げつつも、ほとんど表情を変えなかったというのに、今は隠しもせず愕然とした表情でハジメを凝視している。

 

 ハジメとてTPOを弁える事くらいは出来る。いつもは、敢えて無視しているだけだ。

 

 だが、今回は帝城に用事があるので、皇帝の機嫌を損ねて追い出される訳にはいかない。既に信ずべき神がいない以上、〝神の使徒〟という肩書きもどこまで有効かわからないのだ。勇者一行であるというだけでは押し通れない可能性がある。なので、最低限の礼を示すべきだと判断したのだ。一人称が改まっていない辺りがハジメらしいが。

 

「ククク……思ってもいないことを。そこの球体はともかく、普段の傍若無人な態度はどうしたんだ? ん? 何処かの王女様が対応の違いに泣いちまうぞ?」

 

 しかし、ガハルドは笑い声を漏らしながら揶揄する。

 

ハジメは、チラリとリリアーナを見た。「姫ェ、てめぇ、なに余計なこと喋ってんだ、あぁ?」という視線をハジメから向けられたリリアーナは、ぷいっ! とそっぽを向く。ガハルドからハジメがどういう人間か聞かれた際に、つい自分に対する扱いがなっていないと少しばかり愚痴っぽく語ってしまったのだ。

 

「似合わねぇ喋り方してぇねぇで、普段通り話しな。俺は、素のお前に興味があるんだ」

「……はぁ、そうかい。んじゃ、普段通りで」

「くく、それでいい」

 

 ハジメの態度に驚きつつも、順に席に着く光輝達。

 

「雫、久しいな。俺の妻になる決心は付いたか?」

「お、おい! 雫は、既に断っただろう!」

 

 ガハルドの言葉に雫が何かを言い返すより早く、光輝が反応する。チラリと光輝を見たガハルドは、ハッと鼻で笑うと雫を真っ直ぐに見つめだした。あからさまな〝眼中にない〟という態度をとられて額に青筋を浮かべる光輝。

 

 そんな二人に嘆息しながら、雫は澄まし顔をして答える。

 

「前言を撤回する気は全くありません。陛下の申し出はお断りさせて頂きます」

「つれないな。だが、そうでなくては面白くない。元の世界より、俺がいいと言わせてやろう。その澄まし顔が俺への慕情で赤く染まる日が楽しみだ」

「そんな日は永遠に来ませんよ。……というか、皇后様がいらっしゃるでしょう?」

「それがどうした? 側室では不満か? ふむ、正妻にするとなると色々面倒が……」

「そういう意味ではありません! 皇后様がいるのに他の女に手を出すとか……」

「何を言っている? 俺は皇帝だぞ? 側室の十や二十、いて当たり前だろう」

「ぐっ……そうだったわ。と、とにかく、私は陛下のものにはなりません。諦めて下さい」

「まぁ、神による帰還が叶わない以上、まだまだこの世界にいるのだろうし、時間をかけて口説かせてもらうとしようか。クク、覚悟しろよ、雫」

 

 どうやら本当に、ガハルドは雫を気に入っているようだ。強欲な皇帝陛下らしく、断られたくらいでは諦めないらしい。その鋭い眼光が完全に雫をロックオンしていた。雫は、心底嫌そうな表情でそっぽを向いているのだが、全く気にした様子もない。

 

 と、その時、そっぽを向いた先で雫の視線が、偶然、ハジメと合う。その時のハジメの眼差しには、「流石、苦労人(笑)」という明らかに面白がるような色が含まれていた。

 

 イラっときた雫は、つい、用意された紅茶に付いてきた角砂糖を指で弾いてしまった。ハジメには遠く及ばないが、結構な勢いで飛ばされた角砂糖の弾丸は、狙い違わずハジメの憎たらしい顔面に飛来し……

 

 しかし、直撃することはなく、パクッとハジメの口にキャッチされてしまった。ハジメは、これ見よがしにモゴモゴと口を動かし、角砂糖の甘さをしっかりと堪能してから胃に収めた。それを見て悔しそうな雫に対して、ハジメは澄まし顔だ。

 

 そんな様子を見ていたガハルドは、改めてハジメに鋭い視線を向ける。色んな意味で値踏みするような眼差しだ。

 

「ふん、面白くない状況だな。……南雲ハジメと星のカービィ、お前たちには聞きたいことが山ほどあるんだが、まず、これだけ聞かせろ」

「ああ? なんだ……」

「南雲ハジメ、お前は俺の雫はもう抱いたのか?」

「「「「ぶふぅーー!?」」」」

 

ガハルドの背後に控える護衛の男達ですら「陛下……最初に聞くのがそれですか……」と頭の痛そうな表情をしている。彼等も苦労人のようだ。

 

「ちょっ、陛下! いきなり何をっ……」

「雫、お前は黙っていろ。俺は、南雲ハジメに聞いてんだよ」

 

 当然、雫が泡を食ってガハルドにツッコミを入れようとするが、ガハルドはそれを無視してハジメに視線を向けている。それに対してハジメは呆れ顔だ。

 

「何をどうしたらそんな発想に辿り着くんだよ」

「どうやら、雫はお前に心を許しているようだからな……態度から見て、ないとは思うが、念のためだ」

「はぁ、あるわけないだろ」

「……ふむ、嘘はついてないな。では、雫のことはどう思っている?」

 

 その質問に、部屋中の視線がハジメに集まった。ユエ達や光輝達の様々な意味が込められた視線が突き刺さる。

 

 ハジメは、何で皇帝陛下と謁見して最初に聞かれる質問が雫との関係なのかと溜息を吐きながら、何となしに雫に視線を向けた。雫の表情が大変面白いことになっていた。ハジメは、首を傾げて雫を見つめる。

 

 若干、雫の耳が赤くなり始めている気がするが……

 

 取り敢えず告げた答え(本音)は……

 

「……オカンみたいな奴」

「OK、その喧嘩買ったわ。表に出なさい、南雲君」

 

十七歳のうら若き乙女を捕まえて、よりによって〝オカンみたい〟とは何事か、と雫がすわった眼差しでハジメを睨みながらゆらりと席を立とうとする。既に、先程までの微妙な雰囲気は微塵もない。慌てて隣の鈴と光輝が雫を掴み止めて必死に宥めにかかった。

 

「……まさかの回答だが……まぁ、いい。雫、うっかり惚れたりするなよ? お前は俺のものなのだからな」

「だから、陛下のものではありませんし、南雲君に惚れるとかありませんから! いい加減、この話題から離れて下さい!」

「わかった、わかった。そうムキになるな。過剰な否定は肯定と取られるぞ?」

「ぬっぐぅ……」

 

 ガハルドの物言いに思わず呻き声を上げてドカッと座り直す雫。苦笑いしながら鈴が宥めて、光輝は何故かハジメを睨む。

 

「南雲ハジメ。お前も、雫に手を出すなよ?」

「興味の欠片もねぇから、安心しろ。つか、ホント無駄話しかしないなら、もう退出したいんだが?」

「無駄話とは心外だな。新たな側室……あるいは皇后が誕生するかもしれない話だぞ? 帝国の未来に関わるというのに……まぁ、話したかったのは確かに雫のことではない。わかっているだろう? 南雲ハジメと星のカービィ、お前たちの異常性についてだ」

 

「?」

カービィは首をかしげる。

 

 

 

「リリアーナ姫からある程度は聞いている。お前たちが、大迷宮攻略者であり、そこで得た力でアーティファクトを創り出せると……魔人族の軍を一蹴し、二ヶ月かかる道程を僅か二日足らずで走破する、そんなアーティファクトを。真か?」

 

ああ」

「そして、そのアーティファクトを王国や帝国に供与する意思がないというのも?」

「ああ」

「ふん、一個人が、それだけの力を独占か……そんなことが許されると思っているのか?」

「誰の許しがいるんだ? 許さなかったとして、何が出来るんだ?」

 

 ハジメの簡潔な返しにガハルドが目を細める。

 

 帝王の覇気が更に増し、リリアーナなどは歯を食いしばっており相当苦しそうだ。ガハルドの背後にいる護衛達がガハルドに合わせて殺気を放ち始める。対して、部屋の周囲に隠れている者達の気配が更に薄まっていった。まさに一触即発の状態だ。

 

 緊迫する空気に光輝達が顔を強ばらせ臨戦態勢をとる。

 

 しかし、当のハジメ達は、重く粘り着くような殺意を柳に風と受け流し、平然と紅茶に手を伸ばしていた。その際、チラリと極度に気配が薄くなった周囲に隠れている者達の場所に視線を向けた。「丸見えだぞ?」とでも言うように。

 

 それが伝わったのか、微かに動揺するような気配が伝わった。

 

「はっはっは、止めだ止め。ばっちりバレてやがる。こいつは正真正銘の化け物だ。今やり合えば皆殺しにされちまうな!」

 

「言っとくがカービィの方が強いぞ?」

 

 ガハルドが豪快に笑いながら、覇気を収めた。それに合わせて周囲の者達も剣呑な空気を収めていく。

 

「なんで、そんな楽しそうなんだよ?」

「おいおい、俺は〝帝国〟の頭だぞ? 強い奴を見て、心が踊らなきゃ嘘ってもんだろ?」

 

 光輝達が、訳が分からずとも取り敢えず空気が戻ったことにホッと息を吐く中で、楽しげなガハルドに呆れたようにツッコミを入れるハジメ。それに対するガハルドの返事は、実に実力至上主義の国の人間らしいものだった。

 

「それにしても、お前が侍らしている女達もとんでもないな。おい、どこで見つけてきた? こんな女共がいるとわかってりゃあ、俺が直接口説きに行ったってぇのに……一人ぐらい寄越せよ、南雲ハジメ」

「馬鹿言うな。ド頭カチ割るぞ…………いや、ティオならいいか」

「っ!? な、なんじゃと……ご、ご主人様め、さり気なく妾を他の男に売りおったな! はぁはぁ、何という仕打ち……たまらん! はぁはぁ」

「ちょっと問題あるが、いい女だろ、外見は」

「すまんが、皇帝にも限界はある。そのヨダレ垂らしている変態は流石に無理だ」

「こ、こやつら、本人を目の前にして好き勝手言いおって! くぅうう、んっ、んっ、きっと、このあと陛下に無理矢理連れて行かれて、ご主人様の目の前で嫌がる妾を無理やりぃ……ハァハァ、んっーー……下着替えねば」

 

 妙にスッキリした表情のティオにガハルド達ですらドン引きしている。そして、そんな変態を侍らしているハジメに戦慄の眼差しを向けた。ガハルドは、咳払いをして気を取り直す。

 

「俺としては、そちらの兎人族の方が気になるがね? そんな髪色の兎人族など見た事がない上に、俺の気当たりにもまるで動じない。その気構え、最近捕まえた玩具を思い起こさせるんだが、そこのところどうよ?」

 

 ガハルドの〝玩具〟発言に、シアの目元が一瞬ピクリと反応する。隣のユエが、テーブルの下でそっとシアの手を握った。

 

「玩具なんて言われてもな……」

「心当たりがないってか? 何なら、後で見るか? 実は、何匹かまだ・・いてな、女と子供なんだが、これが中々――」

「興味ないな」

 

ガハルドの言葉ははったりだ。カムを通じて、捕まった者全員を連れ出したことは確認済みである。カマをかけているのだろう。それに対するハジメの返事は一言だった。

 

 しかし、ガハルドの口撃は終わらない。

 

「ほぉ。そいつらは、超一流レベルの特殊なショートソードや装備も持っていたんだが、それでも興味ないか、錬成師?」

 

「ないな」

「……そうかい。ところで、昨日、地下牢から脱獄した奴等がいるんだが、この帝城へ易々と侵入し脱出する、そんな真似が出来るアーティファクトや特殊・・な魔法は知らないか?」

「知らないな」

「ボクなら出来るよ。」

「……はぁ……聞きたい事はこれで最後だ……神についてどう思う?」

「興味ないな」

「あ~、もう、わかったわかった。ったく、愛想のねぇガキめ」

「まぁ、最低限、聞きたいことは聞けた……というより分かったからよしとしよう。ああ、そうだ。今夜、リリアーナ姫の歓迎パーティーを開く。是非、出席してくれ。姫と息子の婚約パーティーも兼ねているからな。真実は異なっていても、それを知らないのなら、〝勇者〟や〝神の使徒〟の祝福は外聞がいい。頼んだぞ? 形だけの勇者君?」

 

 ガハルドは、突然落とされた爆弾発言に唖然とする光輝達を尻目に、不敵な笑みを浮かべながら挑発的にハジメを睨むと、そのまま颯爽と部屋から出て行った。

 

 バタンと扉の締まる音が響き、それによってハッと正気を取り戻した光輝達がリリアーナを詰問する。

 

「リリィ、婚約ってどういうことだ! 一体、何があったんだ!」

「それは……たとえ、狂った神の遊戯でも、魔人族が攻めてくれば戦わざるを得ません。我が国の王が亡くなり、その後継が未だ十歳と若く、国の舵取りが十全でない以上、同盟国との関係強化は必要なことです」

「それが、リリィと皇子の結婚ということなのね?」

「はい。お相手は皇太子様ですね。ずっと以前から皇太子様との婚約の話はありました。事実上の婚約者でしたが、今回のパーティーで正式なものとするのです。魔人の侵攻で揺らいでいる今だからこそ、というわけです」

「王国には? 協議が必要ではないの?」

「事後承諾ではありますが、反対はないでしょう。元々、そういう話だったわけですし。それに、今の王国の実質的なトップは私です。ランデルは未だ形だけですし、お母様も前には出ない人ですから。なので、問題ありません。今は何事も迅速さが必要な時なのです」

 

 決然とした表情でそう話すリリアーナ。光輝は、苦虫を噛み潰したような表情をしながら口を開いた。

 

「……リリィは、その人の事が好きなのか?」

「好き嫌いの話ではないのです。国同士の繋がりのための結婚ですから。ただ、皇太子様には既に幾人もの愛人がいらっしゃるので、その方達の機嫌を損ねることにならないか胃の痛いところです。私の立場上、他の皇子との結婚というのは釣り合いが取れませんから、仕方がないのですが……」

「な、なんで、そんな平然としているんだよ! 好きでもない上に、そんな奴と結婚なんて、おかしいだろ!」

「光輝さん達から見れば、そうなのかもしれませんが、私は王族で王女ですから。生まれた時から、これが普通のことです」

「普通って……リリィだって、女の子なんだ。ちゃんと好きになった人と結婚したいんじゃないのか?」

 

 納得できず喚く光輝に、リリアーナはただ困ったような笑みを浮かべるだけだった。

 

 リリアーナとて、確かに女の子だ。特に、親友となった異世界の女の子達、香織や雫達とガールズトークをすれば、ロマンチックな恋愛に憧れたりも当然する。

 

 曖昧に微笑むリリアーナに、なお言い募ろうとする光輝を雫が止める。微妙な空気が流れる中、おもむろにハジメが席を立った。そして、何事もなかったように部屋を出ていこうとする。それに、光輝が行き場のない感情を吐き出すように突っかかった。

 

「おい! 南雲! カービィ!お前たちは、何とも思わないのか!」

「はぁ? 何で俺が姫さんの婚約をどうこう思うんだよ? まして、これは婚姻という形をとっただけの政治の話だろ? むしろ、ド素人が口を挟むことじゃねぇよ」

「うーん、よくないと思うけど下手に手を出すとダメだからね。」

「ぐっ、で、でも……」

「それより、今の俺達にはやる事がある。下手な事して、邪魔したらぶちのめすからな?」

 

ハジメはそれだけ言うと、ユエ達を引き連れてさっさと出て行ってしまった。憤る光輝を宥めながら、これから起こることの結果次第では、どっちにしろ婚約話はなくなる可能性もあるなぁと、雫はどこか疲れ気味に天を仰ぐのだった。

 




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